目次

  1. 立替金とは
    1. 立替金に含まれるもの
    2. 立替金と他の用語との違い
  2. 立替金の仕訳方法
    1. 立替払いをしたとき
    2. 立替金を回収したとき
    3. 立替金を回収できなかったとき
  3. 立替金を用いるときに覚えておきたいこと5つ
    1. 場合によって、追徴課税のリスクが発生する
    2. 立替金が売上になるケースは基本的にはない
    3. 立替金に消費税がかかるかは状況による
    4. 立替金の請求書の書き方と適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)による影響
    5. 立替金の領収書の書き方
  4. 立替金は覚えておきたい点が意外と多い

 立替金とは、取引先や役員、従業員自身で負担すべきものを、自社で一時的に立替えて計上する勘定科目です。

 ビジネスを行う際、基本的に自社で負担すべきものは自社で支払うべきです。しかし、金銭のやり取りの効率化や事業を円滑に進めるために、他者が負担すべき費用を一時的に自社で立替えて支払うことがよくあります。立替金は、その際に使用される勘定科目になります。

 立替金として含まれるものは主に以下の通りです。

  • 役員、または従業員の立替金
  • 取引先の立替金

 役員や従業員の立替金は、例えば、役員や従業員が購入する書籍等を会社で一括発注した場合に発生します。役員や従業員の立替金は、給与を天引きして回収するのが一般的です。

 取引先の立替金は、例えば、旅費交通費を取引先が負担することが決定していて、自社で新幹線の切符を購入した、といった場合に発生します。この場合は取引先に請求書を発行し、入金してもらうことが多いです。

 なお、立替金を計上する際にどういった勘定科目を使うかは、会社ごとに決定する必要があります。「立替金」という科目名を使う企業が一般的ですが、「従業員立替金」「取引先立替金」といったように相手先がわかる勘定科目名を使用する会社もあります。発生頻度や管理面を考慮し、決定すると良いでしょう。

 立替金と混同されがちな言葉として、仮払金・貸付金・預り金・売掛金があります。

 仮払金とは、支払時に支出内容や金額が確定していない場合に計上する勘定科目です。仮払金は、決算時に金額を確定し、本来あるべき勘定科目に振り替える必要があります。一方、立替金は、支出時に立て替えるという支出目的が確定しています。また、支出金額も確定している点が異なります。

 貸付金とは、相手先にお金を貸し付けた場合に発生する勘定科目です。立替金と貸付金の違いとして貸付金は、契約書を相手先と締結し、契約書の中で返済期限を決めて利息を請求します。一方の立替金は、そういった契約書は基本的に締結しません。また、回収期限も定めないこともあり、「早期に回収する」程度にとどまります。

 預り金とは、従業員や取引先からお金を預かることです。この預り金は主に、源泉所得税等、従業員や取引先が負担する分を預かり、適切な支払先に支払うことが一般的です。一方の立替金は、先に自社で支払い、お金を収受するのは後になります。お金の受け渡しのタイミングが異なるのが、立替金と預り金の違いです。

 売掛金とは、売上高を計上した時に、その売上高を後日回収するために計上する債権のことです。立替金も売掛金と同じ債権になりますが、発生の原因が売上を計上したことに起因するかで異なります。また、立替金は立替払いが生じていますが、売上高には立替払いは生じません。

 立替金を用いた仕訳の代表的なパターンは主に下記の3点になります。順に解説します。

立替金の仕訳方法と覚えておきたいポイント
立替金の仕訳方法と覚えておきたいポイント(デザイン:吉田咲雪)

 実際に、立替払いをしたときに仕訳を起票します。仕訳の摘要欄には、どういった内容で立替払いしたかを明記するのが望ましいです。

 例:得意先が負担すべき交通費を10,000円立替払いした。

借方 貸方
立替金 10,000円 現金 10,000円

 実際に立替金を回収したときは、立替金を消去する仕訳を起票します。

 例:得意先から立替金10,000円を回収した。

借方 貸方
現金 10,000円 立替金 10,000円

 立替金は、債権になります。そのため、一定の条件(立替先が再生手続開始の申立てをした場合や手形交換所等による取引停止処分になった等)を満たした場合、貸倒引当金を計上することができます。貸倒引当金の計上の仕訳は以下の通りです。

 例:立替金500円の貸倒が見込まれる。

借方 貸方
貸倒引当金繰入 500円 貸倒引当金 500円

 また、立替先が倒産した等、一定の条件を満たした場合、貸倒損失を計上することができます。その場合の仕訳は以下の通りです。

 例:立替金500円が回収できなくなった。なお、貸倒引当金は計上していない。

借方 貸方
貸倒損失 500円 立替金 500円

 例:立替金500円が回収できなくなった。なお、同額の貸倒引当金をすでに計上している。

借方 貸方
貸倒引当金 500円 立替金 500円

 立替金を計上する際には、いくつか覚えておきたいポイントがあります。特に次の5つは、おさえておくことをおすすめします。

  1. 場合によって、追徴課税のリスクが発生する
  2. 立替金が売上になるケースは基本的にはない
  3. 立替金に消費税がかかるかは状況による
  4. 立替金の請求書の書き方と適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)による影響
  5. 立替金の領収書の書き方

