目次

  1. 過去の事件から振り返る企業のSNS炎上
    1. 「炎上」とは 意味を解説
    2. 炎上のデメリット
    3. なぜ炎上が起こる?アツギと日産の事件から振り返る
  2. 炎上を防ぐ対策とは
    1. 運用マニュアルは「かならず必要」
    2. SNS担当者必見 運用マニュアル5つの必須項目
  3. それでも炎上したら……具体的な「火消し」方法は?
    1. 「何もしない」事が正解の場合もある 見極めが大切
    2. 絶対にやってはいけない、NG対応は? 
  4. SNS運用のメリットとリスクを把握してから運用を

 頻繁に耳にする「SNS炎上」という言葉。恐ろしいというイメージはありますが、実際にはどのような状況を指すのでしょうか。

 寺田さんは「SNS炎上とは、コメント機能の中で批判やネガティブな発言が集中的に投稿される状況」と言います。大企業であっても、炎上に関する相談は後を絶ちません。

 SNSの炎上が企業活動に悪影響を与えてしまう事態は、頻繁に起きています。では、炎上してしまうと、具体的にどの様なデメリットがあるのでしょうか。

 「炎上がもたらす最大のデメリットは、不買運動などによる売り上げの低下です」と寺田さんは説明します。さらに、ブランドイメージを著しく落としてしまう事も懸念されます。

 では、企業アカウントはなぜ炎上してしまうのでしょうか。

 「最も多い原因は、投稿内容に対する配慮不足です。一般の人が投稿を見た時に、どう受け取るかについて配慮がかけた内容を投稿してしまうと、炎上するリスクが高まります。中でも、面白い内容にしたい、注目を集める投稿にしたいという思いが強くなりすぎ、その観点だけにとらわれてしまう傾向には注意が必要です」(寺田さん)

 「また、ジェンダー関連や環境問題、人種差別問題など、社会課題として注目されている事象に対する知識がないがゆえに、意図せずネガティブな印象を与えてしまう投稿も少なくありません」

 その一例として、寺田さんはアツギのツイッターアカウント炎上を挙げました。2020年11月には、老舗タイツメーカーのアツギが公式ツイッターで「#ラブタイツ」などのハッシュタグをつけて、ストッキングを履いた女性のなまめかしいイラストを投稿するキャンペーンを展開。

 すると「ストッキングを履く女性を性的な目で見ている」などとして、批判が殺到し、キャンペーンは中止に追い込まれました。また、アツギの企業活動にも大きなダメージを与えてしまいました。

 2021年1月には、ヤフーがカービューと協力して運営するクルマ総合情報サイト「carview!」で、日産自動車のPR記事に掲載された写真と、関連するYouTube動画が問題になりました。落ち葉が敷き詰められた場所で焚き火をしているように見える画像や動画を使用しため、「危険すぎる」「山火事を起こしかねない」などとして、TwitterやYouTubeのコメント欄などで批判が数多く寄せられました。

 どちらも、投稿を見る一般の人がどの様に受け取るかという部分に配慮していれば、防ぐ事ができた炎上事例です。

 それでは、中小企業の担当者は、炎上を防ぐために、どのような対策を講じるべきでしょうか。

 「かならず必要なのは、SNSの運用マニュアルです」と寺田さんは指摘します。特に、投稿前に第三者が投稿に目を通す、チェック機能のルール設定は非常に重要です。

 また、炎上後に重要なのが、いわゆる“火消し”対応です。しかし、万が一「炎上」が起きてしまった場合にも、マニュアルが無ければ、担当者が慌てて火に油を注ぐようなコメントを返してしまうリスクもあります。

 では、どのようにマニュアルを作成すればよいのでしょうか。記載する項目について、まずは基本の5つを押さえておきましょう。

(1) 投稿文のトーン&マナー設定

 ブランドイメージにもとづいた語尾や話し方など、文章のトーン&マナーに関するルールを決めます。例えば、フレンドリーな口語で文章を投稿するのか、ですます調にするのか、もしくは企業のキャラクターが話している設定にするのかなど、ブランドイメージに合わせて表現方法を統一しましょう。

(2) 投稿内容の形式的なルール(頻度、時間、情報の種類、文字数など)

 週に何回程度、何時に投稿するのかといった頻度、投稿する時間やどのような情報を発信するのかなどのルールを決めておきます。

(3) 写真に関するルール

 写真の有無や選定方法を決めます。使用する写真によっては、著作権や肖像権などの問題が発生する事があります。例えばフォトストレージサービスを使う、自社で撮影した写真のみを投稿する、その場合は自社のスタッフ以外の人は写さない、他社のブランドやロゴの映り込みを避けるなどのルールを決めておく必要があります。

