目次

  1. 早く社長になりたかった
  2. 社長就任後に作ったミッション
  3. 「一代一創業」で狙った海外展開
  4. 社員満足度の低さが浮き彫りに
  5. 「夜メール」で現場を把握
  6. コラボでこだわる「再現性」
  7. 自分の軸や得意分野を見つける

ーー松尾さんはコンサルティング会社を経て家業に入り、社内で課題になっていた「ムリ・ムダ・ムラ」を解消していきました(前編参照)。そして、2017年に30歳の若さで4代目社長に就任します。なぜこのタイミングだったのでしょうか。

 30歳になったことが理由ではありません。父は以前から「自分が65になる年に代替わりする」と公言しており、17年がそのタイミングでした。 

 最初は代表権のない社長で、代表権は会長が持っていましたが、「あまり意味がないよね」と、1年後に代表取締役社長になりました。

ーー若くして、ロングセラー商品を扱う会社のトップを背負うことに、重圧はありませんでしたか。

 なれるなら、早く社長になりたかったです。若ければ、大きなミスをしてもリカバリーが可能だと思っています。

 オーナー社長は朝令暮改も当たり前という例もある中で、父が有言実行してくれたのは、本当に良かったです。

ーー松尾さんがクルマのハンドルを握り、助手席で前社長が手で目を塞いで怖がっている。そんなユニークな新聞広告が、社長交代時にネットで話題となりました。

 あれは会長のアイデアです。社長交代は一生に一回あるかないかのイベントなので、インパクトのあるものにしたいと昔から思っていたそうです。「社長や役員が変わりました」というはがきだけだと楽しくないかなと。

社長就任時に出した遊び心のある新聞広告が、話題になりました(チロルチョコ提供)

 経済紙1紙にしか出しませんでしたが、たまたまツイッターでバズりました。会長自身、スマホにしたのはその後なので、バズらせようという意識は全くなかったはずです。

ーー社長に就任してから、ミッション(使命)・ビジョン(未来像)・モットー(行動理念)を制定しました。

 父の代から「楽しいお菓子で世の中明るく」という社是がありました。それ自体は私も気に入っていて、モットーのひとつに残しています。

 自分の代では「『あなた』を笑顔にする」というミッションをつくりました。「みんなで行動しようよ」という経営スタイルを込めていて、社員を含めた「あなた」を先に出しました。

 社員が笑顔になって、回りまわってお客様やお得意様、社員の家族が笑顔になる。チロルチョコに携わってくれるたくさんの人たちを笑顔にしたい、という言葉になっています。

07年に誕生したロングセラーのホワイト&クッキー(チロルチョコ提供)

ーーアジアを意識した「ONE TIROL ONE SMILE ONE ASIA」というビジョンもつくりました。

 我が社のコンセプトは「一代一創業」で、社長は自分の代になったら新しいことを始めてきました。2代目は、砂糖菓子からチョコレート菓子に一気にシフトし、3代目でチロルチョコの販路を駄菓子屋からコンビニへと拡大しました。

 私は4代目として、海外にチロルチョコを広めたい思いが強くあったので、未来を切り取ったビジョンに、その思いを乗せました。

ーーアジア展開の進展はいかがですか。

 正直、コロナ禍で厳しい状況です。ベトナムに工場を作ったのですが、現地にも行けないので商談もなかなか進められません。

 従来の計画では、生産力の拡充のため、ベトナム工場で半製品(成形・包装まで)を生産し、福岡の工場に送って袋詰めを行う予定でした。その間に、ベトナムをはじめとする東南アジアの市場を開拓して、売り上げをつくっていきたい。

 中国では、ここ5年ほど販路が広がっていますが、東南アジアではチロルチョコの知名度は皆無で、これからの課題になります。

ーーミッション、ビジョンを策定した結果、社内にはどのような変化が起きましたか。

 まだまだこれからです。ミッション策定の次に、社員の満足度調査を実施しました。「笑顔にする」と言っても、今の社員の笑顔度は何点なのか確かめたかったのです。

 結果は、かなり点数が低かった。自分では、それなりにいい会社だと思っていたので、すごくショックでした。これはいけないと、しっかり内容を精査し、社員満足度を上げようと努力しています。

松尾さん(写真左)は社員とのコミュニケーションを重視しています

ーーどのような点で、満足度が低かったのでしょうか。

 人事評価や職場環境についてです。それぞれについて、満足度と重要度を答えてもらい、満足度が低くて重要度が高いものから手をつけることにしました。

 具体的には、いちから人事評価制度を作って、20年9月からスタートしました。以前は感覚でつけており、評価者と被評価者のコミュニケーション(フィードバック)などは皆無でしたが、新しい制度では、しっかりと評価する項目やフィードバックの形などを整えています。

 定期的に社員の面談を行い、これから数年かけて、会社にフィットするようにブラッシュアップを図る予定です。

ーー社長になって、「夜メール」という取り組みを始めたと伺っています。どんな内容でしょうか。

 「夜メール」は、社員が退勤時に書く日報で、メーリングリストに投稿します。他社の実施例を知って、試しに開発部に導入し、現在は販売部と(製造元の)松尾製菓でも実施しています。仕事で感じたことだけではなく、プライベートなことも書くようにしていることが、特徴だと思います。

 すると、前日に会社で起きたことの情報が分かります。例えば、私は工場に月に1回程度しか行かないのですが、「この機械が壊れた」といったトラブルが、翌日にほとんど把握できています。

 また、お得意様からの要望や他部署へのリクエストなど、共有した方が良いと思ったものは転送します。夜メールの情報で、商品の企画が変わることもあります。

20年に発売開始したプチロル。メロンやバナナなど新しい味が楽しめます(チロルチョコ提供)

 「開発で何々が良かったよね」、「いつも製造が頑張って作ってくれるので助かっています」というように、異なる部署の間でほめあうことも増えてきました。夜メールで、社内の情報共有のスピード感はかなり早くなったと思います。

ーーチロルチョコは定番品から他企業とのコラボまで、多様なラインアップを誇ります。

 有名なコンテンツとのコラボは、売り上げが底堅いというメリットがあります。

 ただ、コラボ商品もコンテンツによっては、次の年に販売が落ち込む可能性がありますし、同じレベルのコンテンツが出てくるか分からないという面があります。定番品もオリジナル商品も大切にしたいと思っています。

 コラボ商品は味はもちろん、色や食感など細部の再現性にこだわり、自信を持っています。お客様から「(イメージが)めちゃくちゃ近い」というポジティブな意見をいただくとうれしいですね。

ーー最後に、同世代の後継ぎ経営者に向けてメッセージをお願いします。

 今、仕事が楽しいと思えているのは、自分の中でテーマが明確になったからです。アジアの売り上げをアップさせ、社員満足度をあげる。 今はこの二つの軸で動いています。

 父親がやっていたことを完全に踏襲し、枠の中で動くのは息苦しいですし、父親にある才能が自分に無ければ一層苦しい。

 私は父のようなクリエーティブの才能はなく、同じような働き方は絶対にできないと、入社してすぐにわかりました。

 では、どうやって経営者としての色を出していけばいいのか。紆余曲折があって今のテーマにたどり着きました。自分の軸や得意分野を見つけることで、仕事を充実して楽しめるようになると思います。