ふるさと納税で5.8億円 返礼品で人気のオーダースーツに2つの工夫
ふるさと納税の返礼品の一つ、オーダースーツ仕立て補助券が人気となっています。埼玉県北本市で2017年12月に始まり、2020年度は5.8億円の寄付が集まるまでになりました。補助券を提供しているオーダースーツブランド「銀座英國屋」3代目の小林英毅社長が取り組んだ2つの工夫について聞きました。
ふるさと納税の返礼品の一つ、オーダースーツ仕立て補助券が人気となっています。埼玉県北本市で2017年12月に始まり、2020年度は5.8億円の寄付が集まるまでになりました。補助券を提供しているオーダースーツブランド「銀座英國屋」3代目の小林英毅社長が取り組んだ2つの工夫について聞きました。
目次
オーダースーツ仕立て補助券とは、北本市のふるさと納税でもらえる返礼品です。寄付額の3割相当をオーダースーツを仕立てるときの補助券として使えます。補助券は3年間有効のため、複数年の寄付分をためて注文する人もいるそうです。
銀座英國屋の縫製工房が北本市にあるため、銀座英國屋が申請し、返礼品として登録されました。
銀座英國屋は2017年度にふるさと納税の返礼品にオーダースーツ仕立て補助券を登録しました。申込件数と寄付額は大きく伸びています。
高額納税者にとって、1万、2万円台の食品の返礼品では寄付しきれないのが現状です。そんななか、実用性の高さが寄付額を伸ばす要因の一つとなっています。
しかし、銀座英國屋の工夫はそれだけではありませんでした。
ふるさと納税の返礼品を始めたきっかけとして、小林さんは「職人の高齢化はどの業界でも課題ですが、フルオーダースーツ業界でも縫製職人の高齢化は激しい状況でした」と話します。職人の中心は50~70代。若い職人に技術を教える環境を整えるためにも、フルオーダースーツのまとまった数の受注が必要でした。
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そんなときに、小林さんが注目したのが「ふるさと納税」でした。自身の寄付の手続きを進めていたところ、妻から「銀座英國屋もふるさと納税の対象になるか、聞いてみたら」と提案を受けました。さっそく北本市に問い合わせると、申し込みフォーマットを案内され、1カ月ほどで掲載に至りました。
北本市によると、ふるさと納税の返礼品の事業者登録には下記のような手続きが必要となっています。
さらに、実際に寄付が寄せられれば次のような対応を取ります。
しかし、すでに自治体間での返礼品競争が激しくなっていました。ギフト券や返礼率の高い商品で寄付を集めている自治体もあり、後発の事業者が参入するには厳しい状況でした。
小林さんは「返礼率をあげた方が良いのか」と考えたこともありましたが、すでに総務省から「返礼率を3割以下」とする要請が出ていたこともあり、ふるさと納税の趣旨の範囲で工夫することを決めました。
ふるさと納税のポータルサイトなどに寄せられた声を分析すると、元々銀座英國屋を知っている人による寄付が多いことがわかりました。
小林さんは「食べ物の返礼品であれば、○○県産が欲しいという具体的なニーズがなくても寄付は集まるかもしれません。しかし、オーダースーツ仕立て補助券の場合は、銀座英國屋で仕立てたいと思っていたという方ではないと、寄附は難しいと考えました」と話します。
銀座英國屋で仕立てたい人を増やすためには、知名度を上げつつ、オーダースーツの質を伝える必要があります。そこで、メディア掲載を目指した広報活動に着手し、2020年度に25件掲載されました。
さらに意義を伝える工夫も始めました。当初は、公式サイトに返礼品の情報しか掲載していませんでしたが、2020年度からは、縫製職人の育成という意義を明示するようにしました。
ふるさと納税のポータルサイトでは、工房で働く若手職人が登場し、高級ブランドでありながら、舞台裏まで紹介されています。
こうした結果、スーツ需要が落ち込むなかでも、ふるさと納税経由の受注を増やし、工房では、年間4500着という国内でも有数の規模で縫製を続けられています。
2020年12月21日時点で職人約70人の平均年齢は39歳と、5年間で10歳若返ることにも成功しました。
水沼貴裕工房長も「北本市に対して興味が湧き、自社製品で貢献していることに誇りを感じる職人が増えてきました」と話します。
事業者から見たふるさと納税の意義について、小林さんに聞きました。
「ふるさと納税の是非について、様々な意見があるのは承知しています。ただ、地方の事業者には、自分の商品を自らPRするきっかけとなりました。どう文章や写真で表現すればより多くの人に知ってもらえるか。これを機に商品の育て方を考えるようになった事業者は少なくないでしょう」
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