葬祭業の市場規模の指標である死亡者数は、1984年以降増加傾向が続いています。成長市場とも言えるため、生花店やホテル・電鉄などといった異業種からの参入が活発化しています。もともと狭域商圏で地域ごとに住み分けを図っていた既存事業者には悩みの種となっています。
そのような競合環境の激化に加え、コロナ禍で葬祭のあり方自体に変化が起きました。密を避けることや地域間の人流の制限など感染防止対策によって、葬儀の規模が縮小し、コロナ禍で単価の下落は一気に加速。元々常用雇用者10人未満の中小企業が約7割を占める業界において、多くの事業者が苦戦を強いられているのが実情です。
主にリサイクル事業者や古物事業者がその回収と処分を行っていた遺品整理業ですが、許認可や届出が不要であり、葬祭業同様に市場拡大が予測されることから異業種参入が相次いでいます。
安芸津葬祭も、定期的なチラシの配布などで『見積無料・まずは問い合わせを』と広告宣伝を行っていましたが、上述のような熾烈な競合環境もあり、顧客獲得が難航しているとのことでした。山中さんは「困っている人は多くいるように感じるが、情報が届けられていないのか」と悩んでいました。話を伺っていると、問い合わせがあってもなかなか受注に至っていないケースも多いようです。
意思決定権者が県外の相続人である場合などは、「空き家としてそのまま置いておく」という回答だったり、今も住んでいる当事者の場合は「お金を払ってまで片づけたくない」、「そのうち自分で片付けする」という回答だったり、と事実上の問題の先送りで失注しているとのことでした。
この相談の中でハイビズとしては受注シナリオを設計し、「ターゲット」と「プロモーション」を見直すことを提案しました。
商談における失注を防ぐのに、営業力を課題に置いたり、問い合わせの数を増やしたり、という対策も考えられますが、前者は属人性が高く、後者は多額の広告宣伝費を要するケースが多いと考えました。
その点、問い合わせの質を見直すことで受注確率が上げられれば、お金をかけずに売上アップにつながり、今後広告宣伝費を投下するにしても高い投資対効果が見込めます。
遺品整理を本当に必要としているのは「だれ」か
まずは、これまでの問い合わせに推察を加え、遺品整理に係る方々の悩みとそれを発注する背景を整理。すると、大きく二つの受注パターンが見えてきます。
一つは、もともと家具1~2点の処分程度の身の回りの整理のオーダーだったものが、結果的に大規模な片付けに繋がったケースです。いざ片付けにお伺いするとあれもこれも、と意欲的に整理を進め、結果的に大規模な片付けになるというもので、活発な独居世帯のシニアなどに多いようです。
もう一つは、当事者は片付けに対して気力がなく、周囲が気付いて促すというケースです。これはいわゆるセルフネグレクト状態に陥っていることがほとんどで、この場合は当事者ではなく、周囲の方からの問い合わせがきっかけとなっていました。地域福祉のセーフティネットが機能することで、最悪の事態を避けられたというケースもあり、急を要する相談が多いことも特徴でした。
サービスを届けたい2つのターゲット
このような整理を受け、ターゲットを2つ設定します。
一つは民生委員や訪問介護事業者をはじめとした地域福祉などの活動をされている方々です。「無料見積もり」「片付けから処分、特殊清掃・葬儀まで対応可能」という安芸津葬祭の強みをセールスポイントとし、対応力を打ち出していきます。
もう一つは片付けの当事者である独居世帯の活発なシニアです。「重労働を手伝ってほしい」ニーズに応えるものとして、ちょっとした家財処分やそれに伴う家具移動など、自分一人では対応できない重労働や家財の処分を引き受け、住み心地を支援するサービスとしました。
サービス名称も「遺品整理」ではなく、「終活ライフサポート」という名称に変更、個人と地域の暮らしを支えるサービスであることを打ち出します。
プロモーションについては、これまではローカル×紙媒体で展開してきたものを、SNSでの情報発信を追加します。元々は当事者の年齢層から紙媒体で告知していましたが、当事者の周辺の方が情報を入手した上で当人に促す、という受注パターンを想定し、情報拡散も狙えるSNSの活用を提案しました。
「終活ライフサポート」というサービスを利用することで得られることを可視化するために、敢えてビフォーアフター画像をコンテンツとして打ち出していきます。更に、これまでは葬儀同様に狭域商圏での活動を進めていましたが、葬儀と異なり様式や会場などの地域特性がないこともあり、対象地域を隣接市町まで拡大することに踏み切りました。
方針転換の成果とそのポイントは
これらサービスのコンセプトを、チラシやHP、SNSの投稿内容に反映し、地道な告知活動を継続していったところ流れが変わります。
サービスコンセプトの切り替えによって、大きなタンスを片付けたい、動かしたいといった相談から、入院・施設入所をきっかけとした親族からの家財整理の相談、特殊清掃が必要な案件の相談などが舞い込み、問い合わせが急増。
さらに失注が大幅に減ったことで、これまで月1-2件の受注だったものが半年で40件を超える受注を頂けるまでに成長しました。更にこの取り組みをきっかけに葬儀の依頼にも繋がるという相乗効果も生まれてきています。
今回の取り組みのポイントは、本当にこのサービスを必要としている人はだれか?ということを見直し、セールスポイントを明確にしてサービスを組み立てたことが主要因ですが、もう一つ、情報の伝達から受注に至るプロセスの想定も奏功しました。
SNSというオンライン・コミュニティでの情報発信と、実際に独居世帯のシニアを発見しサポートするオフライン・コミュニティの活動の双方が機能することで、案件の発掘と受注に繋がるという構造になっています。
SNSの活用で情報が届けられたとしても、そのコンテンツが「当事者周辺のキーパーソン」に向けられていなければ、今回の成果は半減した可能性があります。オンラインで発信された情報が、どのようにサービス提供対象に届くのか、複数の伝達パターンを想定しておくことで、メッセージやコンテンツの最適化を考えることが出来るでしょう。
消費者の意思決定の流れを読み解き、最適な情報発信を
様々なコミュニケーション・ツールが存在する便利な時代であるがゆえに、入手できる情報の総量は増えています。その負の影響として、情報を本当に必要とする消費者に届けることが難しい面があるように思います。
情報を届けたい消費者の行動特性などから、意思決定に至る筋道や分岐点を想定し、メディアをオンライン・オフライン横断で組み立てることの重要性を、改めて感じさせられた事例でした。
ペルソナ(ユーザー像)を描くこと、顧客が依頼するまでの行動や感情の過程を描く「カスタマージャーニーマップ」を設計することに限らず、マーケティングのフレームは多く存在します。こういったフレームを活かして成果に繋げるためには、自社のサービスのセールスポイントを特定していくことを前提に、受注事例を徹底的に深掘りすることが大切です。
事例からファクトを集めて、想定で肉付けをするというアプローチを繰り返すことで、より確からしい受注シナリオを組み立てられると考えます。ハイビズは、これからも相談者様と共に考え、売上アップの施策に伴走します。
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