社内規定の作り方【社労士が中小企業向けに解説】テレワークや副業対応も
出張費の精算方法や病気での休職に明確なルールがなく、仕事が滞ったり、生産性を落としたりしていませんか? 思い当たる場合は、社内規定を作成または見直しする時かも知れません。作り方や、作成後の管理の方法について、人事労務環境整備に詳しい社会保険労務士の大津章敬さんに聞きました。
出張費の精算方法や病気での休職に明確なルールがなく、仕事が滞ったり、生産性を落としたりしていませんか? 思い当たる場合は、社内規定を作成または見直しする時かも知れません。作り方や、作成後の管理の方法について、人事労務環境整備に詳しい社会保険労務士の大津章敬さんに聞きました。
目次
社内規定とは、社訓や業務マニュアルなど、社内の決まり事を幅広く指す言葉です。社内で運用されるルールとして「就業規則」を思い浮かべる人もいるかもしれません。就業規則と社内規定は一体どこが異なるのでしょうか。
「社内規定は就業規則と比較される事がありますが、就業規則も社内規定の一部であると言えます」と大津さんは説明します。
たとえば、社内の決まり事のなかでも、労働時間や、賃金や手当などの金銭に関わる内容の多くは、通常、就業規則として整備されます。
就業規則は、労働基準法により10人以上の事業所(支店や店舗など)ごとに、労働基準監督署への届出(就業規則に表紙を添付して提出すること)が義務付けられています。
届け出る就業規則に関して、社員への意見聴取が必須で、“労働者の過半数で組織する労働組合”または“民主的な方法によって選ばれた労働者の過半数を代表する者”からの意見書を添えて提出します。
「就業規則(賃金規程や退職金規程、育児介護休業規程などの関連規程を含む)以外の、法律とは関係がない社内手続き等を定めた社内規定については、労働基準監督署へ届出する法的義務がないだけでなく、社員への意見聴取の必要もありません。しかしながら、従業員の意見を全く取り入れずに作成すると、後々不満や業務上の不都合が出る可能性が大いにあります。よって、作成するときには就業規則と同様に、従業員の意見を取り入れることを心掛けるとよいでしょう」(大津さん)
大津さんによると「社内規定を作成する事で得られる一番のメリットは、業務効率の向上」だといいます。
たとえば、出張費の申請方法など、社内の誰もが利用する可能性のある制度の手続き方法を明文化しておくことで、その都度、総務部などに確認する手間を省くことができ、業務が効率化されます。
また、“接客時の基本ルール”などの業務マニュアルを作成することで、業務フローが明確になり、新入社員でも一定の水準を保って業務を行うことができます。
社内表彰制度など、従業員のモチベーションアップに繋がる社内規定を作成することも有効だと言います。「社内規定が全く無ければ、業務効率は確実に低下します。会社の規模の大小に関わらず、社内規定は必ず必要だと言えます」(大津さん)
とはいえ費用面などから、まずは社内で作成したいという中小企業も多いのではないでしょうか。その場合、一体どの様な手順で作成すれば良いのでしょう。大津さんは、社内規定の作成方法を次の3ステップで解説します。
インターネットを利用してテンプレートを検索し、それを活用することで、必要事項が過不足なく盛り込まれた社内規定を作成することができます。数種類を見比べ、自社の業務内容に合うものを作成しましょう。
就業規則に関しては、厚生労働省の提供するテンプレートを基本とすると良いでしょう。テンプレート内に無い項目の中で大切になるのは、慶弔見舞金規定、出張旅費規定、マイカー通勤規定などです。これらは多くの企業で必要となる就業規則ですので、別途作成すると良いでしょう。
その他の社内規定に関しては、たとえば、労務ドットコムや社会保険労務士法人大野事務所などが参考になるテンプレートを提供しています。
「作成の際には、従業員が社内規定を読んだ時に、どの様な印象を受けるかを意識しましょう。たとえば、怪我や病気を理由に休職することを認める“私傷病休職制度”。その休職期間は3カ月以上とするのが一般的ですが、仮に休職期間を一週間のみとした場合、法的には問題がないとしても、現代の一般常識に照らし合わせると、“従業員への思いやりのない会社”と捉えられてしまう可能性が高いでしょう。会社にのみ有利な社内規定は、従業員の信頼感を失うことになりかねませんので注意が必要です」(大津さん)
各社内規定のベースが完成したら、従業員に意見を聞いてみましょう。たとえば、慶弔見舞金の手続き方法に関しては総務の担当者、業務マニュアルに関しては該当業務の責任者など、項目ごとに関連する従業員と話し合いながら、社内規定を完成させます。
その後、全社員参加の説明会を設け、そこから1週間程度、質問・意見の受付期間を設けるのが適当です。受け付けた質問や意見を元に、必要に応じて修正を加えます。
従業員からの合意が得られたとしても、内容が法律や倫理に反していては問題になります。社会保険労務士などの専門家に確認してもらうと良いでしょう。
