QCDとは 「品質、費用、納期」の意味・管理方法を事例から簡単解説
QCDとは、製造業の生産管理において重要な要素である「品質、費用、納期」を表す言葉です。メーカーは、これらを最適化するだけでなく、それぞれの要素を改善することを常に意識しています。QCDは優れたフレームワークであり、さまざまなビジネスシーンに応用することが可能です。
QCDとは、製造業の生産管理において重要な要素である「品質、費用、納期」を表す言葉です。メーカーは、これらを最適化するだけでなく、それぞれの要素を改善することを常に意識しています。QCDは優れたフレームワークであり、さまざまなビジネスシーンに応用することが可能です。
目次
QCDとは、Quality、Cost、Deliveryの頭文字を並べたものです。
この用語は、人によってやや解釈が異なります。シンプルに「3要素」という意味で使う人は、「QCDを意識している」といった表現をします。一方、「3要素についてそれぞれ目標を掲げて改善すること」という意味で使う人は、「QCDを推進している」といった表現をします。
この記事では、フレームワーク(ビジネスの課題を当てはめて分析するための思考の枠組み)として紹介します。
このフレームワークの源流は、英国出身のアレクサンダー・ハミルトン・チャーチ氏の著書『管理の科学と実践』(1914年)であるといわれています。チャーチ氏の職種は、能率技師(efficiency engineer)であり、今でいえば経営コンサルタントに相当します。
1914年といえば、工場の規模拡大が進み、技術だけでなく生産能率や管理が重要視され始めた時代です。チャーチ氏が見出した「管理は全体の調整である」という原則は、当時先進的なものでした。
まず初めに、QCDについて要素ごとに定義を確認しておきます。
Quality | 品質 | ISO 9000(国際標準化機構が制定した品質マネジメントシステムの国際規格)では、「本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」と定義。 つまり、製品が顧客が要求する水準をどの程度満たしているかということ。 日本語の「高品質」には「高機能」の意味が含まれる場合があるが、ここでは区別する必要がある。 |
Cost | 費用 | 製造原価のことで、製品製造にかかったすべての費用を指す。 大きく分けて「材料費」「労務費」「製造経費」の3種類がある。 |
Delivery | 納期 | 元々の意味は引渡しにおける「数量」と「納期」のことだが、ここでは「納期までの速さ」という意味で使われることが多い。 |
製造業が生産管理能力を高めるにはQCDの最適化が必要です。QCDの3要素は基本的に、トレードオフの関係にあります。トレードオフとは、一方を追及するともう一方を犠牲にせざるをえないような状況を指します。
したがって、最適化のためには、どの要素を優先するのかを考える必要があります。
まず大前提として、「Q」が顧客の要求する水準を満たしていることが重要です。
顧客は、消費者とは限りません。部品メーカーから見た場合、顧客は組立てメーカーになります。製品に不良品がないことはもちろん、個体間のバラツキが小さいことも求められます。
「C」と「D」は、顧客の状況によって柔軟に調整する必要があります。
顧客の予算に制限がある場合、時間がかかるとしても「C」を優先することになります。逆に、顧客がその製品を使う日が決まっている場合、人件費や輸送費をかけてでも「D」を優先することになります。
現場では「Q」ばかりに意識が向きがちですが、それはあくまでも1要素でしかありません。QCDは、3要素を同レベルで扱うフレームワークなのです。
「Q」を最優先すれば、高額な設備を導入したり、検査に時間をかけたりすることになり、「C」や「D」に妥協が必要となるかもしれません。必要以上に「Q」を追求した結果、顧客が求める「C」や「D」の基準を満たせなくなれば、やがて競争力を失うことになるでしょう。
持続不可能なやり方で「C」と「D」を追求すれば、「Q」に大きな問題が発生するリスクが高まります。
競争力を高めるには、QCDを最適化するだけでなく、それぞれを改善しようとすることも重要です。
これまで、QCDには基本的にトレードオフの関係性があると述べてきましたが、必ずしもそうではありません。製品の仕様や材料を変更して「Q」を高めた結果、最終的に「C」と「D」も改善するといったケースがあります。
一般的に、QCDの改善には下記のような手順があります。
