ナレッジマネジメントとは?メリットや実践方法、役立つツールを紹介
ナレッジマネジメントとは、属人化しやすい知識や情報を、チーム全体で活用するマネジメントスキームです。組織の問題解決能力やイノベーション能力の向上などが期待できます。この記事では、ナレッジマネジメントの概要、メリットとデメリット、実践方法、実践に役立つツールなどについて解説します。
ナレッジマネジメントとは、属人化しやすい知識や情報を、チーム全体で活用するマネジメントスキームです。組織の問題解決能力やイノベーション能力の向上などが期待できます。この記事では、ナレッジマネジメントの概要、メリットとデメリット、実践方法、実践に役立つツールなどについて解説します。
目次
ナレッジマネジメント(Knowledge management)とは、個人に属しがちな知識や情報をチームなどの組織全体で共有し、集合知として活用するマネジメントスキームです。
ナレッジマネジメントの発祥については諸説ありますが、1980年代に経営学者のピーター・ドラッカーらが提唱し、インターネットとネットワークコンピューティングの世界的な普及と歩みを合わせて理論体系化する機運が世界的に高まり、1990年代初頭には世界各地でモデル理論が発表され始めたとするのが一般的な認識です。そのなかには一橋大学の野中郁次郎教授が提唱した「知識創造理論」も含まれ、今日一般的に用いられているナレッジマネジメントの基礎モデル理論のひとつとなっています。
ナレッジマネジメントは、もともと経営現場で生まれたということもあり、知識共有インフラとしてのインターネットの普及に合わせて経営の領域で普及してきましたが、今日までに経営以外の領域でも幅広く利用されています。特にコンピューターサイエンス、医療、心理学、エンジニアリング、インフォメーションサイエンスなどの、集合知の活用に積極的な領域で活用が進んでいます。
ナレッジマネジメントを導入・実践するときは、メリット・デメリットを把握することが大切です。それぞれ見てみましょう。
ナレッジマネジメントを導入すると、属人的な知識や情報にメンバーがアクセスすることが可能になり、結果的にプロブレム・ソルビング(問題解決)能力が向上します。
例えば、カスタマーサポートなどを行うコールセンターなどでは、属人的な知識や情報のなかにプロブレム・ソルビングの「解」が存在することが珍しくありません。ナレッジマネジメントを導入すると、それをメンバー全員で共有することになり(いわゆるFAQ〈よくある質問とその答え〉の蓄積)、顧客に適格で迅速なサポートを提供することが可能になります。
ナレッジマネジメントを導入・実践することで、チーム全体のイノベーション能力の向上が期待できるのもメリットです。
アメリカの著名実業家ジェームズ・W・ヤング氏は、新しいアイデアは複数の要素(事実・情報)を組み合わせて生み出されるという仮説を提唱していますが、それによると、組み合わせのもととなる要素の数が可能な限り多く、かつ要素の内容が限りなくユニークであるほど、斬新なアイデアが生み出される可能性が高くなります。実際、社員から多くのアイデアを集めて集合知化し、新製品開発に役立てている家電メーカーの実例が存在しています。
ナレッジマネジメントを導入・実践することで意思決定、とりわけ経営上の意思決定スピードの向上が期待できるのもメリットです。特に営業や製造などの最前線における情報をマネジメント層が共有することで、実際の市場ニーズに即した適格な意思決定をスピーディに行うことが可能になります。
一見すると良いことばかりのナレッジマネジメントでも、デメリットがないわけではありません。その一つが、導入と実践に時間とコストがかかることです。
例えば、ナレッジマネジメントではツールやシステムがしばしば用いられますが、運用するには社員のトレーニングが必要であり、それには一定の時間を要します。ツールそのものにコストがかかるケースも少なくありません。
また、ツールやシステム導入以前に、ナレッジマネジメントの仕組みや概念を社内に浸透させるのにも、それなりの時間とコストがかかります。
ナレッジマネジメントを導入することに対し、一部の社員の反発を招くリスクがあることもデメリットとしてあげられます。