会社の規模や事業内容によって、必要となる社内規定は多種多様です。しかしながら、大津さんによると、社内規定にもトレンドがあるといいます。近年特に多くの相談が寄せられる5種の社内規定について詳しく聞きました。
コロナ禍でテレワークを導入する会社が急増したため、関連するルールを新たに就業規則に盛り込む必要があります。労働時間の管理方法、業務の報告方法、通信費及び情報通信機器の費用についての決まりなどが主な項目です。
また、テレワークに伴って通勤回数が減り、通勤手当を廃止する会社も増えました。その場合は、出勤した場合の交通費の精算方法に関する決まりも必要です。また、自宅で仕事をする際に使用する冷暖房費用に対する手当や、昼食手当なども必要に応じて検討しましょう。
昨今、副業や兼業を始める人が増えています。コロナ禍での経済的な不安、テレワークや外出自粛によって自宅での時間に余剰ができた事などが主な理由です。過去の様々な裁判例によれば、労働時間以外の時間をどのように使うかは原則として各人の自由であるため、企業が従業員の副業・兼業をおしなべて禁止とする事はできません。
そのため、副業・兼業を希望する場合は許可制とし“業務上の秘密が漏洩する可能性がある場合”など、何か具体的な弊害が起こりうる場合にのみ禁止・制限とすると良いでしょう。許可申請方法などを、就業規則に盛り込みます。
従業員が個人として利用しているソーシャルメディアアカウントによる投稿が、会社を巻き込む大きな問題に発展する事例が増えています。
従業員が職場における非常識な行動を写真付きで投稿し、炎上を招いてしまったり、不用意な投稿により企業秘密が漏洩してしまったりするリスクを回避するために、ソーシャルメディアガイドラインを設ける企業が多く見られます。
たとえば、日本マクドナルド株式会社では“業務を通じて知り得た情報は、マクドナルドが会社として発表しない限り、ソーシャルメディアに発信してはならない”など、個人のソーシャルメディア利用に関する注意点をかなり具体的に記載し、従業員に周知しています。
最後に、がんや不妊治療に関する就業規則です。以前は入院治療が中心だったため、がん治療と仕事の両立は難しいとされていました。しかし現在では、通院で、仕事をしながら治療することも可能になってきています。
また、男女を問わず不妊治療のために通院する人も増えています。こうした通院と仕事の両立をサポートするための、時差出勤や短時間勤務などに関する規定は時代のニーズに沿っていると言えるでしょう。
有給休暇に関して新しい制度を導入する企業もあります。法律では有給休暇は2年後に消滅すると定められていますが、がんによる入院やボランティア活動など、理由を限定して、有効期限を過ぎても取得できる仕組みです。
「この制度は、理由が限定的であるために企業への負担が少なく、従業員にとってもいざという時に大きな助けとなりますのでお勧めです」(大津さん)
前述のように、労働時間や、賃金や手当などの金銭に関わる社内規定の多くは就業規則とみなされ、労働基準監督署への届出が必要となります。届出が必要かどうか曖昧な場合にも、念のために届出しておきましょう。
社内規定作成後の管理方法について、見直し、場所、違反時の対応を紹介します。
社内規定は、業務内容の変更や時代のニーズに合わせて、定期的なアップデートをすることが求められます。
大津さんは「特に就業規則に関しては、関連する法律が変更になる場合に注意が必要です。最新の法律に沿ったものになっているか、毎年確認しましょう。その他の社内規定に関しても、時代や職場環境の変化に伴ったものになっているか、3年に一度は全体をレビューすると安心です」と言います。
全ての社内規定は、従業員がいつでも最新版を確認できるように管理しましょう。印刷して各職場に設置する、社内システム上にデータを保存しておくなどの方法があります。
万が一社内規定に反する行為が発覚したらどうすればよいのでしょうか。まずは、就業規則内に懲戒に関する規定を設ける義務があります。懲戒の種類とそれぞれの懲戒事由にあたる行為を明記しましょう。従業員が社内規定違反にあたる行為をした場合は、就業規則に従って懲戒処分を下します。
大津さんは「社会通念上相当でない懲戒や平等性に欠ける懲戒には注意が必要です。違反行為に対して懲戒の内容が重過ぎる場合や、同じ企業の過去の事例に比べて課された懲戒が重い場合には、懲戒が無効となる場合があります。平等で一般常識に即した懲戒規定を設けましょう。判断が難しい場合は社会保険労務士に相談するとよいでしょう」と助言しています。
大津さんは「従業員数の少ない中小企業では、シンプルな社内規定が適しています」とも話します。
「作成時には、なぜそのルールが必要なのか、どれくらいの頻度で活用するルールなのかを考える事がポイントです。円滑な業務運用のためには、ある程度のルールを作成する事が必要ですが、細か過ぎるルールを設定してしまうと周知が難しく、逆に現場を混乱させる事になりかねません。頻繁に起こる重要な事項に絞ったルール作りを心がけ、社内規定を上手く活用しましょう」(大津さん)
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