――今回の参院選、中小企業経営者はどんなところに注目すべきでしょうか?

 まずは、中小企業支援に対してどこまで具体的な政策に踏み込んでいるかをよく見た方がいいです。「中小企業が大事です」ということは各党とも言ってはいますが、よく見ると具体性の有無には差があります。

――中小企業について目立つものとしては、賃上げを支援する政策を与野党が掲げています。

 賃上げを支援する動きが出てきているのはとてもよいことです。ただ、賃上げについて補助金などのお金だけで支援するというのは一時的な対症療法みたいなもので効果に限りがあります。それも大事ですが、長い目で見れば、企業の成長性が高まって利益があがり、それが賃金にも反映される流れを作っていく必要がある。生産性をあげる、新しい産業を生み出すといった提案をしているかが大事です。

――具体的にはどんな項目で判断するのがいいですか。

 各党のスタートアップの政策に注目するのがひとつです。中小企業向けとされる政策ばかりを見てしまうと、弱いところを助けるといった救済的なものが多くなってきます。そこだけでなく、国全体でどんな成長戦略を描いているのか、スタートアップを盛り上げるような支援策があるかをしっかり見ることが重要です。

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2020年11月17日に朝デジ掲載。
日本総研の石川智久・上席主任研究員=2020年、朝日新聞社撮影

――物価高についてはいかがでしょうか。各党とも対策を出してはいるものの、実効性を判断するのは難しい気もします。

 これは難しいですね。いま起きているのはコストプッシュ型のインフレなので、なかなか対応できないところもある。いちおう各党とも、物価高に対応しますとか、中小企業いじめにはならないようにするといった政策は掲げていますよね。あとはその政策について、一番真剣度を持って言っている政党を探していくのが一つではないでしょうか。選挙戦最終盤の 演説で耳を傾けたり、政見放送やウェブで公開されている動画を見たりして、政党や候補者の雰囲気に自分が何を感じるかが、結構大事です。

――コロナ禍での経済的な支援をどうするかといった議論は、2021年の衆院選に比べると低調です。

 短期と中長期、両方の政策があると思います。短期的なところは、補助金や緊急融資をいかに手厚くやれるかが大事。いっぽうで、コロナが落ち着いたあとにどう政策転換をはかるかも見ていかないといけない。たとえば観光業はこの2年間非常に大変でしたが、もともとは成長産業とされていました。これからは観光立国のあり方を再考していくことが求められます。コロナ融資の借金減免なども聞かれますが、なにかを助けるためのお金から、今後の成長のためのお金という方向にすこしずつ転換していく必要があるかなと思います。

――ほかにチェックが必要なテーマはどんなところでしょうか。

 やはりエネルギー政策が重要な論点になってきたと思います。いまの円安をビジネスチャンスにいかしたいといっている時に、電気が足りなくなる国に工場を作りたいという企業は出てこないわけですから。エネルギーの安定供給と環境対策の両立を現実的に考えているかが大事になります。

――原発再稼働の是非については、各党で方向性の違いがはっきりでています。

 経済合理性の視点から、電気を確保するために原発を動かすという考えもあるし、安全性の面で原発を動かしたくないという意見もあります。また原発を動かさないことで、短期的には大変だけど、長期的には新しい産業ができる可能性がある。とても難しい判断だと思います。ただエネルギーへの関心がこれだけあがっている以上、有権者としてそこは真剣に考えないといけない話かと思います。

――いろいろなテーマがからみ、投票先の判断が難しい部分もあります。参考になるモノサシはありますか。

 実行性を重視するのか、いまの政策に対してNOと言うのかをきちんと考えないといけない。いまの政策を急いでほしいのか、いまの政策を止めてでも方向を変えなければいけないと思うのか、それを軸に考えていくのがひとつです。あとは政策も大事なんですが、自分の選挙区や比例区の候補者の雰囲気も見てほしい。中小企業の経営者や経営陣は人を見る目がある方が多いので、候補者の人となりを見るところから投票するというのも大事になるんじゃないかと思います。

 また今回の参院選が終わると、大きな国政選挙はしばらく無い可能性があります 。それもふまえて、日本の宝ともいえる中小企業の振興を本気で考えてくれる政党はどこか、見極めていくことが大事になると考えます。国際情勢や為替レートが大きく変わるなかで迎える、歴史的な選挙になるのではないでしょうか。