越境ECとは?市場規模やメリット、始める手順を解説【初心者向け】
新型コロナによる実店舗の営業活動の停滞や訪日外国人の減少などにより、国内の店舗販売額が減少傾向にあります。一方、店舗販売の代替手段として越境ECに期待が集まってきており、その市場規模が拡大しています。本記事では、越境ECを始めるにあたっての注意点や手順をわかりやすく解説します。
新型コロナによる実店舗の営業活動の停滞や訪日外国人の減少などにより、国内の店舗販売額が減少傾向にあります。一方、店舗販売の代替手段として越境ECに期待が集まってきており、その市場規模が拡大しています。本記事では、越境ECを始めるにあたっての注意点や手順をわかりやすく解説します。
目次
越境ECとは、国境を超えた電子商取引を指し、インターネットの通販サイトを通じて、国外の居住者に自社で扱う商品を販売・決済・配送などを行うことをいいます。
具体的な取引手段としては「海外のECサイトに出店する」「自社で海外顧客向けの通販サイトを構築して販売する」「海外にいるEC業者に商品を輸送して代行販売をしてもらう」などがあり、販売する品目・量・目的にあわせて適切なものを選ぶのが通例です。
なお、海外の代表的なECサイトには、アメリカの「Amazon」、中国の「天猫国際」「京東商城」などが挙げられます。
アメリカのeMarketer社が公表した、地域別の2020年のEC総売上高予測によれば、売上高が一番高い地域はアジア太平洋地域で、金額は2兆448億USドル(330兆4800億円《1ドル135円換算》)であり、これは世界の売上高の42.3%を占めるとしています。そのなかでも最も影響をもたらしているのは中国であり、中国の売上高はアジア太平洋地域の売上の63.6%(2兆90億USドル)に相当するとされています。
また、2位は北アメリカ地域で、金額は749億USドル(101兆1150億円《同》)であり、これは世界の売上高の22.9%にあたります。
このことから、eMarketer社は、中国と米国での売上が、世界全体の売上に大きな影響を与えていると指摘しています(参照:Global Ecommerce 2020:eMarketer)。
では、中国とアメリカの越境ECの市場規模はどのようになっているでしょうか。
経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2020年の中国における日本経由の越境EC(中国人が日本から商品を購入)の市場規模は1兆9,499億円、アメリカにおける日本経由の越境EC(アメリカ人が日本から商品を購入)9,727億円でした。日本人が中国から購入する金額が340億円、アメリカから購入する金額が3,076億円であることを見ると、越境EC分野においても中国やアメリカの影響は決して無視できないものといえます。
出典:令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書 p.11│経済産業省
一方で、下図のとおり、中国における日本経由の越境ECの市場規模、アメリカにおける日本経由の越境ECの市場規模は年々拡大しています。
経済産業省「電子商取引に関する市場調査」の平成28年度調査~令和2年度調査の「別紙 報告書」をもとに作成
また、世界の越境ECの市場規模も、2026年には4兆8,200億USドル(650兆7,000億円《1ドル135円換算》)と、2019年の市場規模から約6.2倍以上拡大すると予測されています。越境ECの注目度は、今後もますます高まるといえるでしょう。
出典:令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書 p.103│経済産業省
いま見てきたように、越境ECの市場規模は拡大傾向にあります。その理由として、次のようなメリットがあるからです。
越境ECに取り組む一番のメリットは、日本市場に加えて新たに海外の販路を拡大できることです。国内では人口減少、超高齢化社会の突入、GDPの成長鈍化などを背景に、国内市場全体の拡大が見えない状況が続いています。一方で、越境ECでは、世界全体に市場を広げることで、新規顧客の開拓、新たなターゲット層にアプローチすることができるため、売上を大きく伸ばせる可能性を秘めています。
海外に実店舗を構えるよりもコストを抑えられるのも越境ECのメリットです。例えば、中国国内に実店舗を構えた場合、家賃、改装費の他に、原則現地法人の設立が必要になり、多額の費用が発生します。一方で、中国のECサイト「天猫国際」に出店する場合は、システム利用料などは必要になってくるものの、年間50〜100万円程度に費用を抑えることができます。
越境ECには多くのメリットがありますが、デメリットがないわけではありません。特に大きいのが次の2点です。
一つ目のデメリットは、為替変動により、売上高が大きく変わることです。自社で越境ECのサイトを立ち上げ、商品を日本円で表示し、決済を行う場合、為替変動によるリスクを負うことはありません。
