労働保険の年度更新のやり方は?申告書の書き方などをわかりやすく紹介

労働保険の保険料は、4月から翌年3月までの年度ごとに計算され、毎年6月1日から7月10日の期間に新年度分の保険料を概算(見込み)で納付すると同時に、前年度分の保険料を確定して申告する仕組みになっています。これを「年度更新」といいます。申告書の書き方を社労士が画像付きで解説します。
労働保険の保険料は、4月から翌年3月までの年度ごとに計算され、毎年6月1日から7月10日の期間に新年度分の保険料を概算(見込み)で納付すると同時に、前年度分の保険料を確定して申告する仕組みになっています。これを「年度更新」といいます。申告書の書き方を社労士が画像付きで解説します。
目次
労働保険の年度更新の具体的な流れや申告書の作成手順に入る前に、労働保険とは何か、労働保険の保険料の仕組みについて、まずは基本的な事項を整理しましょう。
労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。
労災保険は、業務上の事由により発生した労働災害に対する保険給付などを行うための制度であり、雇用形態に関わらず一人でも労働者を雇用する事業者はすべて加入対象となります(ただし、農林水産業など、一部対象外の事業はあります)。
雇用保険は、労働者が失業した場合に必要な給付を行うなど、労働者の生活と雇用の安定を図るための制度です。非学生かつ労働時間が週20時間以上といった一定の条件を満たす労働者を雇用する事業者が、加入対象となります。
労働保険に加入した事業者は、4月から翌年3月までの賃金に保険料率を掛けて労働保険料を計算し、労働局や労働基準監督署に申告のうえ、保険料を納めなければいけません。労災保険の保険料率、雇用保険の保険料率は、業種によって定められています。
労災保険は労働災害の発生率を基準として業種ごとに定められており、厚生労働省が公開している労災保険率表にまとめられています(最小2.5/1,000〜最大88/1,000)。
2022年度の労災保険率表はこちらです。労災保険料率については、2021年度からの変更はありません。
雇用保険も同じく業種ごとに分かれていますが、労災保険よりも区分は大きく、一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業の3区分により決まっています。
雇用保険の保険料率は、2022年の年度途中に変更がありました。新型コロナ流行に伴い雇用調整助成金の支給が増えたことから、原資である雇用保険料の見直しが行われたものです。
具体的には、2022年4月から事業主負担部分、2022年10月に労働者負担・事業主負担部分、と2段階に分けて変更がありました。
2022年度の年度更新においては、年度途中に保険料率が変わったため、集計にあたって注意が必要です。
○2022年4月1日〜2022年9月30日
事業の種類 | ①労働者負担 | ②事業主負担 | ①+② 雇用保険料率 |
---|---|---|---|
一般の事業 | 3/1,000 | 6.5/1,000 | 9.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 4/1,000 | 7.5/1,000 | 11.5/1,000 |
建設の事業 | 4/1,000 | 8.5/1,000 | 12.5/1,000 |
○2022年10月1日〜
事業の種類 | ①労働者負担 | ②事業主負担 | ①+② 雇用保険料率 |
---|---|---|---|
一般の事業 | 5/1,000 | 8.5/1,000 | 13.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 | 15.5/1,000 |
建設の事業 | 6/1,000 | 10.5/1,000 | 16.5/1,000 |
上記の表のうち、①の部分が従業員の給与から天引きする部分です。2022年10月勤務分より労働者負担の雇用保険料率が増えることとなるため、給与支給時に案内すると良いでしょう。
労災保険の給付は労働基準監督署が、雇用保険の給付はハローワークがそれぞれ行いますが、労災保険の保険料と雇用保険の保険料は、原則、労働保険料としてまとめて申告・納付手続きを行うことになっています。
この申告・納付手続きを「年度更新」と言います。
