「時代遅れ」だった店の弱みが集客ツールへ 発想の源泉はアジアにあり
創業40年の地元に愛され続けるレストラン「びいどろ」。鉄板焼きオムライスやナポリタンなど、創業当時からのメニューが人気のお店の創業2代目の悩みは、座敷席など少し時代遅れに見える店舗のつくりでした。中小企業相談所の湯沢市ビジネス支援センターは、店の弱みと思われた座敷を、発想の転換でお店が目指す「家族連れが長居できる場所」にすることで、集客の武器にしました。人気の仕掛けのヒントはアジアにありました。
創業40年の地元に愛され続けるレストラン「びいどろ」。鉄板焼きオムライスやナポリタンなど、創業当時からのメニューが人気のお店の創業2代目の悩みは、座敷席など少し時代遅れに見える店舗のつくりでした。中小企業相談所の湯沢市ビジネス支援センターは、店の弱みと思われた座敷を、発想の転換でお店が目指す「家族連れが長居できる場所」にすることで、集客の武器にしました。人気の仕掛けのヒントはアジアにありました。
秋田県の最南端に位置する湯沢市で、約40年続くレストラン「びいどろ」。休日の昼となると地元の人たちで店内はにぎわい、厨房から客席までお店を所狭しと母親と一緒に切り盛りをする葛西英樹さん(35)は、創業者である父親の跡を継いで、約8年になります。
高校を卒業後に東京都内のイタリア料理店などで修行し、店を継ぐために湯沢市に戻ってきた葛西さんは、時代の変化とともに、メニューも様変わりしていく周囲の飲食店も多いなか、父親が作り続けた「鉄板焼きオムライス」や「ナポリタン」といった創業当時から変わらない看板メニューを提供しつづけることに誇りをもっていました。
しかし、近年は湯沢市も人口減少が著しく、一昔前と比べて客足も減少傾向にあり、特に2020年は新型コロナウイルスの影響もあって客数が激減しました。
葛西さんが「今後のことを色々と相談したい」と湯沢市ビジネス支援センターを訪れたのは、新型コロナウイルスによる全国的な緊急事態宣言が解除されて、飲食店にも徐々に客足が戻り始めた2020年5月。経営相談のなかで葛西さんが口にしたのは、まずは目指すべきお店の姿でした。
「これからも地元で家族連れのお客さんに愛されるお店でありたい」。
葛西さんが目指したのは、子ども連れのお客さんでも気軽に来店できて、長居もできるお店づくりです。自慢のメニューに加え、お店ではボリューム満点のお子様ランチも子どもたちから人気です。
しかし、その中で一つ悩みがあったのは、店舗の内装でした。「子ども連れの客層は20歳代から30歳代が多く、若い世代を集客するには内装が少し時代遅れでどうしようかと思っている」と葛西さんが話す店内は、少し古めかしい店内。テーブル席の奥にあるお座敷席は、畳も少し劣化していて店の悩みでもありました。
筆者は今でも、当時の葛西さんとのやり取りを鮮明に覚えています。葛西さんが発した「うちのあの座敷は古くて」というフレーズが、私の中の経験や知識、そして「家族が楽しめる大衆レストランを目指したい」という葛西さん自身の言葉と重なり、理想とする店舗づくりへのアイデアが次々と出てきたのです。
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お座敷は一見、時代遅れとも言えますが、実は子ども連れにとっては、非常にありがたいスペースです。小さい子どもを持つ親にとって、子どもが眠くなっても寝かせておけるお座敷は、ゆっくりと食事をとりたいときに重宝します。
しかし、湯沢市には家族連れでいくようなレストランに、そうした場所を持つ店舗があまりないというのが筆者の印象で、「このお座敷こそが、使いようによってはお店を差別化する際の武器になるはずだ」と思い、お座敷スペースを活用した「キッズスペース」を葛西さんに提案しました。
このアイデアは、筆者が以前住んでいたベトナムでの経験から出たものでした。ベトナム南部のホーチミン市は、街中の多くのレストランに子どもたちが遊べるキッズスペースがあります。
このスペースは特に豪華なものではなく、どこもプレイマットと本やボールなど、子供が遊べる簡単なものがある程度でしたが、食事をする際に子どもを遊ばせておきながら、大人がゆっくりと食事をとれるとあって、子ども連れの家族客でどこもにぎわっていました。
こうした筆者の体験を話しながら、びいどろのキッズルームのコンセプトは作られていきました。葛西さんのアイデアで、室内ブランコや絵本、ブロックなど、簡単なものだけれども、子どもたちが夢中になれそうなものを置き、まだ離乳食を食べている幼い子どもを連れてくる家族もいるだろうと、離乳食を温めることのできる電子レンジや、調乳ポットも置きました。
そして、仕上げは、テーブルで子どもが夢中になれる仕掛けです。これはベトナムにあるイタリア料理のチェーン店で行っていたもので、ただ単に画用紙とクレヨンをテーブルに置いただけのサービスです。
しかし、子どもはだいたいが「お絵描き」が大好きなこともあり、子どもが食事を待っている間や、家族が食べている時間に自由に机で絵を描くことができるという仕掛けは、現地では親から「静かに待っていてくれる」と大好評でした。
こうしてできたびいどろのキッズスペースは、「家族でゆっくりと時間が過ごせる」と地元でもうわさが広がり、今では休日の昼間は、お座敷のスペースに、家族連れの客の笑顔であふれています。
店舗や会社にとって、弱みだと思っていた部分は、とらえ方をポジティブに変えるだけで「強み」へと変化することが多くあります。
今回のびいどろのケースでも、一見すると、今のスタイルにはあまりなじまないと思われがちな「お座敷」を「子ども連れの客が長居できる場所」とポジティブにとらえ、簡単なキッズスペースへと様変わりさせることで、結果的に家族連れを集客するうえでのカギとなりました。
湯沢市ビジネス支援センターでは、こうした知恵とアイデアによって、「弱み」を「強み」に変える支援を多く行っています。そして、それを行うなかで重要なのが、相談に来る事業者の方々との対話です。
今回も筆者と葛西さんとの間の会話のキャッチボールがなければ、お店の目指す方向や、それを目指すうえでの集客のカギとなる、お座敷を利用したキッズスペースを作るという話にはなりませんでした。
相談に来る事業者と正面から向き合いながら対話をすすめ、その事業者のもつ光る部分を見つけ、ヒントを探りながら、強みを磨いていくという手法は、中小企業支援に携わる筆者にとってやりがいのある仕事です。
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