目次

  1. 会社の清算とは
    1. 清算の定義
    2. どんなときに清算するか
    3. 清算できない場合とは
    4. 解散・倒産との違い
  2. 清算の手続きとは
    1. 従業員への通知
    2. 清算人の選任
    3. 貸借対照表と財産目録を作成
    4. 公告・催告
    5. 資産・負債の売却と解消
    6. 分配
  3. 清算にかかる税金
    1. 法人税・地方税
    2. 消費税
    3. 所得税
    4. 固定資産税
    5. 経営者が注意するべきポイント
  4. 清算ケーススタディー
    1. 清算する会社の概要
    2. 清算の決断
    3. 清算の可否
    4. スケジュールの把握
    5. 顧客、従業員の引き継ぎ
    6. 資産、負債の現金化
    7. 税金の処理
  5. 後継ぎも清算を知るべき理由
    1. 万が一の備え
    2. 倒産や破産に至らないために
    3. 事業承継と清算
  6. まとめ
    1. 経営者や後継ぎが準備するべきこと
    2. 専門家に相談する前に
    3. 後継ぎの皆さんへ

 まずは、会社の清算とはどういうことかを説明します。

 清算とは、会社の事業をやめて資産と負債をゼロにして、法的に廃業の手続きをすることです。具体的には、すべての負債を清算して残った資産を株主に分配します。同時に、法的に会社をなくすための登記手続きを行うことをいいます。

 清算は自主的な廃業になります。自身の引退を決めた際に後継者がいない、もしくはこのままだと債務超過(資産よりも負債が大きい状態)に陥ることが見込まれ、回復の見通しが立たない場合が検討の対象です。

 清算しようと思っていても、会社の資産負債をすべて時価(清算価額)に換算しても債務超過の状態だと、通常の清算はできません。裁判所の監督下で行う特別清算(株式会社のみ可能)か、破産に移行することになります。

 検討段階では債務超過にはならず、通常の清算が可能と思った場合でも、不動産や有価証券等の資産の時価が著しく低下したり、または決算書に出ていない負債(退職金等)があったりして、債務超過の状態に陥ることもあります。

清算ができる場合とできない場合のイメージ(図表はすべて筆者作成)

 清算と似たような表現で、解散や倒産という言葉が使われることもありますが、実際には意味が違います。

 解散とは、廃業するために事業を完全に停止することです。解散後に清算の手続きが始まります。

 倒産とは資金がなくなり、事業を続けられなくなることです。なお倒産とは法律で定義されている言葉ではありません。一般的には、法的倒産として清算型の特別清算や破産、再建型として会社更生法と民事再生法があります。

 本章では、清算を決意した場合に必要となる手続きについて、順を追って解説します。

通常の清算の流れ

 清算する場合は、会社がなくなるため従業員は解雇となります。なお、労働基準法上は解雇30日前までに予告することが求められています。実際には、解散・清算の作業を従業員に手伝ってもらう必要があり、また再就職の準備もしなければいけません。筆者の経験上は、解散の3カ月前までには伝える場合が多かったです。

 なお、退職後は速やかに離職票・給与の源泉徴収票・退職の源泉徴収票を本人に交付しましょう。状況によっては進め方や作業について弁護士や社会保険労務士と連携します。

 株主総会において、解散の決議を行います。解散後2週間以内に解散登記が必要です。解散決議では清算人の選任が必要になります。清算人とは会社の清算手続きを実行する人を指し、通常はその時の代表取締役が就任します。清算人は複数人を選ぶことも可能ですが、通常は1人です。通常の清算の場合には、登記などの手続きは司法書士に依頼します。

 解散決議には、貸借対照表と財産目録の提示が定められています。

・貸借対照表

 解散決議で必要な貸借対照表は、会社法に定められています。なお金額は清算価額です。回収不能の債権についても時価換算して反映させます。実際に現金化するのは解散後の清算手続きで問題ありません。

・財産目録

 貸借対照表の各科目の明細を記載したものです。通常の決算で作成する科目内訳書の簡略版といえます。

 会社は解散後、官報に自社の債権者に向けて、債権の申し出をするよう掲載をする必要があります。これを公告と言います。なお、申し出期間は2カ月以上が必要で、期間中は原則その債権の清算はできません。

 また、会社で認識している債権者には、個別に申し出を求める通知をします。これを催告と言います。

 法的なルールとは別に実務上は、従業員に伝えた後に事前に案内状等を送って連絡します。

 清算を行うには、原則会社のすべての資産と負債を現金化します。売掛金・貸付金の回収、不良債権の整理、負債の返済、保険の解約、不動産や有価証券の処分、リース契約の解約などを行います。

 資産と負債の現金化がすべて完了した上で資産(残余財産)がある場合には、その残余財産を、持ち株数に応じて株主に分配します。分配完了後、決算報告書を作成して清算決了登記を行い、清算が完全に終了します。

 本章では、一連の清算手続きに関して、発生する可能性のある税金や、納税の注意点を解説します。

解散から清算までの会計期間

 解散後2カ月以内に解散事業年度の確定申告が必要です。通常の決算申告と同じく、法人税・地方税が課されます。

 解散後、資産の種類が多く現金化に時間がかかるなどにより残余財産の確定までの期間を要する場合には、解散日の翌日から1年ごとに確定申告をする必要があります。最終的に残余財産が確定した場合には、確定日から1カ月以内に確定申告を行い、法人税、地方税が課されます。

 消費税も上記と同様に、各事業年度において計算されます。事業を行っていなくても、資産の売却などで納税が発生する場合があります。状況によっては、消費税の届出等確認が必要です。

