右肩下がりのクリーニング業界で成長戦略 新規会員呼び込むチラシの一言
地方の個人経営のクリーニング店をとりまく環境は年々厳しくなっています。丁寧な仕上げ、清潔、スピード、良心価格といったキャッチコピーでは大手との差別化ができません。しかし、長崎県大村市のクリーニング店は新規顧客を増やしています。きっかけとなったのは店の強みを一言で表現した「チラシ」と、地域のお店とのコラボによる「やどかり戦法」です。売上アップのアイデアの生み出す支援をしている大村市産業支援センターから経緯を紹介します。
地方の個人経営のクリーニング店をとりまく環境は年々厳しくなっています。丁寧な仕上げ、清潔、スピード、良心価格といったキャッチコピーでは大手との差別化ができません。しかし、長崎県大村市のクリーニング店は新規顧客を増やしています。きっかけとなったのは店の強みを一言で表現した「チラシ」と、地域のお店とのコラボによる「やどかり戦法」です。売上アップのアイデアの生み出す支援をしている大村市産業支援センターから経緯を紹介します。
厚生労働省のデータ(PDF方式)でも明らかなように、全国のクリーニング施設数は減少の一途をたどっています。要因として、大手のチェーン店の競争が激化し、形状記憶など衣類の機能が向上してクリーニングに出す機会が減っていることなどが考えられます。
そんななか、2018年3月に長崎県大村市でクリーニング店「クリーニングエイトドライ」を営む林浩二社長が、大村市産業支援センターに相談に訪れました。
学校を卒業後、一度は製造業で設計の仕事をしていた林社長ですが、父親が始めたクリーニング店を継いだとのこと。誠実なその人柄は仕事ぶりにも反映され、一点一点丁寧に仕上げていること、リーズナブルな料金、また、大村市では珍しい即日仕上げも可能など、魅力的なポイントが多々ありました。
多くの人にはすでに日常利用しているクリーニング店があるかと思います。現状に不満があるなどよほどの理由がない限り、あえてこれまでのクリーニング店を変更しようとは思わないのではないでしょうか?
確かに、丁寧な仕上げ・清潔・スピード・良心価格……といったことは、大手を含めた店舗のチラシにも大抵うたわれています。これらのキーワードを常に目にしている消費者に、あえて行動変容を起こさせ、エイトドライにスイッチさせることは難しいと考えました。
そんななか、林社長が興味深い話をしてくれました。
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実は、関東からも染み抜きの依頼があり、すでにバックオーダーだけで数年分の受注があるとのこと。関東からネットで徹底的に調べて、「長崎のエイトドライさんなら、大切な思い出があるぬいぐるみのシミを綺麗に落とせるのではないかと思い、問い合わせました」といった依頼があるとのことでした。
先日も、福岡から車で片道2時間かけて着物を持参し、クリーニングを依頼する人がいたそうです。
価格をPRすれば、低価格競争に巻き込まれてしまいます。また、スピード仕上げも魅力的ですが、大村でそこまでスピード仕上げにこだわる顧客層は多くないと見込みました。
消費者自身が関心のないことは、どんなに広告しても届かないことから、訴求ポイントを厳選し、圧倒的技術力をワンメッセージとして、PRすることに決めました。
林社長とともにこの技術力をPRするために、様々な言葉を検討し、最終的に選んだキャッチコピーが「福岡から片道2時間かけても来ていただける技術力の店」という表現でした。
このキャッチコピーを中心に従来のチラシを変更し、SNSでの情報発信、ホームページなどのランディングページでもこのメッセージをエイトドライの最も重要なイメージとして統一してもらうように依頼しました。(現在は新型コロナの影響もあり、県境を超えた移動自粛があるため、この表現は控えています)
「親切・丁寧・低価格」などの通常ありがちなクリーニング店の広告チラシとは違い、この「福岡から……」のチラシはかなりインパクトがあり、エイトドライ社に興味を持ち、新規の依頼客が徐々に増えていく一因となりました。
次の課題としてエリア戦略をどうするかについて検討を重ねました。スーパーなどには、既に大手チェーン店が入っています。
人通りの多いところは魅力的ですが、新規出店すれば、改装費などの初期コストがのしかかり、経営を圧迫する恐れがありました。そこで目を付けたのが魅力的なエリアにある他業種の店舗とコラボして、スペースを作り出す「やどかり戦法」でした。
クリーニングの仕上がり品を保管する場所を含め数畳あれば足りるとのことで、注目したのが大村のメイン道路沿いにあるアパレル店舗「銀屋」でした。
銀屋は女性向けフォーマルや、おしゃれな婦人服、バッグ、ジュエリー販売などで地元でも定評のあるお店です。高級婦人服を購入いただいた銀屋のお客様にもエイトドライのクリーニング技術は相性が良いと考えられ、双方の顧客層にとってもメリットがあると考えました。
銀屋の羽田野利夫社長と、エイトドライの林社長を引き合わせ、私を含めた3人のプロジェクトが始まりました。その結果できたのが、エイトドライ銀屋リーフ店です。現在では、双方の新規顧客獲得などを含め、高級バッグのクリーニングなど新たな需要も掘り起こし、双方にとって良い結果を導いています。
新たな仕掛けとして、いかにコストをかけずに新規顧客を獲得していくかという取り組みを始めています。
先日も大村の老舗和菓店「御菓子処まえだ」とコラボし、和菓子店の会員には、クリーニングエイトドライのキャンペーン情報を、エイトドライの会員には、御菓子処まえだの新商品情報を発信してもらい、こちらも双方の新規顧客開拓に繋がっています。このほかにも、異業種大手企業とのコラボも仕掛け始めています。
エイトドライの林社長から、2020年の確定申告(2019年度)は過去最高の売上を達成したとの報告を受けました。又、新型コロナの影響はあるものの2021年も新規会員数は右肩上がりで伸びています。
大村市産業支援センターは2017年7月に大村・長崎の中小企業・事業者の公設無料経営相談所としてオープンしました。できるだけお金をかけず、知恵を出して売上アップを目指すことをモットーに日々相談事業者と奮闘しています。
コストを掛けずに、アイデアで売上を確実に伸ばしていく。これからも地域密着型の相談事業者の皆様と真摯に向き合って挑戦を続けていきたいと思います。
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