【亀田の柿の種】宇宙へ飛んだビールのお供 柿の種とピーナツの「黄金比率」
多くの人に長年愛されるヒット商品を取り上げる「ロングセラーの秘伝」。今回は、亀田製菓の「亀田の柿の種」です。
多くの人に長年愛されるヒット商品を取り上げる「ロングセラーの秘伝」。今回は、亀田製菓の「亀田の柿の種」です。
コロナ禍の巣ごもりで広がった家飲み。
ビールのお供は、いつもこれ!
そんな人も多いだろう。
亀田の柿の種。
辛みをきかせたしょうゆ味のあられと、ピーナツの組み合わせ。
食卓や職場などに欠かせない“国民食”は、ついに宇宙にたどり着いた。
柿の種は100年ほど前、現在の新潟県長岡市の製菓店で誕生したとされる。
あられの金型として使っていた小判形の金属製の筒を、店の人がうっかり踏んで、三日月形にへこませてしまった。
当時、金型は貴重品。
変形した金型をそのまま使い、柿の種に形が似た米菓として売り始めた。
すると、その作り方が新潟県内の各地に広まったという。
米菓大手の亀田製菓(本社・新潟市)は、前身の団体だった1950年ごろから柿の種を製造していた。
ピーナツ入りの柿の種を発売したのは1966年のこと。
柿の種とピーナツのパッケージ商品を全国で販売したのは、亀田製菓が初めてだったそうだ。
その後、亀田製菓の柿の種は味や包装などに工夫を重ね、ロングセラーの道を歩んでいくことになる。
1977年に小分けの6パック入りの商品を発売。
アウトドアブームをとらえ、屋外でも食べやすいようにという狙いだった。
爆発的に売れるようになるのは、1980年代後半のビールの「ドライ戦争」がきっかけだった。
アサヒビールが発売した「スーパードライ」など辛口ビールが人気を集め、亀田の柿の種はビールのおつまみとしてすっかり定着。
1988年からの5年間で売り上げを大きく伸ばした。
もちろん、その人気に追随する類似商品も次々と現れた。
そこで亀田製菓は1994年、パッケージの左上に、信頼を示す青いラインの「ブルーリボン」を採用。
一目で「亀田の柿の種」と気づいてもらうようにする工夫だった。
いまや国内の米菓で売上ナンバー1。
海外でも多くの国・地域で販売されている亀田の柿の種。
長さは2.5センチほどで、1年間につくられる量をつないでいくと、地球から月までを1往復半以上移動する距離になるという。
亀田の柿の種の“味の御三家”と言えば、「しょうゆ味」「わさび味」「梅しそ味」だ。
定番のしょうゆ味は、柿の種とピーナツの絶妙なバランスを楽しめる。
2000年に発売されたわさび味は、爽やかな辛さの安曇野産本わさびを使用。
ツーンとくる辛さがクセになる。
爽やかな梅の香りの梅しそ味は2012年に発売。
ピリッとした辛さと酸味のハーモニーが口の中に広がる。
このほか、さまざまな風味の限定商品が次々と生まれ、ファンのすそ野を広げてきた。
「時代やニーズの変化にあわせた小さな変化は繰り返しています」
亀田製菓の経営企画部コーポレートコミュニケーションチームの池ノ上雄樹さんはそう話す。
当初は期間限定や地域限定だった商品の人気が高まり、全国展開で定番化した商品もある。
2020年度は、スーパーとコンビニで合わせて12種類以上の期間限定商品を売り出したという。
柿の種とピーナツの袋の中の比率は、これまでに何度か変わっている。
誕生当時は、柿の種とピーナツが重量比で7対3。
開発担当者が直感で決めたそうだ。
その後、ピーナツ価格が高騰した時代に「ピーナツを増やしたら喜ばれるのでは」と5対5にしたが、「お客様に好評ではありませんでした」(池ノ上さん)。
そこで、6対4に見直し、それが約40年続いてきた。
ただ、「お客様の食シーンの多様化で、比率についても様々なご意見をいただくようになっていました」と池ノ上さん。
ビールのお供ならピーナツが多いほうがいい。
でも、子どものおやつにはピーナツが少ないほうがいいーー。
消費者調査などでは、そんな声も寄せられていた。
そこで2019年、亀田製菓は「国民投票」と銘打ったキャンペーンを展開。
人気タレントのマツコ・デラックスさんを起用し、SNSなどを通じて柿の種とピーナツの比率のファン投票を実施した。
その結果……。
1位に輝いたのは7対3。
2位は8対2で、6対4はまさかの3位だった。
こうして柿の種とピーナツの比率は、2020年から誕生当時と同じ7対3になった。
発売からちょうど50年となった2016年、亀田製菓は10月10日を「亀田の柿の種の日」に制定した。
「1」が柿の種、「0」がピーナツに見えることが由来だ。
そしてこの年、もう一つのビッグプロジェクトが社内で動き出した。
亀田の柿の種を宇宙食にしようという挑戦だ。
研究開発を経て2017年、亀田の柿の種はJAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙日本食認証を米菓で初めて取得。
日本の宇宙飛行士が宇宙で食べられるおやつになった。
そして2020年。
アメリカの民間企業スペースXの新型宇宙船クルードラゴンが、11月16日に打ち上げられた。
クルードラゴンには、3度目の宇宙滞在となる日本人宇宙飛行士、野口聡一さんが搭乗。
野口さんの後を追うように、「亀田の柿の種(宇宙食)」が12月8日、国際宇宙ステーション(ISS)に届けられた。
半世紀を超えて歴史を刻み、ついに宇宙も飛んだ亀田の柿の種。
カリッとした軽快な食感を演出するため、柿の種の膨らみや内部の空洞の形状などは小さな進化を繰り返してきた。
ただ、池ノ上さんは言う。
「大切なのはお客様の変化に合わせ、進化を止めないことです。ただし、カリッとした軽快な食感のような、変えてはいけない部分を守り続けることも重要だと思います」
長命の秘密が、ここにある。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年4月11日に公開した記事を転載しました)
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