目次

  1. OEMとは
    1. OEMの仕組み
  2. OEMとODM、PBの違いは?
    1. ODMとの違い
    2. PBとの違い
  3. OEMを委託するうえでのポイント
    1. メリット・デメリット
    2. OEMを委託した事例
  4. OEMを受託するうえでのポイント
    1. メリット・デメリット
    2. OEMを受託した事例
  5. OEMで製品ができるまでの流れ
    1. 製品コンセプト・仕様の策定
    2. 販売計画の策定
    3. 製造方法の策定
    4. 受託企業の選定
    5. 受託企業とのすり合わせ
    6. マーケティング計画の策定
    7. パッケージ・ラベルの準備
    8. 販売チャネルの確保と販売開始
  6. OEMを活用して「持たない経営」が強みの時代に

 OEMとは、自社設備を使って他社ブランド製品を製造する業者および製造スキームのことです。英語では「Original Equipment Manufacturer」と表記されます。

 OEMの例として、食パンメーカーA社が、新商品としておにぎりの販売を開始したい際に、おにぎりの製造をB社に委託してA社ブランドで販売した場合、B社およびおにぎり製造スキームが該当します。

 OEMは、アメリカのコンピューター産業や自動車産業において、製品に組み込まれる各種部品のオリジナルの製造者を指し示す言葉として元々使われていました。ただし、今日に至るまでに、特に日本においては、上述の意味で広く使われるようになりました。また「OEM製品」という言葉は「ブランドホルダー以外の業者が製造した製品」というニュアンスで一般的に使われています。

 OEMは、自動車、家電、携帯電話などに加え、食品、飲料、健康食品、医薬品、化粧品などの製造で広く行われています。

OEMの仕組みと製品ができるまでの流れ
OEMの仕組みと製品ができるまでの流れ(デザイン:吉田咲雪)

 一般的なOEMにおいては、製品を販売する「委託企業」と、製品を製造する「受託企業」が存在します。委託企業は製品を企画して仕様やデザインを決め、受託企業に製造を委託します。受託企業は、委託企業が指定した仕様やデザインどおりに製品を製造し、委託企業に納品します。

 わかりやすい例では、iPhoneを企画・開発しているのが委託企業のAppleで、iPhoneを製造しているのが受託企業のフォックスコンです。

 なお、OEMには技術的レベルが高い委託企業が技術レベルの低い受託企業を技術指導しながら進める「垂直的分業」と、委託企業が技術レベルが同水準の受託企業に製造を委託する「水平的分業」が存在します。また、一部の半導体製造分野のように、受託企業の技術レベルが委託企業の技術レベルを上回るケースも存在します。

 ところで、OEMと並んでODMやPBという言葉も聞いたことがあるかもしれません。いずれもOEMと混同しがちです。ここでは、OEMとODM、PBの違いを解説します。

 ODMとは、製品の企画・開発から製造までを受託企業が一貫して行う業者および製造スキームのことです。英語では「Original Design Manufacturer」と表記されます。

 OEMでは委託企業が製品を企画して仕様やデザインを決め、受託企業に製造を委託する一方、ODMでは、委託企業が製品の企画・開発・製造に関わらず、販売のみを行う点が異なります。

 例えば、NTTドコモが販売しているスマートフォンの一部は富士通などのメーカーが企画・開発から製造まで行ってNTTに納入されて、NTTドコモのブランドで販売されています。また、食品や化粧品の多くもODMによって製造されています。

 PBとは、メーカーや製品ブランドなどのナショナルブランドではない、小売業者などに帰属するブランドのことです。英語では「Private Brand」と表記されます。

 セブンイレブンの「セブンプレミアム」や、イオングループの「トップバリュ」などが例として挙げられます。そして、PB製品の多くはOEMやODMによって製造されています。また、一般的にPB製品はマーケティングコストが低いため、ナショナルブランド製品よりも安く販売されるケースが多いです。

