ゼロイチにチャレンジする組織へ 不動産業からスマホアプリの開発へ
建築・不動産会社のハステック(東京都渋谷区)は本業を売却し、「飲食店の困りごとを解決したい」と清掃事業に加え、コロナ禍では店内消毒事業に着手します。労働集約型の仕事を効率化するアプリも開発。ヒアリングで明らかになった世の中の課題を見つけると素早く行動するという持ち味が生かされています。
建築・不動産会社のハステック(東京都渋谷区)は本業を売却し、「飲食店の困りごとを解決したい」と清掃事業に加え、コロナ禍では店内消毒事業に着手します。労働集約型の仕事を効率化するアプリも開発。ヒアリングで明らかになった世の中の課題を見つけると素早く行動するという持ち味が生かされています。
目次
入社1ヵ月後に創業者が急逝。数千万円の負債に対し、現預金数十万円という状態で、建築・不動産会社のハステック(東京都渋谷区)を24歳で引き継いだ2代目社長の田島太郎さん。事業継承から3年ほどで負債を完済します。
しかし、「業績を伸ばしていくにつれ、この先自分は経営者としてどのような舵を取ればいいのか」と悩んでいました。
会社という箱、看板の継続は重要ではあるけれど、自分がトップであり続ける必要はないし、事業内容を変えてもいいだろう、との考えに至ります。
「10の事業を100に成長させるよりも、0から1に成長させるのが得意なタイプの経営者だと気づいたんです。だからここからの先のステージは、別の経営者に任せようと」
建築・不動産事業をグループ会社として分社化すると、言葉どおり、それぞれの経営を別のメンバーに任せます。しばらくするとグループからも切り離し、残った本体は修繕などの事業を少人数で続けながら、新たなゼロイチビジネスにチャンレジする体制に刷新します。
まず取り組んだのは、飲食店の閉店後の清掃事業でした。不動産事業で付き合いのある飲食店から、閉店後の清掃が大変、との声を聞いていたからです。
↓ここから続き
田島さん自身が、学生時代に飲食店でアルバイトをしていた経験も大きかったといいます。肌身で、接客や調理以外の業務を、本業が終わってから疲れた遅い時間に行うことに、疑問を抱いていました。
田島さんたちは外部の清掃業者に仲介するのではなく、自分たちの手で直接、清掃事業に取り組みました。
「お客さまからヒアリングを続けると、清掃が満足いくものではなかった、時間を守らない、などの声がありました。自分たちで行えばこのようなクレームは発生しない、との判断からでした」
清掃のプロ育成を目的とした、業界団体の講座や勉強会に参加したり、どこをどのように掃除するとうれしいかなどを、飲食店に具体的に聞いてまわったりするなどの取り組みを重ね、知見を積み重ねていきます。
しばらくすると依頼が殺到します。清掃スタッフは20人までに増え、1日に清掃を行う店舗数は50を超え、月商も400万~500万円の事業にまで成長していました。
清掃事業をさらに拡大しようとする矢先、新型コロナの感染拡大で、飲食店は休業を余儀なくされ、清掃依頼も入らなくなります。
「しばらくは様子を見ていましたが、数カ月で終わらないとの判断に至りました。そこで、新たな事業に取り組もうと考えました」
田島さんは飲食店がいま、何に困っているのかを聞いてまわりました。
すると、「店内を消毒してほしい」とのニーズが見えてきました。今でこそ消毒も含め、コロナウイルスの対策方法は広く知られています。しかし、当時は何が本当に正しいのか、誰もが模索している状態でした。
田島さんは清掃事業と同じように一から勉強を行い、薬剤、用具、服装、清掃後の処置などを徹底的に調べることで、ノウハウを蓄積していきます。
そうして「洗浄・消毒・抗菌」をセットした、衛生手法を確立・体系化したサービスを提供していきます。
料金はできるだけ抑えたところ、依頼は瞬く間に殺到、当初は飲食店だけでしたがオフィス、官公庁、陽性者が滞在したホテル、最終的には検疫所まで。サービスの提供先は広まっていきました。
テレビで取り上げられたこともあり、依頼はさらに増えます。一方で、真似する人たちも現れました。「中には金儲けとしか考えていない、消毒がきちんとされていない業者など、悪質な人たちもいました」と、田島さんは当時を振り返ります。
そこで田島さんは業界団体、全国施設店舗衛生管理協会を設立。自分たちが開発した手法をガイドラインとしてまとめるとともに、無料で公開します。あわせて、医療機関からのエビデンスも取得します。
一方で、新型コロナの消毒事業に関しては、田島さんは一歩ひいて見ていたと振り返ります。
