設備投資とは 主な流れや妥当性の判断方法、減損会計、補助金も解説
設備投資とは、事業を継続し成長を加速させる重要な企業活動です。ただし、長期に使用するもので大きな資金が必要なため、細心の注意を払わねばなりません。そこで設備投資の基本知識や活用できる補助金など、財務経理の実務経験の長い中小企業診断士が解説します。
設備投資とは、事業を継続し成長を加速させる重要な企業活動です。ただし、長期に使用するもので大きな資金が必要なため、細心の注意を払わねばなりません。そこで設備投資の基本知識や活用できる補助金など、財務経理の実務経験の長い中小企業診断士が解説します。
目次
設備投資とは、企業が事業を継続し、さらに拡大するために必要な設備に対して投資をすることをいいます。設備投資の主な目的は二つあります。
一つは、維持・更新を目的とする設備投資。法令点検に伴う設備の補修や、長年の使用により老朽化した設備の更新です。
二つ目は、経営課題を解決するための設備投資です。多くの企業が人口減に伴う市場縮小や慢性的な人手不足などの課題に直面しています。
新事業・新市場創出や、省力化・合理化などを実現するためには、最新設備の投資が必要となっています。業績不振などの理由により設備投資をためらうと生産効率の低い設備を使い続けることになり、結果としてさらに収益力の低下を招くことになります。
財務省「法人企業統計調査」によると設備投資は、2013年以降投資意欲は高まっていましたが、2016年以降はほぼ横ばいで推移している状況です。
2017年度の設備投資の目的は、「既存建物・設備機器等の維持・補修・更新」が最も多く、10年間でその割合が増加しています。
一方で、「新規事業部門への進出」、「省力化・合理化」などの割合は、減少しています。こうした傾向から、日本経済の成長に不透明感・不安感を持っている企業が多いことがうかがえます。
結果として前向きな設備投資が行われず、収益力や成長力が低下する負のスパイラルに陥っているとも評価できます。
設備投資の対象は、大きく分けて2種類あります。経理上は、有形固定資産と無形固定資産に別れ、決算書の一つである貸借対照表上も区分して記載されます。
取得した固定資産は、時間の経過とともにその価値が減少していきます。
減価償却は、長期にわたって用いる固定資産(減価償却資産)にかかった費用を、時間の経過に合わせて計上する会計処理方法です。
毎期の損益計算を正確なものにするために、企業会計原則の一つである「費用配分の原則」に従い、資産の取得価額を使用期間に応じて適正に費用配分を行います。
減価償却は、企業が適切に評価した使用期間叉は法定耐用年数の間、定額法、定率法などの方法によって行われます。
設備投資は、長期間にわたり使用し、投資金額も大きいことから、中期計画、年度予算、実行予算のプロセスを経て実行されることが一般的です。
会社としては、設備投資を行いたい案件は複数抱えていることが一般的です。
しかし、損益面への影響や調達資金の兼ね合いから、中期計画や年度予算編成の段階で投資案件のスクリーニングを行う必要があります。
スクリーニングの考え方は、財務内容の違いなどにより企業によって様々です。多くの企業で採用している考え方は、ねばならない設備投資を優先し、投資余力があれば、投資余力の範囲内で収益性の高い設備投資を選択します。
ねばならない設備投資とは、ボイラー設備等法令対応が必要な設備の更新、故障多発など現在の事業に支障のある製造設備の更新など、早めに対応しておかないと売上の機会損失やリスクが発生しやすい設備投資です。
必要最低限行う設備投資を決めた後は、経営課題を解決するための投資を収益性など評価し、予算に織り込みます。
例えば、量産化のための最新設備の導入、経営効率向上に向けた全社システム開発などがあります。
どの設備投資を優先するかを評価し決定することを設備投資の経済計算といいます。経済計算の主な手法が次の通りです。
手法 | 内容 | 計算式 | 特徴 |
---|---|---|---|
投資利益率法 | 投資で得られる増加当期利益額を投資額で割り、算出された利益率を評価する方法 | 増加当期利益額/投資額 | 収益性の評価はできるものの、キャッシュフローを考えていない |
