社員研修とは?目的や種類、導入手順、成功・失敗例をわかりやすく解説
パンデミックによって社員のリモート勤務が一般化しつつあるなかで、社員にどのような研修を行えば、不確実な未来を生き抜く人材が育つのでしょうか。社員研修と言っても多くの種類があります。本記事では、人材育成分野の専門家が自社に適した社員研修を検討するための考え方について解説します。
パンデミックによって社員のリモート勤務が一般化しつつあるなかで、社員にどのような研修を行えば、不確実な未来を生き抜く人材が育つのでしょうか。社員研修と言っても多くの種類があります。本記事では、人材育成分野の専門家が自社に適した社員研修を検討するための考え方について解説します。
目次
社員全員が想定以上の生産性を持ち、期待を超える成果を上げており、経営者が理想とする状態が実現できているとしたら、社員研修を行う必要はないかもしれません。
しかし、現実には多くの企業が社員の能力開発のために研修を実施しています。
労働政策研究・研修機構の2021年11月の報告によれば、労働者の能力開発方針を「企業主体で決定している」「企業主体に近い」と答えた割合は合わせて59.1%。会社規模にかかわらず、労働者の能力開発方針を会社主体で決定している企業が半数以上を占めます(参考:調査シリーズno.26 人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)丨労働政策研究・研修機構)。
人材育成や能力開発方針を自ら決定している企業は、社員研修の目的や意義、方法についてご自身たちで勉強する必要があります。以下ではそれらについて改めて整理します。
社員研修は、社員の生産性を上げ、高いパフォーマンスを発揮してもらうために行います。企業の社員には、組織が直面するさまざまな課題を解決し、顧客のニーズに応え、組織の目的達成に貢献してもらう必要があるためです。
従来は対面形式で行う集合研修が盛んにおこなわれていましたが、今ではオンライン形式も含め、どんどん社員研修の内容や方法が進化しています。競争の激しいビジネス環境の変化に伴い、社員研修の方法などもまた変化しているのです。
そのため、自社で人材育成や能力開発方針を決定している企業は、最新の社員研修の情報を押さえる必要があります。
社員研修の最大の目的は社員の能力開発です。しかし、従来のように入社後の経年に沿って定型的な研修を行うだけでは、社員が個別に必要としているスキルや知識の習得が追い付きません。さきほど説明した通り、不確実なビジネス環境のなかで社員研修のニーズも多様化が進んでいるためです。重要なことは、実施する社員研修ごとに目的を明確にすることです。
経営者と人材育成担当者は、「誰に」「どのような知識・スキルを」「どのような方法で」身に着けてもらうのか、見極めなければなりません。現場に必要な新しい知識・スキルを積極的に学びたいと思っている社員に対し、いち早く研修を行うことができれば、モチベーションを高めることができるでしょう。上司や経営層に意思表示できる社員は多くないはずなので、経営者と人材育成担当者の「見極め」は重要になります。
では、社員研修で一定の効果を上げている会社は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。ポストコロナに向けて研修の見直しを行った企業の多くが、人材育成の効果を高める取り組みを行っています。その中から一定の効果を上げている事例として、ソフトバンクのケースを紹介します。
労政時報では、ソフトバンクが「臨場型」で実施していた集合研修の大部分をオンライン化したことが報告されています。新型コロナウイルス感染拡大の状況にかかわらず、社員の学びを止めないためにオンライン化が導入されたそうです(参考:『労政時報』第4033号(2022.4.8)およびWEB労政時報「ポストコロナに向けた研修見直し事例」)。
ソフトバンクでは人材開発部と社内認定講師が連携し、各研修プログラムをカスタマイズして研修のオンライン化を図りました。2020年度は新入社員研修をフルリモート化しています。それ以降は、オンライン形式を取りつつ、一部は従来の対面形式(臨場型)を取るなど、ハイブリッド化した社員研修の導入に成功しています。
また、同社では、人材育成の効果を高める取り組みとして、2009年から社内認定講師制度の運用を開始し、オンライン研修の進行のノウハウを講師に事前共有するなど、社内認定講師のスキルアップも行っています。
こうした取り組みの結果、コロナ禍にあってもeラーニング教材の拡充ができ、研修受講数の増加を記録しました。また、地方在住の社員や、育児のために短時間勤務を実施している社員もオンライン研修の受講が可能になるなど、学びの機会をより多く社員に提供できるようになりました。
