デザイン経営を悩み解決や新規事業の種に 中小企業4社の気づきとは
中小企業向けのデザイン経営支援プログラム「Dcraft デザイン経営リーダーゼミ」のオープンセミナーが2月、オンラインで開かれ、Dcraft参加企業から4社がデザイン経営導入に向けた取り組みを発表しました。デザインの力を、自社が抱える悩みの解決や新規事業の種にどうやってつなげるのか。試行錯誤のプロセスが浮き彫りになりました。
中小企業向けのデザイン経営支援プログラム「Dcraft デザイン経営リーダーゼミ」のオープンセミナーが2月、オンラインで開かれ、Dcraft参加企業から4社がデザイン経営導入に向けた取り組みを発表しました。デザインの力を、自社が抱える悩みの解決や新規事業の種にどうやってつなげるのか。試行錯誤のプロセスが浮き彫りになりました。
Dcraftは、デザイン経営を支援している企業・ロフトワークが、2020年12月に開講した約7カ月間のプログラムです。全国の中小企業30社が参加し、講師陣の指導を受けながら、デザインの力を使った自社のビジョン更新や、サービス・製品開発を通じて、事業計画書の策定やビジネスモデルの構築を目指しています。オープンセミナーは、中間報告会として企画されました。
今回発表したのは、浅井製作所(愛知県)、S-Sense1285(岐阜県)、光浦醸造工業(山口県)、かこ川商店(広島県)です。業種も地域もバラバラの4社は、どのようなアプローチでデザイン経営に取り組んでいるのでしょうか。
浅井製作所は、生産用機械器具の製造を手掛けています。従業員は7人ですが、海外向けの設備を多く扱っており、機械の設計開発、部品製造、操作の指導まで一貫して請け負っています。オーダーメイドの機械で強みを発揮していますが、代表取締役の浅井謙一さんには危機意識があったといいます。
「お客様から仕事を与えられる状況で、自社のビジョンを考えることがありませんでした。先が読めない時代にビジョンを描けないようでは、倒産してもおかしくない。大量生産・大量消費に関わる仕事から、人に寄り添う仕事にしたいという問題意識がありました」
浅井さんは新型コロナウイルスの影響で、事業の行く末を考える時間が生まれ、デザインによるマネジメントに興味を持ち、Dcraftへの参加を決めました。プログラムでは、ムードボード(様々な写真を使い、自社のイメージをビジュアルで表現する手法)や絵本の作成などで、自社のビジョンの核を徹底的にビジュアル化しました。ビジョン策定を前に進めるプロダクトとして作ったのが、シーソー型の鉛筆立てでした。
鉛筆立ては、浅井さんが自ら作りました。新型コロナウイルス対策で、従業員らが体温を記入するための鉛筆が、無造作に転がっていたのが発想の源でした。「鉛筆立てには、お客様の多種多様な要求に、オーダーメイドのものづくりで応える姿勢を表しています」
浅井さんが鉛筆立てを作っていると、従業員から「何を作っているのですか」と声をかけられ、会社のビジョンの話が弾んだこともありました。「遊び心のある鉛筆立てを作ったことで、社内に柔らかい空気が生まれ、固定観念に縛られず、社員から自由な発想のアイデアが生まれました」
同社は「つながりを生む商品で人々の暮らしを豊かにする」というビジョンを策定しました。「共感されるような企業文化を作り、社会の役に立つビジネスモデルを作りたいです」と浅井さんは話します。
S-Sense1285は、タイルの開発製造や販売を行っています。焼き物の一大産地である岐阜県多治見市にあり、若手の女性デザイナーも数人在籍しています。オーストラリアの学校や、上海ルイ・ヴィトンのタイルを手掛けるなど、そのデザイン性は高く評価されています。
一方、CEOの杉江敦さんは「フルオーダーでやってきた仕事を、顧客に知ってもらうため、どのように効果的な表現をしたらいいかが、分かりませんでした」と話します。
今回、Dcraftに参加し、自社のチームメンバーとデザイン経営の実践に向けた課題に取り組んだことで、自社が何をするべきかが共有できたといいます。杉江さんは「今まではそれぞれの仕事を行うだけで、(社員同士が)話し合う機会が少なかったのですが、会社に対して抱いていたイメージのズレを補正できました」と話します。