ナレッジマネジメントは、社員一人ひとりに属しがちな知識や情報をチーム全体で共有し、集合知として活用する仕組みです。一方で、営業などの現場では、属人的なノウハウが属人的であるがゆえに、一人ひとりの社員のバリューを生み出しているケースが少なくありません。そのようなケースにおいては、属人的な知識や情報を持つ社員にとって、ナレッジマネジメントで知識や情報を共有することがネガティブになる可能性があります。
では、実際にナレッジマネジメントの実践方法を説明します。この記事で紹介するのは、こでは、一橋大学の野中郁次郎氏と竹内弘高氏らが提唱したSECI(セキ)モデルのフレームワークを使った方法ですて紹介します。なお、SECIモデルは、「暗黙知」と「形式知」という二つのキーワードをベースに組み立てられています。
暗黙知とは「言葉や図式などで表されていない知識」であり、形式知とは「言葉や図式などで表されている知識」です。SECIモデルは、暗黙知を形式知に変換して共有し、さらに暗黙知を拡大してゆく以下のサイクルで構成されています。
最初のステップは共同化です。共同化とは、暗黙知から暗黙知が生まれるプロセスを指します。
例えば、寿司職人を目指す新入りは、寿司店へ就職して親方から寿司の握り方を「身体で覚える」かたちで教わるのが一般的です。そこには、寿司の握り方を教えるマニュアルや教科書などなく、ましてや図式化された資料などは存在しません。弟子たちは、親方のやり方を身振り手振りで学び、寿司の握り方を暗黙知として習得します。暗黙知から暗黙知を生み出し、実務的に共有するのが共同化のプロセスです。
表出化とは、共同化で共有された暗黙知を形式知へ変換するプロセスです。暗黙知を構成する知識やノウハウをマニュアルや資料などに落とし込み、「見える化」して共有します。これにより、チームメンバーによる効率的で効果的な知識の共有が可能になります。
寿司職人の例で言えば、マグロの漬けの握り方をマニュアルにしたり、動画で撮影してメンバー全員で共有したりするイメージです。
連結化とは、表出化で共有された形式知を、他の形式知と組み合わせて連結するプロセスです。例えば、マニュアルを他の部署で表出されたマニュアルと連結することで、新たな視点やアプローチなどを獲得する可能性が生じます。
寿司職人の例で言えば、マグロの漬けの握り方のマニュアルを他店のマニュアルと連結することで、新たに低温調理法のプロセスを付加できた、といったイメージです。
内面化とは、表出化や連結化で得られた形式知を個人個人が取り入れ、新たな暗黙知を形成してゆくプロセスです。
寿司職人の例で言えば、マグロのづけの握り方のマニュアルを個人レベルで体得し、新たに熟成調理法を追加することでアウトプットのバリューを増加させる、といったイメージです。
ナレッジマネジメントを実践するときは、このようにまず共同化し、表出化、連結化を行い、それによって内面化して生まれた新たな暗黙知をあらためて共同化し……というサイクルを続けていくことになります。
ナレッジマネジメントの実践事例として、アメリカのペンシルバニア州に拠点を置く大手医療機関・Geisinger Medical Groupのケースを紹介します。
Geisinger Medical Groupは循環器系疾患の手術に強く、ペンシルバニア州では唯一レベル1の救急医療機関として登録され、数多くの手術を行うとともに、各種の救急医療に対応しています。このグループでは、ナレッジマネジメントを導入することにより、医療コストの削減、治療成績の向上、優秀な医師の確保というメリットを享受しています。
循環器医療は職人の世界と言われ、手術の技術やノウハウが医師一人ひとりに属人的に属しやすいとされています。手術の術式や薬の投与などについては医師個人が判断し、それぞれのノウハウや経験に基づいて手術が行われてきました。それに対し、Geisinger Medical Groupはナレッジマネジメントを導入し、医師一人ひとりが持つ「暗黙知」を見える化して「形式知」にすることに成功しました。
例えば、心臓バイパス手術については、手術全体を20の標準ステップに区分けし、それぞれのステップにおける術式や薬の投与方法をマニュアル化しました。また、20の手術ステップとあわせて40のチェックリストも導入しました。
