結婚退社→主婦→職場復帰 サンリオエンタ小巻亜矢社長を支えた原動力
ビジネスの最前線で活躍するリーダーたちはどんな若手時代を過ごしたのか。さまざまな分野のリーダーに「若手時代をどう過ごしたか」「いま若手なら何をするか」を語ってもらうインタビュー企画です。
ビジネスの最前線で活躍するリーダーたちはどんな若手時代を過ごしたのか。さまざまな分野のリーダーに「若手時代をどう過ごしたか」「いま若手なら何をするか」を語ってもらうインタビュー企画です。
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大学卒業後、「みんな仲良く」という会社理念に魅かれ、サンリオに入社。その後結婚、出産、子育てなどを経て、現在はサンリオエンターテイメント代表取締役社長・サンリオピューロランド館長を務める小巻亜矢さん(61)。サンリオ退社後の職場復帰を支えた“原動力”は何だったのでしょうか。
――若手時代に経験して、現在の社長としての業務に生きていることは何でしょうか?
20~30代のころはいい意味でなんとかなると思っていました。20~30代当時はキャリアプランという言葉もまだ馴染みがない時代でしたし、今後のキャリアのようなことは考えたことがなかったですね。就職は1番入りたかったサンリオに入ることができて、そこでまず有頂天になっていました(笑)
ただ若い頃に経験してよかったことでいえば、25歳で結婚して、アメリカのサンフランシスコで生活をしたことで、色々な価値観のある人に出会えたことだと思います。キャラクターの魅力を考えるときに、なぜキャラクターが介在すると海外の人とのコミュニケーションがスムーズなんだろうとか、色々な場面で生きていると思います。
――サンリオに入社した動機は何だったのでしょうか?
当時サンリオが出していた「いちご新聞」がサンリオのお店で売っていて、そこで見たサンリオ社内で働いている方の姿がすてきで。「社員は好きな時間に散歩に行くんだ。そうしないと自由な発想ができない」という内容に新しさを感じました。
そして、会社の理念が「みんな仲良く」というメッセージを創業社長が“いちごの王さま”として発信していた内容を読んで、「お友達を大切にしよう」など本当にすてきなメッセージだなと思っていました。なので、サンリオのキャラクターが大好きだから、というよりも創業社長の理念に魅かれて入社しました。
キャラクターについては、「どうすればもっと魅力的に見せることができるか」という視点で見ていますね。キャラクターはすごいな、と思ったことは何度もあります。ピューロランドの仕事でいえば、キャラクターが生きがいだとおっしゃってくれるお客さまもいますし、キティちゃんが描かれたコップなら苦手なお薬も飲めるというお子さまもいます。キティちゃんの絆創膏を貼ると、傷が痛くても泣き止むとか。どこかキャラクターのマジックと言いますか、魅力みたいなものはよく感じて、すごいな、と常に思っています。
――サンリオに入社した当時のお仕事はどういったものだったんでしょうか?
最初は直販部という、ギフト売り場のお姉さんとして売り場に立っていました。それがやりたかったんです。「みんな仲良く」というサンリオの理念を体感できるのが売り場だと思いましたし、最前線でサンリオの価値を体験できたと思います。どんな顔で子どもたちが喜んでいるのか、どんなエネルギーが生まれるのか。きっとそれを感じたかったのだと思います。
今でもその経験は生きていて、売り場のお客さまの反応にたくさんヒントはあるなということが染みついています。
――20~30代当時、チャレンジしたな、と思えることはありましたか?
毎日が挑戦だったかもしれません。結婚、出産、子育ては人生においてとても大きなチャレンジでした。仕事にもやはり大きく影響していると思います。
友達から聞いたり、親から聞いたり、ということはあるかもしれませんが、結婚や出産、子育ては、みなさん体系的に学ばないまま突入すると思います。
なので、初めての経験を自分の中で仮説を立てながらやるという行為ですよね。すごく大切なことなのに、「非常に実験的だな」とどこかで客観的に見ている自分がいましたね。「この1時間はこういう風に過ごしてみよう」「この1時間が終わったら自分にご褒美をあげよう」という形で、どこか客観的に過ごしていました。
ご褒美といっても、ブランド品を買うとかではなくて、好きな食べ物を食べようという感じです。子育ても客観的に自分で見て、行動を変えるということはやっていたと思います。
――仮説を立てて取り組む、という考え方は無意識にやられていたんでしょうか。それとも何かきっかけのようなものがあったんでしょうか?
