目次

  1. そもそも「惑星」って何?
  2. 太陽系の外にある惑星、どんな特徴がある?
  3. 見えないところにも、世界は広がっている

夜空に煌(きら)めく星のほとんどは、惑星をたずさえている。

目に見えていないだけで、星の周りをひっそりと別の星が回っているのだ。

それならば、きっとどこかに、地球に似た惑星があり、地球人と同じような知的生命がいるのではないだろうか。今回は、そんな想像を膨らませてくれる惑星の話である。

夜空の星々は、「恒星」と「惑星」の2つに分けられる。

恒星とは、みずから光り輝く星である。恒星と恒星の位置関係はいつ見ても変わらないので、線で結んで星座を形づくることができる。

一方、惑星はみずから光を発さず、恒星の光を反射して輝く。親の七光りのようなものだ。

太陽系には、「水・金・地・火・木・土・天・海」でおなじみの8つの惑星がある。地上から肉眼で見ることができるのは、水星、金星、火星、木星、土星の5つだ。

太陽系の形成図=NASA提供、朝日新聞社

惑星はマイペースで太陽の周りを公転しているため、恒星とは違って、夜空に見える位置は日によって変わる。何日も観察していると、ふらふらと「惑(まど)う」ように動いていく。

惑星(プラネット)の語源は、ギリシャ語の「プラネテス」。「さまよう者」を意味する。

余談だが、筆者の住むような田園地域では、「雷が多い年は豊作になる」という言い伝えがある。現在の科学では、「雷によって空気中の窒素が分解され、栄養として吸収されやすい形として田んぼに運ばれることで、米の生育がよくなる」と理解されている。

百姓は、長年の経験から分かっていたのだろう。そのため、雷は“稲を育てる女房役”という意味で「稲妻(イナヅマ)」とも呼ばれている。

「惑星」も「稲妻」も、太古の人々の観察力とネーミングセンスの高さに、感心させられる。

太陽系以外にある惑星は、「太陽系外惑星」や「系外惑星」と呼ばれている。

系外惑星を見つけるのは、簡単ではない。恒星ははるか遠くにあり、惑星は自分では輝かないので、その光は極めて弱い。恒星のまぶしさも観測の邪魔になる。発見の難しさは「明るい灯台のすぐそばを飛ぶホタルを探すようなもの」だと言われていた。

それでも研究者の長年の挑戦により、1995年に世界で初めて系外惑星が発見され、現在では、その数は4000個を超えている。統計的な研究から、太陽系以外の恒星のほとんどに、少なくとも1つは惑星があると考えられている。

では、どんな系外惑星があるのか、3つほどピックアップして紹介していこう。

①ホット・ジュピター

②エキセントリック・プラネット

③セブン・シスターズ

なんだか今どきの音楽グループっぽい響きだ。

①ホット・ジュピター 月曜から木曜の4日間で、1年が過ぎる世界

世界で初めて見つかった系外惑星は、太陽のような恒星を回る木星くらいの巨大惑星だった。

驚くべきは、そのスピード。なんと、たった4日で恒星を1周してしまうのだ。月曜日から仕事をして木曜日が終わると、もう1年が過ぎてしまっている、という世界だ。住みたいとはとても思えない。

恒星の周りを数日で回る系外惑星(右)のイメージ=NASA提供、朝日新聞社

太陽系では木星は12年かけて公転する。太陽に最も近い水星でも88日かかる。4日がとんでもない短さであることがわかるだろう。

このような短い公転周期で巨大な惑星は、恒星にあまりにも近く、温度が高くなっていることから、「ホット・ジュピター(熱い木星)」と呼ばれている。世界中を沸かせた“ホット”な惑星であるのも由来と言われている。

②エキセントリック・プラネット たった6時間で700℃も上昇する惑星

「エキセントリック(eccentric)」とは、「常軌を逸した」「風変わりな」という意味である。

太陽系の惑星は、エキセントリックではない。
天文学的には「エキセントリック」は、「真円でない」という意味で使われる。

太陽系の惑星は、太陽のまわりをほぼ円軌道で周回している。離心率(0が真円、1に近づくほど歪みの大きい楕円)という数値でみると、最も円に近いのは金星(0.007)で、最も円から歪んでいるのは水星(0.2)である。

水星よりも歪んだ軌道をもつ惑星は「エキセントリック・プラネット」と呼ばれている。

楕円軌道を描きながら恒星を周回するので、1年間で、エキセントリック・プラネットと恒星の距離が大きく変わる。空を見上げたときに、季節によって太陽の大きさが異なる世界、というわけだ。

