銀行取引約定書とは?会社が知っておくべき内容と対応を専門家が解説
銀行取引約定書とは、銀行から融資を受ける際に取り交わす契約書です。銀行取引約定書の内容を経営者が把握しておかなかったばかりに、想定していなかった思わぬ事態になることもあります。この記事では、契約書にもとづいて銀行が取ってくる行動を4つピックアップし、その対策方法を解説しています。
銀行取引約定書とは、銀行から融資を受ける際に取り交わす契約書です。銀行取引約定書の内容を経営者が把握しておかなかったばかりに、想定していなかった思わぬ事態になることもあります。この記事では、契約書にもとづいて銀行が取ってくる行動を4つピックアップし、その対策方法を解説しています。
銀行取引約定書とは、ある銀行から初めて融資を受けるときに交わす契約書です。
融資取引は個々の事情による部分が大きく、取引の度にその内容が変わります。
ただ、その都度すべてを盛り込んだ契約書を交わしていると会社・銀行双方の負担が大きいため、「まずは融資取引に共通する基本的な事項を守る約束をしましょう」という意味合いで取り交わすのが銀行取引約定書です。
それぞれの銀行で銀行取引約定書のひな型が用意されており、会社はそれに署名・捺印します。会社側から銀行取引約定書の内容の変更を交渉することはできません。
融資には、証書貸付・手形貸付・当座貸越・手形割引(でんさい割引も含む。以下「手形割引」とします)の4種類があります。
この中で証書貸付・当座貸越の方法で融資を受ける場合、銀行取引約定書だけでなく、融資を受ける度にその具体的内容が記載された契約書(金銭消費貸借契約書・当座貸越契約書)を交わします。
一方、手形貸付・手形割引の方法で融資を受ける場合、初回に銀行取引約定書を交わすのみで、融資の度に別の契約書を交わすことはありません。
融資の方法 | 銀行と交わす契約書 | |
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証書貸付 | 銀行取引約定書 (その銀行から初めて融資を受けるときに交わす) |
金銭消費貸借契約書 (融資を受ける都度交わす) |
手形貸付 | - | |
当座貸越 | 当座貸越契約書 (当座貸越を設定するときに交わす) |
|
手形割引 | - |
融資を受けたとき、会社の業績や財務内容が悪化せず、遅れずに融資の返済を続けていれば問題が起こることはありません。
しかし、そうではないとき、銀行取引約定書の内容に基づいて銀行が行動を起こしてきます。
ここでは、ある銀行の銀行取引約定書に記載される条項(細かな文言は個々によって異なりますが、よくある内容と捉えていただいて問題ありません)をもとに、「銀行が起こしてくる4つの行動」をご紹介します。またそれに向けて、会社が取るべき対策も解説します。
(条項例1) |
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①甲(債務者)について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙(銀行)からの通知催告等がなくても、甲は乙に対するいっさいの債務について、当然期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとします。 1.破産手続開始、民事再生開始、会社更生手続開始もしくは特別清算開始の申立があったとき。 |
②甲について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙からの請求によって甲は乙に対するいっさいの債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとします。 1.甲が乙に対する債務の一部でも履行を遅滞したとき。 |
融資を約定に基づき遅れずに返済していればよいのですが、遅れた場合に、銀行取引約定書に基づき銀行が行動を起こしてきます。それが「期限の利益の喪失」です。
期限の利益とは、銀行と約定した返済条件、例えば証書貸付「金額3000万円、返済期間5年、60回返済」の融資であれば毎月50万円と利息を支払えば、いきなり融資残高の一括返済は求められないことを言います。
「期限の利益の喪失」とは、それの喪失であり、銀行に融資残高を一括で返すように求められる状態になることです。
「期限の利益の喪失」は、主に次の場合に行われます。
(条項例1)を見ると「②甲(債務者)について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙(銀行)からの請求によって甲は乙に対するいっさいの債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとします。1.甲が乙に対する債務の一部でも履行を遅滞したとき」とあります。
延滞を1回でもしたら、ただちに期限の利益を喪失し、融資残高を一括で返済しなければならないという意味です。ただ、実務では延滞の状態を3~6カ月延滞した場合に喪失するのが通常です。
