「できた!」という喜びを広めて 町工場芸人が描くものづくりの未来
大阪府東大阪市の鉄工所が実家で、自身も他の工場で働いた経験を持つ人気漫才コンビ「モンスターエンジン」の西森洋一さん(43)は、「町工場芸人」として不動の地位を築き上げました。ユーチューブなどでものづくりの魅力を発信し続ける西森さんへのインタビュー後編では、町工場の生き残りに向けた「秘策」や後継ぎ世代への思いを伺いました。
大阪府東大阪市の鉄工所が実家で、自身も他の工場で働いた経験を持つ人気漫才コンビ「モンスターエンジン」の西森洋一さん(43)は、「町工場芸人」として不動の地位を築き上げました。ユーチューブなどでものづくりの魅力を発信し続ける西森さんへのインタビュー後編では、町工場の生き残りに向けた「秘策」や後継ぎ世代への思いを伺いました。
――西森さんが考えるものづくりの魅力とは何でしょうか。
「これは自分で作れる!」という感動がメインですね。簡単なおもちゃでは遊んでいません。高校生の時からエンジンが付いているおもちゃなど、濃いものを作っていました。
(芸人になった後で)バイクの排気管の一種である「チャンバー」を作ったときも、めちゃくちゃ勉強して全然苦になりませんでした。
ユーチューブでものづくりを発信すると、「こうしたらいいのでは」と言ってくれる詳しい視聴者が1割くらいいるんですね。その人たちに疑問点を聞いたら結構濃い意見が集まって、「それを悩んでいたんや!ありがとうございます!」と感謝しています。
もう「無敵なんじゃないか」というくらい作業が進んでいく。それが今はめっちゃ面白いですね。
――ものづくりの動画を制作するとき、どんな工夫を凝らしていますか。
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編集も全部1人で行っていますが、他の人のものづくり動画に比べたら労力は薄いと思います。
作業をしているときの僕のしゃべりはまとまりが無くて長いし、使い物になりません。「この作業は・・・」と言った後に沈黙したまま作業して何秒か後に「これをします」と。だから絶対に編集して、解説は後から自分で入れています。そのスタイルは最初からですね。
――町工場の存在意義やすごさについて、西森さんはどのように感じていますか。
一流の職人みたいなおっちゃんとしゃべっていると、小学生の頃に自分が思っていた日陰の感じじゃないんですね。輝いているというか、「めっちゃかっこええなあ」と。一見汚くてすごい技術なんてなさそうな工場にも「こんなのがあったんや」という発見がありますから。
僕はお笑いの世界に入って、超一流のプロもたくさん見てきましたが「日陰もひなたもないんやな」と思います。そうした職人さんの技術を継承していかないといけません。
海外でも「めっちゃ難しい仕事があんねんけど、誰かやれるやつおれへんか?」というとき、日本の町工場を調べまくるそうですね。多種多様な世の中だからこそ、職人の技術が重宝されるんじゃないかなと思います。
――ものづくりの魅力を次代に引き継ぐにはどうしたらいいのでしょうか。
1回も働いたことのない若者にとって、工場はリアリティーがないですよね。「この技術を持っていたら、ものすごい稼げるのに」という想像は難しいでしょう。
工場見学に行っても面白くないでしょ。僕がプロデュースできたら絶対に面白くできますね(笑)。
「世界一」や「唯一無二」といった特徴を持つ工場に声をかけて、工程で一番すごいところだけを選ぶ。色々な場所を見せて「同じ加工をやっているのは1万社あっても、この技術を持つのはこの会社だけ」なんてアピールしたら、町工場のすごさに気付くはずなんです。
――中小企業は後継者不足が深刻になっています。
ほんまに問題ですよねえ・・・。高校卒業後に町工場に就職するときは学校から紹介された会社に入るのがほとんどでした。「工場ガチャ」ですよね。それがとてつもない不安でした。でも、今みたいに動画を見られたら安心ですよ。
ユーチューブにものづくり動画をアップする町工場も増えましたね。働いている人たちの顔を見られるし、どんな作業をしているのかわかります。なにより、職場の空気感が伝わってきますやん。
中小企業なら20人規模とかなので、全員の仕事を見せられるじゃないですか。だから、町工場はSNSや動画をフル活用したほうがいいと思います。
「今の若い人が・・・」という声もありますが、「団塊世代」のケツをたたく方がいいかもしれないですね。頑固一徹でやっていく時代じゃない。そうなると、閉鎖的になって若い人が入る余地がなくなりますよね。自分の技術をどんどん広めていくくらいじゃないと。
僕が配信している動画を見てもらえると分かりますが、「こんなんできました!」って喜んでいるところがメインなんですよ。若い人にも「できた!」という感じが味わってもらえたら、ものづくりの世界に入ってくると思うんですけどね。
――実家の鉄工所は今どのような状況でしょうか。
おやじは今も現役で、1人だけ雇って2人で仕事をしています。1社と密に取引している工場で、油圧機器などに使われるリテーナープレートという部品を作っています。
でも、ある日突然「この部品はもう作るのをやめます」となってしまえば、自分の責任が及ばないところでうちはつぶれてしまいます。それは怖いことですよね。
僕じゃなくて若い人がやりたくて入ってくるのなら、身内の経営にこだわらなくても全然いいのではないかと思っています。
――同世代の後継ぎの皆さんへのメッセージをお願いします。
僕の印象だと2代目が一番なめられるイメージがあって、ことあるごとに「先代のときは良かった」と比較されるわけですよね。本当に大変だと思います。
後継ぎの皆さんには尊敬の気持ちしかないですね。「すごいなあ」と思います。僕なんて「他人から認められないほどいい」というような感覚で芸人をやっているので。
僕が出演しているラジオ番組の生CMに、同世代の後継ぎの方が来ることもあります。もうかっている会社しか頻繁に来られないのに、新商品がヒットしたらしくて、バンバン出演してくれます。
100年以上前から続くような会社を率いて「この人は責任を背負って暮らしている」と思うと、本当に尊敬しますし、教わりたいことがたくさんありますね。
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