目次

  1. ビジネスモデルキャンバスとは テンプレートの入手先
  2. ビジネスモデルキャンバスを使う注意点やコツ
    1. 一箇所に時間をかけすぎない
    2. シンプルにまとめる
    3. 各ビルディングブロックをすべて埋める
  3. ビジネスモデルキャンバスの9のビルディングブロック アイデアを生むヒントを事例で紹介
    1. ①顧客セグメント
    2. ②価値提案
    3. ③チャネル
    4. ④顧客との関係
    5. ⑤収益の流れ
    6. ⑥主なリソース
    7. ⑦主な活動
    8. ⑧主なパートナー
    9. ⑨コスト構造
  4. ビジネスモデルキャンバスを作成したあとは
    1. 社内で共有する
    2. 各ビルディングブロックを検証する
    3. 必要に応じて更新する
  5. ビジネスモデルキャンバスに関連するフレームワーク
    1. リーンキャンバス
    2. バリュープロポジションキャンバス
  6. ビジネスモデルキャンバスは使えない?自社ビジネスの見直しで活用

 ビジネスモデルキャンバス(Business Model Canvas:BMC)とは、ビジネスモデルを可視化するためのフレームワーク・テンプレートです。

 2005年にスイスの経営コンサルタントのアレクサンダー・オスターワルダーがローザンヌ大学博士課程在籍時代に発案し、イヴ・ピニュール教授の監修を受けて発表しました。新しいビジネスのバリデーション(確認・検証)や、自社ビジネスモデルのコンセプチュアライゼーション(概念化)などの場面で使われています。

 ビジネスモデルキャンバスを活用すると、新しいビジネスモデルの姿を明確にし、客観視することが可能になります。また、既存のビジネスで活用することにより、自社の強みや弱み、置かれているビジネス環境や自社のポジションなどをより深く理解できるようになります。

 ビジネスモデルキャンバスは、以下に記す9つの「ビルディングブロック」で構成されています。また、そのテンプレートは、経営コンサルティング会社ストラテジャイザーのクリエイティブコモンズライセンス下で無料で公開されています(参照:The Business Model Canvas丨Strategyzer)。

ビジネスモデルキャンバスの概要や目的、ポイント
ビジネスモデルキャンバスの概要や目的、ポイント(デザイン:吉田咲雪)

 ビジネスモデルキャンバスはストラテジャイザーのウェブサイトでダウンロードできます。一般的には印刷したビジネスモデルキャンバスに直接書き込むよりも、ポストイットなどに情報を記載して貼り付けて使うケースが多いようです。また、実際に使う際には以下のコツがあります。

 1つ目のコツは1ヵ所に時間をかけすぎないことです。ビジネスモデルキャンバスは9つのビルディングブロックで構成されており、それぞれインプットする情報量が少なくありません。1ヵ所にとらわれて時間をとられてしまい、次のビルディングブロックに進めないといった状況は避けてください。

 2つ目のコツはシンプルにまとめることです。可能であれば小さめのポストイットに書き込めるくらいの情報量にまとめてください。直接的でわかりやすく、イメージしやすいのがベストです。

 3つ目のコツは各ビルディングブロックをすべて埋めることです。ビジネスモデルキャンバスは、9つのビルディングブロックがそれぞれ相互に関係する構造になっており、ひとつでも空白があると全体が構成できません。埋めづらいビルディングブロックがある場合は、「仮」でもいいので情報を埋めてください。

 では、ビジネスモデルキャンバスの記載事項について解説していきます。以下の表はビジネスモデルキャンバスの形を模倣した表で、①~⑨という数字は記載していく順番を指します。

ビジネスモデルキャンバスの形を模倣した表

 ビジネスモデルキャンバスを使用する際は、最も重要なビルディングブロックにあたる「①顧客セグメント」「②価値提案」を先に記載するのがおすすめです。なぜならビジネスにおいて「どのような人に対してどのような価値を提案するか」は最も重要な事項のためです。

 以下では①から順番通りに各ビルディングブロックを書く際のポイントや注意点、具体例などを解説します。

 「①顧客セグメント」には、想定される顧客について記入します。

 B2Cのビジネスモデルの場合は、「対象となる顧客のペルソナはどのようなものか?」「その人たちはどのような課題を抱えているのか?」という視点で考えます。また、B2Bのビジネスモデルの場合は、「価値を提案する対象となる人は、組織のどこに所属しているのか?」「購入の意思決定権を持っているのは誰か?」「集団で意思決定をする場合、どのようなプロセスを経て意思決定をするのか?」といった視点で考えることが有効です。

