ファミリーマートは2022年8月から「AIロボット」と「店舗作業分析システム」を導入しました。計画では2023年2月末までに約30店舗、2024年2月末までに約300店舗に広げます。コンビニの店舗で本格的なロボットが稼働するのは初めてです。
AIロボット導入の目的は、人が担っている飲料の補充業務をなくすことです。現在の実証実験では、店舗の裏側にあるプレハブ型冷蔵庫「ウォークイン」で、AIロボットが24時間連続で稼働。1日に最大1000本のペットボトル飲料などを並べることができます。
1つ目の理由は、人による作業だと効率が悪いからです。店員が飲料の品出しをしていても、お客の列ができると呼び出され、レジ業務に入る必要があります。店舗によっては行ったり来たりを繰り返し、作業がはかどりません。AIロボットの導入で、こうした非効率は解消できます。
2つ目の理由は、職場環境の改善です。5~7℃ほどに保たれたウォークイン内での長時間の品出し作業は、体に負荷がかかります。特に夏場は冷えた飲料がよく売れるため、寒暖差の大きなウォークインでの作業も増えます。特にコンビニが今後、高齢者雇用を積極的に進めるなら、ウォークインでの作業は大きな課題になるでしょう。AIロボットはこうした問題も解決しうるのです。
店舗作業分析システムで業務時間を可視化
AIロボットの動き方を確認しましょう。まず、ウォークイン内の壁側にある在庫棚から飲料を1本取り出します。次に、売り場側を向き、冷蔵ケースの背面から商品を送り込みます。在庫棚と冷蔵ケース背面の間にはレールが敷かれ、AIロボットはその上を横移動しながら、必要な商品を並べていくのです。
ただモノを運ぶだけではありません。AIにより、適正な量を適正な順番で補充できるのが特徴です。どの時間にどれだけ売れるか、ある商品を一定時間に何個並べないと欠品するのか、といった情報をAIが販売データから学びます。販売データは常に更新され、どの商品を先に補充するか、AIロボットが自ら優先順位を決めます。
販売データは個々の店舗ごとに学習させることができます。季節による変動も考慮してくれます。例えば、秋はぶどうジュースの販売量が増えるといった情報を得れば、AIロボットが陳列量を増やして備えてくれます。
AIロボットと並行し、ファミリーマートでは「店舗作業分析システム」も導入しています。店員が発信器を身につけ、店内各所に受信機を置くことで、店員の位置情報を把握します。これにより、時間帯ごとに、店員がどの作業にどれだけの時間を割いているかを可視化するのです。店舗業務の一部をAIロボットが担うことを前提とした、最適なワークスケジュールと人員配置を模索しています。
一般的にコンビニの店舗では、常に2人以上の店員が働いています。しかし、ピーク時には人が足りず、それ以外の時間帯では過剰なこともあります。こうしたでこぼこを客観的に把握し、どの作業をAIロボットなどで自動化できるかを検討するのです。これにより接客サービスやより複雑な業務など、人でなければできない仕事を店員に割り当て、生産性を高める考えです。
店内どこでも精算可能なスマホレジ
コンビニの生産性向上につながる、もう1つのデジタル技術の活用例が「スマホレジ」です。お客自身が自分のスマホで商品バーコードを読み取って精算する決済手法です。無人のセルフレジと異なり、店内のどの場所でも精算可能です。
ローソンは2018年4月に都内の一部店舗に導入しました。現在は大都市圏を中心に約100店で実用化しています。業界最大手のセブン-イレブンも、2022年春から実証実験を始めました。
ローソンが着実に導入店を増やしていますが、本格的な普及はこれからです。ローソンとセブン-イレブンの店舗で、お客が積極的にスマホレジを利用するようになれば、他のコンビニチェーンも追随するでしょう。
セブン-イレブンの「セブンスマホレジ」は、初期の実験をした後、2022年から直営の路面店にテストを拡大。現在は6店舗で、一般利用客向けの実証実験を重ねています。
一般的に、コンビニの店舗運営にかかる費用のうち3~4割は、レジ精算業務の人件費だと言われています。スマホレジの普及によって、店員のレジ精算業務が減れば、加盟店にとってコスト削減につながります。