「コロナ禍はいずれ収束するでしょうから、いつまでも続く事業ではないと考えていました。そのためスポット的な、飲食店さんへのサービスの意味合い的な事業だと捉えていました。価格を抑えていたのは、このような考えからでもありました」
田島さんはさらに、次のように付け加えます。
「人って、恩を受けたら返したくなりますよね。コロナ禍が落ち着いたら、清掃をたくさん依頼してくれるのではないか。正直、そのような気持ちもありました(笑)」
顧客のために、を実行しながらも、一歩先まで考えていたのです。実際、飲食店が再開していくと清掃依頼はますます増えていきました。
2つの新事業は労働集約型です。そのため事業拡大には人を増やすことが原則となりますが、人が増えれば管理者も増やす必要があります。事業を始めた当初は、清掃スタッフの管理をホワイトボードやExcelで行っており、事業拡大のネックとなっていました。
特に問題だったのがシフト調整です。急用や急病で出勤できなくなったとの連絡を受けると、管理者が空いているスタッフをチェックし、連絡をし、出勤できるかどうかを確認するというアナログな方法に頼っていました。
同じような課題は、タクシーやトラック業界における配車業務などでも、以前から指摘されており、システムやアプリといったITツールが開発・導入されているケースも増えてきました。
「私たちも最初は、既存ツールの導入を検討しました。でも、業務はシフト調整だけではありません。清掃後の状態確認、教育、給与や交通費の支払いなど。各業務単体を担うツールはありましたが、一貫して同一のプラットフォームで行えるものは、見つかりませんでした。だったら、自分たちで作ってしまえと」
こうして田島さんは、労働集約型業務で生じる多くの業務を効率化する、ITプラットフォームならびにスマホアプリの開発に取り組みます。
最初こそ專門に手がけるシステム会社などに依頼や協力を仰ぎますが、手の届くツールに、細かな仕様をしっかり作り込みたいと、ITエンジニアをCTOとして招き入れるなどして、現在では内製化しています。
そうして開発されたのが「オタスケクルー」というアプリならびにITプラットフォームです。
現在、清掃・抗菌を担うスタッフは100人ほどいるそうで、外国人も多いことから英語にも対応しています。特に教育においては、動画に英語の字幕などをつけることで、短時間で的確に、人手を割くことなく教育ができるようになったと、いいます。
管理者の数は減りましたが、システム自体を管理する業務があるため、最低限の人材は必要です。そこで管理業務を外注し、かつ、在宅で行える体制も整備します。
結果、1人の担当者が管理できる人数は以前の20人から数百人まで増加。現在ではマンション共用部などの建物清掃、建築事業の修繕工事などにも活用しており、受注を拡大しています。今後はさらに、訪問介護に導入することで、効率化したいとの意気込みを語ります。
「労働集約型ビジネスにおける、人を教育し、管理し、サービス提供していくという仕事の流れは同じですので、コンテンツを変えることによりサービスを横展開させることが可能であり、ビジネスチャンスは広がると考えています」
ハステックのように、業務を効率化するシステムを自社で開発するケースは少なくありません。しかし、多くの事業者はその後、近しい事業を手がけている企業などに、システムを外販するとの戦略を描きがちです。一方で田島さんがユニークなのは、システムを活用するのはもちろん、ビジネス自体を自分たちで行う点です。
「自分たちで作ってみてわかったことですが、現場を経験しているからこそわかる、改善できる点が多々あります。そのため外販して対応するよりも、自分たちがビジネスを手がけ、自分立ちでシステムも事業もブラッシュアップしていった方がよいと考えています」
今後は上場も含め、さらなる事業拡大を考えているそうで、清掃業界も含め労働集約型の働く環境ならびに評価を変えたいと、力強く話しました。
「目指しているのはサービス業界のアマゾンです。労働集約型のあらゆるビジネスにおいて、当社のITプラットフォームを介することで、より多くの人が好きな時間に効率よく働くことができる。加えて、サービスの利用者も、スマホから訪問介護の依頼などが簡便に行えますから、以前よりも効率的にサービス受けることができる 。そんな、みんなが幸せになる未来を描いています」
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。