 LCC(低コスト航空会社)を例にした場合、以下のような記載が考えられます。

 ・特定の区間を頻繁に移動するビジネストラベラー
 ・一定の頻度で国内旅行を楽しむ家族層

 ポイントは、可能な限り具体的に記入することです。上の例の場合だと「旅行をする人」など抽象的な書き方をしないように注意しましょう。なお、製品やサービスの新規性が高くてセグメントを指定しづらい場合は、「仮」でいいので情報をアウトプットしてください。

 「②価値提案」では、製品やサービスの具体的な内容に加え、価格、ブランド、カスタマーサポート、ロケーションなど顧客が価値を感じるものすべてを記入します。

 「顧客は何に対してバリューを感じるのか?」「顧客に意思決定を促すファクターは何か?」「顧客が抱えている問題は何か? どうすればそれを解決できるのか?」といった視点で考えてみましょう。

 LCCを例にした場合、以下のような記載が考えられます。

 ・大手航空会社より50%安く移動できる
 ・遅延出発率〇〇%
 ・予約変更手数料無料
 ・親会社が優良企業であることのブランド

 ここでのポイントもまた、曖昧さを避け、可能な限り具体的に記載することです。「安い料金で移動できる」といった記載よりも「50%安い料金で移動できる」といった具体的な数字を使った記載がベターです。特にB2Bのビジネスモデルの場合、価値提案の内容が曖昧だと価値の意味やメッセージが顧客へ伝わりません。製品やサービスのスペックなども含めて、可能な限り具体的にしてください。

 「③チャネル」では製品やサービスを販売するチャネル(=経路)を記入します。

 「①顧客セグメント」で「誰に価値を届けるのか」を決め、「②価値提案」で「どんな価値を届けるのか」を決めたら、「③チャネル」で「どのように届けるのか」を決めます。「顧客の購入パターンはどのようなものか?」「顧客とコミュニケートするために使えるツールやメディアは何か?」「自社で利用可能な決済手段は何か?」といった視点で考えると良いでしょう。

 LCCを例にした場合、以下のようなチャネルが挙げられます。

 ・インターネットのホームページ
 ・コールセンター
 ・スマホアプリ

 また、小売業の場合だと、店舗で製品やサービスを販売する以外にも、以下のようなチャネルが考えられます。

 ・大手ネットモール
 ・自前のECサイト
 ・アフィリエイトサイト
 ・ドロップシッピングサイト

 重要なのは、「①顧客セグメント」で明確にしたペルソナを参照し、リーチが可能であるチャネルを設定することです。例えば、ペルソナが20代から30代の働く女性だとした場合、スマートフォンのInstagramを通じてリーチするといった設定ができるでしょう。それぞれのペルソナにとって適切なチャネルを設定することが重要です。

 「④顧客との関係」では、顧客になってもらった人との長期的な関係構築の具体的な方法について記入します。

 「どのようなアフターサービスを提供するのか?」「どのように顧客に対して情報発信を継続するのか?」「どのように顧客のコミュニティを構築するのか?」といった視点で考えてみましょう。

 LCCを例にした場合、以下のような方法が挙げられます。

 ・会員制度へ参加誘導して情報発信を行う
 ・ソーシャルメディアのグループを使ってコミュニティを構築する
 ・メールでスペシャルディスカウントのオファーをする

 小売業の場合は、以下のような方法が考えられるでしょう。

 ・ポイントシステムを導入して来店を促す
 ・LINEなどを使ってバーゲン情報などを配信する

 ここでのポイントは、顧客との関係を構築するために実際に実行できる内容を設定することです。一般的に、顧客との関係構築には時間やコストなどのリソースの投入が必要になります。例えば、「ソーシャルメディアのグループを使ってコミュニティを構築する」と決めた場合、実際にそれを継続的に行う労力が発生するので注意が必要です。

 「⑤収益の流れ」では、文字通り売上などによるお金の流れを記入します。

 「このビジネスモデルを展開するに際し、マネタイズできるポイントはどこにどれだけあるか?」「我々の競合企業は、どのような手段でマネタイズしているのか?」「パートナー企業のマネタイズ方法は何か?」といった視点で考えてみましょう。

