事務所移転の手続き一覧 専門家が時系列で紹介 お知らせも忘れずに
事務所を移転する上で、やることや移転全体のスケジュール、コスト、手続きがよく分からないというケースを見聞きします。そこで、オフィスづくりのプロが時系列に沿って、チェックリストも交えながら、必要な作業や手配について留意点を紹介します。
事務所を移転する上で、やることや移転全体のスケジュール、コスト、手続きがよく分からないというケースを見聞きします。そこで、オフィスづくりのプロが時系列に沿って、チェックリストも交えながら、必要な作業や手配について留意点を紹介します。
目次
まずは事務所移転前にすることをご紹介します。
事務所移転の1年~6ヶ月前 | ・新しい事務所へ求める要件の整理 ・情報収集 ・現事務所の解約通知 |
事務所移転の6ヶ月〜3ヶ月前 | ・物件の選定〜申し込み ・デザイナー・内装業者のアサイン ・新事務所の契約 |
事務所移転の3ヶ月〜1ヶ月前 | ・内装工事発注 ・消防関係の書類提出 ・内装工事にかかわる対応 ・電話・ネットワーク関係の手配 ・従業員への周知 ・現事務所の原状回復工事の準備 |
事務所移転の1ヶ月以内~1週間前 | ・引越し業者の選定 ・引越し当日のスケジュール ・各種印刷物やWeb等の住所表記変更の準備 |
事務所移転の1週間前~前日 | ・現オフィスの引越し準備 ・新規購入した家具の納品、TEL/LAN、AV工事 ・事務所撮影 |
順に詳しく見ていきましょう。
事務所移転を計画するにあたり、最初に行わなければいけないのは「移転目的の設定」です。目的をまとめるために、移転プロジェクトのコアメンバーを決め、移転における要件の整理を行います。
ある程度、目的がまとまった段階で、移転プロジェクトのメンバーから物件探しから内装、プランニングなどをサポートしてくれる協力業者へ問い合わせを行い、プロの視点も交えながら要件を整理し、おおまかなスケジュール計画を立てていきましょう。
協力業者から、これまでの自社の事務所の状況や、今回の移転と同様な目的をもつ事例、新しいオフィスのトレンドや新しい設備の情報などを集めます。事務所移転は大きな投資の判断を伴うため、判断材料を多く取得した方が後々手戻りがなくスムーズに進めることができます。
情報収集には具体的な物件も含まれます。不動産仲介会社に目的や詳細な希望を出し、物件の検討を積極的に行いましょう。物件選びのポイントは実際に行って、目で見て確かめることが大切になります。
事務所移転の成否には、オフィス物件選びが大きな比重を占めるため、なるべく早く物件を探し始めるのがおすすめです。不動産は全て一点ものとなるため、スケジュールとマッチしていなくともその他の条件がマッチしていれば契約を真剣に検討しましょう。スケジュールの調整はマンパワーで解決できることもあります。
物件やスケジュールの目処がついてきたら、現事務所の解約について情報を整理します。解約通知の期間や条件は物件によって個別に決まっているため「一般的に」と考えるのではなく、契約書もしくは管理会社に確認しましょう。
事前解約の通知を忘れると現事務所の契約と新事務所の契約が重なってしまい、二重家賃となるリスクがあります。現事務所が何ヶ月前に解約通知が必要か確認し、移転のタイミングから逆算して適切なタイミングで解約通知を行いましょう。
いくつか物件を内見し、今回の目的と実際の要件をすり合わせ、お気に入りの物件に出会えたら、申し込みをしましょう。申込後、物件オーナーによる審査があり、それをクリアしたのち、契約となります。審査はだいたい1〜2週間ほどで、それ以上に時間がかかる場合もあります。
審査に際して、申込時に主に以下の書類が必要になります。物件によって、原本またはコピーが必要になります。また基本的に3ヶ月以内のものが有効です。
審査は、一般的に「番手制(ばんてせい)」といって申し込み書類を提出した順に審査が行われます。
申し込みに際し、スピーディーに書類提出ができるように事前に書類を準備をしておくのがポイントです。また審査が必ず通るとは限らないため、申し込みと同時にその他の候補物件の整理を行い、第二候補を決めておくなどプランBの検討が重要になります。
物件を契約したら、次は内装となります。デザイナー・内装業者に依頼するには、下記のような方法があります。
上記いずれの方法にも時間は必要となるため、物件選定と並行して依頼先を検討することをおすすめします。いざ契約をした物件で希望の要件を内装に落とし込めなくなるといったケースもあるため、候補物件が絞れてきたタイミングで依頼し、内装業者も交えた内見を行なって物件の契約に進むのが理想的です。
