若い世代にも届くお茶の価値とは 3代目の新ブランド支えた加工技術力
「同世代にお茶のおいしさを知ってほしい」。そんな思いからティーバッグの新ブランドを立ち上げた日本茶の卸・小売の老舗「播磨屋茶舗」3代目の赤松佳幸さん(28)は、 ブランドコンセプトを固めつつ、お茶のブレンドも決めていきました。この若い後継ぎの発想を支えたのが、老舗が培ってきたティーバッグ加工技術力です。
「同世代にお茶のおいしさを知ってほしい」。そんな思いからティーバッグの新ブランドを立ち上げた日本茶の卸・小売の老舗「播磨屋茶舗」3代目の赤松佳幸さん(28)は、 ブランドコンセプトを固めつつ、お茶のブレンドも決めていきました。この若い後継ぎの発想を支えたのが、老舗が培ってきたティーバッグ加工技術力です。
目次
前編の記事「『お茶のおいしさ知らなかった』3代目が目指すジャケ買いされる新ブランド」では、お茶のおいしさが同世代に届いていないと感じた佳幸さんがブランド構築から取りかかろうとするまでを紹介しました。
中川政七商店で経営とブランディングについて学んだ佳幸さんは、どんな新ブランドを作りたいかを改めて考え直し、金平糖ブランド「金平堂(KONPEIDOU)」のパッケージを手がけたデザイナー増永明子さんに相談しました。
「自分のなかで明確だったのは、自社の強みであるティーバッグ加工を生かし、『自分が初めて飲んだときの感動を若い人に届けたい』『それを会社の売り上げの柱に育てたい』ということでした。それから、若い人たちが何を求めているかを考えながらコンセプトを固めていきました」
まず、佳幸さんが感じた「手軽でおいしい」というティーバッグの良さをそのまま伝えたいと考えました。ここがブランドとして絶対的に大切な部分であるということを増永さんと確認しながら商品制作も進めました。
また近年、若者の健康志向が高まっています。佳幸さんも友人とトクホ(特定保健用食品)のお茶を買うという話をよくしていました。社会人になって健康を気にするようになったものの、時間や手間をかけてまで何かをする気にはなれないという人が多いとも感じていました。
手軽でおいしく、体に良いものを届けたい――。この思いを込めたのが、「t to」のコンセプト「かんたん、おいしい。しかも、ヘルシー。」です。
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ブランド名は、はじめは「to too(トゥートゥー)」という案がありました。しかし、お茶のブランドであるということが伝わりにくい。とはいえ、「tea」ではストレートすぎるので使いたくありませんでした。そこで、シンプルかつ、わかりやすいネーミングということで、「t to(ティートゥー)」に決めました。
「サイトデザインは、何のサイトか一目でわかるようにしました。ごちゃごちゃしていると、買うまでに距離があるなと思ったので、購入画面までの導線をできる限りシンプルにしました。また、画像だけでは伝わらない味や香りに対するお客様の声を参考にしてほしいと思い、レビュー欄を設けました」
「t to 」の商品は、柿の葉茶とほうじ茶のブレンド、緑茶、ジャスミン茶、ルイボステイー、とうもろこし茶の5種類です。
「日常的にお茶を飲んでほしい」との思いから、全国のお茶を試飲し、できるだけクセがなく飲みやすい茶葉を選びました。さらに、同世代の40人にモニタリングを実施し、モニターの意見を反映して改良を加えていきました。
「一番反応が気になったのが、柿の葉茶とほうじ茶のブレンドです。柿の葉茶は、一般的になじみがなく、渋くて苦みがあるイメージがあるため、若い世代の人に受け入れられるか不安がありました。しかし、実際に飲んでもらうと、香りが良く、味もおいしいという意見を多く寄せられました」
その一方で、とうもろこし茶はモニタリングの時点では、紅茶とブレンドしていました。しかし、「別々に飲みたい」という意見が多かったことから、とうもろこし茶単品で販売することになりました。