 株主には残余財産の分配金額によって、所得税が発生します。その際は、残余財産の分配を受けた年の確定申告が必要です。

 資本金等から出資額または取得価額を引いた差額は、株式の譲渡所得税の対象となります。分配額から資本金等を引いた差額は、みなし配当として所得税の対象です(給与の処理と同じように、分配する会社側で源泉徴収・納付します)。

みなし配当のイメージ

 会社で固定資産を保有している場合には、固定資産税がかかります。なお、固定資産税はその年の1月1日時点の所有者に対して課されるものなので、年の途中で処分しても、納税が必要です。

・借入金

 金融機関からの借入金はもちろんですが、経営者本人や自社の役員や株主などからの借入金も清算が必要です。資金的に経営者等の借入金を返済できない場合、免除されることにより、債務免除益が発生します。債務免除益の計上により、法人税の課税が発生する可能性もありますので、計上時期には注意が必要です。また債務超過が解消され、清算できる場合もあります。

・退職金

 解散後も清算人として従事する役員などに対し、解散前の勤続期間にかかる退職金を支払った場合には、税務上、退職金として所得税の計算がされます。法人税法上も費用として計上されます。

 では、弊事務所が実際に取り扱った清算の事例を基に、手続きについて解説します(個人情報保護のため、設定は一部変更しています)。

 サービス業を営む2代目経営者。従業員5人ほどの会社で、丁寧な顧客対応を強みとして信頼を得ていましたが、近年は同業他社の拡大路線に伴う競争の激化もあり、売り上げは減少傾向でした。しかし、経営者は既存顧客からの信頼を強みとして、自身もあと10年は働きつつ後継者の育成を考えていました。

 しかし、ご本人やご家族が大病を患い、後継者候補も現時点では継げる状態ではないことがわかりました。このまま無理をして続けると、かえって顧客や社員に迷惑がかかると考えました。家族や税理士と相談の上、清算をして、自身の体調を整えて再出発したほうが良いと決断しました。

 以前から相談をいただいていたこともあり、すでに金融機関からの借り入れがないことや、清算価額でも債務超過にならず、通常の清算が可能なことが確認できていました。

 清算決了までの全体スケジュールを確認し、いつまでにどのような法的手続きをしなければいけないかを、経営者、司法書士、弊事務所で共有しました。また、作業リスト・進行表を作成して、いつまでに何を誰がどのように行うかを決めて、都度確認していきました。

 課題となったのは、顧客と従業員の引き継ぎでした。今回のケースでは、事業譲渡という形で、同業他社に顧客と従業員を一括して引き継ぎました。労務面の手続きについては、社会保険労務士を紹介して対応しました。

 事業譲渡日までに発生した売掛金や買掛金・未払い金、引き継がれず退去することになった事務所やリース物件、その他、保険契約や通帳の動きがあるもの、契約書があるもの、書類が届くものすべてを確認して現金化しました。

 また、経営者からの借入金がありましたが、事業譲渡で得た資金で返済することができました。

 残余財産が確定した事業年度で、法人税、地方税、消費税、源泉所得税(退職金とみなし配当に対するもの)を納付しました。これは清算手続きにおいて事業譲渡による売却益が発生したためです。

 しかし役員退職金や過年度の欠損金(税務上の損失)を充当することにより、法人税等の負担を抑えることができました。

 ここまで、清算に関する手続きなどを説明してきました。主に経営者が清算の判断や責任を負うことになりますが、承継を控えた後継ぎも清算について知っておくべき理由は何でしょうか。

 前章までで見てきた通り、清算をするにも準備期間や、納税などの資金が必要であることがわかると思います。万が一の際に、どんな状態であれば通常の清算ができるのか。それを知ることで、早めの決断をして次の準備をすることが可能です。

 事業が継続する限り倒産・破産にはなりません。事業が継続するには、お金が回り続けることと経営者がいることが必要です。廃業の場合でも、会社の資産と負債の清算価額で債務超過でなければ、通常の清算ができます。

 そのためには、利益を出して納税を行い、自己資本を増やしつつ、現金を増やすこと、そして自身の健康に留意することが必要です。同じように従業員を大切にして、いつまでも働いてもらえる環境を整えることも大切になります。

 事業承継に際して、会社の資産や負債の状況をみて、現時点で通常の清算ができるかどうか、簡易的にでも把握するとよいと思います。もし債務超過の状況なら、解消することが最優先となります。

 また、自社の株主の状況や、事業承継について先代はどのように考えているか、確認しておくのも大切です。

 最後に、清算についての注意点やポイントを整理しました。

 仮に清算を意識した際に準備すべきことは、会社の実態を正しく把握することです。具体的には以下のことが挙げられます。

  • 株主構成はどうなっているか
  • 決算書に出てこない資産や負債には何があるか
  • 資産と負債を時価評価して債務超過になっていないか
  • 従業員や取引先への対応はどうするか

 清算については、株主や役員の同意が無ければ進めることができません。専門家に相談する前に、株主や役員そしてご家族に相談して検討することをお勧めします。

 後継ぎの皆さんは事業を継続させるために、継がれると思います。しかし、状況が悪化して資金がなくなり、倒産に追い込まれると、従業員や取引先、ご自身やご家族にも大きな影響を与えます。

 もし、通常の清算ができるうちに決断すれば、従業員に給与や退職金を払いつつ、再就職の支援もできる可能性が広がります。苦しい状態になったときに、ただやみくもに頑張るのではなく、時間や資金の確保ができるうちに清算を決断するための判断材料の一つとして、参考になれば幸いです。