目次

  1. 賃金規程(給与規程)とは
  2. 賃金規程(給与規程)に記載する内容
    1. 絶対的記載事項
    2. 相対的記載事項
    3. 任意的記載事項
    4. 賃金規程(給与規程)のサンプル
  3. 賃金規程(給与規程)を作成するときに知っておきたいルール
    1. 賃金支払5原則
    2. 同一労働同一賃金
    3. 月60時間を超える部分の時間外労働には割増率50%以上で支払い
    4. 給与のデジタル払い
  4. 賃金規程(給与規程)作成の大まかな流れ5ステップ
    1. ステップ1「諸手当の整理・把握」をするときのポイント
    2. ステップ5「労働者へ周知」するときのポイント
  5. 賃金規程(給与規程)を作成したあとの注意点
    1. 最低賃金額を記載しているときは毎年10月の変更を確認する
    2. 暗黙の了解は明文化する
  6. 賃金規程(給与規程)の定期的な見直しを

 賃金規程(給与規程)とは、その事業所の賃金である給与や賞与について記載されたルール集のことです。

 就業規則内に賃金規程が盛り込まれている場合もありますが、一般的に賃金についての事項は他の章に比べて長くなるため、就業規則とは別に賃金規程を作成することが多いです。

 賃金規程を設けた場合は、就業規則内の賃金に関する事項について「別途、賃金規程に定める」としておきます。

 就業規則には必ず定めと記載が必要な「絶対的記載事項」と、定めがある場合には記載が必要な「相対的記載事項」があります(労働基準法第89条)。

 そのほか、就業規則には事業主が任意に定める内容(任意的記載事項)を記載することができます。また、どの事項にも共通する点として、各労働関係法の基準以下の規則を定めても、その部分については無効となります。

 絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項のうち、賃金規程には何を記載しなければならないか、説明します。

賃金規程(給与規程)に記載する内容
賃金規程(給与規程)に記載する内容(デザイン:吉田咲雪)

 絶対的記載事項は、定めることと記載が必ず求められる事項です。絶対的記載事項のうち、賃金に係る事項と具体的内容は下記の通りです。

事項 具体的内容
1.賃金の決定方法 適用範囲、賃金の構成、基本給、諸手当の額
2.賃金の計算及び支払の方法 給与の計算期間、控除するもの、欠勤等による控除計算方法、支払方法
3.賃金の締切り及び支払の時期 給与締め日、給与支払日
4.昇給に関する事項 基本給の改定月と対象者や条件

 相対的記載事項は、会社で定めがある場合には記載が必須の事項です。会社で定めがない場合には記載を求められません。

 相対的記載事項のうち、賃金に係る事項と内容例は下記の通りです。

事項 内容例
1.臨時の賃金(賞与) 賞与の支給月、計算期間、対象者、計算方法
2.最低賃金額に関する事項 事業場内最低賃金を定めたときなど
3.食費、作業用品などの(従業員の)負担に関する事項 在宅勤務時の通信費など

 事業主が任意に定める事項のうち、全従業員に適用される事項は記載が必要です。個人に適用する場合は、採用以前の労働条件通知書による明示で問題ありません。

 厚生労働省のモデル就業規則を元に作成した賃金規程のサンプルの画像を見ながら、先ほど説明した絶対的記載事項と相対的記載事項がどのように記載されるかをご紹介します。

①絶対的記載事項の記載例

1.賃金の決定方法

適用範囲と賃金の構成
適用範囲と賃金の構成
基本給の部分
基本給の部分
諸手当の一部
諸手当の一部

2.賃金の計算・支払の方法・賃金の締切り及び支払の時期

賃金の計算期間・支払時期・方法・控除するものに関する部分①
賃金の計算期間・支払時期・方法・控除するものに関する部分②
賃金の計算期間・支払時期・方法・控除するものに関する部分
欠勤等による控除計算方法の部分①
欠勤等による控除計算方法の部分②
欠勤等による控除計算方法の部分

3.昇給に関する事項

昇給の部分
昇給の部分

②相対的記載事項の記載例

1.臨時の賃金(賞与)

臨時の賃金(賞与)の部分
臨時の賃金(賞与)の部分

2.最低賃金額に関する事項

最低賃金額に関する事項の部分
最低賃金額に関する事項の部分

3.食費、作業用品などの(従業員の)負担に関する事項

食費、作業用品などの(従業員の)負担に関する事項の部分
食費、作業用品などの(従業員の)負担に関する事項の部分

 次に、賃金規程の作成において大切なルールを4つ説明します。

 賃金の支払方法は労働基準法第24条において、

  1. 通貨で
  2. 直接労働者に
  3. 全額を
  4. 毎月1回以上
  5. 一定の期日を定めて

 支払うこととされています。

 よくある注意点としては、5の部分で、「第4週の金曜日を給与支払日とする」といった文言は一定の期日を定めたことになりません。曜日ではなく、日にちや末日といった定めとしましょう。

