食器のアップサイクル・自社ブランド・・・5代目が新規事業に挑む理由
食器や厨房器具の販売会社「河野」(高松市)の5代目・河野一哉さん(33)は、コロナ禍で大打撃を受けながらも、攻めの事業展開を進めています。後編では、高級食器のアップサイクルや自社ブランドの構築、子会社設立など、家業で仕掛けている挑戦の数々に迫りました。
食器や厨房器具の販売会社「河野」(高松市)の5代目・河野一哉さん(33)は、コロナ禍で大打撃を受けながらも、攻めの事業展開を進めています。後編では、高級食器のアップサイクルや自社ブランドの構築、子会社設立など、家業で仕掛けている挑戦の数々に迫りました。
創業家5代目として生まれた河野さんは、アメリカンフットボールで高校日本一に輝き、大手保険会社でも活躍。祖父の体調悪化をきっかけに家業への思いを強め、2020年秋、「河野」に専務として入りました。入社1年で経費削減や不動産の購入など、積極的な経営改善策を進めています(前編参照)。
河野さんが今、力を入れるのは、持続可能性を意識した取り組みです。特に宿泊施設や飲食店が食器を入れ替える際に、古いものは廃棄されてしまうという問題に向き合っています。
例えば、ホテルで使われる食器は高品質ですが、少しでも皿の絵柄がはげたら廃棄されてしまいます。河野さんは、耐久性に優れてまだまだ使える業務用食器を、一般消費者にも楽しんでもらえないか、と考えました。
しかし、リサイクルの観点だけではビジネスとして成り立ちません。メーカーにとっても、中古品を安く流通させられたら困るはずです。河野さんは、捨てられる素材に価値を加えて、新しい製品を生み出す「アップサイクル」の食器を考えました。
「アーティストを起用して、廃棄する食器に絵を描いてもらうことで、食器に再び価値をつけようと、試作にとりかかり始めました」
食器のアップサイクルに取り組んでいる洋食器メーカー「ニッコー」の後継者が、河野さんと大学時代の同級生だったのをきっかけに、一緒に事業化を目指しています。
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色付けした皿をもう一度焼き直すと色が崩れてしまうという課題があり、ニッコーで試作してもらい、変化をチェックしているところです。同時並行で、事業化に向けた法的な課題をクリアできるように整えています。
「河野」では、食器の新たな魅力づくりにも力を入れています。
シンプルなものが買われがちですが、個性的な食器も楽しんでもらえるように、個人・法人向けの食器のサブスクリプションサービスも構想しています。食器一式が定額制で届くことで、料理人は創作の幅を広げることができます。
食器の管理の難しさなどを解決するため、アプリなどを利用したシステムをつくって、タイムリーに食器の在庫管理ができるように検討しています。事業を進めるために補助金の申請を出し、結果を待っているところです。
河野さんは、食器をつくる職人が減っていく現状にも心を痛めています。大手量販店や百円ショップの商品を買う人が増えていることが、理由のひとつです。
工場で大量生産された食器ばかりが流通すれば、職人の仕事がなくなり、日本の工芸の技術が廃れてしまいます。そこで、河野さんは販売店自らがOEM(相手先ブランドによる製造)で食器作りに関わり、自社ブランドを作る構想を打ち立てました。
高い技術を持った窯元と組み、ブランディングして、自社製品として販売します。自社ブランドのロゴデザインも決まって、商品の試作品作りを進めており、2022年春から秋ごろのリリースを目標に準備中です。
「デフレ社会で、いいものを安く売るのが、販売店の仕事になってしまっている面があります。職人の技術や想いが詰まった食器をブランド化し、世界に発信することで職人さんを守りたい。ブランドを通して会社の名前が売れれば、ショールームも世に知れ渡り、僕らにとっても意味のあることです」
食器のサブスクやアップサイクル、自社ブランドはいずれ、それぞれの事業を子会社として独立させたいと考えています。各事業5億円程度の売り上げをつくることが、ここ5年の目標といいます。
河野さんが入社して1年。これまで会社が培った販売の慣習を変えるのは、容易ではないと感じています。そこで、自らが進める新規事業は新会社が担い、新規スタッフを採用することにしました。
21年8月には、子会社を2社立ち上げました。一つは飲食店向けの広告会社です。
飲食店は新規開店やメニューの入れ替えで、食器をまとめて購入してくれるので、営業の人件費を差し引いても利益が出ます。しかし、その他は皿が割れた時の補充くらいで、購買率がぐっと下がり、営業にかけるコストが見合わなくなります。
飲食店向けの広告会社を作れば、食器と併せて広告も売ることができるので、営業にかけるコストを下げられると考えました。すでに、大阪の広告会社と組んで準備をしています。
「パートナー企業から社員を派遣してもらいながら、自らも採用活動をしていきます。社員数は5人でスタートする予定です」
もう一つはシステム会社です。福祉用具のレンタル業やリネンサプライ業向けの基幹システムの開発・販売をしてきたシステム会社「エースシステム」を本社メーカーとし、販売店として子会社を作りました。「エースシステムの商品であるシステムをもっと業界内に普及したい」と話します。
法人・個人向けに、食器のECサイトを作ることも決めました。業界では法人向けのECサイトがほとんどありません。季節ごとに数万点〜数十万点の新作食器が入れ替わることで、商品管理が難しいことなどが、理由としてあります。
しかし、河野さんはECサイトを作れば、顧客が購入履歴を参考にしたり、サイトから追加発注したりできるようになると考えています。
「営業が注文を受けて伝票を書き、本社からメーカーに在庫確認して、顧客に納期を伝える。ECサイトでそんな中間工程をなくすことができれば、メリットが大きくなります」
河野さんは入社1年で、スピーディーに手を打っています。コロナ禍ですが、チャレンジに意欲的な企業が多く、河野さんが提案を持ちかけると、ポジティブな反応が返ることも多いそうです。
「コロナ禍前で景気がいい時なら、提案しても、なぜ余計なことをしないといけないのかと拒否されることが多かったかもしれません。今は、苦しい企業が多いと思いますが、逆にそれでも前を向いている企業同士で仕事ができるのはチャンスです。いい時代だと思っています」
河野さんは 家業の本丸のビジネスを大きくしつつ、その先にスモールビジネスをたくさん作り、グループ全体で強くなれる会社を目指しています。「若い社員にも、どんどん新しい事業会社を作らせてあげたい」と語ります。
「社員が経営的思考を持つことが大事です。勢いがあって、経営判断が上手な社員には、早めにグループ会社の社長になってもらうかもしれません」
河野さんが次々と戦略を仕掛けるのは、前職の保険会社で学んだことを意識し続けているからです。「10倍速でPDCAサイクルを回せるかどうかが、成功するかしないかの鍵と教え込まれていたので、そこは今でもすごく意識しています」
グループ全体の年商は現在約10億円ですが、100億円規模の会社を目指しています。「日本社会には、金銭的な事情で子供が夢を追えない現状がある」との問題意識を持っている河野さんには、子どものスポーツ環境を支援する財団法人を作る夢があるからです。
「子どもに夢を与えられる人を育て、夢を応援できる財団法人をつくるために、売り上げ100億円を目指したい。いずれ達成できればという気持ちでは、達成できません。遅くても、10年で50億円、20年で100億円の達成が目標です」と意欲を燃やしています。
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