私の場合、小学校5年生くらいからそういう考え方をしていたかもしれません。小学校5年生くらいのときに、家族で嫌なことがあったんです。ただ、私はすごく優等生気質といいますか、弱みを見せることができなかったんです。
そこで自分が自分の親友だったら、なんて言ってあげたいかなと思ったんですね。それで紙に書き出して。「1年後のきょうはこんな状態じゃないよ」って。すごくませた子どもですよね(笑)
――すごいですね。
ちょっと変わっているかもしれませんけど小学校5年生は結構大人ですよ。それが原点でずっと続いているような気がします。
20代で結婚して環境がガラッと変わって。海外に行ってまたガラッと変わって。子どもが生まれて母親という立場になってまた変わって。環境がガラッと変わるたび、時間を細切れにして、目の前をどう過ごそうか、という感じで考えていたように思います。
特に今のようにコロナ禍で大変なとき、今日1日、とか、この半日とか、この1時間をどうしようという感じで意図を持って過ごしています。環境の変化が激しかった20~30代だからこそ、身についたものなのかなと思います。
――20~30代当時、目標にしていた人やメンターのような存在はいたんでしょうか?
割と本のなかに答えを求めるということが多かったですね。古典的な大作ですが、パール・バックの「大地」という作品がすごく好きでした。
アドバイスを受けるような自己啓発書ではなく、中国のお話で、登場する女性に自分を重ね合わせて中学生のころから読んでいました。そこに女性の力強さをとても感じています。割と苦境にあるけど元気に明るく生きている主人公の話が好きで、そういった本から女性の生き方というものを学んだのかなと思います。
心の師匠としてはユーミンさん(松任谷由実さん)ですね。生き方もそうですし、歌も全曲ひとつひとつが1本の映画だなと思うくらいです。恋愛の曲だけではなくて、自分の力でしっかり立つというものもあって、そういう曲にとても力をもらいますし、迎合しない姿勢もすごく素敵で尊敬しています。
20~30代のときはずいぶん励まされました。アメリカにいたときもユーミンさんのライブのために必ず日本に戻ってきていました。
――強いていえばどの曲がお好きでしょうか?
強いていえば、多くの方が挙げるとは思いますが、「やさしさに包まれたなら」でしょうか。すべての出来事はギフトだと思いますし、受け止め方次第で変わるといいますか、嫌なことがあってもそれはメッセージだと。
自分がありがたいと思った瞬間にすべてのことはギフトに変わる、ということを軽やかに、誰にでもわかるように歌われているのが本当にすばらしいと思います。
――チャレンジしたい、でも一歩踏み出せない、と感じている20~30代の方に向けて、何かアドバイスはありますか?
よく言われますが、「やらない後悔より、やる後悔」。何事もまずやってみないことには始まらないと思います。
ただ、「会社をやめる」とか「コミュニティーを飛び出す」とか、いきなりすべてやめるのも怖いと思いますし、勇気がいることなので、ちょっとお試しでやってみるのが良いと思います。お試しでやれるところまでやってみて、どうしても気持ちが揺さぶられたら思い切ってジャンプすればいいですし、自分でまだ今のタイミングじゃないなと思ったらやめてもいいと思います。
三日坊主でもいいと思うんです。一回やったら後戻りしない、という頑固さも必要だとは思いますが、もし挑戦することにためらいがある方がいるとしたら、ちょっとだけやってみる。ちょっとだけやってみて、自分の気持ちがどっちに振れるかを試してみてもいいと思います。
人それぞれタイミングがありますし、飛び込んで正解とも言い切れません。でも答えを知っているのは自分しかいないんです。だからまずやってみないことには、その先に進めないと思います。正解を選ぶのではなく、選んだ道を正解にする。これは先日スタッフから聞いた言葉ですが、本当にその通りだと思います。
――仕事の関係でどうしてもイライラしてしまう、期待通りにいかない、という場面で小巻さんはどのように感情をコントロールされていますか?