 LCCを例にした場合、以下のような売上が挙げられます。

 ・航空券の販売による売上
 ・機内食・飲料・グッズなどの売上
 ・機内誌の広告掲載料の売上
 ・機体ラッピング広告の売上
 ・グッズなどのインターネット販売による売上
 ・ホテルやレンタカーなどのパートナーからの顧客紹介料による売上

 収益の流れには、大きく分けて「商品やサービスの提供ごとに収益を受け取る」方法と「月ごとなど定期的に収益を受け取る」方法があります。さまざまな角度から自社が収益を得る可能性を検討することが重要です。

 「⑥主なリソース」では、事業を展開するために必要なリソースを記入します。

 ビジネスにおけるリソースは、大きく分けて「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つです。ここでは、「ビジネスを展開するために必要なリソースは何か?」「許認可やライセンスなどは必要か?」「有形資産のほかに、投入しなければならない無形資産は何か?」といった視点で考えてみましょう。

 LCCを例にした場合、以下のようなリソースが挙げられます。

 ・航空機本体やパーツ整備に必要な機械類などの物的リソース
 ・パイロット、キャビンアテンダント、グランドスタッフ、整備士などの人的資源
 ・オフィスやコールセンターなどの施設費
 ・オペレーティングコスト
 ・特許などの知的財産権
 ・各種のノウハウ

 自らのリソースに加え、他者のリソース(例:商標や知財など)も記入してください。例えば他社が保有する特許やフランチャイズなど、自社の事業遂行に必要なリソースは漏れなく記入してください。他社の権利を侵害することなく、法的に問題なく事業を展開するために必要です。

 「⑦主な活動」では、事業を展開する上で必要な活動(=タスク)を記入します。

 商品を開発・制作したり、営業・マーケティングを行ったりと、さまざまな活動が考えられますが、特に自社にとってキーとなる活動を検討する必要があります。「⑦キーアクティビティ」では、「どのような商品開発を行うか?」「どのような販売活動を行うか?」「どのような広告活動を行うか?」といった視点で考えてみましょう。

 LCCを例にした場合、以下のような活動が挙げられます。

 ・航空機による輸送業の遂行
 ・機内食や飲料の開発・販売
 ・グッズなどの開発・インターネット販売
 ・土産物の開発・販売
 ・自社媒体や機材を使った広告の制作・販売
 ・インターネットを使ったアフィリエイト事業の遂行

 自社にとって何がキーとなるアクティビティにあたるか確認する際は、「①顧客セグメント」「②価値提案」に立ち返る必要があります。「どのような顧客」に「どのような価値」を提供するか決まっていれば、優先すべきアクティビティも自ずと決められるでしょう。

 「⑧主なパートナー」では、事業を展開する上で協業するパートナーを記入します。

 パートナーと共に活動する際は、提携の形や合併事業の形、サプライヤーの形などさまざまです。ここでは、どのようなパートナーがいると「シナジーを作り出すことができるか」「リソースを確保できるか」「リスクヘッジできるか」といった視点で考えてみましょう。

 LCCを例にした場合、以下のようなパートナーが挙げられます。

 ・整備委託企業
 ・提携ホテル
 ・提携レンタカー会社
 ・提携クレジットカード会社
 ・提携広告代理店

 不確実性が高い現代において、「パートナーと共にリスクを分かち合う」という視点は特に重要なポイントです。新型コロナウイルスの影響によって旅行業全体が落ち込むなど、予測不可能な形で自社の売上が落ちることもあるでしょう。そのため、安定的な売上の経路を作り出すパートナーや、社内で足りないリソースを補ってくれる外部のパートナーはより重要な存在になります。

 「⑨コスト構造」では、事業を展開する上で必要なコストを記入します。

 固定費や人件費、広告費、「⑧主なパートナー」に委託する費用など、さまざまなコストが考えられます。「⑥キーリソース」で必要になるコストや「⑦キーアクティビティ」で必要なコストを明らかにしましょう。

 LCCを例にした場合、以下のようなコストが挙げられます。

 ・航空機の調達コスト
 ・人件費や賃料などの固定費
 ・燃料などの変動費

 ここでのポイントは、あまり詳細に記入する必要はなく、むしろ「人件費」「変動費」「航空機リース料」などの比較的大きなカテゴリで記入することです。すべてのコストを細かく記載するのに時間をとられないよう注意しましょう。全体のコストがどのようなカテゴリーで構成されているかがイメージできればOKです。