一方で、海外の通貨で決済する場合は、為替変動によるリスクを負担することになります。例えば、中国国内で帽子を100元で販売すると仮定します。昨今は円安の影響により、為替レートが1元20円程度で推移していることから、帽子を1個販売すると日本円で2,000円受け取ることができます。しかし、今後円高に振れて為替レートが1元15円になると、帽子を1個販売した場合、受け取れる日本円の額は1,500円となります。
なお、実務では、外貨建て決済を行う場合、リスク回避のために円建決済を行う手段も取れます。ただ、外国人にとっては他国通貨で決済を行うことになるため、今度は利便性が低下するというデメリットが生じます。
二つ目のデメリットは、言葉や商習慣の壁です。商品説明、質問への回答、クレーム対応など、すべて相手国の言語で応対することが求められます。
また、販売する国によって、商法、税法、知的財産権、個人情報保護法が異なることに加えて、マーケティング手法が異なることなど、販売する相手国に応じた法対応やマーケティング戦略の立案も必要となります。
つぎに、越境ECを始める前に知っておくと、実務のときに役立つ注意点をご紹介します。
越境ECにおいて、「急成長」「爆発的な購買力」「Japan Brandの発揮」といった、耳障りのよい言葉が踊っていますが、越境ECサイトを開設しても、思ったように売れなかったというケースはよく耳にします。価格競争によって、利益が圧迫され、市場からの撤退を余儀なくされる事例も少なくありません。
中国市場において、ECモールで爆発的に売れる商品を見極めることは(誇張している感はありますが)「海の中から針を探すこと」と比喩されることもあります。
越境ECで商品を販売するためには、当該市場における商品のプロモーション手法、販売価格など多面的な分析を行い、他社商品との差別化と優位性をPRすることが重要です。中国市場なら、中国人の嗜好、支払う金額を分析することに加え、適切な手法で販促を行う必要があります。出店さえすれば儲かるというものではないことは、念頭に置いておくとよいでしょう。
海外に商品を輸出し、その国で販売をする場合、当該国にVAT(Value Added Tax:商品やサービスの購入時に課される間接税のこと。日本の消費税にあたる税)や、関税が課される場合があります。
どちらも商品価格に大きく影響するものですが、品目や数量などによって税率が異なり、その体系は極めて複雑かつ流動的のため、税理士といった専門家に確認をすることをおすすめします。
また、VATが導入されているEU加盟国に商品を輸出する場合、販売前にVATの登録を求められることがあることにも注意が必要です。
特に中国市場を狙うときに注意しておきたいこととして、知的財産権があげられます。
中国というと知的財産権の意識が薄く、多くの模倣品が流通しているイメージを持たれがちですが、最近は知的財産関連の訴訟件数、模倣品の取り締まり件数が大幅に増加しています。
中国に、日本ブランドの模倣品を輸出することはもってのほかですが、知らずしらずのうちに法律に抵触しないように、中国における知的財産権についての理解を深める必要があります。
実際に越境ECを始めるときは、次の手順を踏むのが一般的です。
順に詳しくご説明します。
自社商品の中で、どの商品を越境ECで販売をするかについて検討することからスタートします。選定基準はさまざまですが、例えば、自社商品の顧客属性を分析し、中国人に多く買われている品は、中国向け越境ECでの販売が期待できます。
また、相手国によって輸出できなかったり制約があったりする商品もあるため、その商品が対象の品目になっていないかを確認する必要もあります。例えば、中国へ中古機械電気製品を輸出する場合、中国政府から事前に認証を受けなければいけません。
つぎに、どのマーケットで販売をするかについて検討をします。自社商品の中で受け入れられる可能性が高い国を選定しましょう。
有名な越境ECサイトとして以下が挙げられます。
輸出国 | マーケット名 | サイトURL |
---|---|---|
中国 | 天猫国際 | https://www.tmall.hk/ |
天猫商城 | https://www.tmall.com/ | |
アメリカ | Amazon | https://www.amazon.co.jp/ |
韓国 | G-market | http://global.gmarket.co.kr/Home/Main |
ただ、中小企業の場合、比較的物流コストが抑えられることと市場規模が大きいことから、まずは中国市場から進出することが一般的です。
マーケットまで選んだら、販売戦略の立案を行いましょう。立案の仕方は企業によってそれぞれですが、例えば販売する商品の価格設定から行う方法があります。
価格設定をするときは、出店をするECモールにおいて、自社と同じカテゴリーに属する商品がいくらで販売されているかを把握するのが通例です。