【会社がすべき対応】
期限の利益を喪失する会社の場合、一括返済できるだけの資金がないことがほとんどでしょう。
そうなると銀行は融資を回収するために、不動産の競売や連帯保証人への取り立てなどを行ってきます。
競売や連帯保証人への取り立てに進まないようにするためには延滞を放置せず、銀行と交渉して返済額を減らしてもらう、返済の猶予(リスケジュール)をしてもらうようにするべきです。
税金を滞納していた場合は税務署から、社会保険料を滞納していた場合は年金事務所からいきなり差し押さえをされることがあります。また、買掛金等の支払いが滞っていれば取引先から差し押さえをされることもあります。
(条項例1)の次の条項を見てみましょう。
「①甲(債務者)について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙(銀行)からの通知催告等がなくても、甲は乙に対するいっさいの債務について、当然期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとします。 4.甲またはその保証人の預金その他の乙に対する債権について仮差押、保全差押または差押の命令、通知が発送されたとき」
「②甲について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙からの請求によって甲は乙に対するいっさいの債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとします。 2.担保の目的物について差押、または競売手続の開始があったとき」
とあります。
①4は、融資を受けている会社もしくはその連帯保証人(その会社の社長が連帯保証人となっていることが通常)が保有する、融資を受けている銀行での預金口座が差し押さえられたケース、②2はその銀行への担保としている不動産等が差し押さえられたケースです。
このように税務署等から預金や不動産を差し押さえされると、期限の利益が喪失し、銀行から融資残高の一括返済を要求されてもおかしくありません。
【会社がすべき対応】
実務では、差し押さえがあっても銀行が一括返済の要求をしてくることは少なく、差し押さえしてきた相手に対して差し押さえを解除してもらう交渉をするように、と言われることが多いです。
ただし、差し押さえは今後の融資審査に大きな影響が出てきてしまいます。
差し押さえの対象となった支払い(税金滞納等)を行った上で差し押さえを解除してもらい、差し押さえされた経緯の説明と今後の経営改善策を銀行にしっかり説明するようにしましょう。
(条項例2) |
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①利息、割引料、保証料、手数料、違約金、清算金(以下「利息等」という)、これらの戻しについての割合および支払の時期、方法については、別に甲乙間で合意したところによるものとします。ただし、金融情勢の変化その他相当の事由がある場合には、甲(債務者)または乙(銀行)は相手方に対し、これらを一般に合理的と認められる程度のものに変更することについて協議を求めることができるものとします。 ②甲の財務状況の変化、担保価値の増減等により、乙の債権の保全状況に変動が生じた場合には、利息等の割合の変更についても前項と同様とします。 ③甲は、乙に対する債務を履行しなかった場合には、支払うべき金額に対し年14%の損害金を支払うものとします。この場合の計算方法は年365日の日割計算とします。 |
融資を受けている会社の財務状況が悪化した(決算書や試算表の内容が悪化した)場合や金融情勢が変化した(市場の金利が上がった)場合に、銀行はこの条項を根拠に金利の引き上げを要求してくることがあります。
【会社がすべき対応】
銀行は金利引き上げの協議を求めることはできても、一方的に金利引き上げを会社に応じさせることはできないため、断ればよいです。
ただし、金銭消費貸借契約書で、短期プライムレートなどに連動して金利が上下することを決められている場合は除きます。
なお、銀行取引約定書には、(条項例2)のように「甲または乙は相手方に対し」と記載されるのが一般的のため、会社から銀行に対して金利を引き下げるように要求することも可能です。
(条項例3) |
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①期限の到来、期限の利益の喪失、買戻債務の発生、求償債務の発生その他の事由によって、甲(債務者)が乙(銀行)に対する債務を履行しなければならない場合には、乙は、その債務と甲の預金その他乙に対する債権とを、その債権の期限のいかんにかかわらず、いつでも相殺することができるものとします。 ②前項の相殺ができる場合には、乙は事前の通知および所定の手続を省略し、甲にかわり諸預け金の払戻しを受け、債務の弁済に充当することもできます。この場合、乙は甲に対して充当した結果を通知するものとします。 ③前2項により乙が相殺または払戻し充当を行う場合、債権債務の利息、割引料、清算金、損害金等の計算については、その期間を乙の計算実行の日までとします。また、利率、料率等は甲乙間に別の定めがない場合には乙が合理的に定めるところによるものとし、外国為替相場については乙による計算実行時の相場を適用するものとします。 |
