目次

  1. 出張手当とは 出張の定義・考え方
    1. 出張手当と出張経費の違い
    2. 出張手当の相場(日当)
  2. 出張手当のメリット・デメリット
    1. 出張手当のメリット
    2. 出張手当のデメリット
  3. 出張手当の支給制度を始めるための3ステップ
    1. ステップ1 出張旅費規程の整備
    2. ステップ2 システムの設定
    3. ステップ3 運用・改善
  4. 出張手当の金額を変更したいときは
    1. 出張手当を減らしたい(節約したい)場合 距離別単価など
    2. 出張手当を増やしたい場合
  5. 出張手当を活用して従業員の負担を減らそう

 出張手当とは、従業員が出張した際に、出張をしなければ、従業員が負担しなかったであろう経費を概算的に支給する手当です。

 例えば、出張をする場合、食事はコンビニで買ったり外食をしたりすることになり、普段から自炊をしている方だといつもより食費が高くつくことになります。出張手当は、この外食代分を補助するなどの名目で支払われます。

 また、出張をすると、肉体的にも精神的にも疲弊します。その疲弊に対して、慰労するという意味も持ち合わせています。

 このように、出張の際にかかる従業員の経済的な負担や肉体的・精神的な負担に対して慰労するために支給されるのが、出張手当です。

 出張の定義について、次のように説明しています。

一般に、宿泊を必要とする出張、もしくは片道100km~200km以上の移動を伴う日帰り出張を「出張」として取り扱う企業が多いようです。なお、「片道100~200km未満の場所に外出する場合は、単なる外出として交通費実費を支給し、日当は支払わない」とする場合には、その旨も記載しておきます。

旅費交通費支給規程(中小企業基盤整備機構が運営するポータルサイト「J-Net21」)

 出張手当に似た言葉に、出張経費があります。出張手当と出張経費の大きな違いは、実費精算をするか否かです。

 出張手当は、一日あたりいくらといった形で、固定した金額を出張日数に応じて支払います。

 一方の出張経費は、出張に際して実際にかかった経費を、領収書などの根拠とともに実費を精算します。新幹線や飛行機のような交通費から、ホテルの宿泊費などが対象になることが多いです。

 なお、多くの企業は、出張経費と出張手当を両方支給しています。そのため、どこまでを出張手当でカバーするかは会社によって異なります。

 出張手当をいくら出すかは、会社によってさまざまです。

 産労総合研究所が2021年9月に発行した『2021年度 国内・海外出張旅費に関する調査』によれば、一日あたりの出張手当の平均額は以下のような結果でした。

国内出張(日帰り) 国内出張(宿泊) 海外出張
一般社員 2,000円 2,500円 4,600円〜5,000円
管理職 2,400円 3,000円 5,200円〜5,500円
役員 3,300円 4,000円 7,100円〜7,600円

(引用:2021年度国内・海外出張旅費に関する調査 p.8、p.18、p.37│産労総合研究所

 海外出張に幅があるのは、出張先によって金額が異なるからです。日本よりも物価が安いアジア圏であれば手当は低くなりますし、そうではない欧米であれば高くなります。

 この相場感を確認すると、外食で3食分をカバーしているというのが読み取れます。もちろん、この金額よりも高く設定することも可能です。

 しかし、相当程度高くする場合には、適切な理由が必要になるでしょう。適切な理由がないと国税庁が出張手当と認めてくれず、後述するメリットが享受できない可能性があります。

 出張手当には、主に次のようなメリット・デメリットがあります。

メリット デメリット
・各種税金を減らせる
・従業員の士気が高まる
・精算の手間がかからない
・規程整備を実施する必要がある
・支出が多くなる
・悪用される恐れがある

 順に詳しく解説しましょう。

①各種税金を減らせる

 出張手当は、全額損金として計上し、法人税などの各種税金を減らすことができます。国内出張に関する出張手当は、仕入税額控除の対象となるため、消費税の納税額を減らすことも可能です。

 税務上のメリットは、企業だけではなく従業員にもあります。

 出張手当は、給与ではなく立替経費扱いとなり、給与所得にはなりません。給与所得にならないので、源泉徴収されず全額支払われます。年末調整や社会保険料を算定するときも対象外です。

 一方、出張手当は、実際に従業員が負担する金額よりも、基本的に多く支払われます。こうした仕組みから、出張手当を支給すると、従業員の手取りを単純に増やすことになります。

②従業員の士気が高まる

 出張は好きな人もいますが、場合によっては長時間の移動が伴い、着替えなどの荷物もたくさん持ち運ぶことになるため、なるべくなら行きたくないという従業員も少なくありません(筆者は好きな方ですが、筆者が担当している企業から、「出張に行きたくない」という従業員がいて困っている、という話をときおり聞きます)。

 そうした従業員に金銭的に報いることで、少しでも嫌な気持ちを和らげることができます。

 また、出張手当は支給している会社が圧倒的に多く、前述の『2021年度 国内・海外出張旅費に関する調査』によれば、調査対象となった企業のうち支給している企業は92%でした。

