需要予測とは 利益最大化へAI活用に必要な分析手法を簡単に解説
会社の商品・サービスがどのくらい売れるのか正確に需要を予測できれば、効率よく利益を最大化できます。自社の商品・サービスを販売していく中で需要予測が重要である理由や、AIを活用するうえで必要な需要予測の分析方法、注意点について中小企業診断士が解説します。
会社の商品・サービスがどのくらい売れるのか正確に需要を予測できれば、効率よく利益を最大化できます。自社の商品・サービスを販売していく中で需要予測が重要である理由や、AIを活用するうえで必要な需要予測の分析方法、注意点について中小企業診断士が解説します。
目次
需要予測とは、自社の商品・サービスが市場でどのくらい売れるのか、さまざまな方向性から予測するものです。英語では”demand forecast”です。
商品・サービスごとの販売計画や生産計画の立案はもちろん、企業の意思決定の場面でも用いられます。
需要予測は、今までは担当者の経験と勘を基に行われるケースが散見されましたが、属人化された需要予測をしていると、その知見が社内で共有されず、担当者の退職により需要予測そのものが困難になるケースも少なくありません。
そのため、最近は、誰が行っても客観的な結果が容易に得られる需要予測ツールを使うことも増えてきました。中には、AIを活用して需要予測ができるツールも登場してきています。
需要予測が事業において重視される理由は、次の3点に集約されます。
昨今は、情報通信技術の発展や技術力の向上によって、国内外の企業からすぐに類似の商品・サービスが登場してくる時代です。
このような競争の激しい状況において、自社の商品・サービスをより多くの消費者に使ってもらい、利益を得るためには、競合他社に負けない良質な商品・サービスを提供するだけでなく、購入見込み客が「欲しい」と思ったときにその場で手に取れる・利用できるようにすることが求められます。
適切なタイミングで購入見込み客に対して商品・サービスを提供できれば、仮に類似の商品・サービスを展開する企業がいたとしても、「あそこの企業は自分のニーズを満たしてくれる」と印象づけることができるからです。
需要予測をすれば、例えば適切なタイミングで商品を出せるようにするためにはどのくらいの在庫を持っておけばよいのか、どのくらいのタイミングでサービスをリリースすればよいのか、などの指針が得られます。そのため、事業において重視されているのです。
商品や製品、またその原材料などは、保管しているだけで費用がかかります。チャンスロスを防ごうとするあまり在庫を持ちすぎると、かえって利益損失につながるため避けなければいけません。過剰在庫には、急な人員増・作業時間増が必要となるような想定外の作業が発生するリスクもあります。
需要予測は前述したように、購入見込み客が「欲しい」と思ったタイミングで商品を提供するためには、どれくらいの在庫が必要かがわかる手法です。競争優位性の獲得と同時に、在庫の適正化によって損失を防げるようになるのも、事業において重視される理由のひとつです。
企業が利益の最大化を目指すうえでは、何にどのくらいの費用が必要なのかを正しく計画することも重要です。費用が不足すると早めにわかれば、資金調達先の確保や資金調達方法を柔軟に検討しやすくなります。また、費用が不足することなく利益に余剰が出るとわかれば、人や設備に投資する計画も立てやすくなります。
こうした計画の精度を高めていくためには、購入見込み客のニーズを正確に汲み取ることが不可欠です。
需要予測には、場合によってさまざまな手法が存在します。この記事では、一般的に使用される機会の多い5つの手法を紹介します。AIで予測システムを組み上げるときにも知っておきたい内容となります。
算術平均法は、今後も同じく不規則な変動が続くことを前提に、複数の数値から算術平均を計算することで予測値を算出する方法です。需要予測をリサーチする手法のなかでは、もっとも単純な計算方法と言ってよいでしょう。
算術平均法を用いた計算方法は次のとおりです。
算術平均値=(算出したい数値の合計)÷算出したい項目数の合計 |
【例】1月~5月まで以下の販売数だった場合の1カ月あたり販売平均を算出する
販売月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 |
実際の販売数 | 200 | 300 | 150 | 150 | 500 |
1月~5月における月あたり平均販売数=(200+300+150+150+500)÷5=260
この方法で求められる予測値はエクセルのAVERAGE関数で計算できるため、簡単に需要予測ができるでしょう。
移動平均法は、期間を移動させながらその期間の平均を割り出して、予測値を算出する方法です。使う計算式は算術平均法で示した計算式ですが、使用する数値が動いていく点が異なります。
【例】1月~3月まで以下の販売数だった場合の4月の販売予測数を算出する
販売月 | 1月 | 2月 | 3月 |
実際の販売数 | 200 | 300 | 150 |
4月時点での販売予測数=(200+300+150)÷3=216.66……
経営期間が長いなど、データ量が膨大だったとしても一部期間のみで算出することができるという手軽さはありますが、上記を見てわかるように、毎月の数値にバラツキがあればあるほど、予測と実績値に乖離が生じやすくなるという欠点もあります。
加重移動平均法は移動平均法の一種です。移動平均法よりも最新の需要変動の影響を考慮した数値を算出することができます。加重移動平均法では直近1カ月を重視し、次のように計算します。