返済を延滞した場合や税務署等から差し押さえされた場合、その他銀行が必要と考えた場合、銀行が融資を受けている会社や連帯保証人の自行の預金口座をロック(預金口座から出金できないように)してくることがあります。(条項例3)が、その根拠となる条項です。
(条項例3)①で言われている相殺とは、融資と預金とを相殺することを指します。例えばある銀行で融資残高5,000万円あり、一方でその銀行で預金残高が2,000万円あれば、その預金2,000万円を全て、融資の返済にあてられるなどです。そのための準備として行われるのが預金ロックということです。
なお(条項例3)①の「その他の事由」は(条項例1)の②6にある「債権保全を必要とする相当の事由が生じたと客観的に認められるとき」も含まれます。つまり、返済を遅れずに行っていても、業績悪化などにより銀行が融資の回収を懸念した場合にも預金ロックされることがあります。
【会社がすべき対応】
まずは、融資のある銀行では、なるべく預金残高を置いておかないという対策が考えられます。
また、融資のある銀行では定期預金を作らない方がよいでしょう。その会社が融資の返済ができなくなったときのために定期預金を確保しておきたい、と考える銀行が多く、すぐに解約させてもらえないことが珍しくないからです。
事実、解約を申し出ると、相手が窓口の銀行員からその上司に代わり、解約したい理由を尋ねられ、引き止められることがよく行われます。
(条項例4) |
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①甲(債務者)は、貸借対照表、損益計算書等の甲の財務状況を示す書類の写しを、定期的に乙(銀行)に提出するものとします。 ②甲は、乙による甲の財産、経営、業況等に関する調査に必要な範囲において、乙から請求があった場合には、遅滞なく書類を提出し、もしくは報告をなし、または便益を提供するものとします。 ③甲は、その財産、経営、業況等について重大な変化が生じたとき、または生じるおそれがあるときは、乙に対して遅滞なく報告するものとします。 ④甲または甲に関する保証人について後見・補佐・補助開始もしくは任意後見監督人専任の審判を受けたときは、甲または甲の後見人、保佐人、補助人、任意後見監督人は乙に対して書面により報告するものとします。 |
融資を受けた会社は、決算期が過ぎて新しい決算書ができるごとに、銀行から決算書の提出を要求されます。
その根拠は(条項例4)「甲(債務者)は、貸借対照表、損益計算書等の甲の財務状況を示す書類の写しを、定期的に乙(銀行)に提出するものとします」です。
もし決算書の提出を拒んだ場合、(条項例1)「②甲について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙からの請求によって甲は乙に対するいっさいの債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとします。 3.甲が乙との取引約定に違反したとき」が適用されます。
つまり、決算書を銀行に提出しないと、銀行は期限の利益を喪失させて融資残高の一括返済を求めてくることもありうるということです。
【会社がすべき対応】
会社としては、銀行からの要求に対して誠実に応えるべきです。
ただ、新規の融資を申し込んでいないのになぜ新しい決算書を提出する必要があるのか、と思うかもしれません。
融資は、最後まで返済してこそ銀行に収益をもたらします。途中で返済できなくなって、銀行がお金を回収できなくなれば貸倒れとなってしまいます。
そこで、返済が最後までしっかり行えそうかどうか常に見ておく必要があるため、銀行は毎期、決算書の提出を企業に求めているのです。
上記で述べた「期限の利益の喪失による一括返済の要求」「金利の引き上げ」「預金ロック」「決算書の要求」は、いずれも銀行が銀行取引約定書に記載されている条項に基づいて行ってくるものです。
いきなり銀行にそのような行動を取られたと慌てないようにするためにも、銀行取引約定書の内容はしっかり読み込み、分からないところは銀行に聞いて解決しておいてください。
また、銀行取引約定書は銀行と会社、双方が1通ずつ持つ場合と、会社が銀行に差し出す場合があります。後者の場合は、銀行取引約定書のコピーを必ずもらってください。
その上で、もし銀行取引約定書にかかわる問題が起こったときは、第三者(弁護士、税理士、コンサルタントなど)に相談するとよいでしょう。
ただし、銀行取引に精通していない場合だと最善手をとれないこともあるため、支援を依頼する前に確認を取ることをお勧めします。
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