30万円で宇宙に行く方法とは? #3
このコラムでは、「限界集落から宇宙へ」を合言葉に、広島県北広島町を拠点に宇宙の魅力を発信する井筒智彦さんが、次のビジネスのヒントになるかもしれない「宇宙のこと」を伝えます。今回のテーマは「宇宙の未来」です。
このコラムでは、「限界集落から宇宙へ」を合言葉に、広島県北広島町を拠点に宇宙の魅力を発信する井筒智彦さんが、次のビジネスのヒントになるかもしれない「宇宙のこと」を伝えます。今回のテーマは「宇宙の未来」です。
果てしない宇宙は、実は、すごく身近である。これが今回伝えたいメッセージだ。
私たちが住んでいるのは、宇宙に浮かぶ地球という惑星。空気に包まれていて、息を吸えば存分に味わうことができる。
一般的には、高度100キロから上空が「宇宙」といわれている。地球の直径は1万3000キロなので、地球を玉ねぎだと思えば、うす皮1枚むいたら宇宙だ。宇宙は、近い。
といっても、これまでは選抜試験をくぐり抜けた優秀な人間しか宇宙へ行けなかった。それが、これからはどんな人であっても、お金を払えば誰でも宇宙へ行けるようになったのだ。宇宙旅行時代の到来である。
宇宙旅行には、大きく3つのプランがある。
1つ目のプランから紹介していこう。
せっかく宇宙へ行くのなら、国際宇宙ステーション(ISS)にいる宇宙飛行士に会いたい。そう思う人が多いだろう。会うだけでなく、重要な実験にも参加することができる。このプランが、なんと、たったの…20億円なのだ。
これは「スペース・アドベンチャーズ」という宇宙旅行会社が提供していた旅行プラン。こんな高額で誰が行くんだよ!と思ったら、すでに7名もの人が参加している。そのうち1人は2回も。
この会社からISSへの宇宙旅行が催行されたのは2009年が最後だったが、原稿を書いているさなかの5月14日に、ZOZO創業者で実業家の前澤友作氏がスペース・アドベンチャーズ社から宇宙へ行くことが発表された。
前澤氏は、12月に打ち上げられるロシアの宇宙船ソユーズに搭乗して、高度400キロのISSに12日間滞在するという。テレビ出演時に費用は「数十億円」と発言されていた。どうも値上がりしたらしい。
ISSに行くには、宇宙飛行士の野口聡一さんや星出彰彦さんが搭乗していたSpace Xの新型宇宙船「クルードラゴン」を使う方法もある。NASAの公式料金表によると、価格は60億円とある……。
宇宙は、全然、身近じゃなかった。
人気なのは、2つ目のお手頃プランのほうだ。
それなら、なんと……2500万円で宇宙へ行ける。
「60億円が2500万円! 安い!」
と思った人は、詐欺に引っ掛かりやすそうだから気をつけよう。
これは「ヴァージン・ギャラクティック」社が提供する宇宙旅行プラン。
パイロットと乗客を乗せた宇宙船は、母船にくっつけられて上空まで運ばれる。高度10キロに達すると、宇宙船は母船から切り離され、エンジンを噴射して、高度100キロの宇宙のはじまりまでぶっ飛ばしていく。
宇宙空間に到着すると、乗客はシートベルトを外し、プカプカと無重力を体験しながら、煌めく星々や眼下に広がる地球を楽しむ。離陸から着陸まで約2時間。無重力を味わえる時間は……およそ5分。
たったの5分で2500万円!
「無重力で気持ち悪くなって吐いているうちに終わりそう」
なんて弱音を吐かない700名以上もの人が前金を払って順番待ちしている。世の中には、お金持ちがたくさんいるものだ。
本題はここから。
裏ワザを使えば、30万円で宇宙に行くことができる。
それは、生身の人間ではなく、骨になったら行けるプラン。「宇宙葬」というものだ。「なんだ、そういうことかぁ」とガッカリしないでほしい。これが実に楽しいのだ。
サービスの利用者は、1センチ四方のカプセルに遺灰を詰めて、人工衛星に搭載する。その衛星がどこを飛んでいるのかを、なんと、スマホで確認できるのだ。
なので「おぉ、今、おじいちゃんは地中海の上を飛んでるぞ!」と知ることができる。「そろそろ日本の上空を通るぞ」となれば、空を見上げて手を合わせてナムナムすればいい。もうお墓参りには行かなくていい。お墓のほうが回ってきてくれるのだ。
この背景にあるのが、超小型衛星の台頭である。簡潔にいえば、宇宙に物を持っていく費用が格安になった。
だから誰かを喜ばせる物を持っていけば、ビジネスになる。いわゆる「宇宙ビジネス」の1つである。
宇宙葬は、最後に粋なオマケがある。
宇宙業界には、
「役目を終えた人工衛星は大気圏に落として焼きつくそう」
という紳士協定がある。宇宙空間はみんなの場所なので、ゴミは残さず処分しようというわけだ。
遺灰を搭載した人工衛星が大気圏に落ちるとき、ピューっと夜空に駆ける一筋の流れ星になる。星になったおじいちゃん。星になったおばあちゃん。なかなか素敵じゃないだろうか?
よくよく考えてみると、骨になるときと、大気圏に再突入するときで2回も火葬されていることになる。めったにない経験だ。
30万円という価格も絶妙ではないだろうか。お葬式では、花や戒名のランクによって平気で数十万円くらい費用が変わってくる。オプションとして宇宙葬を選ぶのは、現実的である。
ということで、今は、人を楽しませるアイデアさえあれば、誰でも宇宙で活躍できる素晴らしい時代になったのだ。ほら、宇宙はなかなか身近でしょう?
こんな話を小中高の学校教育にも取り入れてみたら、未来の可能性はもっと広がってくるんじゃないかな。
現在の宇宙旅行の価格から、ゼロを1つ、2つ…もう一声で3つ! ほど取ってもらうべく、子どもたちへの宇宙教育にもっと力を入れていこうと思う。
それまでしばらくは、宇宙旅行は雲の上の存在だ。
お金持ちが大金を払って、無重力でプカプカ浮かぶ。これが本当の“ふゆう”層、なんてね。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年5月18日に公開した記事を転載しました)
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