顧客や現場社員にヒアリングを行い、課題を把握します。品質改善、コストダウン、納期遵守率向上に分けて洗い出します。
ヒアリングは、チェックリストなどを使って、効率よく定期的に行うのが良いでしょう。
課題に優先順位をつけて、最適な方法を選択して実施します。あるいは各課題の関連性を把握し、全体として改善効果が大きくなる方法を選択して実施します。
各課題について解決方法をピックアップした後、全体を俯瞰し、ボウリングのようにどのピンを倒せばどのピンが影響を受けるのかを考えるイメージです。
実施した改善策がもたらした効果を検証し、さらに進めるのか、別の方法を試みるのか、新たな課題に取り組むのかなど、次の手を検討します。
効果の検証は、ビフォーアフターが数値でわかるようなテンプレートを使って、効率よく定期的に行い、関係者にシェアします。このようにフィードバックをすることで、次回のヒアリングにも積極的に対応してもらえるでしょう。
QCDの具体的な事例を見ていきます。また、生産管理だけでなく、応用例として戦略策定と業務指示のシーンも取り上げます。
ある自動車部品メーカーでは、小型部品の製品にプレス加工の傷跡が残り、不良品になりやすいといった課題がありました。頻繁に起こるため、納期遅れにもつながっていました。原因は、使用しているプレス金型の摩耗が激しかったことです。
そこで、耐摩耗性の高い材質の金型に変更しました。つまり、「C」を犠牲にして「Q」と「D」を改善しようとしたのです。結果的に、交換やメンテナンスにかかる費用も減り、「C」も改善できました。
事業戦略を考えるのにもQCDが役立ちます。
食品の製造から販売までを手掛けているスーパーマーケットでは、できる限り添加物を入れないようにし、材料は国産のものを使用して、安全な商品を提供しています。
賞味期限が短いため、自社工場で夜中に作った商品を、翌朝の開店に間に合うようにお店に届ける体制をとっています。
そして、保存料や着色料を使わないといっても、見た目では分からないため、説明のポップを手書きで作成して、新規顧客に訴求しています。
「Q」を最優先することで「D」も優先せざるを得なくなり、「C」が犠牲になっているのです。材料、配送、陳列にコストがかかっているため、多少賞味期限が長い弁当やケーキなどを取り扱う他のスーパーやコンビニと比べて高く売らざるをえません。
しかし、こうしたスーパーマーケットでは、「Q」こそが顧客支持の生命線です。高級品を扱っているわけではないのですが、「Q」の追求のために「C」を犠牲にすることで、ブランド力を維持することに成功しています。自社で物流システムを構築するなど「D」も徹底しており、ここまでして「C」をかけていること自体が参入障壁になっているのです。
一方、100円ショップは「Q」の一定水準を満たした上で、「C」と「D」を突き詰めて成功した業態です。価格が一定のため広告費を抑制できますが、新鮮さを維持するために新商品の開発から納期までを短くしているのです。その結果、顧客の支持を得て売上が拡大し、獲得した資金によって「Q」が向上するという好循環が生まれています。
業務指示の出し方ひとつにもQCDが役立ちます。
部下に社内資料の作成を指示するような場合、求めるQCDの水準をしっかりと伝えることが重要です。社内資料であれば、「Q」よりも「C」や「D」を優先して欲しいケースが多いのではないでしょうか?しかし、形として残るのは「Q」であるため、担当者は費用と時間をかけて、できるだけ質の高いものを作りたいと思いがちです。
依頼者は、資料をチェックする人が誰で、手直しが必要になる可能性が高いかどうかを説明し、かけられる費用と時間、内容・デザインの水準について、正しい認識を持ってもらうように努めるべきです。担当者としては、QCDのそれぞれについて、期待を少し上回るようにすれば良いのです。
QCDの勘所である「管理は全体の調整である」という原則は、何事にも当てはまります。
たとえば、スポーツチームの監督にはこの視点が欠かせません。選手やコーチとしては非常に有能であるにもかかわらず名監督になれない人は、「Q」にこだわり過ぎて重要な試合までにチームを完成させられないといったミスをします。
QCDは、絶えず3要素を調整して最適化し、それぞれを改善することで、競争力を高められるということを示唆しています。長期的にはすべてを改善するつもりでも、短期的には妥協が必要なのです。
QCDは、あらゆるシーンにおいて、高いパフォーマンスを出すために有効なフレームワークであり、意識していて損はないでしょう。
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