実際の検討となると、契約した物件の情報を共有して、自分達の希望のレイアウトやイメージが実現できるか資料を見ながら打ち合わせを重ねます。検討期間は規模によって大きく変わってきますが、100〜200坪程度の大きさの場合は約3〜5ヶ月、50〜100坪程度の大きさだと2〜3ヶ月、50坪以下だと2週間〜2ヶ月くらいが目安になります。
検討を通してレイアウト、内装工事、家具、TEL /LAN、AV、サイン工事などの内容と、全体のコスト、工事スケジュールが確定します。
審査が通ったら、契約となります。契約書と重要事項説明書のたたきの確認が行われます。弁護士の方に入ってもらい確認をしてもらうというケースもよくあります。契約内容の合意が取れた上で、新事務所の契約へと進みます。
契約に際して、主に以下のような書類の提出が必要となります。
契約当日は複数書類に署名捺印が行われますので、住所や社名が入っているゴム印を持参することをおすすめします。
物件の契約が締結され、内装の検討が終われば、各ベンダーへの発注です。発注から内装工事着工まではおよそ1〜2週間ほど準備のためのリードタイムがあります。あわせて新規で導入する家具やOA機器などの選定や購入も行いましょう。
一部分電盤や海外製の家具など物理的にリードタイムが長いものもあるので、個別に管理して稼働日にすべてが揃うように段取りするのがポイントです。
新事務所物件の入居にあたり、以下の書類を、新事務所の所在地を管轄する消防署へ提出する必要があります。
・防火対象物使用開始届出書
→物件使用開始の7日前まで
・防火対象物工事等計画届出書(内装工事を行う場合)
→工事開始の7日前まで
ビルによっては防火管理者を専任を求められる場合があります。防火管理者の有資格者が社内にいない場合、社内から1名講習を受けて資格を取得してもらいましょう。
物件の契約開始日以降に着工できます。ビルへの工事は制約が多く、事前に申請書類の提出を求められたり、作業時間の制限や独自の搬入ルールなどがあったりするため、それぞれのビルの方針に従って工事をします。
ネットワークの種類は、ビジネスユースとホームユースがあります。ビジネスユースの回線には、申し込みから1〜3ヶ月ほどかかるものもあるため、早めに問い合わせをしておきましょう。サーバー機器の設置箇所や配線経路など、内装工事と絡む部分もあるので、ネットに関する要件の整理と機器の選定をレイアウトと照らし合わせて行います。
事務所移転は社員にとっても大きなイベントです。移転先の立地が変わる場合、それに合わせて自宅の引越しを考える社員も出てくるので、事前に準備ができるように社内へのアナウンスもしましょう。
原状回復工事は通常物件の契約期間内に行う必要があるため、現事務所の契約終了前1ヶ月程度は工事期間となります。着工前に新事務所への引越しを行う必要があります。
事務所の引越しでは、家庭用の荷物と違い大量の荷物や什器を移動します。従業員10名を越える引越しの場合は、専門の業者へ依頼をするのをおすすめします。コストや作業内容が各社かなり違って出てくるので、きちんと内容を理解してお願いをしましょう。また廃棄物の引取も引越し業者でまとめた方が手配が簡単になります。
引越しの段取り次第で当日の難易度が大きく変わります。事前に時間単位のスケジュールや荷物の逃し場所や搬出ルートが書かれている引越し当日のレイアウトなどをまとめ、社内に周知しておきましょう。
名刺や資料(会社案内やパンフレットなど)Webサイトに記載されている住所の変更が必要になります。協力会社へ依頼する場合は、移転日から逆算して発注をかけておきます。取引先等に移転を知らせるDMなどの準備も含まれます。
引越し当日までに荷物を計画的に箱に詰めておく必要があります。箱に詰められる荷物以外にも家具や家電のようなものには、移転先の設置場所を示すシールを貼ったり、持っていかないものは廃棄の指示をします。目に見えない所有物としてデータは大切なものなので、バックアップなどの準備をしておきましょう。
内装工事が完了後、新規で購入した家具の納品を行います。家具納品と並行してTEL /LANの工事や家具設置後にモニターやプロジェクター、スピーカーなどのAV設備を取り付けます。事務所の家具やAV設備、電話設備等は物量が多くなるため、専門業者を手配します。
プレスリリースや自社サイトの素材として、また記録として事務所の撮影を行います。キレイな写真を撮影するには、段ボールや煩雑な荷物を運び入れる前、工事が終わり什器、設備が設置終わったタイミングで撮影しましょう。
現事務所から新事務所でも使用する家具・家電などは移動させます。それらの設置場所を引越し業者へ指示をする必要があります。また次の日からすぐに事務所を稼働できるように、購入品や設備の動作確認のほか、荷物をダンボールから出して、片付けます。
事務所移転後は、次のことを行いましょう。
