しかし、田中さんは「残念ながら試作依頼を頂くときにコミュニケーション不全があると途中でボツになってしまうことがあります」と話します。その原因や対策について、寄せられた依頼をもとにTwitterで「#モノづくりご依頼はじめてガイド」を使って情報発信してきました。
どんなものが作りたいのか、製作できるかどうか、できるのであれば見積もり費用の概算を知りたいという内容が一般的ですが、安久工機に届く問い合わせは、いずれもあいまいな依頼が多いといいます。
たとえば、依頼者がどんな人なのか。自己紹介がなければ「正直恐怖です」と田中さん。
また、材質・形状・サイズ感・用途・使用場所・使用者などの情報が不足していると「打ち合わせに時間がかかり、追加要望が多そうだ」となり、その分の追加コストを見積もらなくてはならなくなります。
このほか、短納期での依頼は、余裕を持った検討ができず、安久工機の社員に残業・休日出勤などを指示しなければならない場合もあり、人件費を上乗せして見積もりを出さなければならなくなります。
このように依頼する内容があまりにあいまいだと対応が難しくなります。
たとえば、安久工機は図面がない構想段階の依頼からでも引き受けていますが、こうした依頼から試作品を作ることができるのは熟練のエキスパートです。エキスパートが引き受けられるのは最大でも月10件ほどです。
そのため、成約の見通しが低い依頼は、どうしても後回しになってしまいます。
町工場が依頼を受けやすくなる7つのポイント
それでは、受けやすい依頼とはどのような内容でしょうか?田中さんは7つのポイントを紹介しています。
ただし、あいまいな部分、まだ決まっていない部分は「わからない」「決まっていない」「決められない」と伝えることが大切だといいます。
- 自己紹介は詳しく
- 上手じゃなくてもOK!イメージを伝える努力を
- 製作目的はしっかり伝える
- どんな役割を任せたいのか明らかにする
- 予算感を伝える
- 納期は余裕と思いやりを持って
- 製作の確度は正直に
自己紹介は詳しく
自己紹介はできるだけ詳しくことが望ましいです。仕事を受ける側からすると「ビジネスパートナーとして信頼できるかどうか」を知りたいからです。
上手じゃなくてもOK イメージを伝える努力を
どこにこだわり、どこはこだわらないのか。できるだけ詳しいイメージを打ち合わせに入る前に伝えることが重要です。電話(口頭)だけではイメージの齟齬が生まれる可能性があります。
製作目的はしっかり伝える
なぜ、この試作品を作るのか。原理・機能の検証なのか。出資者に製品のイメージをつかんでもらうためのものなのか。いま、製品開発のどの段階で何のために製作したいのかを伝えることが大切です。
どんな役割を任せたいのか明らかにする
依頼者は、試作品をつくるプロジェクトのなかでどんな役割を果たすのか、どんな役割を任せたいのかを整理してみましょう。
予算感を伝える
問い合わせの多くが「相場がわからないので予算が決まりません。概算をください」という内容だといいます。しかし、後述するように、概算でも設計が具体的にならなければ出すことは難しいといいます。
納期は余裕と思いやりを持って
どうしても達成させなければならない納期はいつなのか、それはなぜなのかを正直に伝えることが重要です。ただし、あまりに短納期だと人件費の上乗せが発生します。
製作の確度は正直に
製作を受託できるかどうかどうかは、町工場側にとっても重要なことです。発注の可能性がどの程度なのかをあらかじめ明示しておくと、お互いの認識のズレの解消に役立つでしょう。
見積もり額を出すまで時間と工程がかかる理由
依頼する側からすると、「とりあえずおおまかな費用感だけでも知りたい」と思うかもしれません。しかし、見積もり額の概算を出すだけでも、実は簡単ではありません。その理由について、田中さんは商品化までの手順を使って説明します。
商品化までは、企画・試作・量産化・販売という過程をたどります。このうち、試作の過程を細かく分けると次のような手順を繰り返すことになります。
- 仕様検討……目的に合わせて必要な要件を洗い出す
- 構想設計……手書きなどで大まかな構造や重要な部分の仕組みを描いてみる
- 基本設計……CADなどでモデリング。部品の寸法決定、干渉チェック、強度計算など
- 詳細設計……必要な機能が得られるように寸法公差などの詳細情報を加え、加工用の図面を作成
- 加工・調達……加工図面に従って部品を製作するか、市販の調達品を手配
- 組立調整……そろった部品・調達品をくみたて。必要があれば追加加工などの微調整
- 評価……製作過程や機能を評価。再試作となるか次のステップに進むかを決める
見積もり額には、構想設計にかかる費用、加工図面を作るのにかかる費用、購入品の調達費用、材料原価、加工費、組み立て費用など様々な項目が含まれます。そのため、見積もり額が出せるようになるのは、上記手順でいうと詳細設計の後だと、田中さんは指摘します。
このように見積もりを出すだけでもかなりの工程がかかるため、場合によっては見積もりを出すだけでも費用がかかる可能性があることに注意してください。
見積もりの過程で作った「構想設計図」をほかの会社に横流しすることも信頼関係を損なう行為です。
試作依頼の参考事例
それでは、初めてでも引き受けやすい製作依頼というのは、どのようなものでしょうか?田中さんは実際の依頼をもとにしたフィクションでイメージを伝えています。
試作をつくるうえで、依頼者は「アイデアを形にしたいと考えるプロジェクトリーダー」で、町工場は「プロジェクトパートナー」だと田中さんは例えます。
「依頼者がリーダーシップを持ってプロジェクトプラン、自分の役割、パートナーの役割を明確にし、仲間として巻き込もうという姿勢がプロジェクト成功の秘訣です」
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