高級車も選ぶ「錆びにくいメッキ加工」 会社の強みがわかる2つの着眼点
高級車のエンジン部品の取引先に選ばれているメッキ加工会社が岐阜県大垣市にあります。選ばれる理由は「錆が出にくくメッキがはがれにくい」とのこと。そんな会話をきっかけに、会社の強みとその理由が明らかになり、新サービスにつながりました。“強み”の発見に役立つ2つの着眼点について、支援してきた大垣ビジネスサポートセンター Gaki-Biz(ガキビズ)から紹介します。
高級車のエンジン部品の取引先に選ばれているメッキ加工会社が岐阜県大垣市にあります。選ばれる理由は「錆が出にくくメッキがはがれにくい」とのこと。そんな会話をきっかけに、会社の強みとその理由が明らかになり、新サービスにつながりました。“強み”の発見に役立つ2つの着眼点について、支援してきた大垣ビジネスサポートセンター Gaki-Biz(ガキビズ)から紹介します。
岐阜県大垣市で1948年に創業したメッキ加工の中村鍍金工業所。これまで自転車や車いす部品、自動車、電気機器、ミシンなど幅広い用途で使われるねじや小物部品を中心に取り扱ってきました。
販路拡大に向けて、取引があった信用金庫からの紹介でガキビズを利用することになりました。
相談に訪れる事業者に事業内容や現状の悩みを聞いた上で、支援者として明らかにしていくのが相談者の強みです。「強みは何ですか」と直接尋ねても必ずしもすぐに出てくるわけではありません。
そのようなとき、強みをコミュニケーションの中で一緒に明らかにしていくスタンスで臨みます。そして強みを見つけるときにヒントになる2つの着眼点があります。
それは「これまでの実績」と「取引先が選ぶ理由」です。
この相談でも、中村鍍金工業所4代目の中村敦樹取締役に「加工した製品はどのような分野で使われていますか?」と尋ねました。
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いくつかの答えのなかから私が関心を示したのは、高級車のエンジン部品に使われているということでした。それは取引先が技術力を高く評価しているからこその実績だと感じました。
その上で次に尋ねたのは、「取引先からどのような評価を受けていますか?」ということです。
この質問に対して、中村さんは考えながら次のように答えました。
「別のところでメッキ加工をしたら錆が発生してすぐにメッキが剝がれるけど、なぜかうちのは大丈夫だそうで……」
つまり、錆びにくいメッキ加工が評価されているということがコミュニケーションの中で明らかになってきました。
錆びにくいメッキ加工ができることは大きな特徴ですが、それだけでアピールしても説得力がありません。
なぜ錆びにくいメッキ加工ができるのか、その理由をはっきりさせる必要があります。この点も同業他社とプロセスを見せ合うわけではないので、なぜ錆びにくい加工ができるのか、明確になっているわけではありませんでした。
そこで、加工のプロセスで工夫されていることを確認していきました。そして分かったことは、豊富な地下水を使っていること。岐阜県大垣市は一帯に地下水盆が形成されており、自噴水がいたるところで見られ、「水都」と呼ばれています。
メッキの加工では、工程ごとに洗浄を行いますが、汚れが残っているとそれが錆びの原因になるといいます。ほかの地域では洗浄後に水を再利用することがあるそうですが、中村鍍金工業所は飲めるほどきれいな水を使用し、汚れを落としているということでした。
また錆びが出やすい部品については、通常の機械処理に加えて専用の防錆槽を用いているとのこと。
錆びやすい製品は、処理を早くしないと工程中に錆び始めることがあるといいます。機械は一定の設定タイムで処理をするため、錆びやすい製品はスピードを重視して機械より先に、手作業で処理をしていることが分かりました。
これらのヒアリングをもとに、私から2つの提案をしました。
一つは、加工方法やサービスに名前を付けることです。錆びやすい加工において、通常の防錆処理に加えて、専用の防錆槽を用いて手作業で処理をする工程をダブル防錆技術と表現すること。
そして、このダブル防錆技術を用いた加工のことを、「メッキ錆(さび)シャットダウン加工」という新サービスとして打ち出すことを提案しました。
名前については、錆びにくい加工ができること、また錆びにくい加工を実現するために独自のノウハウがあることを、わかりやすく伝えていく必要があります。
一般消費者を対象としたBtoCのビジネスでは商品名やサービス名を重視します。それと同じようにBtoBでも伝え方を変えると、自社の技術を必要としている人に気づいてもらいやすくなることや、金融機関が取引先を紹介してくれるようになったなど、反応が変わることがあります。
2つ目の提案として、中村鍍金工業所の技術や新しいサービスをより多くの人に知ってもらうため、ニュースリリースを配信することを提案しました。大垣市の地域資源をいかした新サービスであるからこそ、地元のものづくり企業が懸命に取り組む姿勢を発信しましょうと伝えました。
大垣市ならではの地域資源を生かしたサービスはメディアの目にもとまり、さっそく紹介記事が地元メディアで掲載されることにつながりました。新たな取引先獲得はこれからですが、これまでにはない形で自社の技術をアピールし始めたところです。
私は、支援者は強みの代弁者であると考えています。代弁者として事業者の強みを知ってもらう際、意識することがあります。それは第三者に紹介するとき、どのように紹介したら興味を持ってもらえるか、ということです。
事業内容だけを伝えても、関心をひくことはできません。その会社ならではの特徴が必要です。
会社のオリジナリティは当事者にとっては当たり前すぎて気づかないことがあります。それを相談の中で見出し、支援者自身が代弁者として説明することを前提にヒアリングすることで、事業者の強みが見えてくることがあります。
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