地政学リスク、2023年の展望を解説 日本のサプライチェーンへの影響は
2023年、地政学リスクの観点から中小企業を取りまく世界情勢はどのように変化するのでしょうか。開始からまもなく1年を迎えるロシアのウクライナ侵攻は春から衝突が激しくなり、サプライチェーンが再び不安定になるおそれがあります。また、台湾情勢でも米中の緊張が高まれば、日本のシーレーン(海上交通路)にも影響が出るおそれがあります。
2023年、地政学リスクの観点から中小企業を取りまく世界情勢はどのように変化するのでしょうか。開始からまもなく1年を迎えるロシアのウクライナ侵攻は春から衝突が激しくなり、サプライチェーンが再び不安定になるおそれがあります。また、台湾情勢でも米中の緊張が高まれば、日本のシーレーン(海上交通路)にも影響が出るおそれがあります。
日本の中小企業にとって関心の高い国際動向の一つが、台湾です。特に、昨年夏に米国のペロシ下院議長が訪台したことがきっかけで、中国はこれまでにない規模の軍事演習やミサイル発射を行うなどし、台湾に駐在員を派遣する企業、台湾を重要な調達先にする企業を中心にどう対応していくべきかという危機感が広がりました。
筆者の周辺でも、ウクライナ情勢より台湾情勢に懸念を抱き、有事になるトリガーなどに関する相談が企業から増えていることは肌で実感できます。
有事になるトリガーとは、簡単に説明すれば、有事を見据えて何が前兆、シグナルになるかということで、中国軍の異常な配備や動き、異常な数のサイバー攻撃や偽情報の流布など様々なシグナルが指摘されています。企業としては有事の前に社員を退避させたいと思いますから、トリガーを気にするのは当然のことです。
記事「地政学リスクから見た米中会談・日中会談 企業は今後どう動くか」では、有事を想定し、駐在員に台湾政府が勧める防空壕発見アプリをダウンロードさせ、自宅や勤務先近くにある防空壕を把握させるよう命じる企業もあることを紹介しました。
一概には断定できないものの、大企業と中小企業が懸念することには若干ながら違いがあると思います。
ここで、国際情勢の変化の中で企業が懸念するリスクを、「モノの安全」と「ヒトの安全」に分けてみたいと思います。
モノの安全とは、企業が必要とする原材料や完成品などの安全を指し、すなわちサプライチェーンの安定や物価高騰などが問題となります。
ヒトの安全とは、正に企業によって派遣される駐在員や出張者の安全を指し、政情不安やテロ、国家間戦争などから如何に社員の安全を守るかが課題となります。
当然ながら、サプライチェーンの不安定化や物価高騰が発端となってヒトの安全が脅かされることもあれば、戦争やテロによってモノの安全が脅かされることもあり、両者には重複する部分もありますが、大企業ほどモノの安全と並行してヒトの安全を意識する傾向があり、大企業ほど社員を海外に派遣していない中小企業ほどモノの安全を重点的に意識する傾向があると思われます。
よって、ここではモノの安全に重点を置き、2023年の世界情勢の行方を探ってみたいと思います。
まず、ウクライナ情勢です。
もうすぐ1年を迎えるロシアによるウクライナ侵攻によって、世界的な物価高に拍車が掛かり、新興国など「グローバルサウス」を中心に石油や小麦など生活必需品の価格が高騰したことで抗議デモや暴動が起きました。日本でも原材料費の高騰により値上げが続いています。
ロシアのプーチン大統領は依然として強気の姿勢を崩していません。プーチン大統領は2024年3月の大統領出馬(通算5期目)に向けて準備に着手したとされ、最近では劣勢に立つウクライナでの戦況を立て直すため、ロシア軍の総兵力を現在の100万規模から2026年までに150万人にまで増強する方針を決定しました。
また、ウクライナ国防省も、2023年3月の春あたりにロシアに対する軍事攻勢を強める計画を明らかにしており、今後戦況が再び激しくなる可能性があります。
モノの安全という視点からは注意が必要です。冒頭でも指摘したように、2022年はウクライナ侵攻によって世界的な物価高に拍車が掛かりました。
つまり、今後軍事的衝突が再びエスカレートする恐れが排除できず、それによって世界経済が混乱し、物価価格が再び不安定化する恐れがあります。中小企業としては、それによってサプライチェーンが不安定化する可能性も視野に入れておく必要があるでしょう。
モノの安全という視点では、台湾情勢の行方も懸念されます。台湾を巡る緊張関係は2022年同様続いており、今年も欧米との結束を強める台湾に対して、中国から軍事、経済、サイバーなど多方面からの圧力が掛けられるでしょう。
ペロシ氏は2023年1月はじめに下院議長のポジションから退き、新たにケビン・マッカーシー氏が下院議長に就任しましたが、マッカーシー氏が春あたりに台湾を訪問する計画が浮上しており、そのあたりにまた軍事的緊張が高まる可能性があります。
2023年に有事が勃発する可能性は低いですが、2024年1月に台湾では次期指導者を選ぶ総統選挙が行われますので、それを見据えた動きが活発化するでしょう。
最大のポイントは、現在の蔡英文氏の政策を継承する指導者が選ばれるのか、もしくは中国寄りの姿勢を示す指導者が選ばれるのかですが(もしくはこの中道?)、仮に蔡英文氏の後継者の優勢が顕著になってくると、中国側からの台湾への政治的圧力が高まってくるでしょう。
また、台湾有事になれば台湾を調達先、進出先にする中小企業への影響は避けられませんが、懸念事項は台湾”外”にもあります。
実は、台湾南部や東部には日本の経済シーレーン(日本とASEANや中東などを結ぶ民間商船や石油タンカーが航行する)があり、有事となれば中国軍が台湾周辺の制空権と制海権を支配する恐れがあり、日本とASEANや中東などを結ぶサプライチェーンの安全が脅かされる可能性があります。
仮に中国が台湾周辺の海域をコントロール下に置けば、日本に向けて航行する船舶の通行が阻害され、大きく迂回ルートを取らざるを得なくなる可能性もあります。そうすれば輸送コストはさらに膨らむことになります。
さらに、有事の際、日本は米国の軍事同盟国であり、米軍が台湾防衛に加担すれば中国軍は在沖縄米軍基地を攻撃する可能性が高く、日中関係が大きく悪化することになります。
中国と取引がある中小企業は多いでしょうが、外交関係の悪化によって日中ビジネスに大きな障害が出てくることは想像に難くありません。今日、日本が世界から輸入する品目の中で、中国からの輸入シェアが半分以上を占める品目は1000(携帯電話やパソコン、タブレット端末、コンピューター部品など)を超えており、そういった品目で日本向けの輸出停止などの措置が取られる可能性もあります。
以上のように、今日の台湾問題は他の問題も誘発するということを含め、その動向をしっかりと経営戦略の中に入れておくことが重要です。
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