目次

  1. 改正電子帳簿保存法の保管対象を検討する2つのポイント
    1. 完璧な状態ではなく現実解を求める
    2. 現在保管している書類をベースに考える
  2. 保管対象の書類の決め方
  3. 紙の書類もスキャンして保管すべきか
    1. 電子データのみを保管対象とした場合のメリット・デメリット
    2. 紙もスキャンして保管した場合のメリット・デメリット
  4. 対応のしやすさとデジタル化のメリット どちらを優先?

 前回記事「改正電子帳簿保存法の準備いつから? 猶予期間2年を生かす4つのポイント」では、改正電子帳簿保存法に対応するためのスケジュール作成について解説しました。今回のテーマは、改正電子帳簿保存法の保管対象の決め方です。

 2022年(令和4年)1月の改正により電子取引をした場合は、電子データの形での保存が義務となりました。ただし、電子保存の義務化について、企業の準備が進んでいないこともあり、2023年12月末まで2年間猶予されることになりました。

 この2年間に準備しておきたいことの一つが、保管対象を決めておくことです。具体的に保管対象を検討する前に、重要な2つのポイントを紹介します。

 一つ目は、完璧な状態ではなく現実解を求めようということです。

 電子帳簿保存法は具体的な内容については記載が無く、あいまいな部分が存在します。そのあいまいな部分を全て安全な方に倒していくと、ものすごく業務負荷が高い状態になってしまいます。

 例えば「見積書も対象ですか?それは取引に至らなかったものも対象ですか?」といった質問が寄せられます。取引に至ったものだけでOKという記述はないため、安全な方を選択すると、取引に至らなかったものも保管しておくことになりますが、取引に至らなかったものまで、すべて漏れなく保存しようとすると運用が大変になります。

 また、税務調査で取引に至らなかった見積情報まで見せなさいと言われるというのは、よっぽど怪しい取引があるなど、通常ではなかなか考えにくいシチュエーションです。

 このようにゼロリスクを求めるのではなく、現実的に対応可能で、ここまでやっていれば悪質と判断されて罰則を受けることはない、という現実解を求めるというイメージで検討するのが良いでしょう。

 二つ目は、現在保管している書類をベースに考えるということです。

 今回の電子帳簿保存の改正により、保存の方法は変わりますが、新しく保存対象の書類が増えるわけではありません。

 先ほどの見積書の例でいうと「見積書も対象ですか?」という方から現状をヒアリングすると現在も見積書は保管していないというケースが多くあります。

 電子取引情報が紙で保管できなくなる改正ではありますが、見積書は以前から「一般書類」として厳密には保管が必要ということは変わらないわけです。

 もちろんこれを機に見直すことは良いのですが、保管対象は以前から変わっていないという事を念頭に、まずは今まで保存していた書類をベースに検討し、その中にデータで受け取っているものがあれば電子取引情報として扱うというスタンスで検討しましょう。

 これら2つのポイントを念頭に検討を進めると、無理のない電子帳簿保存法対応が実現できます。

 それでは具体的な質問にお答えしていきます。

Q:保管対象の書類はどのように決めればよいでしょうか?

 保管対象の書類を決めるにあたり、まずは現在取引先とやり取りしている書類のピックアップから始めましょう。

 発行と受領、両方を網羅できるように下記のような表を作成し、電子データと紙でそれぞれ該当するものがあるか、また現在利用しているシステムも記載しておくと、後の検討で役に立ちます。

 また、重要度の項目は、電子帳簿保存法上の「重要書類」と「一般書類」の分類を表わしています。重要書類は「資金や物の流れに直接連動する書類」と定義されており、一般書類は「資金や物の流れに直接連動しない書類」と定義されています。

保存対象となる書類・電子取引情報のリスト(サンプル)

 リストアップが終わったら、前述の「検討にあたってのポイント」を念頭に対象の書類を取捨選択します。重要書類については漏れなく対象となるようにしましょう。

Q:電子データのみを保管対象とすべきか、紙もスキャンして保管すべきか悩んでいますがどのように考えれば良いでしょうか?

 電子データのみを保管するか、紙もスキャンして保管するかで、それぞれ下記のようなメリット・デメリットがあります。

 電子データで受け取ったものをそのまま電子で保管するというフローになりますので、既存の業務への影響は最低限に抑えることができます。

 一方で、業務は紙のままになり、電子化による業務の効率化やリモートワーク対応、保管・参照コストの削減といったメリットは得られなくなります。

電子データのみを保管対象とした場合の作業フロー

 書類もスキャンして保管する場合は、すべて電子データでの保管になりますので、電子化による業務の効率化やリモートワーク対応、保管・参照コストの削減の効果が得られます。

 一方で、紙で届いた書類をスキャンするという業務が追加で発生してしまいます。場合によっては複合機やスキャナの購入が必要になる場合もあるでしょう。

紙もスキャンして保管した場合の作業フロー

 単なる法対応で終わってしまい、業務負荷が増えたという状態ではもったいないので、是非このタイミングで業務のデジタル化を目指していただければと思うのですが、現実的には下記のような理由でハードルが高いという反応を頂きます。

  • メンバーのITリテラシーが低くスキャンの対応が難しい
  • 大半が紙のためスキャンするのは業務負荷が高い

 ITリテラシーの問題については程度には寄りますが、最近は低価格ながらタッチパネルも付いていて利用しやすいスキャナ(ScanSnap iX1600)や、スマホで写真を撮って送るという方法もありますので、工夫次第で乗り越えられるのではないかと思います。

 また、現在紙が多くスキャンの対応が難しいという場合には、猶予期間を使ってデジタル化への準備期間を長めにとって対応を進めることをお勧めしています。

 例えば、現在は電子データが20%、紙が80%という状況ですべてをスキャンして保管となると、スキャン作業による業務負荷は大きくなり、デメリットの方が多くなってしまうかもしれません。

 しかし猶予期間を使って取引先に働きかけ、電子データの比率を増やすことが出来れば、すべてを電子化して保存するという選択肢が現実的に見えてきます。

 昨今は、新型コロナによるテレワークの広がりもあり、以前は難しかった電子データへの切り替えの対応が可能な企業も増えており、数年前に切り替えを依頼したときは断られたが、改めて依頼したらすんなりと通ったというケースもあります。

 また、多くの事業者が取引先に働きかけることで、社会全体の紙から電子データへの切り替えがより進むという効果も期待できますので、是非取り組むことをお勧めします。

 今回は保管の対象範囲を決めるところまで来ましたので次回は「どこに保管するか」について解説します。