職人の作業靴がかわいい街歩き靴へ 異業種マッチング生む地元発ブランド
広島県の福山駅前にある大人向けのセレクトショップと、ワーキングシューズを作ってきたゴム製品メーカーが次々と街歩き用のブランドシューズを生み出しています。コラボ商品が生まれたきっかけやさらなる事業展開について、公共の産業支援機関である福山ビジネスサポートセンター「Fuku-Biz」が紹介します。
広島県の福山駅前にある大人向けのセレクトショップと、ワーキングシューズを作ってきたゴム製品メーカーが次々と街歩き用のブランドシューズを生み出しています。コラボ商品が生まれたきっかけやさらなる事業展開について、公共の産業支援機関である福山ビジネスサポートセンター「Fuku-Biz」が紹介します。
JR福山駅のすぐ目の前に店を構えるカジュアルウェアのセレクトショップ「ホルスワークス」のオーナー今福俊和さんが初めてフクビズに訪れたのは2017年4月のこと。
売上アップと新たな成長戦略についての意見交換が主な目的でした。福山出身の今福さんは大学卒業後に神奈川県のセレクトショップに勤務し店舗マネージャーやバイヤーを経験の後に帰郷しました。
故郷に戻って念願の店を開業したのが17年前。上質なアメカジの品揃えと丁寧な接客が地元の30代後半~40代の大人おしゃれ層に支持され、業績は順調に推移してきました。もう1店舗構えたこともありましたが、2店体制でのサービスの質の維持が難しく早々に撤退、スタッフ育成の重要性を痛感したそうです。
その後は駅前店に経営資源を集中して業績の安定化を図り、OJTでスタッフの育成にも力を入れてきました。17年が経ち、経営的にはまずまず安定しているものの、さらに前進するための糸口を見つけたいとのこと。
また、デニム生地を筆頭にもの作りの町として名高い福山なのに大人向けの地元ファッションブランドがほとんど存在しない現状を何とかしたい、という強い思いを持っていることも分りました。
今福さんがいつも学びの姿勢を持ち他人の話を受け入れる柔軟な思考をされる方であることや、強い情熱を持って事業に取り組んでいることを知るのに時間はかかりませんでした。それらは今後の事業を成長させるうえで、強い原動力となるに違いないと思いました。
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ホルスワークスに足を運んでみると、売場面積は1階(レディス)と2階(メンズ)を合わせて約40平方メートルと決して広くはありません。
ですが、「大人向けアメカジ」の商品コンセプトに沿ってセレクトされた商品はどれも質と品の良さが伝わってくるものばかりで、「センスのいい品揃えとスタッフみなさんの感じがとてもよいお店だな」と感じました。
さて、事業改善についての私からの提案は、3つです。
中でも今回ぜひ紹介したいのが、3.のコラボ商品開発についてです。
福山を中心とした備後地域には古くから繊維関連の製造事業者や金属大手の下請けとして成長してきた加工事業者が多く存在しますが、それぞれが独自の強みや個性を持ちながら活かしきれていないという現状がありました。マッチングによって強みの相乗効果が生まれ新たな価値の創出に繋がったケースとして紹介します。
今福さんとの成長作戦が進行している頃、別の事業者さんがフクビズを訪れていました。1947年創業の工業用ゴム製品の中堅メーカー、福山ゴム工業の履物事業部のみなさんです。
30年以上前に開発して以来、ワークウェア市場で支持される数々のワーキングシューズを産み出している職人集団。私が初めてお話ししたのは2017年10月のことでした。
いくつか拝見した製品の中で特に目を引いたのが、工事現場の職人さん用作業シューズ「親方寅さん」でした。
「地面へのグリップ力の強さ・滑りにくさ・着脱のしやすさ・とにかく軽い」が身上の作業シューズですが、見た瞬間にこれは可愛い!と思いました。
ファッション市場でも通用するのではと感じたのです。30年前から変わらないデザインに懐かしさと同時に普遍性も感じ取れること、シンプルなフォルムが現代のカジュアルなスタイルに合うと思えたこと、そして、「軽さ・滑りにくさ・着脱の容易さ」など職人仕様の切り口が新鮮な価値として訴求できるのではと考えたこと。
そこで「地元発の大人向けファッションブランドが必要」と考えるホルスワークス今福さんの言葉を思いだし、この2社を結びつける(マッチングする)ことで新たな価値が生まれるかもしれないと考えました。
福山ゴム工業さんのシューズチームのみなさんとホルスワークス今福オーナーがフクビズで初めて顔を合わせたのは2017年11月。親方寅さんを一目見た今福さんは「いいですね!かわいいですね!靴底を厚く出来れば町履き用としても十分通用すると思いますよ」とのコメント。
こうして2021年の今に至る両社のコラボレーションが始まったのです。半年にわたって試作と打合せが繰り返されました。黒と白の無地2色に加えてホルスワークスさんのアイデアで新たにドット(水玉)模様を施した2色を加え、カジュアルで可愛い町履き用スニーカーとして生まれ変わりました。
名前も「親方寅さん」を進化させた「とらさんビス(ビスは仏語でもう一つの意)」に決まり、2018年9月いよいよメディアに発表されました。
今福さんがオーナーであるセレクトショップから発売を開始、複数のメディアで取り上げられたことも後押しとなり、目論見通り30~40代の女性客を中心に評判となり好調なスタートとなりました。さらにホルスワークスさんをハブとして関西中国地方のセレクトショップへの卸販売も開始し段階的に販路を拡げています。
その後は第2弾として耐水性と歩きやすさにこだわったハイカットタイプの「とらさんビス ハイカットガムブーツ」を2019年10月に発売。第3弾として2021年4月にアッパーにサマーニットを使用して軽さと涼しさを追求し「このスニーカーを履いて2022年に開城400周年を迎える福山城を歩こう!」を謳い文句とした「サマーニットスニーカー ジョウカクライト」を発表して好評を得ています。
こうした両社の共同商品開発はまだまだ続きそうな勢いで、コラボの手伝いをしているチームフクビズにとってもワクワクと楽しみはまだまだ続きそうです。
今回のコラボ事業展開を契機に、ホルスワークスの今福さんは多分野の地元製造事業者と組み福山発のファッションブランドを開発し発信していくことでともに成長していきたいとの強い想いを持って、2020年秋に店独自のブランド「PHAROS(ファロス)」を立ち上げました。すでに地元の生地企画製造企業と組んだデニムのトートバッグを開発するなど積極的な活動を始めています。
一方、年間数万足の作業シューズを毎年売上げている福山ゴム工業にとってはこのコラボ展開は少なくともこれまでのところ収益面では全く貢献していないと察します。しかし高付加価値ファッション市場での経験を積みながら将来の新たな事業展開への足掛かりをつかもうと、とても前向きな取り組みを続けています。
コロナ感染症予防対策のために経済活動が制限されてきたことで、地方の中小企業は大きな打撃を受け、いまだ拭いきれない閉塞感に覆われているのが実情です。そうした状況下では互いの持てる強みを活かして弱みを補填しあい、新たな価値をうみ出す企業同士の連携は生き残りに向けた有力な選択肢の一つとなっています。
今後もフクビズは異なる個性と強みを持った備後圏域の事業者さん同士のマッチングを積極的にお手伝いし、新たな価値と市場の創造に向けたチャレンジを応援していきます。
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