 順に詳しくご紹介しましょう。

 取引先や役員、または従業員が支払うべき費用を立替えた場合、立替金を用いて仕訳をすることになりますが、場合によっては立替金と認定されず、そのために追徴課税が発生することがあります。よくあるのが、次の2パターンです。

立替金が貸付金と認定されるパターン

 立替金はあくまでも一時的な立替払いですので、長くなることは想定されません。そのため、回収までの期間が数年かかる等の場合、立替金として計上していたとしても、税務調査の際に貸付金として認定されるリスクがあります。

 貸付金として認定されると、適切な利率の受取利息を計上しないといけません。税務調査の際に立替金が貸付金として認定されると、利息が計算され、追徴課税が生じるリスクがあります。ですので、立替払いをする際は、回収までの期間を確認する必要があります。

立替金が給与と認定されるパターン

 役員や従業員への立替金の場合、一時的なもので回収できれば問題ありませんが、回収ができない場合は、税務調査で役員や従業員への給与として認定される可能性があります。その場合、当該の役員や従業員に所得税の追徴課税が生じ、会社にも源泉徴収ができていなければ、追徴課税が生じるリスクがあります。

 立替金に関してよく聞かれる質問に、立替金が売上になることはあるのか、というものがあります。

 結論から言うと、立替金で支払った金額が入金された場合に、売上高になることは基本的にありません。

 売上高とするときは、事前に取引先との間で、「経費を立替えしない」と合意しています。

 立替払い分は、売上原価、または販売費及び一般管理費に計上することになり、そもそも立替金という勘定科目を使わないため、立替金が売上になることはないのです。

 立替金に対して消費税がかかるかは、状況によって異なります。

 例えば、自社が、取引先や自社の従業員が支払うべき費用を、後で返してもらうつもりで支払った場合は、単に立替えたに過ぎないため、その取引に対して消費税は発生しません。

 一方、取引先や従業員が自社のために立替払いをした際には、その支出に応じて消費税が発生します。なぜなら、自社の経費だからです。

 そのため、上記のように立替払い分を売上原価、または販売費及び一般管理費とし、それが課税取引になる支出の場合、消費税は発生します。

 立替金を取引先に請求する際には、一般的に請求書を発行します。

 請求書での必要項目は、「書類名(例:立替金請求書)」「発行者情報」「請求先情報」「発行日」「請求金額」「請求内容」「支払方法」「支払期日」等、通常の売上を計上する際の請求書と内容はほとんど一緒です。ただし、「請求内容」で立替え払いしたものだとわかるようにしておく必要があります。

 また、2023年10月1日より適用されるインボイス制度にも気をつけなければいけません。

 例えば、自社が、得意先A社がB社に支払うべき経費を立替払いをしていた場合、B社が「自社宛の請求書」をA社に送付するだけで完結できました。

 しかし、インボイス制度が導入されると、インボイスの宛名が自社であった場合、上記に加えて、自社も「インボイスの写し」を作成し、さらに「立替金精算書等のような立替払いしたことがわかるような書類」を作成してA社に送付する必要があります。

 インボイスと立替金精算書等をセットで保管しないと、A社が仕入税額控除(支払う消費税から控除すること)を受けられないからです。

 なお、インボイスの写しが大量に必要になる等の諸事情がある場合、簡易的な方法を取ることもできますが、専門的な知識が必要になるのでその場合は税理士するのがおすすめです。いずれにせよ、インボイスが導入されると、現状の実務から一手間増えることになります。

 立替金を取引先が現金で持参した際には、領収書を相手に渡すことが望ましいです。

 その際の書き方は通常の領収書の書き方と同じです。相手先に加えて、但し書きで「立替金の支払として」等、立替金の支払である旨を記載しましょう。

 ただし、立替金の回収においては、売掛金とともに銀行口座に振り込まれることが多いと思います。その場合、領収書を用意する必要はありません。

 立替金は、仕訳自体は複雑ではないものの、気をつけなければいけない点が多くあります。特に、立替金は立替えをする前に、取引先や役員、または従業員と内容や支払条件について、合意を得ておく必要があります。その結果によっては、立替金として認められない可能性が出てくるからです。

 また、インボイス制度の導入によって、業務が煩雑になることも想定されます。立替金に関する業務の流れを自社内で適切に構築する必要があります。

 この記事が少しでもみなさまの経理実務に役立てば幸いです。