倒産危機のメーカーを強い組織に 3代目が進めたブランディングとDX

金型製作などを手掛ける大阪市の東亜成型は、3代目の浦竹重行さん(48)が倒産危機の家業に入り、ユニークなブランディングで再生の道筋をつけました。若者や外国人エンジニアを雇用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)も進めて、強い組織を作ろうと奮闘中です。
金型製作などを手掛ける大阪市の東亜成型は、3代目の浦竹重行さん(48)が倒産危機の家業に入り、ユニークなブランディングで再生の道筋をつけました。若者や外国人エンジニアを雇用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)も進めて、強い組織を作ろうと奮闘中です。
東亜成型は1953年、浦竹さんの祖父が大手金属会社から独立し、大阪市内でトラクターエンジンの木型製造会社としてスタートしました。79年に現在の場所に移転。父親が2代目となり、叔父らと切り盛りしていました。現在の従業員数は14人(役員をのぞく)で、自動車シートのウレタン発泡用金型の製造が主力です。
長男の浦竹さんが子供の頃は、父と叔父らがけんかばかりしていました。小学生の時に自宅が全焼。命は助かったものの、父はその保険金をも会社につぎ込んでしまいました。お金の苦労を見て、絶対会社なんて継ぎたくないと思っていました。
大学卒業後は一般企業に就職し、13年間、会員制リゾートホテルの会員権の営業職を務めました。人脈もなかった自分が、富裕層や経営者に直接会える仕事は魅力的でした。
最初は話を聞くだけでしたが、次第に経営者が抱く会社の悩みや個人的な悩みへの回答を求められるように。そのうち、お見合いのセッティング、社員のモチベーションアップのための講演会、もめごとの仲裁まで、何でも屋のようになっていました。
「上っ面の営業をしていても意味が無い」と思い、顧客の困りごとを徹底して解決したら、「もう一口買うわ」と、自然と契約も取れました。社内のセールスコンペで最優秀賞に選ばれ、「ほんまに天職だ」と思っていました。
ところが、2008年、リーマン・ショックの影響で家業が倒産危機に陥りました。「おまえの人生やからおまえが決めろ。けど、小さい時にかわいがってくれた職人さんたちを覚えているやろ、路頭に迷うんやけどな・・・」と義理人情に厚い父らしい本音を聞かされました。
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浦竹さんは09年、家業に入りましたが、進んで決断したわけではありません。当時、会社は借金がかさみ、返済どころか、仕事もありませんでした。
恥を忍び、決算書を持って前職の顧客に相談すると、「何でもいいからメディアに取り上げられることを考えたらいい。銀行はメディアに出た会社を潰すことを気にする風潮がある」と教えてもらいました。しかし、工場にはネタが何もありませんでした。
製造業には「3K」のイメージがぬぐえません。浦竹さんは「海外の工場はかっこいいのに、日本はなぜ製造業が下に見られるのか」と疑問を持ち、製造業にデザインの視点を入れようと、デザイナーを紹介してもらいました。
社員からヒアリングしたデザイナーは、「型破りな考えも、型にハメる」という印象的なキャッチコピーを提案。10年、ナイジェリア出身社員のオヌボグ・イケンナ・ピースさんをモデルにした、ポスター式の会社案内が生まれました。
ユニークな取り組みは地元の商工会議所を通じて、メディアに広がり、多くの取材を受けるように。ただ、銀行へのアピールにはなりましたが、根本的な解決にはつながらず、従業員には「テレビに出て何をやっているんだ」と快く思われませんでした。
それでも、浦竹さんはデザインを取り入れたアイデアを打ち出し続けました。「型破りな考えも、型にハメる」と書き込んだカラフルなTシャツに作業着に変え、社員の手で作業場に山小屋風の装飾をしたり、溶岩に見立てた富士山の絵を描いたりしました。すると、工場の雰囲気が明るくなり、従業員の士気があがったといいます。レーザー加工や、3Dプリンティング、試作品製作など単発の仕事も増えてきました。
一般消費者向けに「DOYA」という自社ブランドを立ち上げ、キーホルダーなどを製造しました。畑違いにも見える和菓子の木型も製造。木型職人の減少で困っている和菓子職人の相談を受けたのがきっかけでした。「型作りで困っている方の悩みに応えたいという思いでした 。キャッチコピーの『型破りな考えも、型にハメる』というのは、お客様の様々な発想を型にはめて製品化するという意味そのものでした」
