「社長輩出率トップ」の福井県でも進む廃業 承継を進めるカギは
社長輩出率が38年連続全国トップの福井県は、休廃業率も高い傾向にあり、事業承継が喫緊の課題となっています。社長は多く生まれているのに、なぜ事業承継が進まないのでしょうか。福井県事業承継・引継ぎ支援センターの担当者に理由や、承継を進めるための対策について聞きました。
社長輩出率が38年連続全国トップの福井県は、休廃業率も高い傾向にあり、事業承継が喫緊の課題となっています。社長は多く生まれているのに、なぜ事業承継が進まないのでしょうか。福井県事業承継・引継ぎ支援センターの担当者に理由や、承継を進めるための対策について聞きました。
帝国データバンク福井支店によると、福井県の社長輩出率は1.37%で、38年連続で全国トップ(2020年1月時点)となりました。県事業承継・引継ぎ支援センターで、中小企業の相談に乗っている竹川充さんは、福井で社長が多い理由について「繊維や眼鏡関連の製造業を中心とした小規模事業者が多いからではないでしょうか」と話します。
「下請けが多く、繊維や眼鏡、鉄鋼などの製造過程で分業しており、複数の工場があります。一つひとつの工場は夫婦や家族・親族を中心としており、その単位はとても小さくなっています」
竹川さんによると、県内の典型的な承継パターンは次のようになるそうです。「経営者の子どもたちが後継者になることを見込んで、新卒後は同業他社に就職します。そして、20代後半で家業に入り、30代後半~40代に社長として後を継ぐケースが多いのです」
しかし、少子高齢化で子どもがいない、もしくは家業を継いでも収入が見込めない、将来性が見いだせない場合は、親族承継をあきらめてしまう企業も多くなっています。県によると、県内の企業数は約10年で約6千社が減少し、そのほとんどが小規模企業です。倒産よりも、経営の余力を残したまま、会社をたたんでしまう休廃業の件数が圧倒的です。
2017年に福井県事業承継ネットワーク(現・福井県事業承継・引継ぎ支援センター)が実施したアンケートでは、「廃業を検討している」と答えた企業の55.6%が黒字です。また、そのうち、廃業を検討する理由に「後継者の問題を抱えている」と答えた経営者は65.9%にのぼります。
後継者難の背景には、いったい何があるのでしょうか。
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センターで専門相談員を務める小林悟志さんは、後継者難の背景に「若者の県外流出」をあげます。
若者の県外流出は、約50年来の課題です。大学進学を機に、県外を離れる人が多くなっています。県によると、「大学進学・就職時の15~29歳の県外への転出が多く、社会減全体のおよそ8割を占める」という状況になっています。
後継者となる人たちは、いったん県外に出ても戻ってくる例もありますが、そのまま県外に就職したままというパターンも多いようです。
経営者の高齢化も進んでいます。帝国データバンク福井支店の県企業倒産集計(2019年)によると、「休廃業・解散」に至った企業のうち、代表者年齢が判明した276件については、「70歳代」の経営者が、全体の34.1%で最多となりました。80歳代以上も含めると全体の半数近い48.6%にのぼります。
親族への承継が厳しくなる中で、M&A(第三者承継)によって、廃業を免れた例もあります。2021年3月、コロナ禍で利用者が減少し、廃業を検討していた福井市の共栄タクシーは、同県小浜市の三福タクシーに事業譲渡。利用者の足や従業員の雇用を守りました。
譲渡を決めた共栄タクシーの隅田強さんは、「タクシー業界は30年来、右肩下がりで、若い人に仕事をしてもらうことは難しかった。70歳代以上の高齢運転手も多く、やめるにやめられないケースも多かった」と言います。
今回の事業譲渡で、三福タクシーの20歳代の運転手が共栄タクシーに派遣され、隅田さんは、笑顔で若手の指導を行っています。24年4月の北陸新幹線敦賀延伸で、コロナ収束後の観光需要も期待され、今回のM&Aの相乗効果も生まれそうです。
中小企業診断士でもある竹川さんは、「事業承継の問題は、社会の変化、産業構造の転換とも大きくかかわっていると思います」と話します。
「例えば団塊世代にあたる70歳くらいの経営者は昭和50年ごろに商売を始めたり、家業を継いだりしています。そのころは経済が右肩上がりで景気もよかったですが、バブルがはじけて、グローバル化の波で環境が変わってしまいました。時代の変化とお客さんのニーズの変化をつかめるかどうかが、事業承継を左右します。まだまだ悩んでいる経営者が多数いると思いますが、事業承継は最低でも5年、10年はかかります。だからこそ、早めの対策をしてほしいです」と呼びかけています。
2021年4月から、全国47都道府県に「事業承継・引継ぎ支援センター」がオープンしました。事業承継が社会問題化する中、親族内や第三者を問わず事業承継をワンストップで支援するというものです。前述したタクシー2社のように、地方都市でも承継パターンが広がるとみられます。
竹川さんは「産業の転換で、親から子に事業を承継すること自体が難しくなっている現状もあります。事業継続には、M&Aも一つの選択肢だと思います」と話します。
第三者承継は、近年注目されており、相談や実際に成約に至る事例も増えています。2018年に事業承継・引継ぎ支援センターの前身である県事業引継ぎ支援センターが開所してから、成約件数はこの3年で3倍以上に増えました。
特に、買い手側は慢性的な人手不足を抱える電気工事業、売り手側は製造業の相談が多いようです。しかし、成約に至らないケースや、M&A成立後に、買い手側の会社のやり方が合わず、従業員に辞められてしまうケースもあるそうです。センターの舘則夫さんは「成約でおしまいではなく、二つの会社のマネジメントも今後の課題となっていくでしょう」と話します。
センターでは、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の三つの相談窓口を受け付けています。70歳代以上の経営者に対し、後継者がいるかどうか、センターの関係者から働きかける「プッシュ型」の支援も積極的にやっていく方針です。
福井県では、県内の飲食店や新聞販売所、建設業などの後継者を全国から公募するプロジェクトを実施しています。事業承継が成立した場合、個人事業主を対象に、後継者と事業者の双方に、50万円ずつの奨励金を出して支援します。事業者のマッチングも、県や商工会と連携して行います。竹川さんは、次のように話します。
「福井県内には企業が3万社あると言われ、経営者が60歳以上の企業はその6割とされています。つまり、私たちの支援対象の経営者は推計で約1万8千人となります。その中でも後継者が決まっていない、もしくはいない企業が4割で7200人にのぼります」
「これまで、約600社を当たってきましたが、まだまだ掘り起こしが必要です。金融機関や商工会などさまざまなネットワークを利用し、おせっかいでもこちらから声を掛けて、企業とその従業員、地域のお客さんを守っていきたいです」
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