具体的には、労働保険料を4月から翌年3月までの年度ごとに計算し、毎年6月1日から7月10日の期間に新年度分の保険料を概算(見込み)で納付すると同時に、前年度分の保険料を確定して申告する手続きを指します。
申告期限 | 毎年6月1日〜7月10日 |
提出書類名 | 労働保険年度更新申告書 |
申告書類の提出先 | 労働局、労働基準監督署、銀行・郵便局などの金融機関(金融機関への提出は、納付と同時の場合に限る) |
提出方法 | 窓口、郵送、電子申請による提出 |
申告納付対象 | 労働保険料及び一般拠出金 |
申告納付が期限に遅れた場合の罰則 | 労働保険料の納付を怠った場合、年14.6%の延滞金が徴収される |
労働保険の年度更新について、申告書の作成から保険料の納付までの主な流れは次のとおりです。
順を追ってご紹介します。
毎年5〜6月頃、労働基準監督署から緑色の封筒が届きます。中には、複写式の申告書及び領収済通知書(納付書)、賃金集計表が入っています。封筒が届いたら必ず遅れずに開封してください。
申告書には、あらかじめ①労働保険番号、※各種区分、⑨⑬労働保険料率、⑱申告済概算保険料額、法人番号が印字されています(数字は申告書の番号)。印字内容に誤りがないことを確認します。
労働保険年度更新申告書のサンプル
出典:令和4年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方(P30~P50)p.49丨厚生労働省
各月の、労災保険の対象労働者(全員)、雇用保険の対象労働者(雇用保険被保険者)について、対象労働者数と賃金総額を集計し、賃金集計表に記入します。
労働保険における賃金総額は、事業主が労働者に対して名称のいかんを問わず労働の対象として支払うすべてのもので、税金や社会保険料を控除する前の総額を言います。
賃金総額の集計にあたっては、労働保険における賃金に含めるものと含めないものを区分し、前者のみを対象としてください。
賃金に含めるもの | 賃金に含めないもの |
---|---|
基本給、賞与、通勤手当、残業代、右記を除く手当 | 立替経費、慶弔見舞金、実費弁償的な手当、傷病手当金、解雇予告手当、役員報酬 |
賃金集計表のサンプル
出典:令和3年度 確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表/令和4年度 概算保険料(雇用保険分)算定内訳丨厚生労働省
集計した合計額をもとに、「労災保険対象者分賃金総額を1,000円未満切り捨てした算定基礎額」「雇用保険対象者分賃金総額を1,000円未満切り捨てした算定基礎額」「労災保険対象者数の月平均(常時使用労働者数)」の3点を算出します。
ステップ2で計算した算定基礎額を、集計表の指示に従って申告書の⑧(ロ)(ホ)(ヘ)に記入します。そして、算定基礎額に⑨保険料率をかけた金額が、保険料額になります。⑩に記入します。
なお、一般拠出金は、労災保険料の算定基礎額に1,000分の0.02(業種を問わず一律)をかけて算出します。一般拠出金はアスベスト健康被害者の救済費用に充てるために、法律に従って原則すべての事業者に負担が義務付けられています。
上段が前年度の確定保険料、下段が当該年度の概算保険料の記入欄です。
確定保険料と概算保険料の記入欄
出典:令和4年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方(P30~P50)p.49丨厚生労働省
当該年度の概算保険料額は、「支払われる賃金の見込み額が前年度の50/100未満、もしくは200/100超」のような大きな賃金の変動がない限り、確定保険料額と同一の内容を記入します。一般拠出金は概算納付の対象外のため、概算保険料には記入欄がありません。
次に、納付回数を決めて納付金額を記入します。
概算保険料が40万円以上(ただし、労災保険のみ、雇用保険のみ成立している場合は20万円以上)の場合、年3回に分けて納付することが可能です。つまり、労働保険料を一括で納付するか、3回に分けて納付するかを選択することができます。
それぞれの場合の納付期限は次のようになっています。一括納付の場合は、7月10日(口座振替での納付日は9月6日)です。
第1期 | 2回目 | 3回目 | |
---|---|---|---|
口座振替を利用しない場合の納期限 | 7月10日 | 10月31日 | 1月31日 |
口座振替納付日 | 9月6日 | 11月14日 | 2月14日 |