加重移動平均=(●月の販売数量+▲月の販売数量+■月の販売数量×2)÷算出したい月の合計数 |
【例】1月~3月まで以下の販売数だった場合の4月の販売予測数を算出する
販売月 | 1月 | 2月 | 3月 |
実際の販売数 | 200 | 300 | 150 |
4月時点での販売予測数=(200+300+150×2)÷4=200
また、次の式のように、各月の販売数量に加重係数(加重係数の合計は1)を掛け合わせて予測値を算出する方法もあります。
加重移動平均=(●月の加重係数×●月の販売数量)+(▲月の加重係数×▲月の販売数量)+……+(■月の加重係数×■月の販売数量) |
【例】1月~3月まで以下の販売数だった場合の4月の販売予測数を算出する
販売月 | 1月 | 2月 | 3月 |
実際の販売数 | 200 | 300 | 150 |
加重係数 | 0.3 | 0.1 | 0.6 |
4月時点での販売予測数=0.3×200+0.1×300+0.6×150=180
指数平滑法は、過去の予測値と実績値から次の予測値を算出する方法です。
もっとも基本的な式のとおりです。
予測値=平滑係数(α)×前期の実績値+(1–平滑係数(α))× 前期の予測値 |
平滑化指数と呼ばれる係数αの設定値は、1に近いほど直前の実績を重視した予測値となり、0に近いほど過去のデータ傾向を重視した予測値となります。
【例】1月の予測値と販売数が以下の数値だった場合の2月の予測値を算出する
販売月 | 1月 |
販売予測数 | 150 |
実際の販売数 | 200 |
2月の予測値(平滑係数α=0.3の場合)=0.3×200+(1-0.3)×150=165
2月の予測値(平滑係数α=0.7の場合)=0.7×200+(1-0.7)×150=185
上記の式からもわかるように、指数平滑法を用いて予測値を算出する場合、予測値の精度は平滑係数(α)の数値に左右されます。過去のデータを用いてシミュレーションすることで、予測誤差が小さくなるような平滑係数(α)を設定しましょう。
因果関係があると思われる変数(時間や販売数量など)間の関係を、Y = a + bX といった直線の式で記述する統計手法です。結果となる変数は1つですが、原因となる変数の数によって単回帰分析、重回帰分析と呼び分けます。
回帰分析法を簡単に使いたいなら、エクセルを活用しましょう。エクセルのホームからオプション→アドイン→アドインの「設定」を選ぶと、その中に「分析ツール」という項目があるのでチェックボックスをクリックしてチェックマークを入れ、「OK」をクリックします。「データ」タブの右端に「データ分析」が追加されていれば、エクセルで回帰分析法が使用できます。
需要予測を用いる際に注意しておきたいポイントが3つあります。
以下で具体的に解説します。
企業によっては、ベテラン担当者が自身の経験と勘から需要量を予測し、意思決定を下している場合があります。しかし、このような需要予測方法はたとえ正確だったとしても、属人的な部分が多いためおすすめできません。
属人的な需要予測方法の場合、社内に知見が蓄積されないことが多いからです。もし、そのベテラン担当者が退職したら今までどおりの需要予測は困難でしょう。
需要予測は、あくまでも分析によって得られたデータを用いるべきです。
需要予測の精度を高めるために、手計算やエクセルデータを用いた需要予測から需要予測システムに切り替えるケースもあるでしょう。しかし、需要予測システムを導入すれば必ず予測が当たるというわけではありません。
一方で、当たらなければ需要予測は意味がないというわけでもありません。需要予測に基づいた在庫管理をしていれば、予測に反した売り上げ増・売り上げ減に向けた事前対策が立てやすくなります。想定外の需要があったとしても、リスクを最小限に抑えることができる点は、データに基づいた需要予測のメリットです。
需要予測のベースとなるデータに不要なデータが含まれていては、算出された予測値の精度は正確性に欠けます。また、質の高いデータ量を増やすためには、データを継続的に長く収集する必要があります。精度の高い需要予測は短期間では成立しないものなのです。
筆者が支援した企業の中から、需要予測と企業経営がうまく結びついた事例を紹介します。
あるパン屋を支援していたとき、販売不振をきっかけに、どのパンがいつどのくらい販売されたのかといったデータや、どの食材がいつどのくらい廃棄されたのかといったデータを収集し、分析したことがありました。
需要予測の結果、店主が店をオープンするきっかけとなったデニッシュパンの売り上げがよく、廃棄量も少なかったことがわかりました。そこで、デニッシュパン専門店として再オープンしたところ、多くの顧客に愛される店となりました。
需要のバラツキが多いある居酒屋では、アルバイトのシフトと繁閑がうまく連動していませんでした。そこで、過去の販売実績に加え、店周辺のイベントや天候など、さまざまな要素から需要予測を実施しました。
その結果、常連客と新規客に加え、リピート客の3層の間でわずかながら需要傾向の差が見られました。そのため、このデータを基にしたアルバイトのシフトを作成することで、現時点ではアルバイトのシフトと繁閑がうまく連動している日が大多数になったとのことです。
需要予測の精度を上げるには、過去の実績を考慮しつつ、需要予測を続けることが重要です。需要予測を続けて精度が上がれば、在庫管理の精度も上がり、機会損失やリスク・コストの削減もできます。日々試行錯誤を繰り返していきながら、数値と向き合ってみてください。
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