【雪見だいふく】冬アイスのパイオニア 出張先の和菓子がヒント
多くの人に長年愛されるヒット商品を取り上げる「ロングセラーの秘伝」。今回はロッテの「雪見だいふく」です。
寒い季節に冷たいアイス。
おうち時間の楽しみの一つとして、「冬アイス」はすっかり定着した。
さまざまなアイスの中で真っ先に思い浮かべるのが、冷たいアイスをモチモチのやわらかい餅で包んだ、あの絶妙の組み合わせ。
おなじみの「雪見だいふく」だ。
大福とアイス。
ありそうでなかった発想は、どうやって生まれたのか。
ロッテの雪見だいふくブランド課長、安藤崇平(しゅうへい)さん(現在は戦略商品企画部担当)に尋ねた。
ロッテがアイス事業に進出したのは1970年代。
業界では後発だったため、当時の商品開発担当者たちは「普通のアイスでは先行するメーカーに太刀打ちできない」と考えたそうだ。
「だったら逆転の発想というか、アイスは春や夏が通常はよく売れるけれど、秋と冬に売れるものをつくろうということになったようです」と安藤さん。
ある日、研究員が地方出張に向かった。
出張先で偶然目にしたのが、餡(あん)をマシュマロで包んだ和菓子。
「これ、アイスに応用できるんじゃないか」
アイデアを持ち帰ったところ、同僚に「面白い」と評価され、すぐに研究開発をスタート。
そうして1980年、アイスをマシュマロで包んだ「わたぼうし」を発売した。
「わたぼうし」はヒットした。
しかし、担当者たちは満足していなかった。
和菓子をヒントに生まれたアイス。
こだわったのは、あくまでも「和風」だ。
研究開発を続け、絶妙の組み合わせにたどり着いた。
老若男女になじみが深い大福餅と洋風アイス。
1981年、「雪見だいふく」が誕生した。
冷やしても、やわらかくてモチモチの新食感には、さまざまな工夫がこらされている。
冷たいアイスを温かい餅で包み、急速冷凍で瞬時に冷やす。
冷凍しても、かたくなりにくくするために、米粉に糖などを加えている。
アイスは餅の食感に合うようクリーミーな味わいに。
餅には和菓子を連想する薄い粉を振った。これで容器にも貼りつかない。
そして、商品名。
冬をイメージする「雪見」のネーミングは、「暖かい部屋で、雪景色を見ながらアイスを食べてほしいという思いが込められました」(安藤さん)。
逆転の発想は、こうして実を結んだ。
アイスが売れるのは春と夏――。
「雪見だいふく」は、それまでのそんな常識も破った。
4月から8月は販売せず、あえて9月から翌年3月までの秋と冬に限定して販売。
夏場に「雪見だいふくが売られていない」という声が寄せられるのが恒例だった。
「秋冬限定だと知らないお客様も多かったようです」と安藤さん。
全国的に1年を通して販売するようになったのは2018年から。
通年販売になったことで売り上げも順調に増えているそうだ。
発売からちょうど40年。
大ヒット商品なのに、国内で同じような商品が出てこないのは、なぜなのか。
実は、「雪見だいふく」の発売当初、他のメーカーもアイスを餅で包んだ商品を発売した。
ただ、「雪見だいふく」だけが長く売れ続けた。
安藤さんは「ファーストエントリーというアドバンテージがあったと思っています」と話す。
アイスを餅で包む。
その組み合わせのおいしさとイメージは、「雪見だいふく」が世に広め、「雪見だいふく」だけのものになった。
商品、パッケージ、CMやキャンペーン。「雪見だいふく」がまとうイメージには一貫性がある。
「ほっこりした気持ちになれる。情緒的なイメージ。そういうブランドの世界観は、絶対に守っていかなければならないポイントです」と安藤さんは力を込める。
守るべきところがあれば、変えるところもある。
「時代に合わせた世界観をつくっていかないといけません」と安藤さん。
暖かい部屋で、雪景色を見ながら食べるアイス――。
そうした世界観も、「10年前と今とでは『ほっこりする』というイメージの受け止めが異なります。プロモーションでも、現代風にアレンジするようにしています」。
食感や味も変化している。
定番のバニラ味は、もちの食感やアイスの味を発売当初から少しずつ変えているそうだ。
また、「バニラ味以外のフレーバーも大変重要です」(安藤さん)。
イチゴ味やチョコ味は、日ごろバニラ味を食べている人に変化を楽しんでもらえる。
期間限定商品は、しばらく「雪見だいふく」を手に取っていない人たちを呼び戻す狙いもある。
「雪見だいふく」は発売以来、50種類以上のフレーバーが発売されてきたという。
新元号が令和に決まった2019年4月、ロッテは「平成の雪見だいふく復刻総選挙」を実施。
平成に生まれた24種類のフレーバーの中から、復刻させたい商品をファンに選んでもらった。
結果は――。
1位が〈抹茶〉、2位は〈ほうじ茶〉、3位は〈黄金のみたらし 厚もち仕立て〉だったそうだ。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年3月29日に公開した記事を転載しました)
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