仕事をしていくうえで、気持ちがザワザワしてしまう、ということ自体はしょうがないことだと思います。生理反応として感情が動くのは当然ですし、逆にそれを否定すると余計にザワザワ、イライラしてしまうと思いますね。
なので、まず自分を客観視するといいますか、「これでイライラしてるな」とか「これで怒っているな」という感じで、自分の感情を言語化してみるといいかもしれません。やばいくらいイライラしている、とか(笑)。感情は否定せずに、自分を客観視して、自分はいまこういう状態だな、と意識すると、対処のやり方も見えてくると思います。
誰だってイライラします。怒りはすごく大切な感情で、否定したらもったいないです。そのエネルギーをどう生かしていくか、は考え方次第だと思います。
――産休や育休、色々な事情で仕事をお休みしていて、これから職場復帰する、という不安を抱えている方もいらっしゃると思います。小巻さんがサンリオの関連会社に復帰されたときはどういう思いでしたか?
戻ったときは職場環境がガラっと変わっていて、ひとりひとりがパソコンを持っていて、立場もすべて変わった状態で戻りました。大変なことも本当にたくさんありましたが、自分が仕事をまたやらせてもらえるということがありがたかったですし、その環境で自分が何を学びとれるかは意識していたと思います。エクセルの使い方なども何もわかりませんでしたが、見よう見まねでなんとか自分で学んで、一生懸命追いつけるように努力はしました。
人間関係の悩みについてもありましたが、「人にやさしくしてもらうことが目的ではない」ということを自分に言い聞かせていたと思います。自分が働いている目的を考えて、あまりくよくよしないように意識していました。
特に産休、育休、私の場合は主婦でしたが、社会からの疎外感や置いてけぼり感をすごく抱えていました。
その上で職場に復帰して冷たくされると、それが通常の接し方だったとしても、こちらが少し不安だとものすごく「自分の居場所がない」と感じてしまうと思います。「自分なんていなくてもいいんだ」という自己否定の谷に落ちてしまうというか。
そこでやられないためには、自分が働く目的は何かということを自分でしっかり噛みしめることかなと思います。キャリアアップしたいでもいいですし、誰かを見返したいでもいいですし、収入を得たいでもいいと思います。子どもに頑張っている後ろ姿を見せたい、後輩の女性のロールモデルになりたいもあると思います。
私は「女性のロールモデルになりたい」という思いが強かったと思います。結婚して、子どもができて、やめていった同期がたくさんいたので、一度やめても戻れるんだ、頑張れるんだという姿を見せたいという思いがありました。
――そういう思いは職場に戻られてから徐々に大きくなっていったのでしょうか?
そうですね。最初は自分のことで精いっぱいでしたけど、段々自分のやりたいことが見えてきた感じですね。結婚、出産、子育てで一度やめても、また戻ることができるんだというロールモデルになりたい、と。当時はロールモデルになれるとは思っていませんでしたけど、切り拓くんだという思いを持つと頑張れる、ということに気づきました。
――目的をもつと強くなれるというお話がありましたが、人間関係の悩みで小巻さんがこれまでとられてきた対処法などはありますか?
人ってみなさん多面的だと思うんです。色々なコミュニティーで色々な顔があると思います。
職場ではとても嫌な人でも、家庭ではすごく良い親だったり、動物をとても可愛がっていたり。他者理解をする努力が結果的に自分を救うことになります。まったく相いれないと思う人でも、もしかすると共通点があるかもしれない、とか。
ただ職場という限られた環境のなかで、どうしても合わないとか、体に不調が出るような拒絶反応があるなら、もう離れたほうがいいと思いますね。我慢しすぎる必要はないですね。
私がやるのは、もう面白がっちゃう。「なんでそんなこと言うんだろう」「もう理解不能」というような人、当然私にもいます(笑)
でもそこで喧嘩するのではなくて、「なるほどねぇ」「そういうこと言うのねぇ」「そうきたかぁ」って少し面白がって、ひとつのケーススタディだと思うこと。そこも客観性をもって、「半日よく耐えたな、自分」みたいな感じで考えるだけでも自分が冷静になれるので、おすすめです。
――ご自身をサンリオのキャラクター、商品に例えるなら何でしょうか?