「セブンスマホレジ」の使い方を説明します。まず専用アプリをインストールし、決済用のクレジットカードを設定します。対応店舗の入り口には、入店用QRコードの掲示があります。専用アプリを立ち上げ、コードを読み取ります。次に売り場で商品を手に取り、スマホでバーコードを読み取ります。支払いボタンをタッチすると精算完了。店を出る時に退店用QRコードを読み取って終わりです。
セブン&アイ・ホールディングス社長の井阪隆一氏は2021年10月の決算会見で「生産性の向上が図れるのではないかと検討しています。お客様のスマホを活用するシステムなので、設備投資は大きくありません。テストで問題点がクリアできれば、展開にはそれほど時間はかからないだろうと思います」と述べました。スマホレジへの期待の大きさがうかがえます。
「万引き犯と思われる」という不安の解消策
スマホレジのメリットとデメリットは何でしょうか。
最大のメリットはレジの待ち時間がゼロになること。イメージしやすいのは、オフィス街の店舗のランチタイムです。こうした店では正午過ぎに、昼食需要でレジ待ちの長い列ができます。すると、ジュース1本や菓子1袋を買おうとしたお客は「後でいいか」となり、おにぎりを買いにきたお客は「別の店で済ますか」となります。店にとっては機会ロスです。
しかし、自分でその場で決済できるスマホレジなら、どれだけ混雑した店舗でも、待ち時間はありません。こうしたシステムに人々が慣れていけば、仮にレジがすいていても、一部のお客はスマホレジを使うでしょう。できるだけ店員と接したくないというお客の需要も取り込めます。
一方、店側にとっても、レジ作業の時間を減らせます。浮いた時間を別の仕事に充てられるし、現金の過不足も生じにくくなります。
セブン-イレブンの広報によると、実証実験をした店舗では、飲み物やお菓子を1~2品買う場合、レジ待ちの列がない時間帯でも有人レジではなくスマホレジを使うお客が多いそうです。
次にデメリットを3つ挙げます。
1つ目は、酒・たばこの免許品が購入できないこと。この点は、各チェーンで導入が進むセルフレジと同様です。
2つ目は、不正利用の恐れというストレスが店側にかかる点です。セルフレジの場合、決められた場所で精算します。真上の天井にはおそらく防犯カメラがあり、トラブルが起きれば店側は後で確認できます。
これに対しスマホレジは店内のどこでも精算可能です。例えば棚と棚の間の狭い場所で精算する人を、店側は監視しづらく、「お客は万引きなどしない」という性善説に立つしかありません。しかし、精算したような素振りで商品をマイバッグに放り込まれたら、商品ロスが生じます。
3つ目は、お客の側にもストレスがかかる点です。お客は店員の見ていない店内で、棚から手に取った商品をスキャンしてマイバッグなどに入れることになります。他のお客から万引き犯と疑われないだろうか、スキャン漏れしたまま店外に出てしまったらどうしよう――。そんな不安がつきまといます。
客にかかるストレスを解消するため、「セブンスマホレジ」では、商品をスキャンするたびに「1点お買い上げです」という音声がスマホから流れます。これは不正の抑止が目的というより、確かに代金を支払ったという安心感をお客に提供する意味合いが強そうです。
店側にとって顧客接点を失う側面も
筆者が「セブンスマホレジ」を体験した店舗では、退店前に専用の場所でQRコードをかざす必要がありました。システム上はスマホ内で精算を完了できるので、退店時のワンアクションが必要か、議論の分かれるところでしょう。
チェーン本部から見ると、スマホレジはいったんシステムさえ作り上げれば、実施店舗を広げる際に、レジ増設などの大きな追加投資は不要です。どこかのタイミングで急速に実施店舗が増えるかもしれません。
デメリットとまでは言えませんが、1つ気になるのは、店側にとって顧客接点が奪われる点です。有人レジにお客が来れば、「クリスマスケーキのご予約はお済みですか?」「〇〇が今、揚げたてですよ。おひとついかがですか?」「コーヒーがおいしくなりましたよ。お試しください」といったコミュニケーションが可能です。レジのセルフ化が進めば、接客の機会は減っていきます。
そうしたアナログな顧客接点の良さも、今後はデジタルの情報発信に置き換えられていくのかもしれません。デジタル技術の活用により、お客にとってより居心地のいい店をどう作っていくのか、注目したいと思います。
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