(4) 投稿前のチェック体制

 いくら注意深い性格の人であっても、自分で書いた内容を自分1人で確認をするとミスが起こりやすいものです。投稿を作成する人とは別に最低1人、内容を確認する担当者を決めておくとよいでしょう。確認する人が上司であるか部下であるかなどは、あまり関係がありません。運営するSNSの目的や投稿内容を把握している人にお願いしましょう。

 「一度くらいは良いだろうと、第三者のチェックなしで投稿してしまった時に炎上が起きてしまい、対応をご相談に来られるケースも実際に見受けられます。第三者による確認は必ず実施する事をおすすめします」(寺田さん)

 投稿前にチェックする人は、以下のような簡単なチェックリストを作成し、投稿前に照らし合わせて内容を確認するとよいでしょう。

投稿前チェックリスト

1.投稿するアカウントは正しいか

2.写真の肖像権や著作権を侵害していないか

3.法律に触れた内容ではないか

4.個人情報漏洩に該当しないか

5.マナー・モラル・宗教・政治・ジェンダーに関する内容や意見が偏っていないか

6.偏った表現や差別用語を使っていないか

7.嘘や誇張表現になっていないか

8.一般の人の立場で投稿を見て、受け取る印象に違和感や不快感がないか

 寺田さんによると「一社で複数のブランドのアカウントを運営している際に、投稿する先のアカウントを混同して別ブランドのアカウントで投稿してしまうなど、初歩的なミスは意外とよく起こる」と言います。チェックポイントをリスト化しておく事で、うっかりミスを防止し、より確実に投稿前の確認を実施する事ができます。

(5)「炎上」した場合の対応方法

 万が一の「炎上」に備え、対応策についてもマニュアル化して周知しておく必要があります。 対応部署と責任者、事実確認フロー、レポートラインなどを明確にしておく事で、担当者レベルでパニックに陥る心配がなく、冷静かつ迅速に対応する事ができます。 

 細心の注意を払っていても炎上してしまった場合には、担当者はまず何をすれば良いのでしょうか。火消し対応のポイントを解説します。

 まずは迅速に、何が起こっているか、炎上の原因は何かの事実確認をします。結果的に事実ではない投稿をして嘘をついてしまった場合、マナーやモラル違反など明らかに不快感を与える投稿内容であった場合、公序良俗に反するものであった場合などは当然、謝罪が必要です。また、間違った情報を投稿してしまった場合も、すみやかにお詫びと訂正をしてください。

 ただし、炎上の内容によっては「何もしない勇気も必要」と寺田さんは忠告します。「炎上」が起きると焦ってしまい、すぐに何かしなくてはと考えがちなのですが、多くの「炎上」は統計上72時間以内に鎮静化します。

 たとえば、お店のサービス品質など、人によって感じ方が違うものへの批判であれば、SNSユーザー間で議論が起こることがあります。一見“炎上”に見えなくもないですが、ここで公式アカウントがどちらかの立場に立って言い訳や反論をしてしまう事で、逆に火に油を注いでしまうケースもあります。対応が必要なものと、静観が必要なものをどう判別するかについても、事前にマニュアルに加えておくとよいでしょう。なお、静観している間も当然ながら定期的に内容のチェックが必要です。

 逆に、絶対に避けたほうが良い対応はあるのでしょうか。NG対応について寺田さんは3つのパターンで説明します。

(1)逆ギレや開き直り

 謝罪の際に、真摯な態度が求められるのは言わずもがな。逆ギレや開き直りはもってのほかです。誠意を持った謝罪をしましょう。

(2)言い訳をする、持論を展開する

 「我々はそういうつもりではなかったのですが……」といったレスポンスは避けましょう。まるで受け取り手の問題であるかの様に聞こえてしまいます。

(3)突然投稿を削除する

 「消して逃げた」と捉えられ、魚拓(削除前のスクリーンショット)が拡散されて、更なる炎上を誘発する可能性があります。きちんと謝罪文の中で、投稿を削除した事を伝えると良いでしょう。

 「近年、企業SNSであってもあまりに簡単に始めることができてしまいます。そのため、個人のSNSアカウントの延長上の様に捉えてしまう担当者も多いのです」。寺田さんは警鐘を鳴らします。

 「SNSを活用すれば、即座に自社のメディアを持つ事ができ、自社の顧客とダイレクトに繋がる事ができます。それゆえに、たった1回の投稿ミスがもたらす企業へのダメージもまた大きいのです。リスクを理解した上で、適切な防止策を講じた運用をおすすめします」