おこがましくて言いづらいですが、あえて言うならキティちゃんかもしれません。キティちゃんは自分が期待されていることをよくわかっていて、リーダーシップもあります。学級委員長になるタイプですね。なので、似ているといえば似ていると思います。
マイメロディはもう少し甘えんぼさんなんですね。それぞれのキャラクターの特徴を考えると、タイプという意味で、私はキティちゃんタイプかなと思います。キティちゃんは「みんなで仲良くしよう」とか「そうだ迎えに行かなきゃ」とか、提案をしてみんなを引っ張っていくタイプですね。
――今の20~30代の働き手の方々に対して、小巻さんから伝えたいことはありますか?
アドバイスというとおこがましいですが、本当に自由に、何事にも縛られずに、自分たちの時代だと自信をもって生きてほしいなと思います。自分の可能性を否定しないでほしいです。誰よりも、自分が自分の応援者でいてください。本当の意味で自分を大切にしてください。
私が今20~30代だったら、世界や日本を飛び回るでしょうね。あとは同世代のつながりを積極的につくるかもしれませんね。オンライン、オフライン問わず、色々なコミュニティーを結びつけたり、地球という規模のコミュニティーで考えたりしたいですね。
SDGsの重要性を訴えるミュージカルで、キティちゃんは「地球は1つの星だから、自分とは関係ないことは1つもない」と話すんですね。本当にその言葉を実現できるような仕事をしたいなと思います。
――一方でなかなか自分に自信が持てなかったり、悩みを抱えたりしている方もいると思いますが、小巻さんならどう対処されますか?
自信というのは、突然「はい、自信がつきました」ということはないと思うんです。なので自信が持てないときは「自分は今、自信を育てているんだ」と思ってほしいです。
私もいきなり自信満々になったわけではないですし、自分を信じる力はあるかもしれませんが、自信はまだまだです。「自分なんてなんぼのものだ」と思い知らされた30代でしたが、その経験が今思えばとてもよかったと思います。
今の20~30代の方もそういうことはたくさんあると思うんです。「自分は何もできないな」「勉強したことなんて何の役にも立たないな」「自分よりできる人は世界にはたくさんいるし」など、小さなコミュニティーでちやほやされても、大きい世界に出るとすごい人はたくさんいる。それに年々フレッシュな人たちも出てくる。
20~30代はちょうどその狭間というか、フレッシュでもない、上には上がいる、というちょっとつらい時期でもあると思います。その時期は「自分なんて大したことないな」と思い知らされることがたくさんありますけど、その経験そのものが財産、宝です。
今悔しかったり、つらかったり、そういう思いを経験した人って強いですよ。「大丈夫、大丈夫」という安易な励ましを求める必要はないですし、思いっきり落ち込んでもいいんです。そういう経験があるから、いつか何かできることが見えたときに、自分が自信を持ってできると思えることを流さないで、ありがたいと思って、ひとつずつ丁寧に自分の引き出しにしまえるようになるんです。自分がダメだったことを知っているから。
だから今、「自信がない」「悩んでいる」という方には、そう思っていることが宝だよ、と伝えたいです。大事なのはふてくされないことです。いつかこれが力になるんだ、と、ぜひ自分を信じてみてください。
小巻亜矢(こまき・あや)。1959年生まれ。1983年サンリオ入社。結婚退社、出産などを経て、サンリオ関連会社にて45歳で仕事復帰。2015年サンリオエンターテイメント取締役就任。2019年6月より現職。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年6月17日に公開した記事を転載しました)
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