 ビジネスモデルキャンバスは、作成したら終わりではありません。作成したあとは、以下のことを行う必要があります。

 第一は社内で共有することです。一定の規模の会社の場合、ビジネスモデルキャンバスは少人数のチームで作成するケースが多いでしょう。そのような場合は特に、作成されたビジネスモデルキャンバスを社内で公開し、広くアナウンスするなどして共有する必要があります。せっかくビジネスモデルキャンバスを作ったとしても、社内で共有されなければ宝の持ち腐れになります。

 ビジネスモデルキャンバスを構成する各ビルディングブロックを実際に検証することも欠かせません。特に「①顧客セグメント」と「②価値提案」については、実際の顧客にヒアリングを行うなどして情報を収集して検証することが重要です。

 また、新規事業の立上げでビジネスモデルキャンバスを作成した場合、実際の顧客セグメントが想定と乖離していたり、あるいは価値提案として想定されていたものが、実際には価値と感じてもらえていなかったりする可能性があります。

 ビジネスモデルキャンバスは必要に応じて更新することも重要です。上述のように、各ビルディングブロックに記入された情報が実際には違っている場合があります。さらに、顧客ニーズの変化など、事業環境の変化によりビジネスモデルキャンバスの情報が「古く」なってしまう可能性もないわけではありません。それゆえ、ビジネスモデルキャンバスに記入した情報は一定の頻度で検証し、内容をアップデートする必要があります。

 ビジネスモデルを検討するツールは、ビジネスモデルキャンバス以外にも存在し、それぞれ違った特徴を持っています。以下では、ビジネスモデルキャンバスとともに知っておくべきフレームワークを2つ紹介します。

 リーンキャンバス(Lean Canvas)は、アメリカの経営コンサルタントで起業家のアッシュ・マウリャが開発したビジネスキャンバスです。ビジネスモデルキャンバスをベースに開発されたため両者は似ていますが、「②価値提案」に代わって「ユニークな価値提案」に、「④顧客との関係」に代わって「アンフェアな優位性」に、「⑥主なリソース」に代わって「主なメトリクス」に、「⑦主な活動」に代わって「ソルーション」に、「⑧主なパートナー」に代わって「問題」に、それぞれ置き換えられています。

 マウリャ自身の説明によると、リーンキャンバスは、「もっとも不確実性が高く、もっともリスキーな環境で事業を立ち上げるケースを想定して開発した」とのことです。そのためリーンキャンバスは、特にスタートアップ企業のようなリスキーな事業を展開する企業を対象にしているといえます。

 バリュープロポジションキャンバス(Value Proposition Canvas)は、ビジネスモデルキャンバスの開発者アレクサンダー・オスターワルダーが開発した、別のビジネスキャンバスです。バリュープロポジションキャンバスは、文字通りバリュープロポジション(価値提案)に特化したビジネスキャンバスです。

 バリュープロポジションキャンバスは「価値提案」と「顧客プロフィール」の2つのビルディングブロックで構成されています。「価値提案」においては「プロダクト・サービス」「ゲイン・クリエイター」「ペイン・レビューアー」の問いに答え、「顧客プロフィール」においては「ゲイン」「ペイン」「ジョブ」の問いに答えることで「価値提案」の内容をより詳細に明確化できるものになっています。

 新規事業立上げのケースのように「価値提案」が主たるタスクとなるケースにおいては、ビジネスモデルキャンバスよりも、まずはバリュープロポジションキャンバスからスタートすると良いでしょう。

 ビジネスモデルキャンバスは、新規事業立上げの際などに活用できますが、自社のビジネスを見直したいといったシーンでも使うことができます。

 「ビジネスモデルキャンバスは使えない」という意見もありますが、既存の製品やサービスの売上が下がってきたというケースにおいて有効です。

 ビジネスモデルキャンバスを使い、自社の「価値創造」「顧客セグメント」「主な活動」「主なパートナー」「コスト構造」などをあらためて見直すことができれば、問題解決の糸口を見つけることができるでしょう。

 売上低迷に悩んでいる人には、ビジネスモデルキャンバスの活用をおすすめします。