社員のやる気を促し、また実施後の成果を上げる社員研修を行うには、何に気を付ければ良いのでしょうか。
以下では社員研修を導入する際の注意点や失敗事例について、お伝えします。
研修の受講を本人の主導に任せる場合、トレンドや本人の興味志向が強すぎて一貫性のない研修を受講してしまう恐れがあります。本人主導で受講する場合も、本来の人材育成計画に沿った研修の受講となるように、整合性に配慮して計画的に受講ができているか注意する必要があります。
研修の実施目的を社員が理解することは重要です。経営者や教育担当者が研修の重要性を認識できていたとしても、必ずしも社員が同じように認識できているとは限りません。多忙な通常業務の時間をやりくりして参加することになるので、経営者らと社員が共通の認識を持つことが難しい場合も多いでしょう。しかし、その研修の目的を社員自身が明確に理解したうえで研修を受ける場合と、そうでない場合とでは、研修の成果に大きく影響すると考えられます。
研修後にその目的が達成されたのかを確認することも重要です。具体的には、研修後、目的に沿って期待する成果や変化に対して社員がどう変わったか確認する必要があります。そして、人材育成計画に従って次のステップとしてはどのような研修が効果的かを検討する段階に進みます。
社員研修の失敗には、次のような典型的な事例があります。
社員に必要なスキルアップが目的で研修を実施するにも関わらず、肝心の研修の目的と期待される成果について社員自身が理解しないまま研修を受講してしまう状況は、日々の業務に忙殺されがちな社員によくあるケースです。そのように準備が不十分な状態で受講してしまうと、研修の価値を最大限に業務に活かすこともできません。
社員が前向きに研修に参加して学んだ知識やスキルも、実際に業務に活かす機会がなければすぐに忘れてしまったり、モチベーションが下がったりしてしまいます。研修の内容、受講のタイミング、社員の担当業務などを適切に連携させて研修を実施しなければいけません。
社員が研修に参加したあと、研修で学んだ内容がどの程度理解でき実務に活かせているか、その後のフォローがうまくできていないというケースがあります。それは社員研修の典型的な失敗例と言えるでしょう。「やりっぱなしの研修に終わってしまう」のは、研修の効果測定を研修後の成果で測ることが容易ではないためです。フォローアップと言えば、研修を実施したという記録をつけて、受講直後のアンケートの実施をするだけ、というケースが多く見られます。その場合、研修の成果を人事考課や育成計画へ効果的に反映することができません。
社員研修にはさまざまな種類があります。ここでは、実施方法別、階層別、専門ニーズ別に分けて、それぞれの種類をご紹介します。
社員研修にはさまざまな実施方法があります。たとえば、対面式・オンライン式どちらでも実施可能な受動型学習や、参加者同士のディスカッションやワークなどを通して学び、その場で成果を発表するなどの能動型学習、または職場の現場や社外で直接仕事のやり方を学ぶOJTとOFF-JTがあります。OJTとOFF-JTは、学ぶ内容によって対面式とオンライン式のどちらが適切か判断する必要があります。
社員研修の実施方法 | |
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研修名 | 概要や特徴など |
受動型学習 | インプット重視の研修。講演式の研修やeラーニングなどを行う。大量の情報を得られるところがメリットだが、一方で実践につながりにくいというデメリットもある。 |
能動型学習 | アウトプット重視の研修。ディスカッションや体験ワークなどを行う。研修後の実践につなげやすいところがポイント。受動的学習と組み合わせて行うのもおすすめ。 |
OJT研修 | 職場内で実際の業務を学ぶ研修。実践を通じて学ぶため、研修後の成果を実感しやすい傾向がある。 |
OFF-JT研修 | 職場外で学ぶ研修。学ぶ時間をまとめてとれるため、体系的な知識・スキルを一挙に学ぶ際におすすめ。 |
研修を受講対象者別に分ける際、社員の役職などの階層別に分ける方法がよくとられます。階層別研修プログラムは、実質入社からの経年を元に設計されるため、一般的には全体で30~50名前後の社員がいる組織を想定した分け方と考えることができます。
階層別研修が計画的に実施されている企業では、昇給・昇格と連動して設計されているのが一般的です。各階層向けに用意された研修を受けて一定の基準を満たした該当者が一定の役職への昇格候補となるという人材育成計画に沿って行われます。