同社では、ベトナムからも正社員2人を雇用しています。15年に研修生採用の依頼があり、浦竹さんはベトナムの日本語学校で一生懸命日本語を勉強する姿と礼儀正しさに感銘を受けたといいます。今ではCAD(コンピューターによる設計)も使いこなす優秀な人材です。
同社は受け身で奥手な社員が多かったといいますが、外国人エンジニアの雇用で変わりました。CADを使う社員の下に、ベトナム人社員のドアン・テー・ズーさんをつけたところ、積極的に技術を教えるようになりました。他社からは、外国人エンジニアの採用や指導に関するノウハウを聞かれるようにもなりました。
浦竹さんは17年、父親から経営を引き継ぎました。ブランディングや商品開発が実り、09年の入社時に8400万円だった売り上げは、2億2千万円にまで伸びていました。
「当時2億円の(会社が抱えた)負債がありましたが、祖父が立ち上げた会社を簡単に潰したくはありません。会社の連帯保証人として、手を震わせながらはんこを押しました」。浦竹さんはここでも、法務に詳しい前職の顧客に、書類や法務の手続きなどを手伝ってもらいました。
先代の父は20年に他界。浦竹さんは「生前に、40歳代で事業継承ができたことは幸運でした」と言います。高齢の社長からの継承が終わっていない企業に比べ、銀行からの評価ははるかに高かったそうです。
社内改革が奏功し、19年には25歳の男性と28歳の女性の採用につながりました。偶然にも2人とも絵を描くのが得意なアニメファン。会社のホームページなどで、社員紹介のイラストや会社の日常を紹介する4コマ漫画を描いてもらいました。将来は工場でコスプレ大会の開催や、コスプレグッズの販売などができればと思っています。
浦竹さんは前職で、「40歳代、50歳代になったら若い子たちを育てろ」と言われました。自身が40歳代になり、ノウハウを教えて、積極的に従業員と関わるようにしています。
自動車関連の金型が主力の同社は、コロナ禍で自動車業界が打撃を受けたことで、「本当に危険な状態でした」と言います。受注が激減した20年の売上高は1億1千万円で、社長就任時から半減。ボーナス不支給という苦渋の決断を余儀なくされました。
「ボーナスが無くて一番困るのは誰だろうと考え、従業員の妻が一番早く知りたいはずだと思いました。ボーナスは、純利益が出て初めて支払われます。その仕組みを社員にわかるようにしています」
「粗利益」ー「人件費」ー「材料代」=「純利益」
同社では誰でも一目でわかるように、上記の数式を毎月ボードに貼っています。査定の基準がより明確になるように、10段階の評価表も作りました。会社の経営状況を「見える化」したことで、材料の二重買いや、無駄な残業が減るという副産物も生まれたといいます。
浦竹さんはボーナスを下げるだけでなく、社内の体制作りやDXに取り組みました。
まずはペーパーレス化を進めるため、タイムカードをなくし、勤怠管理の無料アプリを導入しました。従業員は出勤したらタブレット端末をタップするだけです。
IT企業の協力で、QRコードで材料を読み込む仕組みを作ってもらいました。例えば、クラウド上で、重要な材料の在庫が10個を切ると、担当者あてに自動的に発注を促すメールが届く仕組みにして、在庫確認や棚卸しが楽になりました。
工場向けの生産管理システム「M:net(エムネット)」も新たに導入しました。月数万円の負担で、社員が誰でも扱えるように、バーコードを用いて生産管理が実現したことで、管理コストと利便性が劇的に変わりました。
浦竹さんは、こう話します。「町工場の社長は、マルチで何でも1人でこなしがちです。現場がある製造業はミーティングの時間も取りにくいという課題もありましたが、無料や安価で使えるアプリを使い、業務を見える化しました。中小企業は、コストをかけなくともDXは出来るということを知ってほしい。システム化と見える化で、私が万が一社長業をできなくなっても、会社を継続できる準備は整っていると思います」
浦竹さんは若い頃、同乗していた車が港から海中に転落し、九死に一生を得た経験もあります。目指すのは、「私がいなくても会社が回ること」と言います。
「(祖業の)トラクターの木型製造から、自動車関連の金型に形を変えて、会社が続いてきました。歴史の重みより、その時代にあった会社に変わることで、社員が生活できるようになります。会社は社員を一生守れません、社員には『自分のことをちゃんと考えてやりたいことを実現する場、レベルアップの場として会社に貢献してください』と言っています」
浦竹さんの座右の銘は「楽しそうな所に人・モノ・お金・情報が集まってくる」です。「会社の敷居を低くして、色々な人が集まる基地局みたいな場を提供したいと思っています」
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