例えば、社員の1人からは「S-Sense1285は、どんな形にも染まることができる白のイメージがある」という声が出ました。そういった意見を共有したことで、新しい発見につながったそうです。
今後はフルオーダーの特注タイルを製造できるという同社の強みを、ホームページやSNSでより分かりやすく伝え、BtoC事業にもトライするという方向性を示しました。
幕末の1865年に創業した光浦醸造工業は、みそやしょうゆなどを製造しています。最近は、ハート形のレモンを浮かべるレモンティーを販売するなど、新機軸の商品を送り出しています。
それでも、代表取締役の光浦健太郎さんは課題を感じていました。「これまでパッケージやWEBデザインを独学で勉強し、成長にはつながりましたが、最近は伸び悩んでいました。デザイン経営の本も何冊か読みましたが、耳に心地よい言葉ではあっても、具体的に事業に落とし込むのが難しく、デザインが得意な社員もいませんでした」
光浦さんがDcraftに参加して課題に取り組む中で、「経営側に美的センスや、特別なデザインの知識は必要ない」と感じたそうです。会社全体で取り組んだり、Dcraft参加企業のケースを学んだりして、デザイン経営を前に進めようとしています。
具体的には新規事業に向けた、クラウドファンディングや展示会の開催を検討しています。また、独学ではなく、本格的にデザインを導入することも意識しています。光浦さんは「今はローカルに元気がありません。企業としての規模感を出して雇用を生むために、多くの方にも受け入れられるデザインを考えていきたいです」と話しました。
かこ川商店は、法人向けの廃棄物処理業を展開しながら、2010年からは、地域の資源や粗大ごみの回収など、個人向けサービスにも進出しました。代表取締役の水主川(かこがわ)嘉範さんは「従業員のコミュニケーション力や企業としてのサービス力を高め、地域のお客様から選ばれることを目指しました」と話します。
端材や廃材を使ったワークショップを開き、子どもたちの学びや創造の場を作るというユニークな取り組みも進めています。西日本を襲った豪雨災害の際には、デザイン性に富んだ災害記録冊子を制作。2020年には古くなった自社制服をバッグに生まれ変わらせる取り組みも行っています。
デザインの力を使った事業を、次々と打ち立てているように感じますが、水主川さんは「デザイナーと一緒に活動してきましたが、いまいちブレイクしていませんでした。メジャーデビューを目指して、Dcraftに参加しました」と言います。
水主川さんには、プログラムを通じて、もっと多くの人に共感してもらえるための手がかりをつかみたいという期待がありました。
Dcraftへの参加で、今までの取り組みは間違っていなかったと思う一方、「自社でできることと、マーケットや社会に合わせて変容するのは違うことだと気づきました」と話します。これからはデザインの専門家と伴走しながら、リサイクル事業を通じて、コミュニティーを育て、暮らしにポジティブな文化を作るというビジョンを掲げようとしています。
セミナーには、Dcraft参加企業以外から、子供用遊具や教具を開発しているジャクエツ(福井県)社長の徳本達郎さんが登壇。デザイン経営の先進企業として知られる同社が、デザイナーや研究者を交えて遊具の開発を手掛けたことや、デザインを経営に導入する際の考え方を紹介しました。
Dcraftには、今回発表した4社も含めた全国30社が参加しており、地域は北海道から沖縄まで、業種も産業機械、農業、繊維業、木材業、ゴルフ場運営など多岐にわたります。また、創業20年以上も25社を占めています。各企業は今後も、デザイン経営の取り組みを反映した事業計画書の策定を進め、5月に開かれるイベントで発表する予定です。
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