回収期間法 | 投資額を、投資によって得られるキャッシュフローにより何年で回収できるかを計算し、回収期間の長短を評価する方法 | 投資額/各年の増加キャッシュフロー | 借入期間の目安が設定できる。回収以降のキャッシュフローを考えないため判断を誤ることもある |
正味現在価値法 | 投資額と、設定した期間内に投資によって得られるキャッシュフローの現在価値の総額を評価する方法 | (n年後のお金)/(1+割引率)^n | 時間価値を考慮して投資の収益性を判断できる。キャッシュフローや割引率の計算方法が煩雑 |
減損会計(後述)が導入されたことにより、設備投資の評価を正味現在価値法で行う企業が多くなっています。
正味現在価値は、現価係数を乗じて計算します。設例では年5%としています。A,B両案とも投資額(500)と5年間のキャッシュフロー総額(1,000)は同じです。
しかし年度ごとのキャッシュフローの額が異なることから、A案では正味現在価値は828.9、B案では840.8となります。B案の正味現在価値が大きいため、B案を採用することになります。
参考までですが、回収期間法では両案とも2.5年(500÷(1000÷5年))となり、投資判断ができません。
年間予算で承認された案件は、設備投資の実行フェーズに入ります。次のようなプロセスを経て実行する企業が多くなっています。
また、実行段階で経済環境や会社の業績が予算と大きく変化した場合には、再度スクリーニングを行い、新たな案件の承認や承認された案件の凍結などが行われることもあります。
予算はあくまで概算です。予算編成時より時を経ていることから、新機種など取得設備の見直し、相見積などによる金額の確定など設備投資の内容を確定します。
確定した投資額や売上・キャッシュフロー計画を基に設備投資の再計算を行います。会社が採用する計算方法により計算しますが、予算時より悪化した場合には、投資判断を再検討する必要があります。
設備投資は、税務調査での大きな調査項目の一つです。そのため、ほとんどの企業は、設備投資に係る社内決裁書(稟議書)により、最終的な投資判断を行います。稟議書などには、確定した設備投資の内容、設備投資の経済計算などを添付して決済を求めます。
基本的に予算で承認された案件については、資金調達は手当されています。資金調達は、内部資金や金融機関からの借り入れが主な方法です。
また、資産管理や減価償却計算は経理部門でも専門的な分野の一つです。そのため、耐用年数や償却方法を決定するために、様々な情報を収集・整理しておく必要があります。
設備投資は、固定資産を活用して利益やキャッシュフローを獲得することを目的とします。しかし、コロナ禍など経営環境の変化や強力な競合商品の登場などで、必ずしも設備投資のすべてが成功に結び付くとは限りません。
そのため収益力の悪化した固定資産については、上場企業に対して、平成17年度より「減損会計」を導入することが求められています。
減損会計とは、会社が所有する土地や設備などの固定資産が計画した収益などを獲得できなくなったことが認められる場合に、一定の基準に基づいて固定資産の帳簿上の価額を減額する会計上の手続きをいいます。
帳簿価額を減額しないと減価償却費が利益を上回ることになり、将来にわたって損失を計上することになります。減損会計は、それを防ぐのを目的としています。
強制適用の対象となるのは上場企業などですが、中小企業でもこの考え方を採用することは、「中小企業の会計に関する指針」で推奨されています。
減損会計は次のように進められます。
減損会計は、異なるキャッシュフローを生み出す固定資産のグループを最小の単位で対象とする必要があります。
そのため、店舗単位、製品別の製造ラインごとに、といった形でできるだけ細分化してグルーピングします。
対象となる固定資産のグループに、減損の可能性がないかどうかを確認します。
減損の可能性を掴むには、例えば営業利益が複数年マイナスが続いている、固定資産を利用している事業の経営環境が急激に悪化する(例えば、コロナ禍の飲食店や宿泊業)といった、今後収益力の回復が見込めない事象が発生していないかどうかを見るといいでしょう。
