目次
賃貸住宅に住んでいると、「毎月こんなに家賃を払うくらいなら、思い切って買ったほうが得なのかな」と考えることがたびたびあるのではないでしょうか?
でも、住宅購入となれば一大事だし、本当に買ったほうが得なのかどうかもわからない。
20代後半~30代前半の方から「深田さん、賃貸と購入、どちらがお得ですか?」と、真剣な眼差しで質問を受けることもよくあります。
今回は、多くの人が気になる「賃貸VS購入」について取り上げたいと思います。
賃貸と購入の住居費比較はこうやって計算する!
雑誌やWEB媒体から「賃貸と購入のどちらがトクか」のシミュレーションを依頼されることがありますが、私はこれまで引き受けたことはありません。
なぜかというと、試算条件の設定次第で結果が大きく異なるからです。
賃貸と購入の住居費比較は、次のように計算します。
賃貸の住居費総合計
賃貸契約にかかる敷金・礼金などの費用
+(年間の家賃・管理費×居住年数)
+2年に1回の更新料の合計額
購入の住居費総合計
頭金と購入時諸経費の合計額
+(住宅ローンの年間返済額×返済期間)
+(年間の管理費・修繕積立金と固定資産税×居住年数)
「どちらがトクか」をシミュレーションする場合は、たとえば「35歳で購入したケース」と「35歳からずっと賃貸で暮らすケース」の住居費総合計を出して、比較するのです。
ここまで説明すると、何となく私の結論が想像できるのではないでしょうか。
そう、この試算は不確定要素や変動要因が多すぎるので、単純にどちらが得なのか結論付けるのは難しいのです。
この場合の不確定要素とは、「何歳まで生きるのか」。
30代半ばで購入し、60歳には住宅ローンの支払いを終え、100歳くらいまで長生きすると、購入のほうが得という結果がでそうです。
家賃を100歳まで払い続けると、生涯支払う住居費は多額になるからです。
一方で多額の住宅ローンを組み、がんばって60歳くらいでローン完済をしたけれど、その直後に亡くなってしまうと、賃貸のほうが安くついた……という結果になるかもしれません。
また、賃貸を続けた場合、さまざまな理由で引っ越しをすることもあると思います。
そのため、引っ越しの回数や家賃の変化も試算結果に影響を及ぼすことになります。こうしたことが、変動要因です。
賃貸と購入のメリット・デメリットは「表裏一体」
ここまで読んでいただくと、「賃貸と購入」のどちらが得なのか、簡単には言い切れないことがわかりますよね。
では、現在30歳前後の方たちは「住宅」について、どのように考えるといいのでしょうか?
賃貸と購入のそれぞれのメリットとデメリットを見てみましょう。
賃貸のメリット
・子どもの成長などライフスタイルの変化に応じて、住み替えることができる
・近所とトラブルがあったら、引っ越しが可能
・地震や災害で建物が倒壊しても、引っ越しすればよい
・設備が老朽化しても、自分のお金で修理しなくてもいい(例:風呂釜、換気扇、ガスレンジ、外壁など)
賃貸のデメリット
・家賃は安くないので、家賃を払いながらマイホームの頭金を貯めるのは難しい
・賃貸アパート、マンションの設備は分譲物件に比べグレードが低い傾向がある
・老後に賃貸生活をするなら、家賃分の老後資金を貯めておく必要がある
購入のメリット
・持ち家の安心感
・賃貸仕様のマンションより設備のグレードが高い
・ローンを払い終えると、住居費が格段に安くなる
・老後までにローンが完済できると、年金生活の住居費を抑えることができる
購入のデメリット
・多額の住宅ローンを組むと、収入減や失職したときに返済不能に陥るリスクがある
・仕事ややりたいことにあわせて転居するのが難しくなる
・ご近所とのトラブルが発生しても、転居しにくい
・持ち主の死亡後、誰も住まいと売却など整理が発生
それぞれのメリットを一言で言うなら、賃貸のメリットは「フレキシビリティ」で、購入のメリットは「老後の安心」です。
たとえば「賃貸」なら、
「子どもが大きくなったら広い物件を借りる」
「巣立ったら夫婦2人で住むスペースに住み替える」
といったことが「購入」と比べて、やりやすいと言えます。
また、地震や災害で建物に損害があっても修繕するのは大家さんなので、借り手は原状回復に多額の費用を捻出する必要はありませんし、引っ越しをすることで住まいは確保できるというメリットがあります。
ガス給湯器などが壊れても、修理や交換の費用は大家さん持ち。持ち家になると、住宅のメンテナンス費用は自分で負担しなくてはなりません。
一方、「購入」の場合、持ち家の安心感や、賃貸物件よりもグレードの高い仕様に満足感が得られるようです。
また、ローンを払い終えたあとは、住居費が各段に少なくなるメリットは大きいです。
ライフスタイルの変化や不測のトラブルなどといった「変化や想定外のこと」などに対して柔軟に対応できるのが「賃貸」の良さ。しかし、賃貸生活を続けるなら年金生活に入っても家賃を払い続けられるよう、貯蓄を準備しておく必要があります。
「賃貸」と「購入」のメリットとデメリットは、「表裏一体」であることが、表から見て取れます。「賃貸のメリット」は「購入のデメリット」、「賃貸のデメリット」は「購入のメリット」なのです。
つまり、賃貸のデメリットは「老後に支払う家賃の不安」であり、購入のデメリットは「不測の事態に対して柔軟に対処しにくい」こと。
それぞれの要素を見て、自分が得たいもの、取り入れたくないリスクは何かを考えてみるといいですね。
購入するならこの2点に注意
今は賃貸に住んでいるという20~30代前半の方が、「将来的には住宅を購入したい」と考えているのであれば、次の2つのポイントに注意してください。
①住宅を購入するなら、家族の人数がある程度固まってからにする
独身のときに1LDKのマンションを購入し、その後結婚し、子どもが2人、4人家族となると、1LDKでは手狭になります。
そうなったら賃貸に出せばいいと考えるのは早計です。
住宅ローンの返済額と同額の賃料で設定すると、ローンは返せるかもしれませんが、管理費や修繕積立金、固定資産税分は持ち出しとなります。
購入するなら「ずっと住める家」にすべきです。
②身の丈以上の住宅ローンを組んで、高額物件を買ってはいけない
住宅ローンの毎月返済額は、「借りる金額」「金利」「返済期間」の3つの要素で決まります。
高額な借入額でも、返済期間を最長の35年にすると、毎月返済額は少なくなるマジックがあるので、注意が必要です。
35歳で35年返済のローンを組むと、完済年齢は70歳。借りる当初は「退職金で一括返済すればいい」と楽観的に考えるかもしれませんが、35歳くらいの時点で自分が将来もらえる退職金の金額を把握している人はまずいません。
さらに60歳時点でのローン残高を試算してからローンを借りる人はほとんどいません。
「いくらもらえるかわからない退職金をアテにして、いくら残るかわからないローンを完済しようとする」のは、ホラーです。
ローン返済はどんなに長くとも65歳まで。
65歳からローン返済開始年齢から引いたものが、あなたにとっての最長の返済期間であることを覚えておきましょう。
65歳までの返済期間で試算して、毎月の返済額が多額になったら、それは借入額が身の丈以上だというシグナルです。
物件の予算を見直したり、頭金を増やしたり、と冷静に再考する必要があります。
この他にも「みんなが買っているから」と流されることや、親の「そろそろ買ったら」の言葉にも注意が必要です。
住宅ローンという借金をするのは、他ならぬあなたなのですから。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2022年2月1日に公開した記事を転載しました)