 同一労働同一賃金とは、正社員と同じ働き方をしているにも関わらず短時間・有期雇用労働者という理由だけで賃金を始めとする待遇に差をつけてはならないというルールです。

 雇用形態が複数あり、手当や賞与支給に差がある場合には、その手当の性質や差をつけることの合理性を説明できるようにしておきましょう。

 不安な場合には厚生労働省が提供する「パートタイム・有期雇用労働法等対応状況チェックツール」を利用してみるのもおすすめです。

 月60時間を超える部分の時間外労働については割増率を50%以上で支払うことが求められていますが、2023年3月末までの中小企業についてはこの対応を猶予されており、25%の割増率でも違法となりません。

 ただ、2023年4月からは時間外労働月60時間を超える部分について50%以上の割増手当支払が必要となりますので、今後の人件費予算を見込む際には頭に入れておきましょう。

 賃金支払5原則の1に通貨で支払うことがルールとしてありましたが、電子マネーやキャッシュレス決済マネーでも給与を支払える制度設計が検討されています。

 キャッシュレス利用者のうち、4分の1程度は「給与デジタル払いが可能になったら、制度を利用したい」と回答しています(参照:資金移動業者の口座への賃金支払について p.41丨労働政策審議会)。

 検討が進めば2023年春に給与デジタル払いが解禁となる可能性もあり、もし解禁となれば就業規則の賃金の支払方法部分の改定が必要となります。今後の動向に注目です。

 賃金規程は、以下のような流れで作成します。

  1. 会社内の諸手当などを整理し把握しておく
  2. 就業規則から賃金規程に記載する部分を抜粋する
  3. 案を作成し、労働者代表の意見を聞く
  4. 就業規則(2部)・賃金規程(2部)・意見書・就業規則変更届を会社住所地管轄の労働基準監督署へ提出する
  5. 労働者へ周知する

 このなかで、特に気をつけなければならないのがステップ1とステップ5です。以下で詳しくご説明します。

 賃金規程の作成には、諸手当の具体的な金額を決定しておく必要があります。よくある手当ごとに、その金額を考えるときのポイントを紹介します。

  • 役職手当・管理職手当
    管理監督者は時間外割増の対象外となるので、管理監督者としてふさわしい金額かどうかがポイントになります。例えば、手当を含めた基本給を総労働時間で除算したときに、一般社員の時給換算額と同程度だと管理監督者性が認められない可能性があります。

  • 資格手当
    その資格が事業の売上にどれだけ寄与しているかがポイントです。例えば、50人以上の事業所では衛生管理者の専任が義務付けられていますが、売上に寄与するものではないので月額数千円とするのが一般的となっています。

  • マイカー通勤手当
    所得税との兼ね合いで距離毎の非課税限度額を設定している会社がよく見られます(参考:通勤手当の非課税限度額の引上げについて|国税庁)。

 なお、基本給については、賃金規程サンプル「昇給に関する事項」のような記載で問題ありません。

 賃金規程は、提出した後に、周知をしなければ規程の効力が発生しません。いつでも見られるように印刷したものを各事業場に備え付けたり、PDFにして共有したりするといったことが必要です。

 賃金規程の改定を行う場合は、変更・追加・削除箇所が少ないときは新旧対照表を、多数ある場合は全ページ印刷して、意見書・就業規則変更届とあわせて監督署へ持っていきましょう。

 賃金規程の作成までを説明してきましたが、ここでは作成したあとの運用にかかる注意点を説明します。

 相対的記載事項である最低賃金額に関する事項について、記載している場合には毎年10月の最低賃金額の変更に注意しましょう。いくらに変更されたのかは、厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」を見ることで把握できます。毎年9月下旬には、更新されています。

 最低賃金額に合わせて賃金規程を変更した場合は、監督署への提出と労働者への周知が必要です。

 賃金規程には書かれていないにも関わらず、暗黙の了解で控除している費用がある/計算方法があるといった場合は、必ず賃金規程に記載しましょう。

 争いとなったときに、規程に記載がないものについて事業主は正当性を主張できません。

 また、社会保険料や源泉所得税以外の、何らかの費用(例えば、労働組合費や財形貯蓄金など)を給与より控除する場合は別途労働者代表との労使協定の締結が必要です。

 賃金に関する法改正は従業員にとっても特に関心の高い部分です。

 特に、「賃金規程(給与規程)を作成するときに知っておきたいルール」で述べましたが、2023年春に向けて2点、賃金規程に関するルールが変更となります。

  1. (中小企業の場合)時間外月60時間超部分の割増率50%へ引き上げ
  2. (時期詳細未定)デジタル給与払いの許可

 1については、割増賃金計算方法の部分の月60時間の割増率を50%と変更することで良いでしょう。2は、賃金の支払の部分で記載を追加する必要があります。

 対応が遅れないように、この機会に定期的に見直しをしてみましょう。