 ここでは、委託企業が受託企業に製造を委託するうえでのポイントを解説します。最大のポイントは、以下に挙げる委託のメリットとデメリットを十分に理解したうえで、委託する内容の全容を可能な限り掘り下げることです。委託企業がイメージする製品のデザイン、仕様、原材料、パッケージなどにつき、可能な限り明確に示す必要があります。

 OEMを委託するメリット・デメリットは下表のとおりです。

OEMを委託するメリット OEMを委託するデメリット
設備投資がいらない 製造ノウハウの蓄積ができない
固定費がいらない 受託企業の生産能力に依存する
マーケティングに注力できる 受託企業が競合企業になるリスクがある

 委託企業がOEMを委託するメリットの第一は、設備投資がいらないことです。例えば、健康食品業界はOEMが広く行われている業界ですが、新しいサプリメントの製造を行うとした場合、一定の規模の設備投資が必要になります。一方、OEMであれば受託企業に製造を丸投げできるので、設備投資が必要ありません。

 メリットの第二は、固定費がいらないことです。製造業では設備投資に加えて、人件費や家賃などの固定費がかかります。OEMであれば委託企業はそうした固定費を直接負担しなくて済みます。

 メリットの第三は、委託企業がマーケティングに注力できることです。製造業にはお金や時間などの膨大なリソースが要求されます。モノづくりという仕事そのものが時間がかかる大変な仕事です。OEMであれば委託企業はそうした仕事から解放され、広告宣伝や営業活動などのマーケティングに注力できます。

 一方のデメリットですが、第一は委託企業が製造ノウハウを蓄積できないことです。OEMでは受託企業に製造を丸投げしますので、当然ながら製造ノウハウは身に付きません。仮に自前で製造を始めるといった場合に、ノウハウの欠如は大きなハンディキャップになります。

 デメリットの第二は、受託企業の生産能力に依存してしまうことです。これは、特に製品の需給バランスが大きく変動した場合にマイナスの影響が生じやすくなります。例えば、注文が殺到してしまった際に、受託企業の生産能力が追いついていなければ、チャンスロスにそのまま直結してしまいます。

 デメリットの第三は、受託企業が競合企業になるリスクがあることです。特に製造する製品がユニークで、消費者受けする製品の場合、受託企業に類似製品を製造されてしまう可能性が生じます。OEMではそうしたリスクが常について回ります。

 日本を代表する食品メーカーのN社は、新規事業として飲むサプリメントの製造を開始しています。N社では、原料調達の容易さやコストなどの面から、アメリカのOEM専門メーカーに製造を委託し、消費地である北米市場で販売しています。消費地のメーカーに製造を委託することで、設備投資や人件費などを負担することなく、北米市場でビジネスを立ち上げることに成功しています。

 次に、OEMを受託するうえでのポイントを紹介します。最大のポイントは、OEMを受託するのであれば、可能な限りOEMに特化することです。成功しているOEMメーカーの多くは、OEM専門で事業を展開しています。

 OEMを受託するメリット・デメリットは下表のとおりです。

OEMを受託するメリット OEMを受託するデメリット
製造ノウハウが蓄積できる 価格競争になるリスクがある
稼働率を確保しやすい 委託企業の営業力に依存する
収益が安定する マーケティングのノウハウが蓄積できない

 受託企業がOEMを受託するメリットの第一は、製造ノウハウが蓄積できることです。受託企業の主たる仕事は製造であるため、当然ながら製造ノウハウが取得できます。また、垂直的分業により、高度な技術を身につけられる可能性も生じます。

 メリットの第二は、稼働率を確保しやすいことです。特に売れ筋の定番製品の製造を受託できた場合、設備などの稼働率を高い水準でキープすることが可能になります。また、委託企業を複数持つことで、設備などが不稼働になるリスクを低減できます。

 メリットの第三は、収益が安定することです。安定した売上がある複数の製品を受託できれば、収益を安定して得られるようになります。

 一方のデメリットですが、第一に価格競争になるリスクがあることです。委託企業が受託企業を選ぶ場合、複数の候補企業に声をかけます。取引条件などで交渉する際のポイントの1つが価格です。一般的に委託企業は、価格を少しでも下げようというベクトルに向かう傾向にあります。