事務所移転後3週間以内 | ・各所住所変更の申請 ・旧事務所の原状回復工事 |
移転に関する各種届け出の提出が必要です。本店所在地が変更になる場合は、許可証や届出の記載内容を変更する必要があります。以下、事務所移転時に必要な届出の一例を挙げます。
移転に関する申請書類と提出期限 | ||
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申請先 | 申請書類 | 提出期限 |
法務局 ※移転後の事務所の所在地を管轄 |
本店移転登記申請書 | 2週間以内 |
支店移転登記申請書 | 3週間以内 | |
税務署 ※移転前の事務所の所在地を管轄 |
異動届出書 | なるべく早く |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書 | 1ヶ月以内 | |
都道府県税事務所 | 事業開始等申告書 | 10日以内 |
ハローワーク ※移転後の事務所の所在地を管轄 |
雇用保険事業主事業所各種変更届 | 10日以内 |
年金事務所 ※移転前の事務所の所在地を管轄 |
適用事業所所在地・名称変更(訂正)届 | 5日以内 |
銀行 | 住所変更届 | なるべく早く |
クレジットカード | 住所変更届 | なるべく早く |
旧事務所では原状回復工事を実施します。原状回復完了をもって、旧事務所の退去、契約終了となります。
事務所移転を実際に行うときは、上記の手続きと合わせて、次の4つをおさえておきましょう。
物件選びをするときに考える主なポイントです。
最初に決めた要件に固執せずに、実際に物件に足を運び、感覚も含めた広い観点から選定するのがポイントです。さまざまな検討を加えるために、不動産仲介業者以外にも設計者や税理士、クライアントなど、広く意見を集約し検討するのが理想的です。
事務所移転の際は、異なる専門性を持った複数の業者と関わることになります。業者を選定するのも見極めるのも一般的には非常に難しいので、移転のプロフェッショナルPM(プロジェクトマネジメント)会社を入れて取りまとめを依頼することができます。ただしコストは高くなってしまうことが多いので、自力で選定するポイントを紹介します。
オフィスの移転は専門性が高く、未経験者ができそうでできない領域です。社内の詳しい人を頼るのではなく、適切に外部それぞれの専門業者を頼って、プロジェクトメンバー皆で比較検討し、専門家をアサインするのがベターです。
オフィスを構成する要素には、執務スペースや会議室・役員室・倉庫室といった個室、エントランス、ラウンジなどがあり、さまざまな機能を盛り込みたいところですが、スペースは限られています。
オフィスを形成する主な要素 |
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■執務スペース ■個室 ・会議室(社内用、社外用) ・役員室 ・Webミーティングブース ・倉庫室(セキュリティ上で必要に応じて) ■エントランス ■ラウンジ ■複合機エリア ■個人ロッカー ■ONU(サーバー類設置ポイント) ■パントリー(給湯室) |
スペースを有効活用するには、まずはゾーニング計画(行動や機能によるエリア分け)を立て、順に家具のレイアウト、設備のレイアウトと使い勝手を細かく反映させていきます。
ゾーニングは個室をどこに設置するか?を検討することからはじまります。個室が窓側なのかエントランスに近いのか、中央にあるのか端に並ぶのか?でも使い勝手が大きく変わってくるので、まずはこだわりを発揮せずにいろんな条件で個室をレイアウトしてみましょう。
次にデスクチェアが何席入れられるか検討します。必要数が入るかよりも最大数をおさえるのがポイントです。最後にその他のスペースをボリュームを席を間引きながら入れていくと要件が整理されたレイアウトになります。
事務所移転にかかるコストは、大別すると4つに分類されます。
移転の目的によって最適なコストの掛け方が変わってくるので、専門家に相談しながらコストのシミュレーションをしましょう。
また移転に関わるコストではないのですが、移転先で発生してくるランニングのコストも同時に検討していくのも重要です。イニシャルとランニングのバランスの良いコスト計画を立てましょう。
事務所移転のプロジェクトでは、数多くのタスクを同時進行で進めていく必要があります。各業者に任せっぱなしにせず、情報や内容を統合してマネジメントしていきましょう。それぞれのタスクをどのタイミングまでに行うべきかというポイントをしっかりスケジュールに落とし込むことが、理想の新事務所に近づきます。
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