目次

  1. The Crafted GINZAとは 
  2. セレクトショップへの営業、EC・SNSが後押し
  3. 集客力に期待する百貨店から出店依頼
  4. 「コミュニケーション手段の一つ」
  5. 顧客開拓へ「使い方」を動画で紹介
  6. ECよりもブランドストーリー
  7. 2020年の国内のEC市場規模、物販系が22%増

 「The Crafted GINZA」(東京都中央区銀座1丁目6-2)とは、東京・銀座の遊休不動産を活用し、ものづくりのD2C(Direct to Consumer)ブランドが集まる期間限定のショールームです。

 下記9ブランドの出店は、9月20日までの予定です。

「The Crafted GINZA」第二期出展ブランド一覧

 こうしたブランドに、ECサイトやSNSをどのように活用し、どう役立っているのかを聞きました。

 大阪府岬町にあり1966年創業のニット工場が立ち上げたメンズのニットブランド「MOONCASTLE」は、MAKUAKEでのプロジェクトをきっかけに注目を集め、InstagramやLINEを活用して、ECでの売上を伸ばしてきました。

 ブランドを立ち上げた「月城ニット」代表取締役の月城亮一さんは「消費者と直接つながれて、利益率も高いのがECのメリットです」と話します。

MOONCASTLEのアイスコットンを使用したサマーニット

 しかし、現在力を入れているのが全国各地のセレクトショップへの営業です。「店員さんはブランドを広げてくれるアンバサダーのような存在で、売上の安定には欠かせません」

 ネットと実店舗での販売は相乗効果があると月城さんは考えています。セレクトショップに飛び込み営業をかけるときも「SNSやECを見たことがある」と言われ、会話のきっかけにもなっているそうです。逆に、実物を見てみたいという問い合わせが寄せられたときに近くのセレクトショップを紹介することもできるといいます。

 手作り革製品を取り扱う福岡県のオーダーメイドアトリエ「Philosophii(フィロソフィ)」は、Instagramのフォロワーが2万人。オーダーメイドの革製品を日々紹介しています。

福岡県のオーダーメイドアトリエ「Philosophii(フィロソフィ)」を紹介する土井正裕社長

 ECでの販売が主体ですが、実物を見てみたいというニーズも根強く、全国各地のイベントなどにも出店しています。土井正裕社長は「コロナ禍で集客に困っている百貨店からの依頼も増えています。Instagramのフォロワーが多いため、催事に出店することでお客さんに実際に来てもらえると期待されているようです」と話しています。

 静岡県裾野市の家具メーカー「フジライト」は、ソファー専門ブランド「MANUALgraph(マニュアルグラフ)」を立ち上げ、横幅や肘掛けの位置をセミオーダーできるソファーなどを取り扱っています。

ソファー専門ブランド「MANUALgraph」のコンパクトソファシリーズ「me」

 2011年の東日本大震災で落ち込んだホテルや病院向け製品の代わりに自社ブランドを立ち上げました。100%自社工場生産で質を保ちつつ、届けたい価格に抑えるために選んだのが消費者に直接販売できるECサイトでした。

 インターネット広告を出すなど様々な試行錯誤を重ねましたが、当初は思うほど売上は伸びなかったといいいます。

 そこで、ネットだけにとどまらず、体験できる場の提供に取りかかります。倉庫の2階を自社ソファーが体験できる場に改装したり、「ららぽーと沼津」に出店したり、都内のカフェにソファーを置かしてもらったりするなかで、少しずつファンを増やしてきました。

 それでは、ECサイトにはどんな意味があるのでしょうか。3代目の鈴木大悟社長は「顧客とのコミュニケーション手段の一つと考えています」と答えました。

 ECからの問い合わせをきっかけに、電話で話し、店舗まで足を運んでもらったり、逆に店舗を訪れた顧客が後日ECで注文したりと、ECは顧客との接点の入り口にも出口にもなっているそうです。

 近畿編針は、竹編み針ブランド「Seeknit」のサイトで初心者向け編み物キットを販売しています。

竹編み針ブランド「Seeknit」を紹介する早川英利さん

 欧州を中心に海外では、受け入れられても国内ではなかなか編み物をする人が増えないという課題を抱えていました。そこで、最近のキャンプブームにあわせて、ニットで作るドリンク缶カバーなどをつくるレクチャー動画をYoutubeに投稿しています。

 その一方で、ECよりもブランドストーリーを伝えることを優先したブランドもあります。1675年、鍋島藩が将軍への献上品を作るため、肥前国の有田・伊万里地域で選りすぐりの陶工を集めた「鍋島焼」の歴史を伝えるオンラインメディア「鍋島藩窯百撰」です。

鍋島焼を紹介する鍋島虎仙窯3代目の川副隆彦さん

 高度経済成長期には、毎日のように大型バスが訪れ、1日100人もの観光客が訪れていた地域も、ライフスタイルの変化、そしてコロナ禍で訪れる人が少なくなっています。

 こうしたなか、メディアを立ち上げた理由について、窯元の一つで、鍋島虎仙窯3代目の川副隆彦さんは「100年後を考えたときに、鍋島焼文化の確立というビジョンを掲げ、産地全体を視野に入れたブランディングが必要だと考えました」と話しました。

 サイトでは、鍋島焼の里の風景や、同じ文様を繰り返し描くために使われている型紙「仲立ち紙」を使った製法など鍋島焼の歴史や文化のほか、技術・技法について様々な情報を発信しています。

 経済産業省の電子商取引に関する調査結果によると、日本国内のBtoCのEC市場規模は、19.3兆円で前年比0.43%減とほぼ横ばいでした。ただし、内訳をみると、旅行サービスの縮小に伴い、サービス系分野の市場が36%減となった一方で、物販系は22%増となりました。

 とくに、物販系は次の4分野で物販系全体の73%を占めています。

  • 生活家電・AV機器・PC・周辺機器等……2兆3,489億円
  • 衣類・服装雑貨等……2兆2,203億円
  • 食品、飲料、酒類……2兆2,086億円
  • 生活雑貨、家具、インテリア……2兆1,322億円

 2020 年の我が国のインターネット広告費2兆2,290億円のうち、インターネット広告媒体費は1兆7,567億円に上ります。

 この金額の32.4%をソーシャル広告が占めており、その比率は対前年比で2.9 ポイント高まりました。「インターネット広告媒体費自体の増加に加え、ソーシャル広告の比率も高まっていることから、モノを販売したい企業側が SNS上での広告を重視している様子がうかがえる」と経産省の報告書は指摘しています。