 デメリットの第二は、委託企業の営業力に依存することです。基本的に受託企業の業績は委託企業の営業力と密接な関係にあり、委託企業の営業力が低下した場合、業績が悪影響を受ける可能性があります。

 デメリットの第三は、マーケティングのノウハウが蓄積できないことです。受託企業は、製品のエンドユーザーに対して広告宣伝や営業活動などを行わないので、消費者に対してのマーケティングのノウハウが身に付きません。

 九州を基盤とする製薬企業のT社は、主たる事業としてサプリメントや化粧品のOEMを受託しています。同社の最大の特徴は、自社ブランドでサプリメントや化粧品の販売はせず、ブランドホルダーの製品づくりに完全に専念している点です。ブランドホルダーの製品のマーケティング支援なども行いますが、ブランドホルダーの黒子に徹しています。OEMの受託企業に専念する同社の姿勢は業界で高い評価を受け、特に日本を代表するブランドホルダーから大きな信頼を獲得しています。

 実際にOEMで製品ができるまでの流れを、委託企業側の視点で解説します。ここでは、新たにシイタケエキスを抽出して作る栄養ドリンクを製造する一連のプロセスを例にあげながら確認してみましょう。

 最初のステップは、製品コンセプト・仕様の策定です。どのような製品を誰に対して、どのような形で売るのかを、可能な限り明確にします。大体のイメージをスケッチしたり、仕様を箇条書きにしたりしてもよいでしょう。

 次のステップは、販売計画の策定です。製品を投入する市場での需要を推定し、競合製品の情報なども参考にしながら大体の売上を予想します。受託企業とすり合わせを行う際には、「どのくらいの販売数を見込んでいるのか」が必ず問われます。

 実際の製造方法を策定することも必要です。製造に必要な原料や製造設備なども含め、作り方をまとめた「レシピ」を用意するイメージです。

 ある程度の情報がまとまったら、受託企業の選定を行います。特に、新規で栄養ドリンクの製造を始めるなど、新しい商品を生産したい場合、複数の候補企業に相談し、受託が可能か確認する必要があります。候補企業の実績や所有設備などを含め、総合的に検討して受託企業を選定します。

 受託企業が決まったら、具体的な製造に向けてのすり合わせを行います。すり合わせでは、製造数量、価格、納期などの条件を決め、製造のスケジューリングを行います。また、このステップでは通常、試作がされるケースが多いです。

 製造が開始される頃には、製品のマーケティング計画を策定しておく必要があります。どのような媒体を使って、どのようなメッセージを発信するのか、インターネット広告やソーシャルメディア(TwitterやInstagram、YouTubeなど)、どの媒体を使うのかなども含めて具体的に決めます。OEMで失敗するケースは、このステップを無視するか軽視していることが多いです。

 製造が開始されるまでに、パッケージやラベルを準備しておく必要があります。特にオリジナルのパッケージを使う場合、パッケージを作るのに相応の時間がかかります。受託企業とのすり合わせが始まる頃には、パッケージ製造の段取りをつけておかなければいけません。

 製品の製造が終わるまでに販売チャネルを確保しておく必要もあります。特に小売などのチャネルで販売を想定している場合は、チャネル確保にそれなりの時間とエネルギーをとられます。オンラインで販売する場合も、オンラインショップの準備や、どのモールに出品するかなどに相当の時間がかかります。販売チャネルが確保できたら、製品の納品後に販売開始です。

 OEMとは、端的にいうと「持たない経営」です。新しいコンセプトやバリューを持つ製品を、自前の工場や設備を持つことなしに世に生み出す手段です。経営コンサルタントの一倉定(いちくら・さだむ)氏が、「工場を持たないメーカーが最強である」と提言しているように、OEMを上手に活用し、「持たない経営」を選択肢の1つにしてみてもよいでしょう。