中小企業の支援、提案だけでは終わらない 公的機関が飛び込み営業を実践
長崎県大村市が設立した公的な経営相談機関「大村市産業支援センター」は相談に来た事業者に「提案」するだけではなく、時には支援センター自ら飛び込み営業を実践してみせるなど体を張った地道な活動もやっています。「提案」だけではなかなか進まない地域事業者の課題を織り交ぜながら、新しい市場を開拓した支援事例を紹介します。
長崎県大村市が設立した公的な経営相談機関「大村市産業支援センター」は相談に来た事業者に「提案」するだけではなく、時には支援センター自ら飛び込み営業を実践してみせるなど体を張った地道な活動もやっています。「提案」だけではなかなか進まない地域事業者の課題を織り交ぜながら、新しい市場を開拓した支援事例を紹介します。
目次
まず、障害者就労支援施設「SAKURAプラス」の開発したスイーツが大手百貨店に採用された支援事例を紹介します。
2017年8月に初めて相談に訪れた「SAKURAプラス」を運営する蓮本理事。地元の有名な豆腐屋さんの豆腐とおからを使ったおからドーナツを開発、これまで事務所に併設された店舗や、市役所内で開催される福祉系のマルシェ等で販売してきましたが、売上が伸び悩んでいました。
試食してみると、豆腐を使っているためか一般的な市販のおからドーナツと比較して、しっとり感があり、かなりのおいしさに、これは「もっと売れる!」と思いました。
商工会議所が主催する地元産食品のグランプリへの出品を提案した結果、社会福祉事業者としては初となる特別賞も受賞しました。その後、知名度は上がりましたが、大村市内の販売のみでした。売上が伸び悩んだ原因の一つには、価格の高さがありました。
大村産の高級卵・豆腐・カカオパウダーには、フランス・ヴァローナ社の高級カカオパウダーなどを使用していたため、1個が250円(税込)という価格でした。
そこで、大村だけでなく九州最大の市場である福岡を開拓することを提案しました。もちろん、大村の社会福祉法人が福岡のデパートにコネクションはありません。しかし、味は十分通用すると思ったので、まずは私自身がドーナツを携えて、複数の福岡にある大手百貨店に飛び込み営業を試みました。
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通常、産業支援センターでは、事業者が相談に来た際にセンター内で「提案」をするというのが基本のため、当初は福岡まで私が営業開拓に行くということについても、市の担当者からその必要はないとまで言われもしました。
しかし、次の展開のためには必要だと判断したため飛込み営業を敢行し、結果的にある大手百貨店グループ会社の目に留まり、採用を検討してくれるとのことになりました。早速、私は蓮本理事にその旨を伝えました。
その後、時折、蓮本理事に進捗状況を確認しましたが進展していませんでした。担当の女性職員に話を聞いてみると、「大手百貨店のバイヤーとそもそも何をどう話していいか、そのような経験もないのでわからない」とのことでした。
確かに彼女たちは社会福祉の世界に身をおいているため、大手百貨店バイヤーとの交渉など気が重かったのでしょう。そこで、私は蓮本理事と相談し、まずはどのような交渉をするか私の傍でみてもらうため、福岡での商談に一緒に同行してもらうこととしました。
また、メールする際は文章の内容を考えてもらい、内容を修正したりして、商談のやり方を一つ一つ覚えてもらいました。その結果、女性スタッフとバイヤーさんとの話が進みだし最終的にドーナツではなく、ケーキタイプに形状を変更しましたが、商品として採用されることになりました。
長崎県庁の社会福祉部門の方に今回の事例を話したところ、県内の障がい者就労支援施設の商品が大手百貨店グループに採用されたのは初めてではないかとのことでした。
大村市産業支援センターには、年商約30億円規模の会社も、個人商店を一人で切り盛りしている方も相談に訪れます。2017年に相談業務を開始して約5年になりますが、提案がうまくいくケースとそうでないケースのパターンがあります。
まずは、経営トップが相談に来ないケースは、なかなか提案が進まないことが多々あります。最終決定権がないからです。
一方で、経営トップが大村市産業支援センターの提案に賛同してくれても、会社としてはなかなか進まないケースもあります。そのケースでは、社員の間に抵抗感が残っていることがあります。
どうすれば、社員が新しいことにチャレンジする雰囲気を作れるでしょうか?販路開拓に取り組む畳屋さんの支援事例を紹介します。
洋室化の進展など、日本人のライフスタイルの変化により畳業界を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。畳などのインテリアを扱う「勝手」は、畳素材を使ったティッシュケースをネット販売していました。
聞いてみると、たまに売れているとのこと。私は次の2点を提案しました。
これまでの主な営業スタイルは、お客様からの畳の張替えなどの依頼があって、客先に伺うという昔ながらのルート営業が中心でした。早速、改良した和モダンのティッシュケースを大手雑貨店の長崎店舗に持ちこむと採用が決まりました。
畳業界が、生活スタイルの変化と、職人の高齢化で右肩下がりの業界にある中、勝手孝英社長の会社は、業界的には珍しく若い社員さんが多く活気がありました。
真面目に仕事に取り組んでくれて頼りにしているのですが、若手社員の皆さんには現状維持ではなく新たなチャレンジをドンドンしてほしいと勝手社長は考えていました。
そこで、勝手社長と相談し、社員に集まってもらい、社内営業会議に参加することにしました。
私からは、勝手社長が、厳しい畳業界という状況下でも「勝手」に入社してくれた若手社員の将来に対してどれだけ真剣に考えているのか、そして、私が社員ならば、自らの成長と、家族を守るためにも、自分が入社した会社の成長を実現していかなければならず、そのためにどう考え動いていくかを話しました。
具体的には、大手雑貨店の長崎店に採用されたことがどのような意味を持つのか、私が社員なら次は福岡、次は東京、そして別の大手企業の開拓、さらには通販部門との連携によるティッシュケース以外での売上向上と「勝手畳」のブランド力アップにつなげていく……という話をしました。
また、若手社員がこれまでのルート営業的発想を変えて意識変革していく必要があること、新たに提案したレンタル畳やサブスク型畳など新事業の方向性、及び営業展開の仕方について社員の皆さんと意見交換しました。
当初は、私と面識なかった社員の皆さんは驚いた様子でしたが、最後の方には「面白そうだ!」といってくれました。
営業会議参加後しばらくして、会社から電話があり、若手社員が、自らの意思で県外に営業に出かけ、大手百貨店グループと契約できることになったとの話を伺いました
大村市産業支援センター長に着任して、まもなく5年になります。センター自らが販路開拓や営業会議に参加して鼓舞することには様々な意見があるかもしれません。
市役所が運営する公的な無料の経営支援機関ですが、私は相談「件数」などの経営「支援」を行ったという形ではなく、小さな一歩でも販路開拓や売上が向上したという「結果」を出すことが地域経済の活性化には重要と考えています。
そのために事業者への提案に関し、事業者だけではなかなか解決できそうにない場合、「原因・課題」の改善に向けて更に踏み込んだ伴走支援の必要があると思ってます。
今回、商圏以外での営業開拓の飛込み実演や、社内会議に参加して社員の皆さんと将来について本気で話し、社員の更なる挑戦意識を生み出した支援事例を紹介しました。
地域の事業者の「自律自走」のためにも必要であれば「伴走」支援として私はやるべきだと思います。
日本、地方経済を取り巻く環境が年々厳しさを増す中、事業者にとってのプラスとなる「結果を出す」ために徹底的に事業者と本気で向き合い、伴走支援していきます。
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