新ブランド「t to」を立ち上げることができたのは、播磨屋茶舗が長年培ったティーバッグ加工技術があったからこそです。
播磨屋茶舗の加工技術には3つの特徴があります。
1つ目はタグ紐の長さです。紐が短すぎると、お湯を注いだときにカップにタグが入ってしまいます。そのため、「t to」のタグ紐はしっかりと長さのあるものを使用しています。
2つ目は、ティーバッグの大きさです。バッグの大きさによって抽出量が変わります。そこで、茶葉の種類に応じた最適なサイズを選択。茶葉が広がりやすいテトラ型のメッシュフィルターを使用しているため、比較的短い時間で抽出ができます。
3つ目は、ティーバッグの素材です。土に還る生分解性プラスチックであるポリ乳酸をいち早く導入。ポリ乳酸は、やわらかく成形が難しいという特性がありますが、自社の技術で安定生産を可能にしました。
2020年11月に増永さんとブランド構築をスタート。これからブランディングを進めていくうえで、身近に相談できる仲間が欲しいと思っていたときに、中小企業庁が開催するピッチイベント「アトツギ甲子園」に参加しました。
そこで、34歳未満の後継者を対象にしたオンラインサロン「アトツギU34」のことを知り、2021年1月に加入しました。新ブランド立ち上げに関しても、「U34」のメンバーに相談しながら進めていきました。
「ピッチに登壇して質問に答えるなかで、考え直す部分と曲げたくない部分が明確になりました。これは後継ぎの皆さんから意見をいただかなければ、自分一人では見えなかったことなので、とても勉強になりました」
ピッチでは、「誰がなぜ買いたいと思うのか」という根本について徹底的に質問されました。質問にひとつひとつ答えていくなかで、「かんたん、おいしい。しかも、ヘルシー。」というコンセプトだけでなく、「ギフトにも使えるおしゃれで手頃なブランド」という新たな側面も見つけることができました。
その一方で、佳幸さんが曲げたくなかったのは価格です。「t to」の商品の価格帯は7個入り486円(税込)が中心。「もう少し高くてもいいのでは」という意見もありましたが、日常的にお茶を楽しんでもらうために“手頃感”にこだわったといいます。自社工場を持つ強みを生かして、価格を抑えました。
「自分が毎日飲むことを考えたら、1杯70円程度が適正だと考えて、ここだけは曲げずに走ろうと決めました」
2021年9月30日に新ブランドサイトをオープン。「U34」がきっかけで、大阪・心斎橋パルコでのポップアップが決定するとともに、新たな商談機会も生まれました。
「今後の会社としての展望は、姫路城前店の抹茶ソフトクリーム販売とお茶、ティーバッグの3つの事業がうまく循環する仕組みをつくりたい。ソフトクリームを買うついでに、ティーバッグも買っていただくことで、お茶のおいしさを知ってもらう。それを機に、急須で入れるお茶にも興味をもっていただけるような仕組みをつくれれば、会社としてより成長できるのではと考えています」
お茶の知識をより深めるため、新たに大阪府茶業青年団にも加入しました。「今後もお茶に触れる機会を積極的に持ちたい」と力を込めます。
佳幸さんが目指すのは、「ティーバッグでお茶を楽しむライフスタイルを広めること」です。現在、雑貨店やホテルなどに販路を拡大すべく動いています。
「今後は『t to』の商品ラインナップを増やしたい。ティーバッグだけでなく、透明かつ耐熱性で割れないマグカップやボトルもつくりたいです」
播磨屋茶舗が祖父の代から大切にしてきたことがひとつあります。それは、「その時代に合わせた絵を描く」ということ。大手量販店への卸を始めた祖父、ティーバッグ工場をつくった父にならい、若き後継者として佳幸さんも新たな挑戦を続けます。
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