ジャンボタニシと格闘しても無農薬 花の香酒造6代目がこだわる酒米
旭酒造での修行から戻り、自社での酒造りを取り戻した熊本県の花の香酒造。6代目の神田清隆さん(44)は次の挑戦として、地元でのコメづくりを活性化させています。酒造りに使うのは、江戸時代に流通した米「穂増(ほませ)」の無農薬、無肥料栽培です。ジャンボタニシと格闘を続けてもコメにこだわる理由がありました。
旭酒造での修行から戻り、自社での酒造りを取り戻した熊本県の花の香酒造。6代目の神田清隆さん(44)は次の挑戦として、地元でのコメづくりを活性化させています。酒造りに使うのは、江戸時代に流通した米「穂増(ほませ)」の無農薬、無肥料栽培です。ジャンボタニシと格闘を続けてもコメにこだわる理由がありました。
目次
前編「獺祭への武者修行で開眼 花の香酒造6代目が学んだのは世界観」では、100年以上続く花の香酒造の6代目、神田清隆さん(44)が、会社の再建を進め、自社で新たなブランドを確立するまでのストーリーを紹介しました。
10月上旬、熊本県和水町の花の香酒造の田んぼで開かれたコメの収穫祭。県内外から約100人が集まり、黄金色に実った酒米を手作業で収穫していきます。刈り取った稲は束ねて「はざ掛け」に。天日干しの後、精米し酒造りがスタートします。
花の香酒造がある和水町は、日本遺産に認定された菊池川流域で、稲作が盛んな地域。9万年前の阿蘇山の大噴火で火砕流が凝固してできた地層で自然ろ過された水質の良さでも知られています。
日本酒のラベルを見ると蔵元の所在地とコメの産地が違うことが多いですが、神田さんはなぜ地元産の酒米に着目したのでしょうか。「日本酒は8割が水でできていますよね。地元の水とコメは相性がいいと考えたからです」(神田さん)
もう一つは、和水町の過疎化が進み、離農者が増えていることへの危機感です。神田さんが昭和30年代と今の水田や山の変化を写真で見せてくれました。
「昔、商売のために竹や杉が植えられ、その後放置され山が荒れてしまった。高齢化で離農者も増え、水田も減っているんです」と説明します。
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こうした経緯から、2015 年に町内でコメ作りをスタートさせます。酒米で有名なのは山田錦ですが当初、町内に酒米を生産する農家はありませんでした。神田さんは和水町の役場に行き、農家を紹介してもらい栽培を打診したといいます。
最初の年は2軒の農家が協力してくれました。次第に増えて2020年には約20軒の農家が山田錦を生産、契約する水田の面積は45町歩(約45ヘクタール)まで増えました。「同じ山田錦でも、水や土が違うので地域によって味は変わります」と神田さんは言います。
一方、契約農家も入れ替わりはあり、なかなか増えないことが今の課題といいます。「農家から酒米を少しでも高く買えるように、日本酒の価値を上げていきたい」(神田さん)。
今、花の香酒造が力を入れるのが自社の水田で栽培をする「穂増(ほませ)」という品種のコメです。穂増は江戸時代に生産されていた肥後米で今は流通していません。しかし、2017年に熊本県内の若手米農家が40粒の種モミから復活させ、栽培に成功しました。
花の香酒造では2019年から、酒蔵の裏手の水田でこの穂増を育て、江戸時代と同じ製法「生酛(きもと)造り」での日本酒造りにチャレンジしています。
この穂増、自社の畑は無農薬、無肥料で栽培しています。手植えをして一株の間隔を空け、風通りや日当たりを良くするなど栽培方法も工夫しています。「無農薬なので、雑草も虫もものすごい量。夏はジャンボタニシと格闘の日々です」(神田さん)。
でも無肥料や無農薬を続けていると、土の状態が変わっていくのがわかるといいます。
穂増を原料にした酒造りは「地元の水やコメにこだわり、微生物をはじめ多様なものを受け入れよう」という会社の理念「産土(うぶすな)」にも通じています。
事業の成長とともに、神田さんはインスタグラムやフェイスブックなどSNSの運用も始めました。商品や酒造りの紹介にとどまらず、田植えや、地域の子どもたちを招いたもぐらたたきなどのイベントを発信。花の香酒造の世界観に共感するファンを増やしています。
家業を継いだ当初には6人だった社員も17人に増えました。今年、新しく入った社員とチームを組み、デジタルマーケティングも強化していく方針です。
日本酒市場を活気づけようと若手杜氏とのネットワークづくりにも取り組んでいます。2021年9月には「No.6」で有名な新政酒造(秋田県)の佐藤祐輔氏との対談イベントも企画し、伝統製法での酒造りや酒米の無農薬栽培について話し合いました。
国税庁が毎年発行する「酒のしおり」によると、2019年度の日本酒の課税移出数量は1973年度のピークに比べ、19年度には3割以下の46万キロリットルにまで減少しています。
ただ、2019年度の純米酒や純米吟醸酒の課税移出数量は、2008年度比で約2割増。アジアを中心に輸出も伸びています。国も純米酒などを念頭に日本酒のブランド化を推進しています。
「コロナ禍で家飲みが多くなっていますが、日本酒を家で飲むという人はまだ少数。こうした層に土地の個性を生かした純米大吟醸を知ってもらいたい」(神田さん)。
これから花の香酒造は、酒の仕込みのシーズンを迎えます。12月には新ブランドの日本酒を発売します。「酒づくりを通して、土地の文化や伝統を守りたい」。神田さんの挑戦は続きます。
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