一般的によく知られる階層別研修としては、新人社員向け、若手社員向け、中堅社員向け、管理職向けなどがあります。各階層向けに実施される典型的な研修として、以下のようなものがあります。
新入社員向け | |
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研修の種類名 | 概要や特徴など |
ビジネスマナー研修 | 社会人としてのマナーを学ぶ研修。挨拶や身だしなみなど、新社会人に必須な知識を習得する。 |
マネー研修 | 金融リテラシーを学ぶ研修。税金や社会保険など基本的な制度に加え、自己投資の方法など発展的な知識を習得する。 |
コンプライアンス研修 | 社会における規範意識を学ぶ研修。法に関する知識や、情報管理の方法などを習得する。 |
中堅社員向け | |
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研修の種類名 | 概要や特徴など |
キャリアマネジメント研修 | 今後のキャリアプラン及びその実践に必要なスキル・マインドについて学ぶ研修。キャリアを振り返り、改めて自己理解を深める。 |
フォロワーシップ研修 | リーダー(上司)をサポートするスキル・知識について学ぶ研修。リーダーをフォローする方法だけでなく、自身の習慣や思考パターンの改善点を明らかにする。 |
クレーム対応研修 | 顧客からのクレームに対する適切な対応方法について学ぶ研修。ロールプレイなども交えて実践的なスキルを習得する。 |
管理職向け | |
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研修の種類名 | 概要や特徴など |
リーダー研修 | リーダーシップに関する知識・スキルを学ぶ研修。組織・チームを牽引する考え方を習得する。 |
ハラスメント研修 | ハラスメントに関する正しい知識を学ぶ研修。ハラスメントと向き合う心がけ・方法を習得する。 |
コーチング研修 | 部下などの力を高める方法を学ぶ研修。部下のモチベーションやスキルを高めるコミュニケーション知識を身に着ける。 |
組織の規模が小さい場合や、一般的な階層別の研修テーマがうまく自社の組織に当てはまらない場合は、専門ニーズ別に研修を考えてみることも検討できます。
近年よく耳にするようになった、リスキリングとアップスキリング(参照:後藤宗明『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』(日本能率協会マネジメントセンター、2022年)という視点で社員研修をデザインする方法もあります。
以前から、「学び直し」や「リカレント」という似たような言葉は知られていますが、ここ最近は特にリスキリングとアップスキリングの必要性が叫ばれています。
新しい研修の種類として、リスキリングとアップスキリングという枠組みで考えてみることもおすすめです。
前述の著書では、リスキリングとは「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」と紹介されています。
その背景には、デジタル化がなかなか進まない日本の中小企業の悩みがあります。中小企業のなかには、デジタル化を実現できる社員がいなかったり、デジタル化を外注するほどの予算を確保することが難しかったりするケースが多くあります。
そこでリスキリングという視点が有効になります。今いる社員に研修を実施して新しいスキルを身につけてもらい、デジタル化業務の担当を担ってもらう、という考え方です。
他方、アップスキリングとは、「現在の職務の専門性をさらに向上させるために新しいスキルを獲得すること」と紹介されています。
アップスキリングは従来使われてきた「スキルアップ」の意味に近いと考えられがちです。また、「スキルアップ」という場合、使う場面や人によっては前述の「リスキリング」の意味も含めて使われることもあったでしょう。しかし、リスキリングとアップスキリングは、区別して使われています。
研修の目的が明確になっていれば、リスキリングとアップスキリングのどちらが求められているか、またはどちらを先に優先して行うかといった検討が可能になります。
どちらも個別のニーズに応じて実施する研修という想定になるため、集合研修よりも個人向けの研修スタイルと考えられます。
では、実際にどのように研修を実施すれば良いのでしょうか。組織の規模によってさらに細かいステップが必要な場合もありますが、基本は次の6ステップです。
人事情報として社員の個々のスキルと経験のレベルについて把握したうえで、事業戦略に基づいて、各部署での研修実施ニーズを分析します。そして分析の結果を元に、組織全体としてのニーズと個別の部署ごとのニーズを分けて検討します。