減損の可能性があることが判明したら、その固定資産グループにおいて、実際に減損損失が発生していないかチェックしましょう。
対象となる固定資産グループの割引前将来キャッシュフローの総額と帳簿価額を比べ、前者が後者を下回っているのであれば、減損損失が生じていることになります。
減損損失が発生していることがわかった場合は、対象となる固定資産グループの帳簿価額を回収可能価額まで減らし、実際に減らした分を減損損失として計上します。
たとえば、帳簿価額が600万円で回収可能価額が400万円なら、帳簿価額を400万円まで落とした上で、減らした分の200万円を計上します。
回収可能価額とは、正味売却価額叉は使用価値(固定資産の継続使用により獲得できるキャッシュフローなどの現在価値)の高いほうになります。
日本経済が伸び悩む中、収益性や資金調達の不安から多くの企業が設備投資に消極的になっている現状があります。
日本政策投資銀行の調査によると、新型コロナウイルスの影響で、大企業が計画している設備投資の額は、2010年度以降で最も低い伸びにとどまっているとされます。
経営体力が見劣りする中小企業は更に投資意欲が減退傾向にあります。そのため、経済産業省など各省庁が政策目的に沿った補助金により、中小企業等の業績改善などを支援しています。
補助金と助成金はともに国や自治体が政策目的を実現するために支援するお金です。補助金や助成金の活用は、事業者側にも大きなメリットがあります。
一つは、返済不要な資金であるため、資金面の不安から実現できなかった設備投資など経営改善施策に取り組めることがあります。
申請するためには、経営計画などを作成する必要があるため、現状分析、課題整理と解決策の検討など自社の状況を整理する良い機会となります。
また、作成した経営計画を社員、金融機関、取引先などと共有することで、業績改善の可能性が高くなります。
補助金と助成金の違いは、採択されるかどうかです。補助金は条件をクリアし申請した場合でも予め予算が決まっている為、審査があり一定の水準に達しないと採択されません。
一方、助成金は条件をクリアし申請した場合、一般的には必ず受給が可能となっています。
経済産業省が管轄している、設備投資に活用できる補助金は次の通りです。国交省、厚労省や各自治体などの補助金もありますので、情報収集してみてはいかがでしょうか。
また、申請要件、補助金額、補助率などにつきましては、申請類型により色々ありますので、各補助金サイトをご確認ください。
【各補助金サイトURL】
事業再構築補助金
ものづくり補助金
IT導入補助金
小規模事業者持続化補助金
補助金申請は、初めて申請する事業者にとってとてもハードルが高いものです。
補助金によっては、公募要領、WEB申請の手引きなど複数の資料を読み込まないといけません。しかも数十ページある資料も少なくありません。私も、支援する立場で事業者のお悩みを数多く耳にします。
こうしたお悩みを感じたらまずは商工会議所など商工団体に相談するのがベストです。中小企業を支援する専門家として支援してもらえます。
ただ、申請書づくりは丸投げできませんので、まずは自力で作成し、アドバイスを受ける形になります。採択の可能性を高めるためには、民間コンサルタントも選択肢の一つです。しかし、民間コンサルなどは相性や報酬などでトラブルが発生する可能性もないわけではありません。
そのため、私は、補助金申請を1回経験している事業者には、極力自力での申請をお薦めしています。事業者の中には、ものづくり補助金の申請を社員の資質向上に活用し、経営目線のある社員を育成しているところもあります。
中小企業の設備投資の活性化を図るため、政府は、税制の優遇措置を設けています。
減税の方法としては、設備投資の全額を一括して経費計上できる「即時償却」、または設備投資額の何%かの法人税を減額する「税額控除」があります。
優遇措置には、中小企業経営強化税制と中小企業投資促進税制がありますので、参考にしてみてください。
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