納付回数が決まったら、㉒期別納付額に各期の納付金額を記入します。小さいですが欄内の計算式に従って計算します。
期別納付額の記入欄(画像左下)
出典:令和4年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方(P30~P50)p.49丨厚生労働省
完成した申告書を、7月10日までに下記にて提出します。
申告書類の提出先 | 労働局、労働基準監督署、銀行・郵便局などの金融機関(金融機関への提出は、納付と同時の場合に限る) |
提出方法 | 窓口、郵送、電子申請による提出 |
銀行・郵便局などの金融機関に提出する場合には、ステップ6と同時に行うことも可能です。
銀行・郵便局などの金融機関窓口での納付もしくは電子納付、口座振替による納付方法があります。口座振替の場合、納付期限が緩和されます。
なお、ステップ2から5の進め方は封筒に同封されている「労働保険年度更新申告書の書き方」というパンフレットでも詳述されています。細かい内容で迷ったら参照するとよいでしょう。
次に当てはまる法人は、申告書の電子申請が義務化されています。
上記以外の法人であっても、電子申請を行うことが可能です。具体的には、次の手順で行います。
各手順の詳細は、厚生労働省の「労働保険年度更新 電子申請操作マニュアル」を参考にしてください。
労働保険の年度更新の基本的なやり方は上記のとおりですが、場合によってはあわせて注意しなければいけないことがあります。ケース別にご紹介しましょう。
賃金の集計にあたっては、「労働日ベース」で考えます。つまり、確定保険料の申告にあたっては、4月1日〜翌年3月31日までの労働に対して支払われた賃金の総額を用います。つまり、当月末日締め翌月25日支払いで給与計算を行っている会社の場合、5月25日支払い分〜翌年4月25日支払分が集計対象となります。
この点、正社員は当月末締め翌月25日支払い、アルバイト社員は当月20日締め当月末日支払い、のように雇用区分により締め日と支払日を分けている場合には、集計対象となる賃金台帳の期間が異なるので注意が必要です。
また、同一の従業員に対して、基本給などの固定的賃金は当月25日支払い、残業代や通勤手当などの変動的賃金は翌月25日支払いと、同じ労働日に対する賃金が分かれている場合も集計にあたり気をつけましょう。
なお、社会保険は「支払日ベース」で考えます。詳しくはこちらの記事もご参照ください。
労働保険は会社単位ではなく事業場単位で加入する必要があることから、支店や店舗など、物理的に複数の事業場を有する会社は、それぞれの事業場ごとに年度更新を行わなければなりません。
ただし、同一の事業主であって、労災保険料率に定める事業の種類が同じ事業場については、要件を満たせばまとめて手続きすることが可能です。これを、「継続事業の一括」といいます。
例えば、本社(ITサービス業)と飲食店店舗(飲食業)を複数有する会社の場合、各飲食店店舗は事業の種類が同じであることから、一括して申告納付手続きを行えます。
その場合、事前に継続事業の一括申請の手続きが必要なため、あらかじめ労働局のHPなどで要件を確認の上、届出を行いましょう(例:継続事業一括申請の手続きの仕方丨東京労働局)。
年度の途中で名称や所在地などを変更したり、事業を廃止したりする場合には、原則10日以内に変更届を提出しましょう。
管轄外に住所変更する場合は、管轄の変更に伴い、労働保険番号が変わります。年度更新時には最新の情報を記載するようにしましょう。
事業を廃止した場合には、廃止した日までに支払った賃金総額をもとに確定保険料を計算し、50日以内に確定保険料を申告・納付します。書類の書き方は通常の年度更新における確定保険料部分と同じです。
労働保険の年度更新は、手続きが遅れると追徴金を課される場合もあります。毎年必ず遅れないよう、まずは労働局から届く緑色の封筒を確実に受け取りましょう。記入や集計の仕方がわからない場合は、相談窓口に聞くこともできますし、書き方が詳細に記入されたリーフレットも同封されていますので、記載例に従えば作成できるようになっています。
日頃から適切に賃金台帳を作成していれば、賃金額の集計はさほど難しいものではありません。毎年6月に慌てることのないよう、毎月の帳簿作成を正しく行いましょう。
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