ニーズ分析の結果を踏まえて、どの分野または部署の人材に対してどのような研修を実施するべきか、研修を実施する目的を定義します。組織の規模に応じて目的が複数挙がる場合は、各目的の優先順位を探っていくことになります。
研修の目的が設定できたら、その目的を満たすために必要と推察される研修の期間を設定します。期間の決定が難しい場合は、一旦仮の期間を設定して次のステップに進みます。決定した期間のなかで、目的を満たすにはどのような目標が必要かを検討します。
目標は研修期間の長さに応じて細かく設定するなど、目的を満たすために必要なマイルスストーンとして機能するように決定します。
決定した研修期間や目的をもとに、どの方法が一番望ましいか選択します。研修のテーマや内容によっては、研修の目的や期間を検討するステップ3においても、実際に行う研修方法の選択肢を確認しておく必要もあるでしょう。
研修を実施する講師の選択も、研修方法の決定に大きく影響します。外部講師に依頼する場合と、社内で講師を立てる場合とで、それぞれメリット・デメリットがあります。たとえば、外部講師に依頼する場合だと、自社を含むさまざまな企業で応用できる体系的な知識を学ぶことができる一方、講師との調整・コミュニケーションを誤ると実践的な研修内容になりづらいなどデメリットがあります。また、社内で講師を立てる場合は、現場の先輩・上司が指導を行うため実践的な内容が多くなる一方、ともすれば社内の既存知識・スキルに偏った研修になってしまうデメリットがあります。
研修の目的を満たすことはもちろんですが、適切な実施方法を選択しないと効果が半減してしまうリスクもあります。そのため、実施方法は慎重に選択する必要があります。
研修の実施日には、できるだけ社員の受講の様子をモニタリングできる環境を確保しましょう。
研修がやりっぱなしになってしまう理由の一つは、どのような態度や姿勢で研修に参加しているか確認する人がいないことです。研修の実施当日に受講する社員しかその研修の場にいない場合は、参加者の真剣度が落ちる可能性があります。
研修の実施品質を高めるためには、実施中の効果的なモニタリングも検討する必要があります。
研修後に適切なフォローアップを行えるかどうかで、研修後の成果も変わってきます。
研修で学んだスキルや知識をその後の業務の中で実践する機会が少しでもあれば、社員本人の能力として効果的に蓄積されます。そして、その後の別の業務にも再活用できる確率が格段に上がります。
しかし、研修中に実践的なワークを行っても研修後のフォローアップが何もない場合、すぐにそのスキルや知識は忘れてしまいます。
したがって、研修後のフォローアップを計画的かつ効果的に設計し、次の研修を検討するうえでの有効な材料として活用することが重要となります。
新型コロナウイルスの影響もあり、オンライン形式の社員研修が増えたようですが、今後の実施方法については、多くの企業で不透明な状況のようです。
労働政策研究・研修機構の調査報告によると、集合研修とオンライン研修について、今後どのように取り組んでいく予定かを尋ねたところ、集合研修について「わからない」とする割合が最も高い53.2%。次いで「今後も継続して同程度に行う」が19.4%、「規模は縮小するが今後も一部は行う」が13.7%、「感染症が収束した以降は行わない」が6.1%、「これまで以上に拡充する」が1.8%となっています。規模別にみると、規模の小さい企業ほど「わからない」の回答割合が高いとの結果が報告されています(参考:人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)p.65丨労働政策研究・研修機構)。
この調査から推測されることは、今後のアフターコロナの時代も従来型の対面式集合研修が全面的にオンライン研修に取って代わられるとは考えにくいということです。また、今後の実施形式は、研修の目的に応じて対面式とオンライン式を使い分けたり、同じ研修にどちらでも参加できるハイブリッド式の研修を実施したりするケースが増えるのではないかということです。
社員研修はいつの時代にも必要です。リスキリングやアップスキリングという新しいビジネス用語が出てきていることからも、その実施方法や扱うテーマはその時代に合わせて変化していくことがわかります。しかしその一方で、流行りの研修を追いかけるだけではなく、組織内のニーズ分析を適切に行うことも重要です。
研修情報のキャッチアップとともに、組織内のニーズを丁寧にヒアリングする取り組みに着手することからはじめましょう。
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