目次

  1. 長野発の薬酒、東京では苦戦も
  2. 若い人にも「効果実感していただける」
  3. みのもんた、藤田まこと……テレビCMに大物ずらり
  4. ウェブで話題の企画続々 その狙いは
  5. コロナ禍で「体を守る力」に注目

自分が飲んでいなくても、家族や親戚に愛飲者がいる、という人は多いだろう。

テレビCMなどでよく見かける「薬用養命酒」。

そのルーツは400年以上昔にさかのぼる。

養命酒製造株式会社よると、信州(今の長野県)南部の伊那の谷に塩沢宗閑(しおざわ・そうかん)という庄屋がいた。

宗閑は「世の人々の健康長寿に尽くしたい」との思いから薬酒づくりを始め、1602(慶長7)年に薬酒を「養命酒」と名付けた。

養命酒の名は江戸期の複数の文芸作品にも登場する。

ただ、同社マーケティング部の結城雅史さんは「日常的には信州とその近隣で飲まれていたに過ぎないようです」と話す。

養命酒の創始者にあたる塩沢宗閑。山で集めた生薬で薬酒づくりを始めたと伝わる=断りのあるものを除き写真は同社提供

東京など大都市への販路拡大は明治に入ってから。

1923(大正12)年に前身の会社が設立された。

ただ、当初は売れず、営業の責任者が日比谷公園のベンチで「伊那の谷で300年も喜ばれてきたものが、なぜ分かってもらえないのだろう」とため息をついた、というエピソードも残っている。

 

その後、地道な営業や宣伝活動が実って徐々に飲む人が増え、輸出も拡大。

戦中・戦後の徴兵や物資統制で一時は販売が落ち込んだが、その後再び成長軌道に乗り、誰もが知るロングセラーの地位を築いた。

1950(昭和25)年ごろの宣伝活動の様子。牛にまたがり、養命酒の旗を掲げ、ほら貝を吹いている

健康に良さそうなイメージはあるが、養命酒とはそもそも何なのか。

主成分は14種類の生薬で、鬱金(うこん)や桂皮(けいひ=シナモン)など、なじみのある素材も含まれる。

これを自社で醸造した本みりんにつけ込み、薬効成分を抽出する。

養命酒に溶け込んでいる14種の生薬(インヨウカク、ウコン、ケイヒ、コウカ、ジオウ、シャクヤク、チョウジ、トチュウ、ニクジュヨウ、ニンジン、ボウフウ、ヤクモソウ、ハンピ、烏樟)。複数の生薬を組み合わせることで効き目の幅が広がるという。効能は「胃腸虚弱 、食欲不振、血色不良、冷え症、肉体疲労、虚弱体質、病中病後の場合の滋養強壮」をうたう

よくある質問に「養命酒はお酒か薬か」というものがある。

答えは両方。

アルコール度数は14度とワインと同等で、医薬品医療機器等法で第2類医薬品に分類される。

公式サイトでは、「正しい飲み方」は1日3回、各20㎖とされている。

マーケ部の結城さんは「ご自分の生活に合わせて、食前または就寝前に飲んでいただければ」と言う。

養命酒の製法の載った古文書。当初製法に書かれていた生薬は8種で、新たに6種を加えて現在の14種になった

医薬品は健康食品と異なり、効能効果をうたうことができる。

養命酒は、肉体疲労、胃腸虚弱、冷え症など7つを掲げる。

 

シニア向け商品のイメージもある養命酒だが、20~30代にも効くのだろうか。

「若い男性の場合、食べ過ぎ飲み過ぎの際に下痢気味になることがあります。養命酒を飲んでいれば、胃腸の機能が活発になっておなかを壊しにくくなる。若い女性で冷え症だと感じる方も、1、2週間飲めば効果を実感していただけると思います」と結城さんは語る。

 

実際の購買層は60代以上が6割だが、40~50代が3割、20~30代が1割。

つまり50代以下が4割を占め、意外と多い。

男女比は半々という。

養命酒が全国区の知名度と販売実績を得られたのはなぜか。

家族や友人に勧められたという口コミも大きいが、無視できないのが新聞、雑誌、ラジオ、テレビというマス4媒体を使った広告宣伝だ。

1930(昭和5)年ごろの新聞広告。戦後間もない頃は虚弱体質に、近年は冷え症や肉体疲労にと、時代ごとの健康問題を解決できると伝えてきた

新聞雑誌の広告は1930年、ラジオCMは1952年、テレビCMは1965年ごろから本格化した。

特にラジオとテレビには、それぞれの草創期から参入し、継続的にCMを打ってきた。

歴代のテレビCM出演者には大和田獏さん、みのもんたさん、藤田まことさん、草笛光子さんら大物がずらりと並ぶ。

最近だと、やや若めの世代を意識して藤井隆さん・乙葉さん夫妻を起用した。

 

ただ、販売量自体は1990年代後半に頂点に達し、いまだそれを超えられない。

原因の1つは、競合商品が増えたこと。

大手から新興まで、様々な会社がサプリメント、健康食品、機能性表示食品の分野に参入し、競争が激化した。

そんな中、近年注力する分野の1つにウェブでの販促活動がある。

2010年代に入り、ウェブ上で話題になる企画を次々に打ち出している。

2016年には養命酒のデザインを施したスマホ用モバイルバッテリーをプレゼントするキャンペーンを展開。

ちょうど「Pokémon Go」がはやり、バッテリーの需要が高まっていた時期だ。

 

「疲れに元気を補うという養命酒の本質的価値を、充電を補うバッテリーにかけて伝えたかった」とマーケ部の鳥山敦志さんは言う。

198個の枠に23万口以上の応募があるほどの反響だった。

養命酒デザインのモバイルバッテリー。20~40代を中心に応募が殺到した

2018年には、養命酒型のスマートスピーカー「AI養命酒」のプレゼント企画を実施。

おはようと声をかけると「おはようめいしゅ」、夏バテだと伝えると「養命酒がオススメです」など、何かと養命酒を勧めてくると話題になった。

 

2020年のキャンペーンでは、レジ袋有料化に合わせて「養命酒エコバッグ」を製作。

折りたたむと養命酒の瓶のキャラクターになるつくりで、一時ツイッターのトレンドで1位に躍り出た。

ソニーのスマートスピーカーに養命酒の外観をまとわせたAI養命酒。12個のプレゼント枠に87000口の応募があった

こうした「攻め」の企画で、ただちに売上が急増するわけではない。

それでも鳥山さんは「養命酒は自分の方を向いた商品ではないと考えていた若い世代が、例えば疲れた時に『養命酒があったな』と思い出してくれるかもしれない」と長い目で見た効果に期待する。

コロナ禍は養命酒に逆風と追い風の両方をもたらしている。

逆風は、イベントなどにブースを出して実施していた試飲会が開けなくなったこと。

まずは飲んでもらうことが大事だが、その機会を失った。

 

ただ、追い風も大きい。

「体を守る力」や「免疫力」に注目が集まり、健康への関心は高まっている。

そしてそれは、養命酒がもともと強みとしていた商品価値と重なる。

長年力を入れてきたテレビCM。2020年6月からは草刈正雄さんを起用している=養命酒製造公式YouTubeより

養命酒が今後もロングセラーであり続けるために何が必要か。

マーケ部の鳥山さんはこう言う。

「健康は一朝一夕に手に入るものではなく、養命酒も飲み続けることで効果が出る。養命酒の世界観や効き目、素材が天然由来であることを知っていただくため、地道な努力を重ねていきたい」。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年5月20日に公開した記事を転載しました)