PR企画、どう作る?「ガチャめし」仕掛け人がメディア注目の事例を紹介
斬新なプロモーションやサービスで話題を呼び、次々とメディアに取り上げられる中小企業があります。メディアが取材したくなるようなPR企画とは、どのようなものなのでしょう。また、メディアに取り上げられたとき、売り上げ向上やイメージアップにつながる企画にするヒントとは?これまで100社以上の中小企業のPR企画を手掛けた「ラプレ」代表取締役の上谷信幸さんに聞きました。
斬新なプロモーションやサービスで話題を呼び、次々とメディアに取り上げられる中小企業があります。メディアが取材したくなるようなPR企画とは、どのようなものなのでしょう。また、メディアに取り上げられたとき、売り上げ向上やイメージアップにつながる企画にするヒントとは?これまで100社以上の中小企業のPR企画を手掛けた「ラプレ」代表取締役の上谷信幸さんに聞きました。
目次
上谷さんが担当したPR企画の中で一番の成功事例が、2017年の夏休み期間に、兵庫県の舞鶴若狭自動車道の西紀サービスエリア下り線で実施された「ガチャめし」キャンペーンです。ガチャガチャを回して出たカプセルに入った食券で昼食のメニューが決まるというものでした。
全国区のテレビ局や新聞社などからの取材が殺到した上、人気YouTuberのヒカキンがお忍びで訪れ、その様子を配信した事からも大きな話題となりました。たちまち行列になり、27日間で2万5000人が利用、1250万円を売り上げました。
上谷さんはキャンペーンの舞台裏を明かします。
「消費者が運試しの様な感覚を楽しめる特別感が演出できただけではなく、店側からしても、どのメニューをどの割合で販売するか事前に決めておく事ができるため、利益率のコントロールや販売予測が容易になりました。また、通常の営業時には、親が子供に料理を取り分ける光景がよく見られましたが、キャンペーン期間中には遊び感覚で家族全員が食券を購入するため、その分の売り上げが向上。行列を待つ間にジュースやお土産の購入が増えるなどの相乗効果もありました」
飲食店ではメニューに工夫を凝らすスタイルのキャンペーンが主流。そんな中、「ガチャめし」はメニューの販売方法自体を変えてしまうという大胆な思考でメディアからの注目を集めました。
世間の注目を集めようと、奇をてらった企画を実施したところで、肝心の消費者がついて来なければ、ヒット企画とはなりません。斬新なアイデアでメディアからの注目を集め、かつ消費者からも愛される。そんなヒット企画を考案するには、どのような視点で考えると良いのでしょう。
上谷さんは次の3つのポイントをラプレが手がけたPR企画を交えつつ説明します。
社内のメンバーで悶々と話し合いをしても、斬新なアイデアは浮かびません。社外からの目線でズバリ「それは面白くない」と言える第三者の意見こそが、煮詰まった状況を打破する第一歩。
プロを雇うのが難しい場合でも、フランクに一般の人の意見を聞くなど、できる事から始めてみましょう。社内の事情をまだよく知らない新入社員に企画会議に参加してもらい、率直な意見を聞くのも効果的です。
新しいキャンペーンやサービスを考える際、つい今ある流行を追いかけてはいませんか? それでは二番煎じになってしまい、実施する頃には流行が終わっている事もあります。上谷さんによると、世の中のニーズを見抜くために着目すべきは「人が困っている事」。
兵庫県の老舗洋食店「洋食とワインのお店 土筆苑(つくしえん)」は、コロナ禍で緊急事態宣言の発令された2021年1月に、「緊急洋食宣言」と名付けたキャンペーンを実施。自宅で楽しめる洋食セット(税込1万円)を購入した人に、配送先が緊急事態宣言の発令エリアである場合に限り、特製ハンバーグ10個(7200円相当)を無料で上乗せしました。
外出ができず退屈で「困っている人」に対し「自宅で少しでも楽しい時間を過ごしてもらいたい」との思いを込めて企画を考案。ユニークな取り組みに新聞社などからの取材が入り、報道を通して情報を知った人からの注文が殺到。1ヵ月間に2万個のハンバーグを生産したと言います。
2018年にオープンし、コアなファンから愛され続ける店があります。大阪府の会員制レストラン「三代目脇彦商店本店」は、焼肉店でありながら、酒類を置かず、店内は禁煙。「焼き肉の本当の味わい方を知ってほしい」という店主の思いから、業界の常識を破る焼肉店の新形態を打ち出しました。
