目次

  1. M&Aの課題や注意点とは
  2. 中小M&Aガイドライン
  3. M&A支援機関に係る登録制度
    1. 事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)の対象に
    2. 情報提供受付窓口の創設
  4. M&A仲介の自主規制団体が発足

 中小企業のM&Aの課題は、かねてより指摘されています。あるM&Aに関わる会社が、売り手と買い手の経験者にヒアリングしたところ、次のような意見が寄せられたそうです。

 売り手経験者「買い手から依頼のあった売却に必要な資料の準備や、40個以上の質問への回答や交渉など、結局は自分でやらなければいけなかった。企業概要書は決算書やホームページの情報をまとめただけ。買い手を見つけてくれたことは感謝してるが、それ以外はあまり必要なかった。それでも数千万円も手数料を取られた」

 買い手経験者「仲介手数料が高額で、さらにデューデリジェンスなどはこちらで別途手配する必要があった」

 このほかにも、仲介会社は、決められた期間は他のルートでM&Aを検討しない「専任アドバイザリー契約」を求めることがあります。売り手企業を探してくる仲介会社が労力に見合う利益を確保するための契約ですが、中には1~3年に及ぶ長期の契約を求め、買い手が付かないことがわかると実質的に放置するケースもあるといいます。

 仲介会社は、売り手と買い手に対する利益相反も長年指摘されてきました。河野太郎・前行政改革担当相は、2020年12月、自身のブログで次のように指摘しています。

売り手と買い手の双方から手数料を取ってM&Aを仲介する業者がいます。 この場合、売り手は一回限り、つまり自分の企業を売却すればそれ以上売り物はありませんが、買い手はその後も企業を買い取る可能性があります。

仲介者にとってみれば、一回限りのビジネスにしかならない売り手に寄り添うよりも、今後もビジネスができる買い手に寄り添う方が得になります。

双方から手数料をとる仲介は、利益相反になる可能性があることを中小企業庁も指摘しています。

衆議院議員河野太郎公式サイト

 2025年までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業の経営者は約245万人、うち約半数の約127万人が後継者未定と見込まれています。M&Aは後継者不足を解決する手段の一つとして政府も後押ししています。

中小企業の経営者の年齢分布。2019年版中小企業白書から

 しかし、中小企業の経営者は、M&Aの経験がなく、そもそもM&Aに不信感を抱いている人も少なくありません。そんな状況を改善し、M&Aによる事業承継を後押ししようと、中小企業庁は2020年3月に、中小M&Aガイドラインをつくり、公表しました。

 中小M&Aガイドラインは、M&A専門業者に対しては、次のようなことを求めています。

  1. 売り手と買い手双方の1者による仲介は「利益相反」となり得る旨明記し、両者から手数料を徴収しているなど不利益情報の開示の徹底等、そのリスクを最小化する措置を講じる
  2. 他のM&A支援機関へのセカンドオピニオンを求めることを許容する契約とする
  3. 契約期間終了後も手数料を取得する契約(テール条項)を限定的な運用とする

 さらに2021年8月から中小M&A支援機関の登録制度が始まりました。許認可制度ではありませんが、支援機関が登録する時に「中小M&Aガイドラインの遵守を宣言すること」を求めています。

M&A専門業者などに依頼するときの留意点(経産省の公式サイトから引用)

 登録制度は次のような形でも活用されます。

 登録した支援機関の場合、仲介手数料やフィナンシャルアドバイザー費用が事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)の補助対象になります。

 登録されたM&A支援機関による支援を巡る問題について、中小企業庁は2021年11月から中小企業からの情報提供を受け付ける窓口を設けました。紛争処理や助言が目的ではありませんが、ほかの中小企業に役立つと判断した場合は情報提供者が特定されない形で「不適切事例」として公表する予定です。

 情報提供受付窓口は、M&A支援機関登録事務局に設置し、メールまたは電話(03-6867-1478)で情報提供を受け付けます。受付時間は平日の10時~17時です。

 詳しくは、M&A支援機関登録事務局の公式サイトへ。

 M&Aの仲介会社でも取り組みが始まっています。2021年10月、中小M&Aガイドラインを含む適正な取引ルールの徹底などを通じて、M&A仲介サービスの品質向上とM&A仲介業界全体の健全な発達を図ろうと、自主規制団体「M&A仲介協会」が立ち上がりました。今後、具体的な取り組みが進む予定です。

2021年10月7日に開催されたM&A仲介協会の設立記者会見の様子(協会提供)