【薬用養命酒】400年の歴史にすがらず 「攻め」の企画を連発
多くの人に長年愛されるヒット商品を取り上げる「ロングセラーの秘伝」。今回は養命酒製造の「薬用養命酒」です。
自分が飲んでいなくても、家族や親戚に愛飲者がいる、という人は多いだろう。
テレビCMなどでよく見かける「薬用養命酒」。
そのルーツは400年以上昔にさかのぼる。
養命酒製造株式会社よると、信州(今の長野県)南部の伊那の谷に塩沢宗閑(しおざわ・そうかん)という庄屋がいた。
宗閑は「世の人々の健康長寿に尽くしたい」との思いから薬酒づくりを始め、1602(慶長7)年に薬酒を「養命酒」と名付けた。
養命酒の名は江戸期の複数の文芸作品にも登場する。
ただ、同社マーケティング部の結城雅史さんは「日常的には信州とその近隣で飲まれていたに過ぎないようです」と話す。
東京など大都市への販路拡大は明治に入ってから。
1923(大正12)年に前身の会社が設立された。
ただ、当初は売れず、営業の責任者が日比谷公園のベンチで「伊那の谷で300年も喜ばれてきたものが、なぜ分かってもらえないのだろう」とため息をついた、というエピソードも残っている。
その後、地道な営業や宣伝活動が実って徐々に飲む人が増え、輸出も拡大。
戦中・戦後の徴兵や物資統制で一時は販売が落ち込んだが、その後再び成長軌道に乗り、誰もが知るロングセラーの地位を築いた。
健康に良さそうなイメージはあるが、養命酒とはそもそも何なのか。
主成分は14種類の生薬で、鬱金(うこん)や桂皮(けいひ=シナモン)など、なじみのある素材も含まれる。
これを自社で醸造した本みりんにつけ込み、薬効成分を抽出する。
よくある質問に「養命酒はお酒か薬か」というものがある。
答えは両方。
アルコール度数は14度とワインと同等で、医薬品医療機器等法で第2類医薬品に分類される。
公式サイトでは、「正しい飲み方」は1日3回、各20㎖とされている。
マーケ部の結城さんは「ご自分の生活に合わせて、食前または就寝前に飲んでいただければ」と言う。
医薬品は健康食品と異なり、効能効果をうたうことができる。
養命酒は、肉体疲労、胃腸虚弱、冷え症など7つを掲げる。
シニア向け商品のイメージもある養命酒だが、20~30代にも効くのだろうか。
「若い男性の場合、食べ過ぎ飲み過ぎの際に下痢気味になることがあります。養命酒を飲んでいれば、胃腸の機能が活発になっておなかを壊しにくくなる。若い女性で冷え症だと感じる方も、1、2週間飲めば効果を実感していただけると思います」と結城さんは語る。
実際の購買層は60代以上が6割だが、40~50代が3割、20~30代が1割。
つまり50代以下が4割を占め、意外と多い。
男女比は半々という。
養命酒が全国区の知名度と販売実績を得られたのはなぜか。
家族や友人に勧められたという口コミも大きいが、無視できないのが新聞、雑誌、ラジオ、テレビというマス4媒体を使った広告宣伝だ。
新聞雑誌の広告は1930年、ラジオCMは1952年、テレビCMは1965年ごろから本格化した。
特にラジオとテレビには、それぞれの草創期から参入し、継続的にCMを打ってきた。
歴代のテレビCM出演者には大和田獏さん、みのもんたさん、藤田まことさん、草笛光子さんら大物がずらりと並ぶ。
最近だと、やや若めの世代を意識して藤井隆さん・乙葉さん夫妻を起用した。
ただ、販売量自体は1990年代後半に頂点に達し、いまだそれを超えられない。
原因の1つは、競合商品が増えたこと。
大手から新興まで、様々な会社がサプリメント、健康食品、機能性表示食品の分野に参入し、競争が激化した。
そんな中、近年注力する分野の1つにウェブでの販促活動がある。
2010年代に入り、ウェブ上で話題になる企画を次々に打ち出している。
2016年には養命酒のデザインを施したスマホ用モバイルバッテリーをプレゼントするキャンペーンを展開。
ちょうど「Pokémon Go」がはやり、バッテリーの需要が高まっていた時期だ。
「疲れに元気を補うという養命酒の本質的価値を、充電を補うバッテリーにかけて伝えたかった」とマーケ部の鳥山敦志さんは言う。
198個の枠に23万口以上の応募があるほどの反響だった。
2018年には、養命酒型のスマートスピーカー「AI養命酒」のプレゼント企画を実施。
おはようと声をかけると「おはようめいしゅ」、夏バテだと伝えると「養命酒がオススメです」など、何かと養命酒を勧めてくると話題になった。
2020年のキャンペーンでは、レジ袋有料化に合わせて「養命酒エコバッグ」を製作。
折りたたむと養命酒の瓶のキャラクターになるつくりで、一時ツイッターのトレンドで1位に躍り出た。
こうした「攻め」の企画で、ただちに売上が急増するわけではない。
それでも鳥山さんは「養命酒は自分の方を向いた商品ではないと考えていた若い世代が、例えば疲れた時に『養命酒があったな』と思い出してくれるかもしれない」と長い目で見た効果に期待する。
コロナ禍は養命酒に逆風と追い風の両方をもたらしている。
逆風は、イベントなどにブースを出して実施していた試飲会が開けなくなったこと。
まずは飲んでもらうことが大事だが、その機会を失った。
ただ、追い風も大きい。
「体を守る力」や「免疫力」に注目が集まり、健康への関心は高まっている。
そしてそれは、養命酒がもともと強みとしていた商品価値と重なる。
養命酒が今後もロングセラーであり続けるために何が必要か。
マーケ部の鳥山さんはこう言う。
「健康は一朝一夕に手に入るものではなく、養命酒も飲み続けることで効果が出る。養命酒の世界観や効き目、素材が天然由来であることを知っていただくため、地道な努力を重ねていきたい」。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年5月20日に公開した記事を転載しました)
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