 もし何かのきっかけで他社と比較された際に、自社だけが支給をしていないと従業員の士気が下がることも考えられます。

③出張経費よりも精算の手間がかからない

 出張手当は、出張経費と異なり、出張日数に単価をかけるだけで支給額を計算できます。

 出張経費の場合は、実際に従業員が支払った領収書などを収集し、内容が確かかどうかを担当部署が確認してから支給する必要がありますが、出張手当であればそうした手続きが不要です。

①規程整備を実施する必要がある

 出張手当は、概算で支給する経費のため、規程整備を行った上で支給する必要があります。また、規程整備を行う際には、その出張手当が不当に高くないとする根拠も文書に残すことが求められます。

②支出が多くなる

 出張手当は、出張の都度、概算で支払われる手当です。前述の通り、一般的には、従業員が負担する金額よりも多額の支給になることが多いため、本来払わなくても済むお金を支払うことになります。

③悪用される恐れがある

 出張手当は、領収書など、外部から入手する資料なしで支給できます。そのため、出張の有無は、従業員からの申告次第です。

 一般の社員であれば、その部署の上司が作成する命令簿があれば、出張の事実を担保できます。しかし、役職者などになると、その命令簿を偽造することでカラ出張が簡単にできるため、異常な回数の出張となっていないかをモニタリングする手間が増えます。

 出張手当の支給制度を始めるには、主に次の手順を踏むことになります。

 出張手当を支給する際には、出張旅費規程を作成するか、給与規程などに内容を盛り込まなければいけません。規程の整備には、案を作成したあと関係部署と調整を行い、役員の承認を受ける必要があります。

 また、出張手当の水準は、目安はあっても実際の金額は、各社でバラバラです。そのため、いくらにするかといった点も議論の余地があり、作成に時間がかかることが想定されます。

 人事部や経理部だけでなく、実際に出張する営業に関する部署等も巻き込んで、実態を把握しながら作成することが良いでしょう。

 なお、規程の整備に関して、盛り込むべき内容としては、以下のサイトが参考になります。

 参考:旅費交通費支給規程│J -Net21 独立行政法人中小企業基盤整備機構

 規程を整備したら、その規程通りに運用できるように、システムの設定をしましょう。勤怠システムや経費精算システムに、出張日当のマスタ(各種システムにおいて単価を設定しておくデータベースの一部)があれば、そのマスタに規程通りの金額を入れる必要があります。

 また、このタイミングで、出張日当を算出するために従業員から提出してもらう報告書を新規に作成します。

 規程の整備やシステムの設定を行ったら、いよいよ運用です。

 ただ、実際に運用を開始すると、予測もしなかった不具合・トラブルが見つかることもあります。例えば、出張手当が思った以上に負担になっている、従業員から出張手当が少ないと言われるなどです。

 出張手当は従業員の利益・不利益に直結するため、規程の変更を視野に入れて、最適化を目指すことが大切です。規程の変更をしたら、システムの変更や、変更したことによるトラブルがないかどうかも監視するようにしましょう。

 なお、出張手当を減らす場合・増やす場合の方法や注意点は、次項で詳しく解説します。

 最後に、出張手当の金額を変更するときの方法と注意点を、減らしたい(節約したい)場合と増やしたい場合に分けてご紹介します。

 出張手当を減らす(節約する)方法には、具体的に次のようなものがあります。

  • 一日あたりの単価を下げる
  • 地域や距離別で日当単価を設定し、近郊への出張手当の単価を下げる
  • オンライン会議ツールの活用などで出張回数を減らす

 出張手当の規程を改訂して減額する場合、従業員にとって不利益になるため慎重に行わなければいけません。

 具体的な改訂案が決まったら、従業員全員に説明を行い、そのあと従業員が20名以下の企業であれば、従業員全員から同意書を得るのが無難です。同意書を取ることが難しいときは、従業員の代表者を通じて、意見書を収集するようにしましょう。

 また、規程の不利益変更の場合、従業員の士気が落ちていることが想定されるため、ケアすることが求められます。

 一方、オンライン会議ツールの活用などで出張回数を減らすことは、規程に明記をするようなものでもありませんので、上述のような手順を踏む必要はありません。また、出張が負担だと考えている従業員にはメリットになるでしょう。 

 出張手当を増やす場合は、従業員にとって不利益にならないため、規程の変更案を作成して従業員に説明を行ったときに、意見がなければ変更しても差し支えないでしょう。

 ただし、繰り返しになりますが、その金額が妥当かどうか、国税庁に説明できるように設定しなければいけません。

 新型コロナウイルスの影響で、出張が減少した企業は多いでしょう。

 しかし、一部の業務は、対面で会って仕事を進めていくことで仕事の質が高まる、というのも実感できたことと思います。オンラインが注目されていますが、今後も出張が必要な場面は間違いなくあるでしょう。

 その際に、従業員の士気を下げないことが重要です。出張を行うと、肉体的・精神的にも負担があります。その負担感を少しでも和らげて、重要な人材を流出させず、さらに税務上のメリットも取れるのが出張手当です。