学校にあっせんされた1社だけしか応募できない――

 そんな高校生の就活の慣行には理由がある。就活が長引けば学校生活に支障がでるし、教師との話し合いで適切な進路先を見つけられる。そんな理由である。

 佐々木さんは反論する。

 「選択肢をなくされて就職したのに3年もたたずにやめてしまうケースがあとをたちません」

 ジンジブは、高卒を歓迎する企業をネットで検索できる「ジョブドラフトNavi(ナビ)」を運営している。給与などの待遇だけではなく、その企業の社風、働いている社員の声も特集する。ジンジブの社員が会社に取材して執筆することも。検索できるのは2000社に迫る。高校生を対象にした合同企業説明会も主要都市で開いている。

スマホをポチッとすると出てくるジョブドラフトNavi画面。ここから企業の情報を検索していく(ジンジブ提供)

 大阪出身の佐々木さんは、映画「トラック野郎」の菅原文太の熱演に魅せられて、高校卒業後、トラック運転手になった。仕事にのめり込み、2年たったころ、仕事仲間が交通事故で亡くなった。

 〈明日は我が身か〉

 会社員に転職。その後は、部下をいじめる上司に腹をたててやめたり、会社が倒産したり。1998年、30歳で起業した。広告、イベント企画などを手がけ、2015年には年商10億円をこえるまでに成長した。

 佐々木さんは、大卒だけでなく高卒も採用しようと担当に提案すると、言われた。

 「高卒採用はムリです。ひとり1社ですから」

 高校を卒業して約30年、相変わらずなのに驚いた。

 社員の力を借りて企業をまわると、高卒の人材がほしいという声が集まってきた。15年、「ジョブドラフトNavi」をスタート。政府の担当者と口論し、ぶつかったこともある。

 高校生の就活について検討する政府の会議が設置され、呼ばれた佐々木さんは意見を述べた。20年、同会議は、ひとり1社制の見直しを促す報告書をまとめた。

 この機運を逃すものか。広告などの事業をやめ、高校生支援にしぼる。約100人の社員に異論はなかった。

 本社の窓からは大阪の街並みが見える。佐々木さんは「50歳を過ぎてあらためて思うんです。次の世代の笑顔のために頑張らなければ」と力を込める。(2022年3月5日朝日新聞地域面掲載)

ジンジブ

 本社は大阪市中央区。東京、名古屋、福岡に支社や支店がある。「ジョブドラフトNavi」は2021年、97万回検索された。合同企業説明会も2021年、10都市で13回開催し、約2200人の高校生が参加した。仕事をやめてしまった元高校生にデジタル技術を学んでもらい、次のステップにつなげる人財育成サービスを準備中だ。