焼肉と言えば、酒やタバコをたしなみながら食事をするイメージが強いのですが、日本国民のアルコール消費量や喫煙者数は減少傾向にあります。2019年に厚生労働省が実施した国民健康・栄養調査によると、週に3日以上、1日1合以上の飲酒をする「習慣飲酒者」の割合は20.5%、喫煙者の割合は16.7%。
禁酒禁煙とうたうことで一定の顧客層を失ったとしても、ターゲットとなる顧客は十分に残ります。日本初のユニークなコンセプトを打ち出した事で、多くのメディアから取材を受け、たちまち人気店へと成長しました。
「自社の商品を誰に届けたいのかを考え、一定の層から深く愛される商品やサービスを目指しましょう」(上谷さん)
企画の大まかなコンセプトが決まったら、次に具体的な内容を決定します。詳細が記載されたプレスリリースを見て、メディア関係者がより魅力を感じる内容にするためには、どんな工夫ができるのでしょうか。上谷さんは、次のように説明します。
プレスリリースにはどのような写真を掲載するか、新聞記者が撮影をするならどんな写真か、テレビで放映されるとしたらどんなシーンか、インスタグラマーが撮影するならどの商品が映えるのか。これらを想像しながら企画を具体化しましょう。印象が良く、人の記憶に残るインパクトのあるビジュアルが理想的です。
次に心をつかむキーワードをちりばめることです。
人は「あなただけ」「今だけ」など、限定的な表現に惹かれるものです。期間限定、地域限定、個数限定など、何か範囲が限定されているのであれば、その部分を強調しましょう。
ユーモアのある企画であると印象付けたい場合に、「緊急洋食宣言」のように分かりやすい言葉遊びをしたキャンペーン名を付けたり、5670円(コロナゼロ)の様に価格を語呂合わせにしてメッセージを込めたりすることで、印象に残りやすく、より企画意図が伝わりやすくなります。
企画に込められた企業の想いや、そのサービスが生まれた背景を添えることで、より理解が深まり、親しみを感じてもらいやすくなります。
日本初、関西初など特定のエリアで最初に登場するものや、日本最大、業界最多など、他と比較して一番である場合には、ニュースとしての価値が高まります。ただし、「一番」「初めて」と書いておきながら、実は先行企業があった場合は信頼を失うことになりかねません。慎重に調べましょう。
冬は「蟹」、春は「桜」など季節感のあるものや、「SDGs」「コロナ禍」などのトレンドワード。これらと関連する内容は、メディア関係者が取材対象として探している事が多く、目に留まりやすいと言えます。
大阪府の小料理店「北新地 玉鬘(たまかずら)」は、1988年の創業時からお酒の締め料理としてカレーを提供していました。2019年からこのカレーのレトルト商品「北新地玉鬘名物バターカレー」の販売を店舗にて開始。
店が一見客お断りであることに目をつけた「ラプレ」のPRプランナーのアイディアで「日本で一番買うのがたいへんな“客を選ぶ”贅沢レトルトカレー」とうたったプレスリリースを配信しました。テレビや新聞などの多くのメディアで「幻のカレー」として取り上げられ、レトルトカレーは瞬く間に有名になりました。
その後、コロナ禍の影響でお店は1年以上休業しましたが、その間にも催事やリピート客への通販で、累計1万個以上を販売。レトルトカレーの人気に助けられ、コロナ禍の苦境を乗り越えることができたと言います。
同じレトルトカレーを「贅沢なレトルトカレー」とだけ表現してプレスリリースを配信していたなら、世間からここまでの注目を浴びたでしょうか。上谷さんは「物は言いようです。事実を淡々と並べるのではなく、魅力を最大限に感じてもらえる表現をしましょう」と助言します。
さいごに、自社でPR企画を考案するとき、経営者はどのようなことに注意すると良いのかを聞きました。
上谷さんは「社員は経営者の顔色を伺ってしまうものです。経営者自らが“自分の考えは間違っているかも知れない”と自分の常識を疑う姿勢を持ち、違った意見を持つ人を排除してしまわないようにしましょう」と助言しています。
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