令和のビジネスパーソンが本当に学ぶべきこと。一緒にアップデートしていきませんか?
クリエイティブディレクターの辻愛沙子さんが社会課題やジェンダー、若者文化を起点に、これからのビジネスパーソンに求められることを考えます。
クリエイティブディレクターの辻愛沙子さんが社会課題やジェンダー、若者文化を起点に、これからのビジネスパーソンに求められることを考えます。
「ビジネスパーソンが学ぶべきこと、身につけておくべきこと」
そう聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
資格?スキル?はたまたマナーや人脈?
「ビジネスである以上、ファイナンスの知見があるに越したことはないし、マーケティングも読んでみたい本が沢山あるし、デザイン思考やクリエイティブが何だか自分には足りていない気がするし、D2CとかDXとかAIとか最近よく耳にするデジタル分野も知っておかないと時代に置いていかれてしまうし……あとあと……」
キャリアに必要なものとして、多くの人がこういった“何ができるか”というスキルのようなものをイメージするのではないでしょうか。
現に書店のビジネス書コーナーを見てみると、ビジネス上でのノウハウや、キャリアに直結するようなスキルを体系化した書籍が人気を得ています。
ジョブ型雇用が広がるにつれ、個人の能力により一層フォーカスが当たるようになったことで、様々なところで開催されているウェビナーやスクールも、“スキル” や“ノウハウ”などの仕事で役に立つ情報や知識を軸にしたものが圧倒的に多い。
現代は“VUCA”(ブーカ)の時代とされています。
VUCAとは、「Volatility(激動)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(不透明性)」という4つのキーワードの頭文字をつなげた言葉です。
毎日のように新しいサービスやトレンドが生まれ、当たり前だった環境は新型コロナの影響で根底から揺らぎ、社会や常識は日々スクラップアンドビルドといったように再構築されています。
そんな不安定かつ目まぐるしい情報社会の中で、どうしても“役に立つ”ということを現代のビジネスパーソンは重要視しすぎているように思うのです。
資本主義を前提とした今の社会構造において、自分にとって役に立ちそうな、メリットになりそうな学びを求めることはもちろん重要なことです。しかし、“役に立つ”か否かを必要性の判断基準としていった先に、本当の学びや豊かさはあるのでしょうか。
さて。ここで突然突飛な話を持ち出しますが、みなさんは“マイクロアグレッション”という言葉をご存知でしょうか。
「女性なのにバリバリ働いて偉いね!」「LGBTQなの?意外!全然普通に見える!」「ハーフ(ダブル)なのに日本語うまいね!」「若いのにしっかりしてるね!」
……こんな言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
マイクロアグレッションとは、「小さな(マイクロ)攻撃性(アグレッション)」からきている言葉。
差別してやろう、傷つけてやろうという意図はないのに、無自覚な偏見によって発される“良かれと思って”のステレオタイプな声がけをこう呼びます。
ほかにも、「女性ならではの企画をお願いします」「女の子はオシャレとスイーツとコスメが好きなんでしょ?」「(女性社長に)責任者はいないの?」「女性がいて華やかだね」「男性なのに綺麗好きですね」
などなど。
言葉のほかにも、ちょっとした瞬間に見え隠れするマイクロアグレッションは日常のあちこちに転がっています。
たとえば。
居酒屋で、男女2人でご飯を食べているとしましょう。
テーブルの上にあるタブレットで、飲み物は“ビール”と“黒豆茶”、食べ物は“チャーハン大盛り” と “サラダプレート” を頼みました。さて、料理と飲み物が運ばれてきた時、男性側に置かれるもの、女性側に置かれるものはそれぞれ何でしょう。
この文章を読んで頭の中で想像するだけで、なぜかビールとチャーハンが男性で、黒豆茶とサラダが女性、というような絵が浮かんだ方。少なくないのではないでしょうか。
私自身、実際にご飯屋さんでノンアルコールが私のところに、アルコールが男性側に置かれた事が多々ありました。
車や不動産などの大きな買い物をするときに男女でお店に行くと、購入するのが男性である前提で女性には名刺すら渡されないケースもあるようです。
タクシーの運転手さんが若い女性客にはタメ口で話したり、ゲイっておしゃれで美容詳しいんでしょ?と決めつけたり、容姿でミックスルーツである事がわかりやすい方に対して、日本語が話せる方だったとしてもゆっくり片言で話しかけてしまったり。
そこに悪意がなかったとしても、そんな小さな偏見の積み重ねが人生の中でたくさん積もり積もって当事者の心をチクチクと刺していく、それがマイクロアグレッションです。
なぜそんなことを突然お話ししたかと言いますと、社会人が学ぶべき教養として、先述した“役に立つ”か否かという情報選定のフィルタリングでは入りきらない、でも仕事上で確かに必要な大人の学びがあると思うからなのです。
もちろんそういった言動で誰かを傷つけても良いと思いますか? と問われると、多くの人がNOと答えるかと思います。
しかし、実はこれらの偏見は“無自覚”ゆえに表面化するものであり、知ろう学ぼうとしないと気づけない価値観なのです。
特に、人事評価に携わるマネジメント層のビジネスパーソンは、このマイクロアグレッションや無自覚な偏見を意識して学んでいく必要があると私は考えています。
差別をしている意識なく、女性が会議で積極的な発言をしていると“協調性がない”と評価され、男性が同じように発言していると“リーダーシップがある”という評価につながるケースもあります。
同じポジションについているメンバーでも、年齢や性別でなんとなくサポート役としてお茶を入れたり、お客様をお通ししたり、電話を取ったりするメンバーが固定化されてしまっていたり、子供がいるからという理由で本人の意向を聞かずに良かれと思って仕事を別の人に渡してしまったり……。
チームで仕事をしていかなければいけない「企業」という組織体では、こうした“一見知ってた方が良いよね”というプラスアルファの配慮のように思える気づきや意識が、人事評価や業務に大きな軋轢や不均衡を図らずして産んでしまっていることがあるわけです。
ということで、少し堅苦しく書いてしまいましたが、この連載コラムでは、今後そういった “スキル” や “ノウハウ” ではない令和時代のビジネスパーソンが学ぶべき意識や視点や言葉たちを、実際の例やアクションを基にお届けしていきたいと思います。
一緒に気づき、学び、アップデートしていければ嬉しいです。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年3月29日に公開した記事を転載しました)
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