導入当初は「料理レシピ医療」だとして反発する医師が少なくなかったものの、マニュアル化された手術方法を実践する医師が相次ぎ、Geisinger Medical Groupにおける心臓バイパス手術方法は文字通り形式知となりました。手術の治療成績はうなぎ登りに上昇し、マニュアル制定後実施された心臓バイパス手術8,000件のうち、マニュアル通りに行われた手術の割合は全体の99.95%に達しました。また、患者一人当たり医療コストも2,000ドル(約28万円)程度減少し、手術の効率化から手術室の運用効率は大きく改善しました。
ナレッジマネジメントを実践するとき、民間企業が開発しているITツールがしばしば用いられます。ツールを活用するメリットとしては、ナレッジマネジメントの実践プロセスの共同化や表出化、連結化が容易になることがあげられます。
ここで、社内に新たにナレッジマネジメントを導入し、実践する際に役立つツールを3つほど紹介します。
株式会社PKSHA Communicationが開発、提供しているFAQシステムです。業務中によく発生する質問と最適解をクラウドベースで共有できます。国内のFAQシステムとしては10年連続シェア最大を誇っており、大手メーカー、金融機関、各自治体などにも導入され、実績が豊富です。
また、導入サポートも用意されているので、特に初めてFAQシステムを導入する企業に打って付けです。
ツール名 | OKBIZ for FAQ |
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提供会社 | 株式会社PKSHA Communication(パークシャコミュニケーション) |
特徴 | 簡単で使いやすいFAQ方式のナレッジ共有システム |
主な用途 | 社内外用FAQシステム |
費用 | 個別見積り |
公式URL | https://www.okbiz.jp/solutions/okbiz-faq/ |
アメリカのスタートアップ企業Zendeskが開発、提供しているクラウドベースのFAQシステムです。社内外で利用でき、特に社外とはSNS、メール、メッセンジャー、チャットなどのチャネルでオムニチャネルによるコミュニケーションができます。AIボットも搭載可能で、コールセンターやカスタマーサポートセンターを簡単に構築できるのが特徴です。
ツール名 | Zendesk |
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提供会社 | 株式会社Zendesk(本社:アメリカ・サンフランシスコ) |
特徴 | 管理インターフェースがシンプルで操作が簡単 |
主な用途 | 社内外用FAQシステム、コールセンター、カスタマーサポート |
費用 | 1ユーザーあたり月額19ドル~ |
公式URL | https://www.zendesk.co.jp/service/help-center/knowledge-management-tools/ |
株式会社プロジェクト・モードが開発・提供している社内Wikiシステムです。マニュアル、日報、各種資料、報告書、議事録といった、社内に存在する各種の資料・情報をWiki形式で共有することができます。とにかく社内の資料や情報を共有したいといった企業におすすめです。マルチデバイス対応で、検索機能も強力です。
ツール名 | NotePM |
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提供会社 | 株式会社プロジェクト・モード |
特徴 | Wiki形式で情報共有が可能 |
主な用途 | 社内資料・情報の共有 |
費用 | ユーザー数8人まで月額4,800円~ |
公式URL | https://notepm.jp/ |
企業の内部にはさまざまなノウハウや情報が暗黙知として存在しています。多くの企業では、そうした暗黙知は属人的に保有・管理され、他者と共有されていません。言うなれば社内に埋もれた宝と化している可能性があります。特に営業などの最前線においては、そうした暗黙知が少なからず存在しています。
属人化が発生しやすい業務が多い企業においては、ナレッジマネジメントを導入し、ただちに暗黙知の活用をスタートされることをおすすめします。もちろん、その際は時間やコストがどのくらいかかりそうか見積もること、社員の反発を買わないように社員が得られるメリット(例えばプロブレム・ソルビング能力が向上することで個人の負担も軽減される、など)をきちんと説明することが大切です。
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