それに伴い、気温も変化する。真夏の6時間だけで、700℃も熱くなる惑星もある。住みたいとはとても思えない。

太陽系の惑星は模範生徒のようにきれいな円軌道を描いているが、じつは、エキセントリックな惑星とそうでない惑星の数は、だいたい同じくらいである。

歪んでいないほうが当たり前で普通のことと思いきや、惑星界では半分は歪んでいるのだ。

③セブン・シスターズ 第二の地球? 海はあったとしても紫外線が強烈

「セブン・シスターズ」は、2017年にNASAが“重大発表”として公表した7つの惑星である。

セブン・シスターズは、太陽系から40光年(1光年は光が1年間に進む距離。光が1秒間に進む距離は、地球7周半に相当する。40光年は人間にとってはかなり遠いが、宇宙のスケールでみると近い)にある「トラピスト1」という恒星を周り、どれも地球と同じくらいの大きさである。

なんと、そのうち3つは表面に海があるかもしれない。「第二の地球発見!」として大きく話題になった。

©NASA

海をもちうる3つの惑星は、質量も半径も地球と同じくらいだが、公転周期は6~12日である。つまり、1、2週間で1年が経ってしまう。

惑星の位置が恒星に近すぎるため、「潮汐(ちょうせき)ロック」と呼ばれる状態になり、惑星はつねに同じ面を恒星に向けながら公転する。地球にとっての月と同じである。

中心の恒星は、太陽の10分の1の大きさで、明るさは1000分の1の「赤色矮星(せきしょくわいせい)」と呼ばれる星である。このタイプの星は、太陽よりも紫外線やX線が強い。

セブン・シスターズの1つの惑星から見える景色の想像図=©NASA

いくら海があっても、生命が生き延びるには過酷な環境だ。海の中にもぐるか、紫外線が当たらない裏側に逃げ込むしかない。住みたいとはとても思えない。

「第二の地球」は、全然、地球に似ていなかったのだ。いくら身長と体重が似ていても、親(恒星)の気質や育つ環境が違えば、まったく異なる性格になるのは当然だろう。

現在、系外惑星の研究は、セブン・シスターズと違って、本当の意味での「第二の地球」を探している。太陽に似た恒星を回る地球に似た惑星だ。

しかし、地球外(知的)生命を探す上では、それだけが正しい方法とは限らない。その理由は、逆説的であるが、系外惑星が教えてくれている。

系外惑星の研究が明らかにしたのは、「惑星には多様性がある」ということだ。多様な惑星が見つかる中で、「太陽系の常識は、宇宙の非常識である」ことも分かってきた。

恒星のまわりを回る海王星サイズの太陽系外惑星の想像図=NASA提供、朝日新聞社

世界で初めて見つかった系外惑星(ホット・ジュピター)は、じつは、研究者からノイズとして切り落とされたデータの中に入っていた。まさか、太陽を4日で回る惑星があるとは当時の常識では考えられなかったのだ。

この系外惑星を発見したのは、教授と大学院生のコンビだった。彼らは予算も立派な望遠鏡もなかったが、先入観もなかったため、世紀の大発見をすることになったのだ。2人は、2019年にノーベル物理学賞を受賞した。

人類は、太陽系の惑星しか知らなかったので、その常識にしばられて、太陽系外の惑星を見つけるのに遅れてしまった。いま、人類は、地球外生命の謎を解くべく、地球生命の常識をもとに、地球と環境が似た海のある惑星を探そうとしている。

しかし、生命を宿す惑星が、地球に似てなければいけないという理屈はない。どんな環境の惑星であっても、我々の想像を超える生命がいることは大いにあり得るのだ。生命のメカニズムも、生命を宿す惑星も、きっと多様であるはずだ。

とはいえ、物事を現実的に前に進めるためには、常識をベースに組み立てていくのが賢明な方法だろう。

きっと、大切なのは、常識というフィルターを通したり、通さなかったりする自在さなんだろうなぁ。

見えないところにも、世界は広がっている。

そこにはどんな風景が広がって、どんな生き物がいるのか、自由自在に想像しながら、夜空の星を楽しんでみてはいかがだろうか。

というのは、いささか常識的すぎる締め方だが、実力なので仕方ない。もっと上手くまとめられるようになるまで、しばらく、さまよい続けることになりそうだ。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年9月3日に公開した記事を転載しました)