ただ、競合が多く、他社との差別化が難しいときは、価格競争が激しくなる傾向にあるため、中小企業にとっては不利になります。この場合は価格競争に巻き込まれないために、品質面、機能面の優位性を明確にし、当該国の嗜好に合ったプロモーションを行うことが定石になります。
プロモーションを行う際には広告宣伝費が高額になりやすいため、日本に居住する中国人に対してテストマーケティングを行うなど、スモールスタートすることも一つの方法です。
ライブ配信を活用し、実店舗と越境ECを組み合わせたオムニチャネルの成功事例をご紹介します。
X社は、30代以降でアッパーミドル層(世帯年収800~2,000万円の準富裕層)の女性をターゲットにしているアパレルブランドです。大手百貨店に出店をしていましたが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受けて、来店客数が減少、ソーシャルディスタンスの徹底により従来の接客ができなかったことなどもあり、売上が大幅に減少しました。
そこで、X社では、中国人向けに、KOL(キーオピニオンリーダー:特に中国において、消費者の購買の意思決定において強い影響力を持つインフルエンサーのこと)を活用した動画配信を行いました。アパレルショップの店内に置かれている商品を使って、KOLが中国人の嗜好に合わせてコーディネートを行い、ライブ配信で販売をしたところ、わずか1時間程度で1日の売り上げを大きく上回ることができました。
新型コロナの影響は、中国人の訪日の減少にもつながっています。もともと日本製品の購買意欲は非常に高いことから、日本でのライブ配信と越境ECを組み合わせた手法は、有効なものとして注目されています。
最後に、越境ECに挑戦するうえで利用できる可能性がある補助金をご紹介します。
補助金とは、事業者の取り組みをサポートするための資金の一部を、国が給付するというものです。要件(補助金の主旨、補助金の額、補助率、補助対象費用、採択率)が補助金によって異なるため、ビジネスプランの実態に合わせて、適切な補助金を選ぶことが重要になります。
なお、経済産業省の補助金は、交付決定(補助金採択後に補助金の対象費目と概算金額を決定する手続き)後に事業に着手することが条件です。交付決定より前に、発注先と契約を結んだ場合、補助金が交付されなくなるため注意が必要です。補助金の活用にあたっては、認定経営革新等認定支援機関(中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にある者として、国の認定を受けた支援機関)に相談することをおすすめします。
では、順にご紹介します。※補助対象経費区分は、越境ECで活用できる可能性がある経費に絞って掲載しています。
中小企業や小規模事業者が導入するITツール(会計ソフトやECソフトなど)の経費の一部を負担してくれる補助金です。
補助金名 | IT導入補助金 |
---|---|
主な要件 | デジタル化基盤導入累型の場合 ・補助金額:最大350万円 ・補助率:2/3以内 ・補助対象経費区分:ソフトウェア購入費・クラウド利用料・導入関連費など |
IT導入補助金2020ウェブサイト | https://www.it-hojo.jp/ |
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化するなかで、事業再構築(新しい分野への挑戦や業務の転換など)を図る中小企業を支援する補助金です。
補助金名 | 事業再構築補助金 |
---|---|
主な要件 | 通常枠の場合 ・補助金額:最大8,000万円(従業員数によって補助金額の上限が異なる) ・補助率:2/3以内 ・補助対象経費区分:システム構築費、専門家経費、クラウドサービス利用料、外注費、知的財産権等関連経費、広告宣伝・販売促進費など |
事業再構築補助金事務局ウェブサイト | https://jigyou-saikouchiku.go.jp/ |
小規模事業者が、持続的な経営のために、販路開拓をしたり業務の効率化を図ったりする際にかかる経費の一部を支援してくれる補助金です。
補助金名 | 小規模事業者持続化補助金 |
---|---|
主な要件 | 通常枠の場合 ・補助金額:最大50万円 ・補助率:2/3 ・補助対象経費区分 ウェブサイト関連費、展示会等出展費(オンラインによる展示会・商談等を含む)旅費、資料購入費、委託・外注費など |
小規模事業者持続化補助金事務局ウェブサイト | https://r3.jizokukahojokin.info/ |
越境ECの市場規模は当面は拡大していくことが予想されています。
一方で、越境ECでは、相手国に合わせた販売戦略の立案、相手国の法対応などが求められ、それに係る労力とコストも発生します。また、ECサイトを立ち上げれば、必ず売れるというものではありません。
越境ECのプラス面だけではなく、デメリットや注意点にも目を向け、場合によっては販路を国内市場に絞るという選択も視野に入れながら比較検討されることをおすすめします。
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